洋ドラ好きには刺さる?月組『Eternal Voice 消え残る想い』感想

 

月組『Eternal Voice 消え残る想い』を観劇して参りました!!

 

 

月城かなと×海乃美月のラストストーリーを、

しっかりこの目に焼き付けてきました!!

私なりの感想をさっくり書いていきます。

 

面白いような、そうでもないような

 

正塚先生の大劇場公演は雪組『私立探偵ケイレブ・ハント』ぶりでしょうか?暗い舞台にストリートプレイ、間合いと長台詞で構成される正塚先生作品は、難しいことがニガテ層には全く刺さらないことが多いでしょうけれど、私は好みの作品が多いです。そして令和の今、正塚ワールドを最も体現出来る人が月城かなとでしょうから、彼女の退団公演に正塚先生が登板されたことは、個人的に超納得でした。

で、本作は前評判がイマイチで、果たしてどう転ぶんだろうと身構えて行ったら…「良いところもあれば、良くないところもある」という、なんとも中途半端な感想を抱きました。笑

考古学者である主人公ユリウスは、ある日メアリー・スチュアートの遺品とされる首飾りを手に入れる。それが本物なのか考えあぐねていた時、サイキック能力を持つヒロイン・アデーラは、見た瞬間にそれを本物だと言い当てる。不思議な力が引き合わせたかのように共鳴しあう2人は、メアリー・スチュアートの怨念、カトリックとプロテスタントの宗教対立、そして国の存亡に関わる大事件に巻き込まれていく…。

とまぁ、こう書くとロバート・ラングドンシリーズ(『天使と悪魔』『ダ・ヴィンチ・コード』など)みたいで、ポスターもそれっぽし、そういう作品が好きな私としてはワクワク楽しめる内容でした。けど、それは私が西洋史に明るく、かつ理論派推理物が好きだから楽しめたのであって、そういうものに興味が無い層はさっぱり意味不明なんだろうなーとは思っちゃいましたよね。メアリー・スチュアートがなぜエリザベス1世から冷遇され処刑され、それが結果として国の歴史や宗教観にどう影響したか、それをわざわざ説明するのは理屈っぽいけど、大端折りしたら分かりづらいしという、バランスが難しい主題でした。

その点、「メアリー・スチュアートの血を引くヴィクトリア女王を呪うわけないだろバーーーカ!!(意訳)」というセリフは、観客のほとんどが歴史に明るくない前提でのメタ的なツッコミであり、実に画期的だなと感心してしまいました。←

 

中途半端な洋ドラ推理物

 

ま、一番の問題点は、理論派推理物にしては話の節々がテキトー過ぎることですけどね。なんせ話のキモが「超自然的能力」という目に見えない、定義のしづらい代物ですから、どうしてもフワッとした展開にしかならない。宝塚だからそれも有り、と言いたいところなんですが、舞台のクオリティとしてはどーしてもツッコまざるを得ません。

特に、不思議な力によってメアリー・スチュアートの心臓を見つけだした、というのはロマンがあって良いですけど、絶体絶命のエイデン(天紫珠李)を救出する際に、彼女の私物を触れば何か分かる→この館のどこかにいるのは確実だわ(キリッ)の流れはさすがに椅子からズリ落ちそうになりました。さすがにご都合主義過ぎるし、そもそもどうやって救出に至ったかの過程が結構大事なのでは?

例えば、エイデンが監禁されていた部屋がメアリー・スチュアートの侍女が彼女の心の安寧を祈り続けていた場所で、その親族であるアデーラ(海乃美月)が時を超えて呼び出された、とかさ。こじづけでもロマンのある展開を作れば良いのになぁ、と素人ながら思ったり。とにかく際限無く超自然的パワーが発生して、それであっさり話が進むのは、「うさんくさい力」が「なんでもあり」過ぎるってもんです。

そもそも、主人公コンビは勲章とサーの称号が貰えるほど、何か活躍してましたっけ?ヴィクター(鳳月杏)と特定秘密局の方が活躍していた印象ですし、なんならヴィクター&エイデンの方が物語のヒーロー&ヒロインっぽいなとも思ってしまったり…。あと「争うことは空しい、後の世の人々に繰り返して欲しくない」from歌劇 という物語の中核となる(らしい)メッセージもイマイチ感じられず。全体的に薄っぺらい、なんとも中途半端な洋ドラ推理物風作品だな、というのが私の第一感想です。

 

観られる作品にした月組生の力

 

だ、け、ど。私が飽きずに最後まで本作を観られたのは、月組生の舞台パワーのおかげであることに他なりません。

月城かなとは相変わらずの芝居力ですが、いつもより気持ち粗野な物言いが珍しく、ちょっぴりワクワクしました。声の出し方から見得の切り方まで、驚くほど天海祐希に似てきています。本人の気持ちさえあれば、外に出ると意外と大活躍かもしれませんね?

海乃美月はシンガーだの女主人だの、最近の大劇場公演では自分と任じゃないorヒロインっぽくない作品が続いていましたけれど、今回は本人の持ち味に合いながらもしっかりヒロインしていて良かったです。

鳳月杏はさすがの安定感、一つの綻びもなく舞台を締めていました。トップを前に少し若返りましたかね?相変わらず不思議なのが、個人的には娘役としてあまり魅力を感じていない天紫珠李と並ぶと、謎の「萌え」を生み出すこと。本作でも不思議なラブロマンス感がにじみ出ていて良かったです。次代が楽しみです。

風間柚乃は上手いのは分かるんだけれど、(厳しいことを言ってしまうと)あともう1つ何かが欲しい…と思い続けて早数年。確かに芝居上手ですけれど、ルイス、ニック、山中伸太郎…全然違うキャラのはずなのに、これらとダシエルの何が違うの?と突っ込みたくなるほど似たようなキャラに見えてしまうのが難点かな、と思ってしまいました。いや、上手いんですけどね。このまま激シブトップの座に就くのでしょうか?

礼華はるは番手格になったばかりのキリキリした雰囲気が抜け、良い意味で肩の力が抜けた自然体な芝居が出来ていて良かったです。実力派ばかりの今の月組の中では素材系スターですが、それも良い意味で「浮いて」目立っていて良かったです。こういう人材がいないと宝塚を観に来た!!となりませんからね。

彩海せら&彩みちるのトンチキ姉弟は、ウワサ通りの大活躍でした。そしてトンチキに振り切らず、作品のカラーにピタリと落とし込んでいるのが凄いですね。彩海せらは男役らしい渋さが増し、成長を感じました。彩みちるは別格枠のカワイ子ちゃんとしてこれからも存在感が増すことでしょう。

そして、英かおとの冒頭の長セリフに感動しつつ(こんなにセリフがあるなんて感激!!)白河りりスチュアートの神々しい歌唱、想像以上に芝居が出来る羽音みか、まさかのダークモードに新たな魅力発見のきよら羽龍など、見所たくさん。あ、佳城葵の格ゲーキャラのような扮装のクオリティには思わず笑ってしまいました。

とにかく月組生が大活躍で、非常に楽しめました!!彼女たちのおかげで本作が「何とか観られた」と言っても過言ではありません。

 

サヨナラ、らしくはないかな

 

そういえば、本作ってサヨナラ公演なんですよね。なんか、全然それっぽくなかったですけど。←

ただ、そんな湿っぽい雰囲気ではなく、あくまで自然に「サヨナラ」と告げてくるあたりが、飄々とした月城かなとっぽいなとも思います。

千秋楽公演のその時までぜひとも全力で駆け抜けて欲しいです。

次はショーの感想です。

 

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コメント

  1. YK より:

    いつも記事を楽しく拝見しております。
    月組EternalVoiceの劇評ありがとうございます。別の記事でかなり厳しい出来とコメントしましたが、私が思ったことを殆ど言ってくれてます!
    私も大学で西洋史専攻(隙あらば自分語り)だったのでこの手の話は嫌いではないのですが、とにかく眠かった。
    心霊物ならば、カソリックのメアリースチュアートの側近の末裔だったことでアデーラは心を操られ、イギリス国教派の月城ユリウスと敵対するが、最後は愛で解放されハッピーエンドくらいだとスリリングで楽しめたのに、なんか展開が単調で、、、。オチもなんだかなぁ。月組の皆が熱演だったのが救いです。やはり退団公演で名作はないのですな。
    これからも楽しい記事お待ちしております。