時に物語の終幕は、思いもよらない場所やタイミングで、
ハッピーエンドを迎えることがある。
何の話って、元花組トップ娘役の花乃まりあと、
彼女が出演した『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』を受けての感想です。
以前から評判は聞いていたものの、先日やっとスカイステージで拝見。
それはそれは素晴らしく、長きに渡る宝塚エリザベート史の中でも、
番外編ではなく、正史扱いしても良いくらいだと強く感じたほどでした。
明日海りおと花乃まりあの物語
明日海りおは、宝塚100周年にかけてトップスターに就任し、
小川理事長率いる宝塚歌劇バブルを率いたトップオブトップであり、
宝塚史上最多の相手役を迎えた人物である。
と同時に、あまり人気が有り過ぎることから、
正確には自分自身で「人気」や「萌え」を生み出すことが出来るゆえ、
相手役に「コンビ芸」を求めない男役でもありました。
初代・蘭乃はなは月組時代から組んだ盟友同士兼、エリザ用残留。
3代目・仙名彩世は実力特化のおっかさん系で、
明日海自身が一人で輝けるよう、一切前に出ず任期を務めあげた内助の功。
そして4代目・華優希は、柚香光のための引き継ぎ教育。
こう振り返ると、明日海りおが相手役に萌えを求めるような、
いわゆる普通のトップスターらしい造形を取ったのが、
花乃まりあただ一人でした。
ということで2代目の相手役を務めた花乃まりあ。
在団時は本当に波乱万丈な、
辛く苦しい宝塚生活であったことは想像に難くありません。
時は96期問題の嵐が吹き荒れる中、宙組に配属。
研3にて新公初ヒロインを取った後、バウヒロを経て花組に組替え。
大問題の渦中にいた96期生からトップ娘役になること、
既に超人気スターであった明日海りおの相手役を務めるのが明らかだったこと、
さらに歌が得意でも無いのに『エリザベート』の就任前エトワールも務めたことから、
(長く花組に尽くし、本作で退団した桜一花を押しのけての抜擢だったことも含む)
スーパー大逆風の中でのトップ娘役就任となったのでした。
大傑作『金色の砂漠』の意義
さらに、トップ娘役就任後も受難は続きます。
トップの明日海りおが研13、2番手芹香斗亜が研9、
3番手柚香光が研7と体制的に非常に脆弱で、
明日海自身も花乃に対して大人な対応が出来る余裕などなかったのでしょう。
それが舞台上やオフでの不穏な空気として醸し出された結果、
常に「不仲説」が出るし、ファンはずっと「なんでお前が」と怒るしと、
当時は本当に散々だったんじゃないかなと思います。
そんな不条理な空気感を昇華したのが、
上田久美子氏が生み出した大傑作である『金色の砂漠』。
苛烈に生きる奴隷のギィと、気高き女王のタルハーミネの愛憎劇は、
まさに魂削って作り上げられた舞台作品でした。
2人の抑圧されたエネルギーが大爆発を起こし、
ついに明日海、花乃両名の血と魂が通い合った作品になった同時に、
花乃まりあの存在意義を宝塚史に刻みつけた、
まさに運命の一作となったのでした。
さらに、本作は花乃まりあの退団公演だったわけですが、
千秋楽公演での明日海りおの挨拶が、また泣けるんだなぁ。
宝塚公演の時は「男役としておおらかさに欠けていた(意訳)」と花乃に向かって話し、
東京大千秋楽では、花乃が雨女であるという話を受け、
「今日は晴れているが、その代わりお客様の心と私の頬に雨を降らしている(意訳)」「私の相手役を2年間務めてくれたが、その成長と努力にギャフンです(意訳)」と、
彼女のこれまで全てを認めてあげる発言をしたのでした。
まさに、終わり良ければ全て良し。
この流れを受け、花乃に批判的だった人も彼女を認めざるをえなくなったし、
明日海自身も男役として1段上のステージに上がり、
大絶頂期を迎えることになります。
花乃まりあ・夢物語の続き
で、時は経ち、明日海りおも退団した約4年後、
『エリザベート TAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』です。
歴代出演者が夢の競演を果たしたり、衣装をそのまま再現するといった、
多彩なバリエーションで上演した本作。
「14花組ver」は、明日海りおをトート役に置き、
北翔海莉、望海風斗、純矢ちとせなどが出演するという、まさに夢の再演。
シシィ役は蘭乃はなと花乃まりあがWキャストとして務めたわけですが、
いやー、凄かったですね、花乃まりあ。
現役時代より明らかに仕上げてきていて本当にビックリしました!!
思い返してみれば彼女は中卒入団ですから、わずか24歳で退団したわけで、
現役時代、そりゃ分かっていても上手く出来ないことなんて多々あったはず。
それが歌唱力が大幅にアップしていただけでなく、
表情、表現、感情、動作と、花の盛りの29歳、
大人の女性になった今だからこそ、出来るものがある。
それが、運命のいたずらで皇帝の妃となり、
雁字搦めで鬱屈とした現実世界を必死に生き抜き、
ついに死に迎えられ魂が救済されるという、
シシィの生き様とオーバーラップし、まさに感動のフィナーレを迎えたのです。
「涙、笑い、悲しみ、苦しみ、長い旅路の果てに掴んだ
決して終わる時など来ない あなた(お前)の愛」
この場面の歌詞が、まさかここまで彼女の宝塚人生と重なろうとは!!
そして花乃まりあの何とも言えない表情と、
それを受け入れる明日海りおのおおらかな抱擁の、なんと暖かいことよ…。
この最後の愛のテーマの場面、私は今まで、
「唐突にシシィは死を受け入れたな」と本編を見ても納得出来なかったのですが、
今回の作品を見て、いや今回だからこそ、
この魂の救済の真の意味を理解することが出来ました。
96期生と「赦し」
そこから花乃まりあの
「退団後にこうしてエリザベートに出演し、お客様から暖かい拍手を頂けるのは、出会ったときからずっと導いてくれた明日海さんのおかげです。この奇跡のような3日間を生涯忘れません、本当にありがとうございました。(意訳)」
という涙ながらの挨拶を見て、ついに彼女は「赦された」のかなと思いました。
明日海りおの相手役・花乃まりあの物語の終幕に相応しい、
まさに感動のフィナーレ。
まさか退団後4年経ってこんな結末を迎えるなんて、想像もしませんでした。
そして96期問題に揺れた当事者たち、
つまり咲妃みゆ、綺咲愛里、朝月希和に続き、
矢面に立たされた花乃まりあが無事昇華されたこと、
さらに和希そらの昇格や夢華あみの結婚と続くのが、実に興味深いですね。
時に物語の終幕は、思いもよらない場所やタイミングで、
ハッピーエンドを迎えることがある。
それを舞台を通して見ることが出来るのも、
宝塚の醍醐味の一つなのかもしれません。
花乃まりあの、そして退団していった多くのスターたちの、
新たな人生が夢溢れるものであること願うばかりです。
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コメント
こんばんは。
直接、このキャスト・この回・この挨拶を観ました。
劇場では、涙が止まらなかったです。
金色の砂漠を彷彿させる、魂のぶつかり合いの様なエリザベートでした。
エリザベートは、花總まりさん・愛希れいかさんが長期で務められており、安定感・歌・芝居は、勿論、お二方が勝ります。
しかし、『明日海トートが愛し、死に誘うシシイ』としては、花乃まりあは大正解を叩き出したと思います。
蒼太さんも述べられていましたが、帝劇も宝塚含めて、一番、トート✖️シシイの関係性に納得がいく『エリザベート』でした。
本公演ではなく、ガラコンなことが、心から惜しまれます。
有難うございました。
泣けてくる、私にとって最高の文章の数々でした。
「金色の砂漠」宝塚初日を観て、20回観劇を決意。
魂を削っての舞台を見つめ続けた日々は、自慢の思い出です。
幸せな結末は、私たちにも幸福感を与えてくれます。
しかも、これは現実のお話。
いつも思うのですが、全てのジェンヌさんが幸せな人生を歩んで行かれますように。
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
このガラコン、私も当時ライビュで視聴しまして、感想を見たら「花乃さん、よかったねえ」と書いていました(笑)。
『エリザベート』のトートは、原作では「シシィの自己愛」とか「死への憧れの擬人化」的なニュアンスだったものを、宝塚仕様に「愛と死神のラブロマンス」に曲げたゆえに生じた「捻じれ」とか「歪み」があって、
その「捻じれ」や「歪み」ゆえに、数多くの数学者や数学愛好家たちが証明を試みても未解決のままの数式のような魅力があり、これだけ何度も上演され、観劇して、その都度新鮮な発見があり、語りたくなるのでは、と思っています。
花乃さんと明日海さんの当時の経緯を知らない、新規のお客が今回のガラコンの放送を見てどのような感慨を抱かれるのかはわかりませんが、
シシィと言う役は俳優が生涯をかけて演じ続けるのに値する、シェイクスピアや歌舞伎などの偉大な役どころに並ぶお役に育った感がありますね。
こんばんは!
蒼汰さんの内容にひとつひとつ頷きながら読ませてもらいました。
25周年ガラコンサートのMVPは花乃さんだと思いましたし、退団して益々大人になった2人の再会の舞台に胸が熱くなりました。花乃さんは当時結婚した時期でもあり、女性としても充実していたのかもしれませんね。現役時代の花乃さんの苦労を直に知らないライトなファンですが、明日海さんにとっても昇華出来た舞台になったのでしょうね。良い顔してました。
ガラコンサートを観て思うのは、男役の明日海りおがもっと観たい。←諦めが悪い
ガラコンサートは、ホントに夢の舞台ですね。出演者の贅沢な顔ぶれ!楽しかったです。エリザベート以外でも出来ないものでしょうかね。素晴らしいOGさんが沢山活躍する時代になったので、宝塚OGさんだけのミュージカルの舞台があっても良いのにな〜。でも主役がいっぱい居過ぎて収拾つかなくなりますね。笑
いつも楽しく、拝見しております。
「……舞台を通して観ることが出来るのも、宝塚の醍醐味の一つ……」。まさに!
とても素敵な記事を読ませていただき、ありがとうございます。
いやぁ、ちょっとブログ読んだだけで泣けてきちゃいましたよ。
いいブログでした。
スカステ見れなくなったから見れないけど、素晴らしさ伝わってきました。