ド定番の裏側のメッセージ・宙組『Razzle Dazzle』感想

 

芹香斗亜の退団公演となる、

『宝塚110年の恋のうた/Razzle Dazzle』を拝見してきました。

 

 

さっくり感想を書いていきます。

 

ザッツド定番な『Razzle Dazzle』

 

例の事件以降、明らかにオリジナル作品が増えた宝塚。ここ最近の作品を振り返ると、『エンジェリックライ』は新海誠のような現代アニメ邦画風、『ゴールデン・リバティ』は90年代初期のB級映画、『ROBIN THE HERO』は子供向けほんわかミュージカルと、いわゆる「変化球(だけどこれも宝塚)」な作品が続いてきましたが、本作はザッツ宝塚のド定番!!

遺産が信託基金になっていて、大人の言うこと(だいたい会社相続&好きでもない女性との結婚)を聞かないそれを引き継げない、なんてマジで宝塚でしか見ない設定に始まり、田舎かから出てきた女の子をカケの対象にして男2人でワチャワチャしてたら、うっかり本気で好きになっちゃって…というベタで予定調和な筋書きだけれども、そんな大人のおとぎ話を真正面から表現してこそ宝塚よね!!ってことで私は素直に楽しめました。

これが素直に楽しめたのは、芹香斗亜が金に困らない世間知らずの坊ちゃんレイモンドを嫌味の無いキャラとして演じていて、かつ春乃さくらが田舎者ながら知性と品を感じられるドロシーを演じ、それがピタリとハマっているからこそ。この2人は高学年なのに見た目が若いから「渋さ売りです!!」みたいな持ち味になり過ぎない、だけどしっかりアダルトな演目を魅せることが出来る稀有なコンビだと改めて思いました。2人ともそんな宝塚の王道がよく似合う。けど、まともな作品がこれ1作で残念…。いや、まともな佳作が1つでも回ってきた良かったのか?ともかくそれぐらいハマり役でした。

桜木みなとのイイヤツ・トニーは100回くらい観たことある気がするほどさすがの盤石っぷりだし、険の取れた天彩峰里の決して当て馬になり過ぎない金持ちの令嬢感も良かった。けど、今作のMVPは当て馬その2、主人公の元恋人シャーリーンを演じた瑠風輝でしょう。めっっっっっっっっちゃ良かった!!今まで彼女は真面目過ぎてつまらない、と思っていたので、強制的に枠からハミ出すことになる女役を回したのは正解だったと思います。イヤミーな役のはずなのに嫌味になり過ぎない、その塩梅が絶妙。大柄だから単純にゴージャスだし、歌も上手い。惜しむらくは、こういう役どころをもっと早く彼女に回してあげて欲しかったこと。梯子が外された途端に肩の荷が下りたのかスターとして飛躍する、というのは愛月ひかると全く同じパターンですが、果たして星組に行ったどうなるのでしょう?色んな意味で楽しみになりました。

とまぁ、今の宙組主要メンバーの良さを見事に取られた、素晴らしい作品だったと思います。

 

主題は「モブ賛歌」

 

その一方で、「なぜ舞台に立ち続けるのか」「ショー舞台に憧れ続けるのか」を作品の主題にしている点は見逃せません。本作のテーマはずばり、「モブ賛歌」。大して目立たない、それどころかスポットライトを浴びれるかも分からない状況でも、夢をあきらめずひたむきに努力する若者たち(春乃さくら、鷹翔千空、風色日向、亜音有星、水音志保、山吹ひばり、他若手たち)の姿が、大人のハッピーミュージカルの裏側でキッチリ描かれています。

これはもちろん、例の事件により長く舞台に立つことが出来なかった宙組生たちの二重写しなわけですよね。「退団希望者30名超え」などというバカげたデマに晒され、「組を解体すべし」からの「それでも舞台に立とうとするなんて常識を逸している」という猛批判に晒されながらも、それでもなぜ舞台に立とうと思うのか、そんな野次馬たちへの意趣返しのような作品になっている。そしてあくまでそんな夢追い人は上記の通り若手スターたちであり、管理責任を問われた立場の人たちは「潰す側の悪」に回っていることも含め、凄く意図的なものだと思います。

これをスター主体の発露ではなく、劇団と演出家が作っていることをグロテスクに思う気持ちも分かります。けど、この裏テーマはあくまで「裏」であり、宙組復活を長く待ち望んでいた一部のファンの人への隠しメッセージだと思えば、別にいいんでね?と私は思っています。どうせ野次馬勢は宙組公演を観ないでしょうしね。

表向きは誰も不幸にならない多幸感溢れるハッピーミュージカル。宙組がどうこうではなく、一つの作品として素直に楽しめる作品だったと私は評価したいです。

 

和物歌合戦・『宝塚110年の恋のうた』

 

一方の『宝塚110年の恋のうた』は…うん、110周年記念演目ですから、こんなもんかな、って感じです。←

結果的に前作の『Le Grand Escalier』が洋物歌合戦で、今作が和物歌合戦になったな、というそれ以上でもそれ以下でもない作品でした。任期の短い芹香斗亜に色んな作風を当てられたという意味正解だったんでしょう。

個人的な見どころとしては、日替わり演出(若手に場面を作ってあげる手法として盲点だった名案です)でたまたま某番組出身の楓莉かのに見せ場があったことと、芝居も含め奈央麗斗が爆推し過ぎて笑っちゃったことです。七夕の場面で、まさか大路&泉堂の105期コンビを差し置いて歌い出すとは思わず驚きました。

そう、今回の一番の感想は「宙組さん、もしかして105期コンビから奈央麗斗に本気モードを移しました?」なのですが…ま、まずは新人公演ですよね。ちゃんとライブ配信で観られる予定なので、こちらも今から楽しみです。

 

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コメント

  1. YK より:

    いつも記事を楽しみに拝見しております。
    ラズルダズルはオシャレな佳作みたいなのでこれからの観劇が楽しみです。
    110年の恋のほうは正直再演詰め合わせパック(ほぼ衣装使い回し)の様相なのであまり期待はしてませんが、例の事件が起きなかった場合の110年を祝う豪華絢爛な日本物ショーとなった世界線を考えると衣装も楽しみにしてる者としては悲しいです。
    恐らく過去の辻ヶ花のような豪華特注衣装だったろうに、いくらなんでも酷い仕打ちだな思います。芹香さん1人で責任を取れ、と言わんばかりで。
    フラットな目線と気持ちで東京宝塚での宙組観劇を楽しんで来たいと思います。

  2. トムヤムクン より:

    蒼太さん、宙公演感想お待ちしておりました!
    私は大劇場2回、東宝本日2回目で、贔屓さん以外もやっと落ち着いてみまわせるようになってきました、、!!
    奈央さん、蒼太さんがおっしゃるとおり歌唱場面はありますし、お芝居でも奴隷エキストラ役はなさってないものの、いいポジションにおられますねー!
    若手は真白さんや鳳城さんおしのけてやたら目立っています。宙の中では背は高くないけど顔面よくてお歌もいいですねー!でも劇団は亜音さんのあとは大路さんイチオシ、スペア泉堂さんで次世代で奈央さん、とみています。
    泉堂さんは大路さんに隠れちゃいますけど表情豊かでクールな大路さんと対象的、持ち味違うし、劇場での人気が高く感じるのでまだまだ諦めなくていいかな!て思ってます。歌唱は大路さんより上手だと思いますし(好みの問題ですかね?)
    105宙話ばかりしてしまいましたがラズルダズル、なにしろMVPは瑠風さんだと思ってます。ゴールデンリバティ鳳月さんの高音もびっくりしたのですが、瑠風さん、男役なのにあののびやかな高音。彼女がうたいだすと双眼鏡でガン見しちゃいますー。わかっちゃいるけどカンニングペーパーみながら歌ったり、田舎っぺ娘さくら嬢に全部種明かししちゃいながらもレイモンドに復縁せまり、スタジオ存続場面でのテンポもクスッと笑えて意外とコメディエンヌの才能ありますよね!?今までは抜ける常に優等生役だったしトーク番組でも落ち着いた静かなイメージですが、こうゆう役お似合いですね!!単純に大きすぎてかっこいいですし、歌唱指導でドレス、フィナーレダンスで男役、またまた大階段ではドレス、と大変でしょうけれど素敵です。
    長々と感想書きましたがまだまだ宙公演は観る予定ですし、新人公演は配信みたい!て思っております。ぜひ泉堂さんレイモンド、こまちさんドロシー、奈央さんトニー、大路さんシャーリーンの感想もお待ちしております!

  3. 風船 より:

    107期は一輝退団に伴い他を上げ始めるのは当然として、宙が大路泉堂コンビから奈央にシフトしたとは思えない作品でしたよ。
    恋のうた終盤にそれぞれソロありますし大路は盆回してピン登場、ラズルも短いながら芹香と大路泉堂の場面もありフィナーレのロケットも2人がメインでした。

    とは言え組ファンとしては奈央の活躍にも期待していますし挟まれた状態の106期の鳳城の才能をなんとか活かして欲しいと思っています。
    また108期以下のニュースター育成も待っています。

  4. ババロア より:

    祭りを遠くから眺める芹香さんの枯れや疲れ、いつも笑いで色んなものを誤魔化そうとするカラーが洒脱に落とし込まれていましたね。田渕先生の愛や、無難な物にせず通した劇団の最後の温情を感じました。
    ヒロインとの恋を送り出す天彩さんもとても雰囲気が優しくなって、芝居や歌などの技術の高さに改めて目を引きました。上級生は複雑な役でしたがどんな気持ちで準備してたかと思うと心揺れましたし、対比するかのように鷹翔さん以下の若手中心シーンは眩しく、未来を楽しみにさせるものでした。そして前作から引き続き一途な包容力で芹香さんを見つめる春乃さんはすごかった。

    逆に今しか味わえない独特のビターな味わいと狂騒感、事件すらも「夢」に昇華されていくショービズの中にいるんだと考えさせられ、良い作品でした。

  5. みんみん より:

    蒼汰さんをはじめ、コメントでも素敵な感想を拝見し、とても楽しみになりました。
    瑠風さんめっっっちゃ良いんですね!ニュースで観た女役が80年代のスーパーモデルみたいで姿でもワクワクしました笑
    そして宙組は新公学年もまた渋滞ですか、大路さんと奈央さんとの並びは他組にない大人っぽさで麗しかった……主演二人も健闘してそうで新公も楽しみです。

  6. あかさたな より:

    大人の言うことを聞かないと遺産を引きづけないって、宝塚でよくある設定だけど、一番最初はミーマイあたりなんですかね?(宝塚での初演は87年)

  7. アライグマ より:

    宝塚大劇場の配信は観ていましたが、リアルで東京宝塚劇場で観劇しました。(後数回観る予定です。)
    リアルは、とても良かったです。

    私は宝塚初めて見るという人(ディズニー大好きという若い人)と一緒だったのですが、非常に良かったと喜んでプログラムも買っていました。

    わたしも、この一カ月他の舞台も5つくらい観ましたし、外部の上手い歌も聞いていたのですが、宝塚の華やかさ、楽しさは群を抜いていると改めて思いました。

    内容については、蒼汰さんの書かれているようにエキストラというか、この舞台に立てるモブたちの思いが裏のテーマだったように思いました。

    もちろん、芹香さんは達者。奴隷の役をしているとき、桜木さんのかっこいい主役の衣装に対して、芹香さんが他の若手たちと同じ衣装で、「やれやれ」って感じが上手い。
    プロミセス、プロミセスも拝見しているのですが、コメディ上手だと思います。
    力がないと主役に見えない場面でしょう。
    これ以上、過去のことについて書く気はないですが、普通の演目での芝居とショーをもう一本観たかったという思いになりました。

    そして、そして、瑠風さん、想像していたよりずっと振り切れており、まあ、歌の上手いこと。響き渡っていました。

    宙組さん、次回は、桜木さんのトップで過去の歌や演目ではなく、しっかり芝居と洋物ショーをしてほしいですね。

    個人的には、花、月の芝居よりは、この宙の芝居が好みでした。