宙組『アナスタシア』へのツッコミ感想編

超久しぶりに傑作認定だった宙組『アナスタシア』。

前回は個人的にべた褒め感想を書きました。

 

本当に素晴らしい作品だったんです。

けれども『エリザベート』並みの超傑作にはあと一歩届かず、

やりようによってはそこに至れるはずだったのに

惜しいなぁと思ってしまったのも正直な気持ち。

 

好きな物こそ批判めいたことも言いたくなるのが私の悪いクセでして、

本日はそんな惜しかったツッコミどころを

「愛を持って」書いていきたいと思います。

 

グレブが美味しくない問題

 

2番手芹香が演じるグレブ、

今作におけるその役割は一体なんだったのでしょう?

 

初見時の感想はただのストーカー野郎。

だったので、2度目の観劇の際は、

その役割を読み解くことを一番に考えてました。

 

その結果から言うと、

アーニャは「他の誰かになれる」という夢物語、

すなわち、アイデンティティの再生を叶えた人物であり、

 

グレブはその「他の誰かになれる」ということを諦め

父に縛られ生きてきた→最後にアナスタシアと出会い希望の光が差した

という対比構図なのかな?と思い至りました。

 

もしそうならば、

そこに至るまでのエピソードがやはり薄いというか、

そもそも出番も少ないですし、

もう一段階掘り下げが欲しかったのが正直なところ。

 

特に、なんであんな軽めな人物像にしたのでしょう?

共産主義軍ってナチスドイツ軍と並んで

創作物だと冷徹非道なキャラに描かれがちじゃないですか。

 

冷酷な人間が一人の少女に固執して暴走する、

あるいは根は優しいのに国家のため本心を仮面で隠している、

からの最後に人間らしさが芽生える、ならありがちな物語なのに、

 

今回芹香演じるグレブはとても物腰柔らかで、

アーニャには気さくに話しかけるし、お茶らけたこともする。

敢えてそう演出させた理由が私にはよく分からず。

 

つまりまぁ、ハッキリ言ってしまうと、

居ても居なくても全く問題の無いキャラクターになっちゃってて、

ヴラドのがよっぽど美味しかったよなぁ、というのが正直な感想です。

 

原典版を見てないので分かりませんが、

きっとこれでも出番を増やしたんでしょうけれど、

もう少しきちんと物語に絡んで欲しかったなぁ。

 

舞台が平坦過ぎる問題

 

舞台の演出面で言えば、

映像はいつも通り頑張ってましたけれど、

舞台上は正直なところ平面的で単調でしたよね。

 

小池氏やウエクミがお得意の

前方と後方、あるいは上と下で別の軸が展開するような演出がほぼ無く、

(バレエの場面とアナスタシアとウラドの対峙の場面くらい?)

立体的演出で言えば、盆が回るくらい。

 

視覚的に単調だと、物語の流れも単調に見えてしまうもの。

特に今回は1曲1曲が長いので、

紙芝居では歌ってる途中に集中の糸が途切れちゃうよねという。

 

個人的には第1幕のアーニャに王妃のあれこれを

ディミトリとヴラドが教え込む場面、

あそこが一番そう見えちゃったかなぉ。

 

椅子を渡ったり黒板使ったり頑張ってたけど、

舞台の上は何も変わらずぐるぐる歩いてるだけだったし、

正直、あの半分の尺でも良かったと思う。

 

そもそも今作は、

出演者が自分で道具を片付けるのが「目についてしまう」場面が

とにかく多かった気がします。

 

冒頭の回想シーンなんで、アナスタシアのベットを

次の場面から登場するであろう出演者がわざわざ出てきて片付けてましたからね。

導線的になんとかならんかったのか?という。

『ファントム』なんざ小舟が自動で動いたというのに。笑

 

まぁもしかしたらコロナの影響なのかもしれません。

人員が少ないのか、密になれないのか…。

とは言えもう少し空間演出は考えて欲しかったです。

 

初めての出会いを端折った問題

 

1度しか見ていない方は覚えているでしょうか?

ディミトリとアナスタシアが幼少期に出会ってる設定を。

わたしゃ2度目見た時まで、すっかり忘れてましたよ。

 

ロマノフ王朝時代に出会っていた2人。

片方は苦労人の少年、片方は輝かしい王女様。

だけど王家は没落し、少年は苦労の末詐欺師となった。

そこに記憶を失った王女が彼の前に再び現れて…。

 

すっげーロマンチックじゃないですか!!

こんな大切なエピソードを、

あんな暗がりで2人で語り合うだけにするって、勿体なさ過ぎる!!

 

いやー、これで一場面作れたでしょう。

契約の関係上や公演時間的に作れないのなら、

それこそウエクミお得意の1つの場面で別軸演出すれば良かったのに。

2人が語り合う奥で再現させるとかさ。

 

そうすれば少なくとも天彩峰里の出番も増えるし、

少年期ディミトリという役が1つ増える、なんて素人考えですかね?

 

ともかくこの大切な設定、

特に大きな演出も無く淡々と進んでいったことに

2度目見たときにビックリしちゃいました。

 

文句をずらずら言ったけれども

 

文句をずらずら言ってきましたけれども、

演出面では契約の関係上、

どうしようも出来ない点もあるのかもしれませんし、

そもそも、傑作です。(フォロー)

 

演出の稲葉太地氏は、

劇団的にポスト小池修一郎として期待している様子ですので、

これからも頑張って頂きたいと思います。

 

東京のチケットが余ってるなら、買い足したかったなぁ。

というわけで次はキャスト別感想編かな。

 

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コメント

  1. 隠居 より:

    まだ、観劇してなくて、来週から観ます(楽しみ)
    で、不思議なのは皆様観た方は絶賛ですのに、チケットが余り売れてない、コロナ怖くも、命掛け、が宝塚ファンですのに?
    その謎解きが、私も楽しみです

  2. さくら より:

    いつもブログ拝読しております。
    そして「アナスタシア」の感想、興味深く読ませて頂きました。
    去年3月に梅芸版(日本初演)を見たのですが、宝塚版はそれに沿っているなぁと感じました。
    グレブについてですが、政府側からアナスタシアを探している人物で必要なんじゃないかと。主役の2人はアーニャ自身を、マリア皇太后はロマノフ側からアナスタシアを、グレブは政府側からアナスタシアを探していてその対比を描きたいのかなぁ…と思いました。それがマリア皇太后とグレブが対になって台詞を言うフィナーレの場面にも繋がってくるのかな、と思ったり…。
    長々と失礼しました。

  3. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。配信専科の地方民です。

    グレヴのキャラが迷走している問題、確かに…

    そもそも土台になったアニメ映画版では、グレヴはいなくて、なんと魔法使いラスプーチンが生き延びていて、パリに連絡役のコウモリを派遣してアーニャを見張らせている、といういかにも子供向けな展開だったんですよ。

    グレブは「ソ連当局側の立場」を1人のキャラに集約して擬人化しているようなところがあって、個性を持つ1個人というには、混乱した存在ですよね。

    確かに20世紀のハリウッド映画に出てくるナチスや共産主義は、決まって冷徹非道でしたね。

    ソ連(ロシア)に対するイメージは時代により、世代によりいろいろでしょうが、

    ブロードウェイの演出家のダルコ・トレズニャックは、セルビア出身(今はロサンゼルス・オペラの演出家)で、リアル共産主義下の空気も、現代のアメリカ人のソ連(ロシア)観も知っている方。

    ダルコ・トレズニャックは、アメリカの、もうソ連のことを教科書でしか知らない若い世代のミュージカルファン向けに、20世紀の資本主義側の反共プロパガンダの類型を、そのまんま再現したくない、と思ったのかもしれません。

    戦争もの映画やTVに出てくる軍人は、主役俳優が演じる一兵卒には、ものすごく厳しい態度で接する描写が多いですよね(まあ、戦場だし)

    私の祖母は戦時中、学徒動員で陸軍の司令部で働いていたのですが、司令部では将校さんなどお偉いさんのほうが、動員の女学生に対して物腰柔らかで、末端にいくほど横柄だった、とか聞いていたので、

    個人的に、グレヴは「若くしてサンクトペテルブルグのナンバー2までなったエリート」という設定なので、アーニャに物腰柔らかで気さくな態度であること自体に違和感はありませんでした。

    (そんなスピード出世の背景の一つに、本人の資質・努力+革命(皇族暗殺)の立役者であった、人民の英雄であるはずの父親の存在もあると思う。)

    無政府主義者で処分された父親を、迷いなく敬愛し続けるディミトリとの対比で、

    グレブの父親との関係性など興味深い人物像だと思うので、物語への関わり方にもう一工夫あれば、とは思います。

  4. レモン より:

    なるほどと思いながら読ませてもらいました。今回はかな〜りBW版に忠実に演出されていたと思います。演出が平面的なのは、BW版がセットをほとんど使わず全てLED映像で見せる手法を取っていたことに起因するのだと思います。むしろ「景色が立体になってる!」と喜んでしまいました(笑)また、1幕の教えるソングとアーニャのソロ曲はあれでもカットされています。グレブに関してはBW版を観たときから同意見です笑(BWで大ヒット作にならなかったのはこのあたりの甘さでは?)
    宝塚の舞台機構や大人数の役者を活かした演出をするとなるとかなり改変がいるのでしょうね。梅芸版と連続上演を予定していたことを考えると忠実ながらに宝塚っぽさも感じられて悪くなかったようにも思いますが、最初から宝塚歌劇として見ると少し物足りなく感じるのも分かります。
    ミュージカルの宝塚歌劇化は難しいですね。

  5. あやこ より:

    首脳陣サイドが『芹香・桜木の配役』について、何度も協議を重ねたことでしょうと思いながら観劇しておりました笑。
    今までなら、お調子者ヴラドの芹香・冷徹こじらせ野郎グレブの桜木でいっちょあがり、ですし。
    グレブは、政治的背景や家庭環境を甘々マイルドにして「軍服キキちゃんかっこいいー♡」に収めたな、という印象でした。

    舞台機構も、演出家の先生によって、かなり雰囲気がかわりそう。パリに到着したシーン、いい場面なのに丘のセットが雑ちゃうか、とか。たまにはオケピ使ってもえぇんやで、とか。
    (ピガール原田氏、fff上田氏がアクロバティックな舞台演出だから、余計にあっさり感じるのかもしれません)

    キャスト別感想も、ソウタさんの愛あるツッコミ(笑)楽しみにしていますね!

  6. るな より:

    こんにちは。いつも楽しく拝読しております。
    アナスタシア、梅芸版もとてもよかったのですが、人数が少なく少し物足りなく感じていたので、宝塚版を楽しみにしており、初日を見てからというもの過去の国を抜け出せずにいます。
    内容としては主役が変更になってはいますが大きな変更はないように思われますが、梅芸版はディミトリ役とグレブ役の出演者の年齢がアナスタシア役の2人よりかなり上だったこともあり、恋愛の要素が強めの宝塚版とは、特にグレブの役作りが違うように思いました。梅芸版では感情を抑えて使命を忠実に果たそうとする人物に感じましたが、宝塚版はアーニャへの恋心と、父親が果たし自分も果たさなければならない役割との間で揺れる様子がわかりやすく人間らしいなと思いました。その分、ディミトリ親子との対比やボリシェヴィキとしての役割が薄くなってしまったのですかね。
    初めての出会いについては、ディミトリがアーニャ=皇女アナスタシアだと気がつく瞬間を、観客がディミトリと一緒に体験できて素敵だなと思っています。

    アニメ版では、襲撃の際ディミトリがアナスタシアを逃がした描写があったり、オルゴールを開けるのに皇太后からもらったペンダントトップを使ったりした設定があったと思うのですが、そのあたりが削除されたことで、オレンジの香りやらお辞儀をしたといったエピソードに頼ることになっているのがちょっと弱いなと感じました(梅芸版も同様ではあるのですが)。
    それでも、おとぎ話らしい始まりと終わりや豪華な衣装、素敵なアレンジの音楽と、私が見たかった宝塚はこれだなと思うほど満足した作品でした。

  7. コスモスハート より:

    蒼汰様

    きました、具体的感想。参加します。

    なるほど、そう、宝塚のポジション的には2番手の芹香さんの役が薄い?
    そんな気はしていました。
    ずんちゃんの方が主人公にくっついているし、元彼女のリリーとも絡むし、美味しい役には確かに見えたのは正直なところ。

    アニメではとことん行くてを遮る悪魔的存在がおりますが、この度は宙組公演で、グレブがあまり邪魔をしているでなく、うーん。

    役割としては、あの時代の空気?ロシアらしさ?を彼の存在で感じてもらうためかと、本家でどうしていたかわからないけど、セットでは表現せず、彼の歌で観客の想像力を膨らませる存在なのかな。と思いました。
    もしかして、オリジナルキャストの身体能力や、当時の予算?で初演の演出が決まってしまったり?するから?結構じっとしてるのか?

    海外作品って、子供の頃は、全くわからなかったけど、政治的ポジションというかスタンスを登場人物が確実に持っていて、大人になって気がつかことがある。

    サウンドオブミュージックは執事がナチスドイツ側の人間で、主人公のマリア先生と結婚した金持ちのご主人はヒットラーに従いたくなくて、シンボルの旗を外す場面とか、一家が逃げる時、執事が窓から見ていて、チクってやろ〜、なんて大人になって
    気がつきました。

    アメリカはヒットラーに加担した人物の入国を拒否しているぐらい、はっきりとした態度で示す国。だから、作風にソ連側をあまり肯定したくない気持ちが働くだろうと考えたり、だけど、あまり悪く描くと大人社会に与える影響で、面倒なことになりたくない。とかあるのかな〜、etc,
    多くの国で上演されるから、色々気を使っているとか?
    取り止めもなく、思いを巡らしました。

  8. きおづき より:

    ツッコミどころ編にして答え合わせ編、興味深く拝読致しました。でも傑作であるということも心に留めつつ。
    グレブの役回り、稔幸さん(母の推し・20年前)の2番手時代と被ります。顔が似てるな〜と思って気にし始めた芹香さんですが、役回りまで似なくとも。

    1つの場面で別軸演出、「るろうに剣心」で剣心が抜刀斎時代を思う場面を同じステージで演出つけるようなあれですか?ああいうの舞台の醍醐味ですよね。手法は単純なのに奥行きが出るというか。
    コロナ禍で演出出来なかったのであれば残念です。でも自分もコロナ禍で観劇に行けていないのですよね。ムラに極近在住しながらアナスタシアもfffも指をくわえて見過ごしています。
    チケットに余裕があるなんて驚きです。…ヅカチケットに余裕がある⁉︎

    コメントヨコからで申し訳ないのですが、命掛けられないです(涙)それこそ強行観劇を何回か考えましたが、小生に隠居さんのような覇気がないばかりに…すみません、家族の命と嗅覚と味覚が惜しくて…!
    蒼汰さんに営業かけていただいたのでライビュを観てみることにしますが、一体いつになったら小生は現場に行けるのでしょう…
    20年ぶりに戻ってきた小生のヅカブームは此度のコロナ禍がないと無かったものですが、コロナ禍ゆえ観劇に行けず。歯がゆいです。母親にも観せてあげたいのですけどね。
    ルネサンス・宝塚ブログを教えたら「面白い!わかるところは読んでる」とのことです。蒼汰さんmasaさんありがとうございます。

  9. はな より:

    ライブ配信を観たのち、数日前に感激してきました。
    書いてあることにいちいち頷いてしまいます!
    観ていて楽しかったし、ストーリーも曲もいい、キャラクター達は魅力的、なのにちょっぴり物足りなさを感じる、、、と思っていました。
    そう、紙芝居っぽいんですよね。もしくは絵本。
    オープニングは本の映像だし、おとぎ話という演出はいいのですが、もう少し書き込みというか深みがあれば心に強く残るのに、って思います。

  10. ちょっこー より:

    さすがの着眼点!
    なんか、言葉にできない違和感というか物足りなさを感じてたんですよね。

    芹香斗亜はもっともっと非常な悪キャラにしてほしかった。
    ドクトルジバゴの天寿光希ばりに怖くて悪いやつからの改心するくらいの演出でも良かった気がする

    たしかに、集中力切れそうって思ったことあった原因がわかってスッキリです!

    ていうか、幼少期会ってたんですか!?
    ビックリです!!

    そこ、ちゃんと着目して見たいですね

    こういうブログもいいですね!

  11. まるん より:

    いつも興味深く拝見しております。

    まさしく!

    アナスタシア、大劇場で観劇しましたが
    すごいなぁ、みんなお歌頑張ってるなぁ
    とは思ったものの
    面白いからもう一度観たい!

    に繋がらなかったのはなぜだろうと思っていたのですが
    そうたさんの意見をうかがい腑に落ちました!

    歌はすごいのに舞台が平坦で飽きる、キキちゃんの存在の意味がいまいちわからない…

    すっきりしました!

  12. 通りすがりのれいこ より:

    蒼太様
    ご無沙汰しております
    宙組のいろいろ人事で混乱していたゆえ、コメも出来なくしておりましたが、落ち着きましたのでコメさせていただきます
    アナスタシア仰る通り傑作だと思います!私は地方民なので今遠征出来ず配信で観ましたが、ほんとに素晴らしかった!真風さんもほんとがんばってたと思います
    ただ蒼太さんの仰る事その通りだと感じました グレブの描き方なのか
    あれが限界なのか、突然登場するのであれっ?と思ってしまいます
    キキちゃんもったいなかった様な
    個人的感想です すみません
    あとパレード回想のシーンは全く同じこと思いました せめて歌の間に
    回想シーンを作ってくれたらもっとわかりやすいのになーと思いましたね、作品としは秀逸なので、どこかの組で再演するなら手直ししてから
    再演すると良いですね
    他の組で上演されるのも楽しみです
    蒼太さん、今年もよろしくお願いします

  13. MS より:

    今回の宙組公演は退団者もいませんし、このご時世で貸切もほぼなく、チケットも完売されてない事から、様子をみながら買い足していこうと思っていた方もいらっしゃったでしょう。
    それが緊急事態宣言で、チケット販売は5000人を下回らない限り停止、開演時間変更による払い戻しの再販売もなしとなり、観客は減ることはあっても増える事はありません。
    こういったミュージカルは生でこそ伝わるものがあるのにと、とても残念です。
    私個人の感想は、即完売となったfffより、アナスタシアや、月組のピガールの方が通いたくなる演目です。
    宝塚はトップスター、2番手、3番手と順番があるので、あれっ?2番手より3番手の方が出番多くないか?という違和感もあり、グレブの立ち位置が微妙に感じたりもするのかなと思います。
    今後、宝塚で再演していくのなら、確かに、2番手が演じるグレブのあり方は変わっていくでしょうね。やはり、2番手が主人公に関わらなさすぎますからね。
    私のように、余程初回でガッカリしない限り何回も観劇する者は、徐々に分かっていくのでそれも楽しみの一つですが、やはり、最初から感動を余すとこなく与える演出というのは試行錯誤を繰り返すのではないでしょうか。エリザベートも演出は変わりましたしね。
    ソ連をナチスと同じように若者に向けて発信することに、アメリカは日本より慎重になるのかなと思いました。今後、日本独自の演出に変わっていけば、グレブの存在は大きく変わっていくでしょうね。
    そういった意味でも、まだまだ色々な可能性のある演目であり、この初演は大きいですね。
    あと、宝塚のデミトリは、アーニャより存在感を出せるカリスマトップスターにのみ演じることが出来る役ではありますね。

  14. まるこ より:

    私自身はBWと梅芸を見ているので特に違和感はなかったのですが、なかなか新鮮な感想でした。という私も某所でBWの映像を見た時は「グレブがラミン(カリムルー)である意味は?ラミンの出番はこれでいいの?」と思ったので。ラミンが出演した理由は集客目的以外にないと思いますが、悪者にはできなかったのかなと無理やり自分を納得させました。アメリカで作られたわりにはソ連は敵ではない書かれ方をしていますね。そんな時代でもないし、でもバカにされているのはよく分かります。原作アニメはアーニャの行く手を阻むのはラスプーチンですからね、それこそ魔術やら出てきます。ちなみにアニメは宝塚版を見た後、つい最近見ました。コーラス部分はアニメの名曲がそのまま採用されていて、なるほどアニメとミュージカルの連携は見事だなと。あとアニメのディミトリが真風さんに似ていて笑いました。梅芸ディミトリくんたちはBW版ミュージカルに近いです。

    稲葉先生が「グレブを宝塚2番手がやるのにふさわしく(変更の交渉をした)」と仰っていたので出番が増えるか掘り下げると期待したところ、わかりやすい一目ぼれのみ足されておりました(笑)もともとグレブは1人でパリに追っていくのですが、宝塚は部下でも増えるのだろうか、ショーヴランのように、と思ったらやはり1人で地味に。しかもオペラ座ではBW・梅芸と違いまさかの立ち見(笑)

    でもひとつストンと理解できたのは、なぜグレブがアーニャを撃てないか。BWは言葉の壁もあり、強そうなラミンがあっさり引き下がるのか謎のまま終わりました。梅芸版は日本語のおかげでクリアになりましたが、あ、そんなに好きだったの?と申し訳ないですがロリコン風味でグレブ→アーニャの恋心をあまり受け入れられない、というか説得力には至りませんでした。宝塚は若い作りで最初から「こりゃ撃てないわ」と思いました。

    宝塚版でディミトリを主軸にしたことで弊害は生まれていると思います。BW・梅芸(この2つは見事に同じ。梅芸演者のレベルに拍手を送りたいです)はアーニャ自身の「過去への旅」であると同時に皇太后とグレブに影響を与える、過去に囚われていたこの2人を解放する。これがとても分かりやすいのです。BW・梅芸版ではディミトリはアーニャの戦利品ですね。ハリウッドで男が戦えば必ず女性とのラブも獲得しますが、この逆。あるいは日本では昔からある少女漫画の手法です。

    でも舞台はパフォーマンスと演者を楽しめばいいので。宝塚は宝塚らしく、アーニャを間に挟み、ディミトリとグレブという2人の男性の異なる生き方、異なる愛し方、でも2人ともアーニャの幸せを願っている、という作品に仕上がっていると思います。ディミトリもグレブも幼い頃にアナスタシアの姿を見て「運命の人」であった。対比としては:
    ディミトリ:ヒロインは強く守られるタイプではない、共に戦う、震えているが怯むなと励ます(オペラ座の歌詞)、家族をみつけた彼女を思いさよなら;
    グレブ:震えていたか弱き花を守りたい(保守的な考え)、人民を搾取し過去の栄光にすがる貴族が金儲けゲームにアーニャを利用しようとしているので助け出さねば(労働者の革命的思考)、いるべき場所に連れて帰りたい。

    米ヒロインなので当然、守られるよりも共に戦う相手を選びます。

    最も大きい対比は父との関係性で、ディミトリは自由に強く生きろと教わる、グレブは父の行動を誇りに思い自身が出世することで正当化し名誉回復を図りたい、いわば父の代わりの人生を生きていた、だと思います。

    グレブはいわゆるジャベールなのでアーニャとの対峙の後に「絶対セーヌ川に飛び込むと思っていた」という感想もわりと見かけたりします。そうはならず。誰も死なない、皆いい人だ、という意味で安心平和な作品なのかと。BW版では子どもの観客も多く(家族連れは興行的にありがたいですよね、プリンセスものはグッズ的にも貴重です)それこそ愛に包まれた作品だと思います。近年、刺激的なドンパチや政治ものは危険なので、BW(こちらは一般的な話)はミスサイゴンでもロミジュリ的要素のほうに重点を置いていると思いました。あとBWはおのぼりさんが見るわけで、観光疲れの1日を締めくくるにはハッピーが一番です。

    またアナスタシアはロシアからパリに移動するものの、実際は数名の内面世界で、物理的よりも心の中の冒険ですよね。大きな対立構造はなく、派手なドンパチはない。政府のユスポフ宮殿の襲撃だって見せ場にしようと思えばできるはずですが、台詞1つで済まされる。BWだけではなく映画も同じく欧米の傾向で、国対国などの大きい話ではなく、よりパーソナルでミクロな方向=でも誰もが抱えている問題に迫っていると思います。

    物語的にはアーニャが生き延びればいいので、政府の命令で追ってきた人が撃てない理由は適当につけておけばいいわけですが、宝塚は「任務と愛の狭間で撃てない」がシンプルで良いかなと。ただ私も何回か見て、宝塚版のほうに、より「ロシア人あるいは人の良心」を感じるようになってきました。

    グレブについて長々と語ってしまいました。キャラクター的には、上司に忠実な青年ホープで、おそらく女の子の扱い方も知らない真面目くんが悶々と悩む、本来寡黙であろうに歌の中でペラペラと心情を語る、というのは大変性癖に刺さります。おそらく漫画女子やミュージカル女子に。まっすぐな勝手な思い込みが個人的にはツボです。ミュージカルは1曲聴けばすべて分かる!という作りのはずなので、それを体現しているのも見事です。観た後は「流れるネヴァ河」にずっと頭の中を支配されるので、この曲を引き当てた人はラッキーだと思います。

    ちなみに宝塚版はテーマが分散してしまった気がします。「ひとかけらの勇気」は生まれませんでした。つまり主役が歌い、作品全体のテーマになるもの、パレードでも使われ、帰り道に口ずさむ曲。古くはベルばらの「愛~それは~」ですかね(笑)

    もう一度見る機会があれば、グレブが展開にどう絡むか、ではなく、彼の別物語として切り替えて見ていただけると面白いかと思います。別の世界を生きていて、それが西側社会から見た「東側」にもやや重なります。

    舞台が平坦な点については、BW版では長くてつまらんと感じたのは2幕のリリー&ヴラドだったのですが(おじさんおばさんなので…でも真面目が続くとBWの客は飽きるので、ゲラゲラ意味なく笑える場面は必要です。箸休め)さすがに宝塚はダンサーを投入して飽きませんでした。逆に「やればできるレッスン」が「こんなに長かったかな?」と。つまり同感です。ちなみに個人的には舞台上のキャストが自分で小道具を出してきてしまう演出は大好きです。これを見ると輸入作品だなと思います。ダンサーが椅子を持ってきて運ぶ、パリのアメリカ人とか。カーテンを閉めないものを評価します。荻田さんのファンですが、その点は大きいです。

  15. より:

    田舎住まいでライブ配信しか観ていないので、2回も観劇されたのが羨ましいです。舞台が平面的というのは劇場で観劇された方ならではのご慧眼ですね。
    ヴラドはアドリブが面白いのが人物造形の邪魔をしている気がしてなりません…。
    父のように役目を果たさなければという思いとアーニャを殺すことへの躊躇いの中で葛藤する姿と芹香の眉間のシワがすごくツボでした。アーニャを殺せず、父のようになれないと思うヴラドですが、結果として父と同じくアナスタシアを生かしているのが面白いです。(アナスタシアを助けたのヴラド父だと思ってるんですが、一回観たきりなので違ったらすみません)
    幼少期のパレードは本当に観たかったですね…!版権元の関係もあるから仕方ないとはいえ、ちょっと残念でした。

    エリザベートと同じく、男役を主人公に改編したわけですが、やはりアーニャ中心の感は拭えず…。小池先生の潤色は秀逸だと改めて思いました。
    でも、星風・寿・優希の名演、駅のコーラス等、素晴らしい作品だと思います。ブルーレイと東京千秋楽ライブ配信が楽しみです。

  16. かあこ より:

    ディミトリとアナスタシアの幼少期のエピソードについて、私も同意見です!
    え?そんだけ?って思いましたもん。
    サスペンスやミステリードラマでたまに回収忘れの伏線がありますよね?
    ちょっとそんなモヤっと感があったのは私だけでしょうかね…?
    ここ大事なとこやん!って突っ込みました、心の中で(笑)

    私的には、「アナスタシア」は傑作ではありませんでしたが…
    まあ、感じ方は人それぞれですから、そこはお許しを。

  17. ヅカオタ より:

    アナスタシアは初のSS席で観劇した記念すべき作品です笑!!
    宙組の地力の高さが出た素晴らしい公演でしたね。

    宝塚と外部公演の違いが主役以外にもどれだけ魅力のある役が描けるかだと思います。その点、アナスタシアは主演2人とリリー以外はしんどい役だったなと。キキちゃんはもちろん、桜木さんだって出番は多いですけど贔屓がこの役だったらちょっと嫌ですよね。。4番手以降は目も当てられないですし。
    そういう意味でエリザや再演を繰り返す他の版権モノにはなるのはちょっと難しいのかなと思ってしまいました。
    星逢一夜が大好きなんですが、そういう作品なのかな。

    今後もブログ楽しみにしてます!

  18. まるこ より:

    何度もすみません。自分の文を見返すと超長い。。他の方々の投稿も読んで大変面白かったです。

    では2番手の役をどう美味しくするか?ですが、オリジナルをどこまで潤色できるかよりも今回はディミトリを中心に据えるために曲なり皇太后との対話シーンなりを増やすのに力を使ってしまったかなと。アーニャでさえソロが減り、銀橋は一度も渡らず、梅芸はセンターから出てくるところも宝塚は袖から、など徹底的に宝塚ヒエラルキー。ヅカオタさんが書いてらっしゃることに凝縮されているかと。

    ちなみに花組のナイスワークを見たのですが、真ん中2人はちゃんと物語を作りながら、周りが濃くとても活躍している。振り返るとはいからさんもそうなのでこれが花組、そして総力で歌で勝負するのが宙組で、どちらも組カラーに合っていると思いました。でもはいからさんの場合、少尉と紅緒の比重は原作と同じでそれでも少尉のよさが存分に出ていますよね。もしかしたら原作よりも魅力的なのではないかと。私は漫画は鬼島派ということもあり(笑)少尉は出来過ぎで魅力は感じなかったのですが、宝塚では内面もとても分かりやすかったです。

    何が言いたいかというと。はいからさんは原作と比重が変わらないのですが、天河は思いっきり真風さん仕様に変更されていました。アナスタシアもここまで歌わなくても、誰か歌手に任せたらというくらい歌いまくり。物理的な出番を増やすのではなく、もう少し真風さんの存在感を信じる方向で潤色してもよかったかもしれませんね。

    主要キャストは均等に上手いので印象としては宙組総力戦。演者に思い入れなくオリジナルを知らなければ私も「リリーが上手かった、コーラスがすごい、キヨのバレエがすごい」の感想だったと思います。あとは組長皇太后ですけどね!梅芸も麻実さんの物語だったのか!と思いましたし、日本のお二人の威厳は素晴らしいです。グレブについてはいつの間にドラマティック歌唱を身に着けた!2幕対峙場面は鳥肌!です。

    私はミュージカル、それも台詞と歌の境目がない一体化した作品が好きなのでそれができる宙組を高く評価していますが、確かに宝塚でやる意味、宝塚ならではを期待する客を考えると、トップファン以外にはなかなか厳しい作品なのかもしれませんね。ついでにミュージカル脳である私の美味しい基準は「どれだけソロがあるか、ソロ中に他に人が板に載っていないか」です。あと上書きの法則なので後にくるものが印象に残り有利(歌いこなせなければ意味はないですが)、自己紹介ソロがあり、あとは各幕でラストにくる曲が高位です。

    パレードを可視化する発想はなかったので新鮮でした。すべて歌に書いてある、歌を聴けば情景が浮かぶ、はずなので。。一歩間違うと小池先生の「大事なところを台詞で済ます」になるのかもしれませんが。アナスタシアは捨て曲がない、音楽に導かれて物語を読むものだと思っています。

    もうひとつ言えるのは、稲葉先生は生徒のよさをとても理解しかなり出来る。今回も上出来。でもイケコ先生は天才だ、でしょうか。

  19. 金の鳩 より:

    蒼汰さんこんにちは。
    今日アナスタシア観てきました。
    出遅れたので、どの記事にコメントしようかなと思いましたが、チキンなので「傑作ではなかった」とコメントされた方がいらっしゃるこちらにします(笑)
    ※余談ですがこちらのブログは蒼汰さんの記事がためになり面白いだけでなく、皆さんのコメントも読み応えがあります。

    音楽とまどかちゃんの歌の良さは、断片的なスカステ映像でも十分伝わってきていたので、ミュージカル好きの私は楽しみにしていました。
    確かに、まどかちゃんの地声と裏声を使い分けた歌唱は素晴らしかったですし、真風さんはどちゃクソカッコよかったのですが、全体的にはそこまでではありませんでした。
    海外ミュージカルらしい雰囲気は好きですが、役が少なくて周りの方の出番の少なさが不満でしたし、ストーリーも、アーニャがマリア皇太后に「私はアナスタシアよ!信じて!」とアピールするまでの気持ちの動きがわかりにくかったり、オルゴールだけでアナスタシア本人認定したように見えたり、グレブがアーニャにそこまで惹かれた理由がよくわからなかったり。
    (でもこれらは、睡眠不足でところどころ眠気が襲ってきてしまったので、もしかしたら大事なところを見逃したのかもしれません)

    何より、今回だけではないですが真風さんの歌、私は無理でした……。
    ご本人比上達されたことは知っていますし、過去作品はまぁ耐えられたのですが、今回は歌いまくりですよね。
    蒼汰さんの仰る「一音一音丁寧に歌う独特の節回し」、私に言わせると「一音一音シャクリがキツい独特の節回し」で、三半規管が弱い私は船酔いしているような感じになってしまいました。
    そして、まどかちゃんあんなに歌は素晴らしいのに、セリフの滑舌が悪くて聞き取れないことがしばしば……なので棒読みに聞こえがち……こちらも今回だけではないですが。
    そんな感じなので、本当に申し訳ないけれど、別のコンビで観てみたいなと思ってしまいました。今のトップコンビだと見つかりませんが。

    もう一度観に行く予定なのですが、冴えた頭で観たら感想も変わるかもしれません。
    その時は「やはり傑作でした!」と改めてコメントさせていただきますね!笑