前回は『シルクロード』の感想を書きましたが、
続いては『fff -フォルティッシッシモ-』の感想編です。
【前回はコチラ】
本作は望海風斗と真彩希帆の退団公演。
そこにヒットメーカーである上田久美子をぶつけてくるあたり
劇団の本気っぷりが伝わってきます。
同時に、我々観客側のハードルも爆上がりだったわけですが、
果たしてその内容はどうだったのか。
長くなったので2つに分けますが、
まずはこの記事で色々とベタ褒めしていきます。
上田久美子は最強の演出家
まず断言しますと、上田久美子作品の最大の良さというのは、
「話の美しさ」もあると思うのですが、
私は空間把握と舞台演出の上手さだと思っています。
話の筋が面白くても、それを上手に演出出来なければ
その魅力は半減してしまう。
彼女は自身で作り上げた緻密な世界観を
類稀なる美的センスと空間演出能力で、過不足なく観客に提供している。
つまり最高の脚本家であり演出家でもあると言えるでしょう。
今作でも、とにかく盆は回りセリも動く、
そして薄布や大道具(今回は銃兼楽器)を使って舞台を区切り、
舞台を上手と下手、平場と上部、銀橋と奥などの二重構造にし、
様々なところで話を同時に展開させます。
私たち観客の視線の動きを巧みに計算しながら、
「追想」「心の声」「心象風景」を目に見える形で表現することで、
単純に飽きさせず、かつベートーベンの一生という
膨大な量の話の筋をコンパクトに1時間半に収めることが出来たのです。
そして今作は、これまでの上田氏作品によくあった、
ヒラヒラした布を身にまとった人海戦術的表現はありませんでしたが
(たぶん新型コロナによる影響なのかな?)
あの空のオケピを使った演出は本当にビックリした!
実はこの部分だけダイジェスト映像で先に見ていたのですが、
あんた、天才か?と本気で思いましたもんね。
空間のムダが有るなら埋めてしまえという観点に、わたしゃもう脱帽です。
そこから、ルードヴィヒ、ナポレオン、ゲーテが
それぞれの自己紹介フレーズとともに
「ドーン!」「ドーン!!」「ドーン!!!」と登場。
2場面構成で前面がオケメンバー、後ろにフランス軍がせりあがり、
その隙間をシトワイエンヌがなだれ込み…とこの時点で掴みはオッケー。
こんな舞台構成が1時間半ずっと続く、そりゃ飽きませんよね。
そして映像演出も凝ってましたねー。
戦火と旋律の対比はもちろんですが、
難聴時のエフェクトが不気味で肌寒く、実に効果的。
ということで改めて、
上田久美子は最強の演出家なんだなと実感した一作でした。
愛溢れる演出と配役に感動する
さらに上田氏の作品素晴らしい点として、
配役の多さ、すなわち多くのスターにちゃんと役を作れることも上げられます。
それが今回はサヨナラ仕様で良かった。
まずは彩凪翔のゲーテ。
ご存知の通り、唯一の単独主演作である『春雷』で
彼女はゲーテを演じているわけですから、そのオマージュでしょう。
しかも「若きウェルテルの悩み」まで再現し、
それを物語の反復にまで使ってしまうという巧みさ。
幼少期のルイ役は野々花ひまり。
これまでなら彩海せらにやらせそうなものなのに、なんで?と思ったら、
そうか『ドン・ジュアン』のオマージュなのね。
退団者の1人、煌羽レオはメッテルニヒ役。
これがもう本当にカッコ良くて、
彼女の集大成として素晴らしい役どころだったと思います。
その同期である久城あすは、サリエリ役。
途中で一回メッテルニヒがサリエリに言葉を掛ける場面が有り、
同期の絆をさり気なく演出するなんて、粋だなぁと感心しました。
笙乃茅桜の小さな炎役を良かった。
ダンスで望海ルートヴィヒの心の炎を表現するという、
まさにダンサー冥利に尽きるポジション。
心の炎が消えそうになる瞬間、彼女もまた本当に悲しい顔をしていて、
実はこの場面が個人的ナンバーワン涙腺ポイントでした。
真地佑果、ゆめ真音もしっかり目立つ立ち位置に置かれていて、
(朝澄希さんは不勉強のため分からず…。)
大役ではないけれども、普通に見ていれば必ず目に入るポジションに居る。
これぞまさしく退団餞別という感じ。
退団者への餞別という意味では、
冒頭のシトアイエンヌ演出は『ひかりふる路』でしょうし、
中盤の「ペンじゃなくてパン」のくだりは、
コメディ公演をやりたかったと話していた望海&真彩に捧げた
ちょっとしたプレゼントのように見えます。
(あんな真顔で「は?」と言われたらそりゃ笑うしかないよね。つくづくデキる人のコメディって最強だなと思います。)
ちなみにベートーヴェンを主役に据えるにあたり、
2番手にナポレオンを持ってくるというのも凄い発想ですよね。
正直この2人、史実だとそんな関わり無いじゃないですか。
子供の頃に読んだ「マンガで知る世界の偉人・ベートーヴェン編」とかだと
たぶん2ページにも満たない関係性ですよね?笑
だけどゲーテを含め
「人間の力を信じ、追い続けたもの」がある者同士で結びつけ、
凍てつく精神世界で邂逅させるだなんて、何度も言いますが天才です。
しかもまた彩風ナポレオンがカッコ良いんだよなぁ。
スタイルの良さを生かした衣装がゴージャス!!
まさに2番手の風格ここにアリって感じでした。ナイス配役ですね。
で、肝心の内容は…?
とまぁ、ここまで主に演出面でベタ褒めしてきましたけれど、
じゃあ肝心の内容は?という話ですよね。
うーん、それはどうなんでしょう?
ということで相手役である真彩希帆への褒めとともに、
次の辛口内容編に続きます。
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コメント
初めてコメントさせていただきます。「空のオケピを使った演出は眉唾もの」との記述がありますが、眉唾は真偽が疑わしいことなので、お書きになりたかったこととはだいぶかけ離れた表現ではないでしょうか。もしや眉つながりで白眉と仰りたかったのかな、と推測いたしますが…。
コメントありがとうございます。
何を書きたかったのかよく覚えてなくて根本的に表現を変えました。笑
ご指摘ありがとうございました!
眉唾もの?生唾ですかね。
辛口内容編、楽しみです。
最後のナポレオンとの邂逅、というか妄想場面、長いわ意味わからんわと評判よくないようで、私もよーわかりませんでした。が、一緒に観に行った妻によるとあれは、ベートーベンとナポレオンを仲違いさせたままだと大団円にならないから、どうにかして強引にでも理解し合う場面が必要だったと。
そう言われれば、まああれ以外やりようがないかなーとも思います。実際には会ってないわけですしね。にしてもタタタタン!ってなんやねん。
ところで、歌劇3月号のえと文にて、朝美が花組ポーズしてるように見えるのですが。しかも文が「ああ愛おしの雪組。(中略、これでやっと、えと文担当分終わり的な文章)私は次の道へ行く。さらば。」で花組ポーズ?の写真。FNSが思い出されて怖いんですけど…私の考えすぎであって欲しい。
盆がぐるぐる周り、場面転換が立体的でウエクミここにありでしたね。
ムラでがんばってfffに通っていたとき、合間に花組のバウ公演に行ったら、感想の一つが「盆回らんなぁ」になってしまいました。(バウなんだから、アンタ、って話)
私の好きな盆回りシーンは若きウェルテルの悩みでした!
雪組、初日から今月19日まではB日程での公演ですよね?
朝澄希さんは22日以降のA日程にしか出演されないので見つからないはずです。
そうなんじゃないかと思いつつ、やっぱりそうですよね。笑
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
ル・サンクの脚本を読んだ限りでの印象では、これは第九の「歓喜に寄す」についての、
つまりロベスピエールが到達できなかった「フランス革命の精神」の精華を、
ルードヴィヒは音楽で、ゲーテは文学で、ナポレオンはタタタタンと音楽を構築するように、EUに繋がるヨーロッパ世界のシステムをデザインした(ナポレオン法典とか、ナポレオン金貨とか)
ということへの、豪華出演者による夢のシンポジウムではなかろうか?
でも、宝塚に来る客は、「fff」は「ベートーヴェンの人生についての芝居」と思って客席に座って「この芝居は???」
ウエクミ舞台の舞台演出抜き、望海と真彩の歌抜き、のル・サンクの台本だけ読んだ、舞台を見ていない地方民の妄想でした。
観劇感想、どんな視点で語られるのか楽しみにしております。
ぐるぐる回る盆に上がり下がりするセリ、階段部分が合体変形と舞台装置がそもそも大好きな私にとっては今回は本当によくできていて面白かったです。
ラストの歓喜の歌の場面では三重円が内回り外回りとぐるぐる回り、内外が入れ替わり…と目まぐるしく見応えがあったので、東京は前半2階席が売り止めだったのが残念です。
物語の解釈は何を求めて観るかにもよるかと思いますが、結局はベートーベンの望海風斗さんに幸せだったと言わせ、それを観客も含めてみんなで喜ぶことに至るまでの色々、だと思って見てました。
正直ロシアの雪原はなかなか長尺で、ここで寝ると言ってる人は多かったです。
他の方がおっしゃるように、大団円のためのプロセスであり、多くの組子の見せ場も作ることができ、次期トップとの絡みを増やすためにも必要だったんでしょう。
お前はモテたのくだりがどうしても違和感が拭えないですが、終わりよければすべてよし、白い衣装で全員揃ってニコニコされたらもう、ありがとうルードヴィヒ!と心から拍手を送りたくなってしまいました。
最後の作品で望海さんとの絡みがほぼなかった朝美さんですが、ゲルハルトは地に足のついたいい演技だったと思います。
最後の手紙のエピソードは上田久美子先生からのメッセージにも思え、退団記念番組でそれをアレンジして望海さんに送るなんて素敵だなと感動しました。
歓喜の歌はsuper Voyagerの喜びの歌、ナポレオン、フランス革命はひかりふると、革命はmusic revolutionと、シルクロードの盗賊と宝石の歌詞の、続く誰かの道になろうというところはひかりふる路から繋がっていて、これまでに関わった演出家の想いもまとめて今作で2人への餞になっていると感じました。
こんにちは。
いつも学ばせていただいて、おります。
数十年前に、大教室の片隅で、お講義を受けていた頃のようで。
劇場の空気が動くのは、こちらのこころもちに依るのか、とばかり…。
在宅勤務が続く中、桜をめでる前に、私だけの為の赤い薔薇を、買い求めようと思います。
こんにちは。
熱量高いレポをありがとうございます!ここ最近の観劇の中では一番心を揺さぶられているようにお見受けします。
私はチケット戦線に敗れ(仕事が繁忙期なこともあり狙いに行ける日程がめちゃ少ないという不運も重なり…)もう千秋楽のライブ中継しか残されていないのでできる限り予習して観に行く心づもりです。
なので続きの記事も楽しみにしておりますー!
アナスタシアの後の上田先生の作品という事で、神々の土地モードで観劇したため、思ってたんと違う…とはなりましたが、暗転に頼らない盆や空間を最大限に使った演出はさすがですよね。
宝塚初心者に優しいアナスタシアから、一気に宝塚上級者向けのお芝居になったので、アナスタシアではまって、次にf f fを観劇された方は、ちょっと戸惑われたかもしれませんね。
でも、ロミジュリの若気のいたりの悲劇を観ていると、何はともあれ、大団円は素晴らしい。
初めてコメント致します
毎回共感できる部分が多く、また、自分もそう思ったけれど表現出来ないことを、文章化されてて楽しく拝読しております
皆さん仰いますが、上田先生は空間の使い方が本当に巧みですよね
初見、オケピの中央の突起何?から、あんなに生徒が出てきたのは度肝を抜かれました
内部ではある程度オケピを使うアイデアがあったのかもしれませんが、タイミングがあってあの様に実践出来たのは、演出力と運が合致した結果かなと思い、脱帽せざるを得ません
個人的には上田先生の作品は、リアル寄りというか、仄暗(/明)くて苦手な面もあります
ですが、苦手なのにこんなに感心してしまうのは本当に凄いです
(個人の好みなので仕方ないですが、突き抜けたハッピーエンドが好きなので…
初めて見た宝塚は一昨年のエルベで、原作者[と今から思えば上田先生潤色]を観劇前に知っていれば、アンハッピーだろうからと絶対選ばなかったです
しかし、あれを見たから宝塚にこんなにもハマったのかなと思います)
脱線しますが、エルベより後は(それ以前は知らないので済みません)、大道具シンプルだなって見てます
(実際経費はしっかり掛かってるかもしれませんが… 逆に衣装にはこだわりありそうと思うのですが、素人見解です)
照明&場面展開で雰囲気が変わるから気にならないけど、不自然さを感じないのも凄い
生徒さんは結構舞台裏で走ってそう、自分だったら息切れしてます
盆が回りすぎて最後舞台はシンプルに生徒のみ…
主役を出演者総出で囲んで愛を感じました
真彩さんは今までで一番はまっている役だなぁと思えました
彼女の技術と役柄がマッチしてたと思います(役に合わせて来たのは当然ですが)
抑揚の付け方にはゾクゾクしました
毎回記事を楽しませてもらっている感謝を単純に述べたかったのですが、長文済みません
人事に関しても、特定の人物に偏らない中立的な意見、且つ生徒愛も感じる記事だと思います
これからも記事を期待しております
お世話様です。
私も大劇場のライブビューイングでしか見ていないのですが、オケピ使った演出はビックリでした!今しか出来ないよな~。って。
正直、途中で訳わからなくなって、眠気との戦いになってしまっていたけど、謎の女の正体がわかってから、全部話しが繋がったような気がしました。ショーの方もコメントしていた方がいましたが、彩凪さんのじゃあね。ですよ!もう、心の中で、凪様~!!って大絶叫して泣きました。会場でパンフは買いましたが、凪様にやられましてルサンクも買おうと思ったら完売。キャトルで通販しましたよ!
こちらは地方なので、ライブビューイングでしか見る事が出来ませんが、東京の千秋楽も都合が合えば見たいよ~!
次の記事も楽しみにしてますね!
初めまして!的確な評や考察がとても興味深く、2-3年前からいつも拝読しています。
「小さな炎」が消える場面が涙腺ポイントと書かれていたのが嬉しくて初コメントさせていただきました。
実は周囲の友人には誰も共感してもらえなかったので…でもやっぱり名場面ですよね!
今後の更新も楽しみにしています。お体に気をつけて頑張ってください。
コメントありがとうございます!
私も共感して頂けて嬉しいです!これからもよろしくお願いします!