星組生を愛でる作品・星組『夜明けの光芒』感想

 

暁千星主演『夜明けの光芒』を観劇して参りました。

 

 

相変わらず前情報無し、ぶっつけ本番観劇です。

感想をさっくりと書いていきます。

 

平成後期の宝塚を思わせる作品

 

『大逆転裁判』を観ていないので、禊を済ませた鈴木K先生の作品を初めて生観劇しました。本作は、良い意味で「ちょっと前の宝塚」な雰囲気でしたね。最近の外箱作品は新進気鋭の指田、栗田、熊倉と、作品自体のクオリティは高いけれど宝塚というより外部っぽい作品が続いていたので、なんとも懐かしい気分で観劇させてくれました。

「ちょっと前の宝塚」な作品とは…、近代ヨーロッパ貴族社会で、男女の愛憎劇で、雰囲気重視で、スターの男役芸&娘役芸をいかんなく発揮出来るようなもの。裏を返すと、観ている時は「素敵!!」と思うのだけれど、思い返してみると「えーっと、あれってどういうことだったんだろう?」と辻褄が合わないような、そんな作品です。そう、今回も全体的な雰囲気は良かったんだけれど、冷静に考えると伏線が回収出来ていないというか、風呂敷を畳み切れていないというか、そんな釈然としなさがある作品でした。

あ、前半は凄く良かったんですよ?鍛冶屋の孤児の少年が、謎の貴婦人宅に招かれ、そこに住む高貴な一人娘に恋焦がれ、「紳士になりたい」と強く思い込む。千載一遇のチャンスが巡り、愛憎渦巻くロンドン社交界にデビューするが…。意味深なメイド、時の止まったウェディングケーキ、なるほど、実にワクワクする伏線張りです。が、いかんせん主要キャラの立ち位置が謎過ぎました。

まずヒロインのエステラ(瑠璃花夏)。ミス・ハヴィシャム(七星美妃)によって育てられた、感情が欠落した社交界への復讐マシーン。

…そうでした???言うほど高慢でも無感情でもなかったような???とっととベントリー・ドラムル(天飛華音)とくっつくし、ピップ(暁千星)にも分かりやすく突っかかる。そして何より、最後の主人公とのラブエンドはスーパー唐突でしたね。

例えば、実は幼少期の頃からピップに惹かれていて、だけどそれをミス・ハヴィシャムに矯正されてて、それが再開後に冷たい仮面の下で愛憎がマグマのように滾っていて…みたいな描写があったら個人的には萌えましたけど、そもそも鈴木先生かそういう男女のもつれを描く気が無さそうな印象です。

そしてもっと謎なのがベントリー・ドラムル(天飛華音)彼、何だったの???社交界の闇と呼ばれ、エステラを巡りピップと火花を散らす謎の男にして、ピップの心の闇でもある…。で、正体は???なんでピップと心で会話出来るの???ただの妄想ってこと???

しかも最終的なオチが「馬から落ちて死んだわ」byエステラ って。…し、死んだ???そんな、ヒロインのセリフ一つで退場させられるなんて…。天飛華音が爆イケで演じてくれてたからまだなんとかなってますけど、そうじゃなかったら破綻してたキャラだと思います。

そーんなわけで、主要二役の書き込みがグラグラな結果、なぜわざわざタイトルが『大いなる遺産』ではなく『夜明けの光芒』なのか、その重要なテーマがイマイチ伝わりきらなかった気がします。まぁお話としては組長と暁千星の熱演のおかげで、最後なんとかホロりな雰囲気になってましたけど、じゃあ『大いなる遺産』でええやんってなっちゃいました。←

 

主要キャストざっくり感想

 

とまぁ、冷静に振り返ると話の点と点が線になっていない気がしますが、それでもなんとなく泣けるっぽい作品に出来たのは一重に暁千星率いる星組生のおかげ!!そう、今回はそんな星組生の実力を楽しむ作品です。(断言)

まず主演の暁千星。もはや「お芝居が苦手」なんて言わせない、堂々とした主演ぶりで感動しました。最近はノーテンキな役が多かったですけど、やはり彼女は苦悩する姿が一番萌える。見た目が若くフレッシュで、かつスタイルが良いからどんな衣装も着こなしていて、まさしくザ・宝塚の男役という感じ。今の瑞々しさ、自由闊達さは正2番手期間特有のものだと思うので、ファンは今の姿を精一杯楽しんで欲しいです。

ヒロインは瑠璃花夏。前半は驚くほど出番が無いのですが、深紅のドレスをまとって登場する彼女の美しさたるや…!!キャラクター的に芝居は敢えての無感情風ですけれど、所作や佇まいで「気品」を滲ませる技巧はお見事でした。

2番手は天飛華音。前述の通りキャラクター自体は謎な存在ですけれど、それを意味不明と感じさせない圧倒的オラ芸が絶品でした。彼女はキャラを蔑む役をさせたら右に出るものはいないほど上手い(褒めてます)ただ、喉をやっちゃったのか高音がキツそうでしたね。歌も彼女の得意武器の一つだった気がするのですが、今後が少し心配です…。

大活躍だったのは主人公の親友ハーバート・ポケット役、3番手格の稀惺かずと。はい上手い。はいキラキラ。もう立派な若手スター様ですよ。ハーバードが一番「ちゃんとした」登場人物であり、それをきちんと表現出来ていたからこそ本作が成り立っていたとも思います。もはや立派な屋台骨、身長の低さも気にならなくなってきました。今後のさらなる活躍に期待大です。

 

その他のキャストざっくり感想

 

さてさて、人事屋的には一番の見どころは乙華菜乃VS藍羽ひよりの新進娘役バトルでしょう。藍羽ひよりは主人公の少年時代役として、伸び伸びと芝居していました。ソロは完全に「女の子」のソレでしたけど、破綻せずやり切っていてグッド。

だ、け、ど。やっぱり今作のMVPは乙華菜乃かな。手の届かない高嶺の花、赤が似合う高潔な少女の役がとても良く似合っていました。声も可憐でセリフ回しが良く、とにかく芝居心があります。ぶっちゃけ、瑠璃花夏を喰ってヒロインしちゃってたくらいです。

あと、ヒロイン格ではないですが主人公の幼馴染・ビディ役の綾音美蘭も良かったですね。素朴だけど温かい、ザ・地元の女という情感の籠った芝居が光っていました。このまま完全脇に行くには惜しい人材ですけど、コロナさえなければ何か違ったのかなー。

そして別箱ならではの抜擢、そしてそれに応えたスターといえば、ミス・ハヴィシャム役の七星美妃でしょうな。とにかく素晴らしかった。登場して最初のセリフを発するその瞬間から、ぞぞぞと粟立つ「何か」がありました。「どう、私が怖い?」って、えぇ怖いですって話ですけど、だけどどこか物悲しくて、それには当然理由があって…という、そういう成り立ちが分かる芝居で素晴らしかったです。「おとめ」を読む限り芝居が好きな娘役さんみたいなので、今回の活躍は実に喜ばしい限り。

あとはーーーー、美稀千種のアツいアニキ感、輝咲玲央のイケオジっぷりはさすがでしたし、我らが紫りらの含みのあるメイド役も手堅かった。朝水りょうはキーパーソン役として舞台をキュッと締めていたし、澪乃桜季の口は悪いがちゃんと子供思いな母親代わりのアネキ役もホロりときましたね。あとは夕凪りょうの爆イケっぷりよ!!いわゆるモブチームの中だともう最年長、だからこそ魅せる男役らしい所作、表情や目線の使い方、どれもが絶品。程好いチャラ顔なのがまた良いですよねー、好きです。←

 

次期体制を睨んだキャストだったけど

 

ところで、次期トップの組内最初の東上公演は、特に男役については次期体制に向けた相性確認も重要なファクターなわけですけれど、暁千星×天飛華音×稀惺かずとの組み合わせっていかがでした?個人的には、極美慎は遠からず外に出ていくと思っているので、いずれ暁×天飛になると踏んでいるんですけど…うーん、別に悪くはないけれど、そこまで「萌え」を生み出さない組み合わせなんだな、と思っちゃいました。我ながら意外。

例えば、永久輝せあ×聖乃あすか、朝美絢×縣千は、顔や性格や得意分野などお互いが全く違うカラーだからこそ補完関係にあたるように見え、それに比べると暁千星×天飛華音って意外と持ち味が似ていて、むしろ暁千星は極美慎(や稀惺かずとなどの屈託のないキャラ)との並びの方がしっくりくるかもと思ったり。

ま、だからなんだっつー話なんですけど、個人的にはそう思った、ということを書き記しておきたいと思います。千秋楽までファイト‼︎

 

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コメント

  1. もんこ より:

    こんにちは。初めてコメントを書かせていただきます。
    私も先日、「夜明けの光芒」を観劇し、星組生の素敵な舞台にトキメキました。
    全体に伏線が未回収?な感じも気になりましたが、何度も、♪夜明けのこうよう〜 と歌われていたのが気になり… 光芒(こうぼう)ですよね…?
    どういうことなのか、一番の疑問でした(^^;)

  2. ひろみん より:

    蒼汰様
    貴ブログをいつも楽しく拝読しております。
    「夜明けの光芒」のストーリーのツッコミどころ、そうよねー!と頷きながら読ませていただきました。

    文庫本で上下巻の超長編を2時間余りに凝縮するにあたり、大幅に割愛もしくは改変された部分があります。ストーリー展開に無理があるのは否めないかと思います。
    ディケンズは、「大いなる遺産」を恋愛物語ではなく、主人公ピップの成長物語として書きました。恋愛はその構成要素の1つでしかない。エステラの冷酷な性格は、残念ながら原作でも掘り下げられていません。その理由は、物語の元々の結末はピップとエステラのハッピーエンドではなかった。エステラはそこまで重要な人物ではなかったからかな、と思います。もしくはミステリアスな人物として作者が残しておきたかったのかもしれません。
    この小説は、新聞の連載小説として書かれたものです。ディケンズが、結末部分をゲラ段階で知人に見せたところ、「これでは読者をがっかりさせるから結末を変えた方が良い。」と強く勧められた、と付録1(Great Epectations; Everyman’s Library)に書かれています。元々のストーリーでは、エステラは不仲な夫を落馬で亡くしたあと、医師と再婚したという設定で、ピップがロンドンの通りで小ピップ(ジョーとビリーの息子)と歩いていた時、馬車の中のエステラから声をかけられる…というのが結末でした。改変の結果、この小説はハッピーエンド(ピップとエステラは結婚するかもしれないな…)となり、読者から喝采を浴びたそうです。
    「大いなる遺産」の魅力は、人情・恋愛・推理など、ストーリー展開の面白さですが、風景描写や多彩な登場人物描写がもう一つの大きな魅力です。比喩を多用しているので非常に難解ですが言葉の使い方が面白いです。「夜明け…」では割愛されていますが、ジャガーズ事務所で働くウェミックについての描写が私は大好きです。
    (原書で読了しました。大変な作業でした…もちろん、訳本を片手に、ですが。新潮文庫、訳者は加賀山卓郎さんです。)
    様々な登場人物が詳しく説明されている中、エステラは重要人物であるはずなのに、心の内とかは詳しく書かれていません。もう少し掘り下げてほしかった!というのが素直な感想ですが、ミステリアスな人物として、色々に解釈できるので、作者は読者に解釈の余地を残したのかもしれないし、前述のような急遽な改変のせいかもしれない。今となっては藪の中です。でも、余韻を残す結末となったのは事実。改変は良かったと思います。
    「夜明け…」では、恋愛要素大なので、これまた相当に改変、ピップとエステラは結ばれた〜です。それはそれで良いんです。幸せ気分に浸れるのが宝塚ですから。
    ストーリーとして残念なのは、ピップとジョーの場面です。原作では病に倒れた孤独なピップをジョーが献身的に世話をします。淡々と描かれているのがまた良くて。たまたま電車の中で読んでいたので、涙と鼻水がドバーと出てきて困った。。これが完全に削除されてました。それから、マグウィッチとコンペイソンの場面も。原作ではピストルは使われません。また、ピップがギャンブルに手を染めたというくだりもありません。そこまで悪に染めたくなかったのかも。しかし、借金は大きかったから、ひょっとしたらそんなこともあったかもしれません。マグウィッチの不幸な生い立ちやコンペイソンにハメられたこともサラリと述べられただけ。
    鈴木圭先生には、超長編を大幅縮約し、「悪」にフォーカスするに当たり、この選択をするしかなかったのかなとお察しします。「悪」として、下賤な奴ドラムルにピップの負の心を重ねてフォーカスしたのはヒットだったと思います。わかりにくく、役者の実力に委ねなくてはいけない危険もあったけれど、天飛華音くん、健闘されていました。「闇の群舞」は素晴らしかった。結果OKです。
    それから、ディケンズの文体は、事柄をはっきり描かず、比喩を使ってぼやかす傾向があるので、解釈次第でかなり意味が違ってくると思います。「読者の皆さん、ご自由に解釈してくださいね。」みたいな。余韻を残すトリックかも。いやはや難解でした。
    「夜明けの光芒」は少々古臭い内容ではあるけれど、古典を紐解くのは宝塚ならではです。鈴木先生は、ピップの成長を、悩み苦しみつつ歩んできた暁千星に重ね合わせ、タイトルも暁の名前から取ったと言っておられました。こんな脚本を書いてもられるのは役者冥利に尽きるだろうなと思います。蒼汰さまのおっしゃる通り、「『大いなる遺産』でいいではないの?」ではありますが。
    今日は千秋楽です。無事に幕が下りますよう。不穏な空気が新たに覆う中、祈るような気持ちです。
    長々と失礼いたしました。

  3. アライグマ より:

    夜明けの光芒の千秋楽を観劇できました。

    3階の前の方の席でしたが、特段前を遮るものもなく、オペラグラスと肉眼を交互に集中してみることができました。

    私のきわめて主観的な感想です。
    出演者皆様の気合が半端ではないという感覚を抱きました。

    ありちゃんについていえば、最初からそうであったのですが、ことに、二幕の追い詰められ、「エステラ 愛している」という場面で客席の方を振り返ると、両頬を涙が伝わってました。三階からもしっかりわかりました。

    その後のエイベルとの別離のシーンや、ジョーとの再会の場面も、あふれるものがひしひしと伝わってきて、私がこれまでありちゃんの舞台を見た中でも、芝居として、最も、心震えた舞台でした。

    確かに、脚本については、一回見ただけでは疑問が残るというか、前後の流れなどもわからないままで回収されないということも指摘されるカモとは思います。

    ただ、私にはとても、とても充実した舞台だったし、演者がそれぞれ魅力を発揮できた舞台だったと感じています。

    上級生たち(三人のイケおじ、紫さん、澪乃さん、七星さんの存在が良い)をはじめとして、皆様、ぴったりだと思いました。
    天飛さんは存在感があったですが、暁さんとの間に萌えがあるのかないのか。
    (並びについては、私は悪くないと思ったのですが、極美さんと暁さんの男役通しの本格的な舞台を観て、比較してみたいとは思います。)

    最後の最後に、星組パッションをしたのですが、ありちゃんのきわめて男らしい掛け声で(その前が、いつものように可愛くなってしまってますが)、劇場中の観客全員が盛り上がりました。芝居もよいし、カテコなどで、観劇前のいろいろ複雑な感情も吹っ飛んでおり、私は演じられる舞台を楽しもう、それだけなんだと、非常にさわやかな思いで劇場を後にしました。

    舞台は心の栄養になる、そんな舞台だったので、大満足でした。