宝塚歌劇団理事長に木場健之氏が就任したのは、2021年4月1日。
あれから1年、公演ラインナップや人事異動を見るにつけ、
少しずつ小川友次前理事長時代との違いが見えてきています。
「宝塚は2年先まで決まっている」なんて格言がありますが、
これはあくまで大規模公演やトップ人事の話。
特にコロナ禍で公演ラインナップが一度リセット状態になったであろう中、
構築しつつある「木場新体制」について、
私個人の視点で検証していきたいと思います。
海外ミュージカルの代わりに
まず一番の大きな変化は、
本公演で海外ミュージカルを上演しなくなったこと。
小川前理事長時代は少なくとも年1ペースで上演していたにも関わらず、
現在は2021年春の星組公演『ロミオとジュリエット』を最後に、
発表済みのラインナップを見ると約2年間上演がありません。
ただしこれは、木場理事長の方針と言うよりは、
新型コロナの影響で予算のかかる海外ミュージカル公演を上演したくない、
というリスクヘッジによるものと思われます。
その代わり、日本国内の小説や映画といった流通物を出典にした作品が増え、
超有名原作物『シャーロック・ホームズ』、
元は同人誌『斜陽の国のルスダン』、さらにはザイル界隈と、
あらゆる分野に手をだし、懸命に品数を増やしにかかっている印象です。
その中で、小説の表紙を宝塚仕様にし、
店頭に売り出すメディアミックス戦略をよく見かけるようになりましたが、
当然ながらこれも広告戦略の一つと言えるでしょう。
また、昔の公演を再演する…のはよくありますが、
完全別物の「新解釈」版として上演する作戦も打ち出すようになりました。
(例:『王家に捧ぐ歌』『グレート・ギャツビー』『うたかたの恋』)
実はこれ、小川前理事長時代に上田久美子新解釈による
『霧深きエルベのほとり』で一定の成功を経ての展開なわけですが、
新たな作品を一から作り上げるリスクを捨て、一定の成功が保証されるという、
実にローリスク・ハイリターンな作戦と言えるでしょう。
グレーな人事が続く
木場健之氏が宝塚理事長に就任した際、ファンから懸念されたこと。
それは悪名高きサイコパス人事の月組プロデューサー出身であることでした。
しかも、瀬奈じゅんシシィからのトップ就任(with大空祐飛の2.5番手)
→途中から相手役不在で凪七瑠海シシィ
→霧矢大夢トップ下で龍真咲&明日海りおのW2番手モード
という、月組人事的最混迷期のPだったという恐ろしい事実。
で、実際今の人事がどうかと言えば…少し迷いが見えますねぇ。
特に顕著なのは、水美舞斗と永久輝せあの関係性。
『The Fascination!』で永久輝せあが抜かしにかかったかと思いきや
『Fashionable Empire』で水美舞斗が再び差をつけ、
ファンをヤキモキさせる状況が続いています。
その一方で、同期の瀬央ゆりあは2番手に昇格せずステイ、
さらに真風涼帆の任期長期化による宙組の人事の停滞と、
色々な人事の問題点を「先延ばし」している印象があります。
また、上級生重用と言われた小川前理事長時代よりも、
さらに上級生の登板が続いており、
92~95期が各組番手を独占している状態が続いているのも大きな特徴です。
とはいえこれは、96~99期が(申し訳ないけど)不作状態で、
トップ確約が永久輝せあと暁千星しかいないために
100期以下に繋ぐために必死に持ち駒でやりくりしている、とも言えます。
その結果、上級生2番手の多発、そしてついに同期2番手まで生まれ、
「2番手になっても安心できない」という緊張感が続いているために、
ファンがより人事に注視する結果になっている気がします。
(それは私のような人事ブログ(笑)が数多現れたのも原因かと思いますが。)
言動は慎重派?
制作発表などでの彼の言動を見るにつけ思うのは、
慎重派なのかな?ということ。
これは凄く綺麗な表現をしましたが、
ストレートに言ってしまえば「無難」です。
叩き上げ営業マンが言いがちな分かりやすいフレーズと、
パッション(with組カラーのネクタイ)で話してくる小川前理事長と違い、
なんつーか、こう、印象に残らないんですよね…。
一番ビックリしたのは、例年スカイステージ1月放送の理事長挨拶番組が、
前理事長時代より短く、内容も超無難なものになっていたこと。
あれって所信表明演説に近い意味合いがあり、
劇団首脳陣からファンへの熱いメッセージだと思うんです。
それが短く無難なものになるって、ねぇ…。
けどそれは時代のせいかも知らず、今はSNSで簡単に炎上する時代。
(例:「推し勝」騒動)
発言も人事も、トップとして慎重さが求められるのかもしれません。
総論:慎重派エコロジー主義
多様なメディアミックスと海外ミュージカル&実力派偏重により、
一気にファン層を広げた小川前理事長。
彼からバトンを引き継ぎ、安定した収益を見込めるかと思いきや、
まさかのコロナ禍で貧乏くじを引かされるかたちとなった木場現理事長。
今までのような自由な采配が出来ない中、木場新体制は
・限られた駒で演目や人事を必死にやりくりしている。
・その結果、グレーだったり無難だったりすることも増えてきた。
というのが、私の目から見た印象です。
少し懸念しているのは、慎重を期した結果、
少しずつ100周年前の価値観に戻ってしまうのではないか?ということです。
確かに、ファンの顔色を伺うのも大事ですが、
時に興行として大きな決断をしなければならないもの。
コロナ禍で人事の舵取りをするのは困難だと思いますが、
宝塚110周年に向け、さらなる盛り上がりを期待したいと思います。
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コメント
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
まさかの大劇場「うたかたの恋」、いまだ(仮)タイトルのルスダン。コロナ禍が無ければ、「エリザベート」「上田久美子の新作」の世界線だったのかもしれませんね。
海外ミュージカルを上演しない件については、アメリカもコロナ禍で打撃を受けて新作舞台制作も中断していたし、ブロードウェイでもラップとかHipHop流行りで、従来型のメロディアスな作品が減っていますしね。
帝国劇場で「キングダム」とか「スパイファミリー」とか、東宝ミュージカルと2.5次元ミュージカルの境目も無くなってきましたね。
「HiGH&LOW」とか「蒼穹の昴」とか、前理事長時代からの男性ファンにアピール?路線が続いていて、それはいいのですが、
丸の内で働く、ジェンダーなどの表現に敏感な女性層(男尊女卑や差別表現について「昔の時代だからそんなもの」とすんなり受け入れるのはイヤ!)の意識の変化に、現行の演出家陣が意識をブラッシュアップしていけるのか、がポイントだと思います。
公式でも感想送ってくださいねーとかやってるあたり、劇団は相当ネット-SNSを気にしていると思われます。以前ファンをガン無視して結果人気ガタ落ちしたことがトラウマになっているのかもしれません。とりあえず大仰に構えず無難な発言に終始するのは、時代を鑑みればしゃーないかな?とも思います。
の割に、昨今の組み替えは割と派手かなと(前理事時代に全部決まってたのかもしれませんが)。9678のエース全員組み替えや、彩海の突然の組み替え。
私は組み替え肯定派なので、今後もド派手な…アンバサダー5人全員シャッフルとか期待したいです。
とはいえアンバサダー5人については花月雪に比べ星と宙はやや地味…特に宙は離されてるなと感じます。これは本人の問題ではなく学年的にも組事情的にも仕方ない面はあるのですが、正直現段階では、シャッフルで来られた組は扱いに困るだろうな…という印象です。
もしあるとすれば誰がどこに移動かな…暁移動したから月→星はないよな…雪→月もないかな…とか考えるのが楽しくてw
小川元理事長は人情派、とする意見が多く、私もそう感じますがそれは必ずしもいいことばかりではない気がします。
コロナ禍の滞りの影響もありますが、本来のやるべき上級生別格スターの整理が遅れたために、黄金期の95期がもう上級生になったいま、その後続の育成が偏っているように感じます。
また、ファンの意見やSNSの反響により方針が変わるのか、それがコロナ禍の影響なのか理事長が代わったからなのかは分かりませんが、新人公演や下級生バウの配信、現3番手スターまでの主演公演のBlu-ray発売など、ファンにとってもスターにとっても経営にとっても嬉しいことだと思います。
過去の月組サイコパス人事と言われることも木場理事長ひとりの責任がどうか分かりませんが、少なくとも私としては、小川元理事長より今の方が(作品選定は別として)ドキドキハラハラも含めて楽しませてもらってるなと感じます。
作品選定は…やっぱりコロナ禍でのリスクがあるから仕方ないのかな…
オリジナルで名作になるような新作が生まれることを期待しています。
蒼汰様
こんちゃん様が仰るようにコロナ禍がなければ、花組100周年は、三井住友VISAでエリザベート上演が、小川前理事長の時に計画されていたのだろうと想像します。東宝のエリザベートと連動して。れいちゃんのトップ時代は、本当にコロナに翻弄されてしまったな。
星組は、誰かが2番手で来るためにカレンダーや諸々を頑なに空けておいた印象。そして1月にありちゃんの組み替えが発表になりました。これからを考えた時、永久輝さんが花組で、おそらくそう遠くない将来トップになる。これだけは確定の人事だと言えると思います。ここがFIXされてしまっているので、自由度が少なく、人事の舵取りがさらに複雑になっている。ファン全員が納得の人事なんてあるはずないけど、特定の生徒さんにヘイトが集まることがない人事をお願いしたいです。生徒さんは、ただひたすら頑張っているだけなので。
青学の原監督ではないですが、理事長次第で組織は大きく変わるものですね。蒼汰様の今回の考察も大変興味深かったです。
いつも楽しく、興味深く拝見しております。
歌劇の表舞台の顔・5組トップスター、タカラジェンヌの皆さんが、かつてない困難な状況下で、健康管理や規制にも健気に取り組み奮闘して、観客を楽しませてくれていて、ましてや観客に感謝さえしてくれる…。
舞台は職場だし公演は仕事ではあれ、常に変わらず、夢と希望と活力を与えてくれる…。
どうか、運営陣の主要メンバーの方々。企業で培った経験を元に、鮮やかな経営手腕をもってして、今後の歌劇団の道を拓いていっていただきたい、です。
蒼汰さんのおっしゃる通り、『大きな決断』が必要な時期があるやもしれません(たとえ荒療治となっても)。
毎年の入団生と同じだけ、卒団生もあるわけで。
一時的に、スター個人のファンが離れたとしても、歌劇団のファンは、簡単には離れてゆかないと思います。
変わらず観劇に通うし、キャトルでの購買も怠りませんよ。
110周年を、晴れやかに迎えられますように…。
こんばんは。
私自身新理事長はあの時代の月組P……?と最初怯えていましたが、仰る通り割と無難な方ですよね。どんなビックリ人事が来ても覚悟を決めるぞ、くらいに思っていたのでちょっと拍子抜けしていたところでした。
コメント欄に既に書かれている方がいらっしゃいますが、私もアンバサダー組ではいずれシャッフルが起こると思っています(全員だったらすごいけど現実的にはあの中の2〜3人でトレードでしょうか?)。そこの動きは将来のトップ人事に直接関わってくるでしょうから、木場理事政権における最重要人事になりそうだなと。まさかこのまま全員生え抜きで育てようってことはないと思うので……いや、逆を突いてそれもあるのか?無難と言いつつなんやかんやドキドキハラハラです笑