宇多田ヒカルにとって約6年ぶりとなる全国ツアー、
「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」
さいたまスーパーアリーナ公演に行って参りました!!
祈るように抽選に申し込んだら見事当選!!
なんとビックリ、2階1桁列目で生宇多田を堪能して参りました。
普段は宝塚歌劇の感想を綴っている私ですが、
せっかくの機会ですので、ライブレポを書いていこうと思います。
※以下、ガッツリネタバレしていますので注意
序章:宇多田ヒカルの変化
彼女の歌を聞く度いつも思っていたのは、結局のところこの人は自分のためにしか歌っていないな、ということだ。普通、時代の寵児となったスーパーアーティストは、売れた瞬間に大衆性を意識して、「作りたいもの」と「売れるもの」の狭間で揺れ動くことになるけれど、彼女は違う。天才少女が自分の部屋のベッドにレコーダーを持ち込み、たわむれにデモを作ったような『First Love』に始まり、日本での大ヒットなんて何のその、アメリカン女子高生のティーンの葛藤『Distance』、添い遂げてもよいと思える人に出会った愛の芽生え『DEEP RIVER』、その結婚が上手くいかなくて究極の鬱『ULTRA BLUE』、離婚したから仕事をしなきゃ!!と空回りな『HEART STATION』、亡くなった母への哀悼歌『Fantôme』と、常に自分の中の孤独と喪失に対峙して歌っているのだ。平成末期から続く共感の時代の「この歌は私の気持ちを代弁している」みたいな曲が多い中、極めてアーティスティックだと思うし、そんな自身への彷徨が現代に生きる人々の心の深ぁーいところにグサグサ刺さるのだと思う。
けど、出産・2度目の離婚の果ての『初恋』『BADモード』を経て、だんだんと人間らしくなってきたというか、歌声に温もりみたいなものを感じるようになった、気がする。人間活動に専念したいとわざわざ宣言してまで休業した孤高の天才・宇多田ヒカルが、40年という人生を、25年の歌手活動を経て、徐々に、だけど確実に何か変化している。そんな予感めいたものが今日、ライブで歌う彼女の姿を見て、確信に変わった。
ガッツリライブレポ①1st~3rdアルバム期
会場はさいたまスーパーアリーナ。急な夏の雨が降りしきる中、約45分前に現地に向かい、冷房の効いたグッズ売り場に並ぶ。物凄い列だったけれど、ものの15分で無事購入完了。資金力の高さに感謝しながら、会場へ。
ステージはいたってシンプル、月面を思わせるデコボコ状の舞台に、何枚かのLED大画面(さいたまスーパーアリーナは会場が広いため特別に増設しているそう。シンプルな舞台構造なのに演出がとにかく凄かった!!)。どこからか機械が擦れるような電子音が響いていて、それが徐々に大きくなってきたと思ったら、暗転。静寂の中、過去を照らすような、部屋の片隅に佇む人を照らすようなスポットライトが、一つ、また一つと照らされて、真っ白い衣装を着た宇多田ヒカル嬢が登場。で、1曲目が「time will tell」。
デビュー曲のカップリングという、自身初のベストアルバムを引っ提げた25周年記念ライブに相応しい選曲、だけれども、もうこの時点で「何かが違う」。15歳の少女が「時間がたてば分かることもあるよね」と等身大に歌っていたあの頃とは違う、そこから25年も人生を歩んだ人間だからこそ抱ける慈愛の情というか、過去を愛でるように、そしてこの曲を愛し、傷を癒し合った聴衆すらも包み込みながら、「時間がたったからこそ分かることもあるよね」と、言い聞かせてくれるような歌声。す、すごい。今日の宇多田ヒカルはどこか違うぞ???
そこから「Letters」「Wait & See ~リスク~」「In My Room」と、敢えてベストアルバムに入らなかった初期の曲が、アルバム仕様のように現代版にアレンジされて並ぶ。令和の時代に聞いてもオシャレで聞き心地の良さに感動。
ここでMCを挟み、自身にとって一つのターニングポイントとなる(結婚しても良いと思うほど愛する人に出会い、自身の名前を冠した)「光」を熱唱。たぶん、ファン人気も高いのか、メロウなアレンジにも関わらず会場全体が本気で聞き入っている様子。
で、ここからの畳みかけというか曲の繋ぎ方が神がかってて、まずは初期の埋もれがちな名曲「For You」、そして同じく2ndアルバムから「Distance」(しかも現在バズっている「m-flo remix」を敢えて歌うあたりに、令和でも第一線で活躍しているアーティストとしての矜持を感じる)、そして「traveling」ですよ!!照明もオレンジでギンギラしていて、会場大フィーバー!!「仕事に精が出る 木曜日の午後」とアドリブをいれつつ、客席にマイクを向けたりなど、宇多田嬢も出血大サービス。ベスト盤を聞いた時に、令和に生まれ変わったアレンジに感動したけれど、生で聞くと名曲度がさらに上がりますな。
で、中央のステージに出てきて、「ここらでクールダウンしましょう」とのMCが入り、名曲中の名曲「First Love」に。全 然 落 ち 着 か せ る 気 な い や ろ 。もちろん会場は大沸き。この曲は今の40歳の宇多田ヒカルだからこそ表現出来る追憶幻想じゃなく、あくまで現在進行形の失恋ソングとして歌ったいてた気がするのが印象的。
ガッツリライブレポ②4thアルバム期以降
ライブも中盤、「Beautiful World」「COLORS」と中期の名曲が続き、まさかの「ぼくはくま」がキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!本人が一番ノリノリで楽しそうだし、間奏部分 だ け 伴奏をするためにプチピアノも登場(そして弾き終わると片づけられる)。ここから「Keep Tryin’」「Kiss & Cry」と盛り上がるナンバーが続く。宇多田嬢も「みんなで盛り上がろう!!」と会場を煽り、ファンは夜光虫ワイパーで応えるという、いかにもライブっぽい流れ。
そして、このライブの個人的ハイライトだった「誰かの願いが叶うころ」。もともと形式上は恋愛の歌でありながら、もっと普遍的な、平和への祈りや鎮魂といった、大きな広がりがある世界観を持つ歌だったわけだけれど、なんだろう…もはや現代の聖母(マリア)の域に達したというか、他者との距離感が測りかね、より他人同士で気付つけあうようになった現代で、傷だらけの大衆を慰撫するかのような、そんな風に聞こえた。「誰かの願いが叶う頃 あの子が泣いているよ みんなの願いは同時には叶わない」という言葉の説得力は、今改めて聞いても凄い。
で、ここで一旦小休止。アニメーションを挟んで衣装替え(真っ白なシンプルな服から虹色に咲く花のような衣装への変化は視覚的にも印象的だし、エコな素材な服なんだそうな)で、母の死去後の歌「BADモード」「あなた」「花束を君に」「何色でもない花」「One Last Kiss」「君に夢中」と続く。この頃になると、今の彼女のキー・今の心情にあう曲が続くのか、現役バリバリのアーティストでっせ、というメラメラが感じられて良き。
と、終盤のMCでネタバラシ。「これまでライブはそろそろやらなきゃなぁと思い立ってやっていたけれど、今回はベストを作った時に初めて自発的にやりたいと思って開催を決めた。それは25周年をただお祝いし合うのではなく、私の音楽をひとりの時とか色んな状況で聞いてくれてた皆んなの25年を一緒にお祝いしたいなと思ったから。(意訳)」だそうで。そう、彼女は自分のために歌うのではなく、誰かのために歌いたいと初めて思った。だから歌い方が、声が、伝わる温もりが違うのだと、やっと実感したのであった。
で、アンコールは新曲「Electricity」を挟み、オーラスはデビュー曲「Automatic」。これまた粋な演出があったけれど、それはネタバレ無しで。2時間20分、23曲。本当にあっという間だった。
総括とセトリ
かつてを懐かしみながら、25年の長い旅を宇多田ヒカルと、そして聴者と追体験出来たライブだった。今回歌われたかつての名曲は、より素晴らしい表現に磨きあげられていたし、アレンジが変わったことで新鮮な驚きがあった。そして宇多田ヒカルの変化を肌で感じることが出来て、それが、何より素晴らしかったし、嬉しかった。
これから先に何が起きようとも、宇多田ヒカルは歌い続けるだろうし、その姿を私はずっと見届けたいと思えた、そんなライブであった。
『HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024』セットリスト
1.time will tell
2.Letters
3.Wait & See ~リスク~
4.In My Room
5.光
6.For You
7.Distance
8.traveling
9.First Love
10.Beautiful World
11.COLORS
12.ぼくはくま
13.Keep Tryin’
14.Kiss & Cry
15.誰かの願いが叶うころ
16.BADモード
17.あなた
18.花束を君に
19.何色でもない花
20.One Last Kiss
21.君に夢中
アンコール
22.Electricity
23.Automatic
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コメント
いつも楽しく拝読させて頂いています。
素敵なレポをありがとうございます。
読むだけで泣けて来ます。
time will tellで幕開けなんてエモすぎる…!
改めて、こんなに多くの名曲を世に生み出していたんですね。
どの曲も、当時の彼女にしか作れない、モーメントを閉じ込めたような作品なのに、何年あとから聞いても、なぜか毎度新鮮に心に突き刺さるんですよね…
思春期を宇多田をひたすら聴いて過ごしていた私にとって、宇多田ヒカルは、孤高の天才にして、同時代の半歩先を行く先輩のような存在です。
彼女の曲は「ものすごく感性の鋭い友達が本音を見せてくれているような」気持ちにさせてくれたものでした。
今回、蒼汰様の宇多田評を読んで、とても腑に落ちました。
蒼汰様の書かれているように、彼女は「常に自分の中の孤独と喪失に対峙して歌っている」姿を25年にわたって見せ続けてくれていたのか、と。
そんな彼女が、蒼汰様の仰るところの現代の聖母の域に達したことを思うと、感無量です。
「誰かの願いが叶うころ」、どれだけ聴衆の心に沁みたことでしょう…涙
素晴らしい時間を過ごされた蒼汰様、羨ましい限りです…!
セトリもありがとうございました♪
これからも、宇多田ヒカルの生き様と作品がどうなっていくのか、とても楽しみですね。