娯楽作品として秀作!宙組『カルト・ワイン』感想

 

ポスト上田久美子として注目されている、

新進気鋭の女流作家である指田珠子先生栗田優香先生

 

どらちも2作目がほぼ同時期に池袋のブリリアホールにて上演、

指田先生の『冬霞の巴里』はご縁があって見に行けたので、

栗田先生の『カルト・ワイン』も絶対に観に行きたいと思っていたのですが、

無事にその夢が叶いました!!

 

今日はその感想を書いていきます、が。

最後の小粋な小オチ以外、全力でネタバレしていますのでご注意下さい。

 

第一幕・ガッツリ感想

 

まず感想。

100点満点中、200点でしたね。

 

SNSにて前評判が高かったことも知っていて、

「そんなにハードル上げられると、揚げ足取りたくなっちゃうからなぁ(ヤニヤ)

と思っていたのですが、それを易々を越えて来た完成度でした。

 

そしてそれは、小難しい余白やら、意味深なメッセージ性も無い、

分かりやすい「娯楽作品」としての満点、という意味です。

 

例えるなら、急な平日休みの昼下がりにテレビをザッピングしていたら、誰一人として出演者も知らない90年代初頭のB級洋画を見始めちゃって、思いのほか面白くて最後まで楽しめてラッキー!!

に近い感じ。(そしてダサイ邦題はきっと「ワインは何色がお好き?」に違いない)

 

ということで、我ながら珍しく、

本編に触れながら感想を書いていきたいと思います。

※以下全力でネタバレです。

 

まずは冒頭、風色日向演じるオークショニアによる、

当時のワイン市場等の舞台設定の説明がはじまり、

そこから最後のオチであろう、主人公の逮捕の場面を見せてかーらーの、

彼の生い立ちにクローズアップされ、物語は始まります。

 

小気味よく舞台設定の説明をしつつ、主人公にちゃんと名乗らせ、

時代が現在から過去へと展開していく鮮やかな流れが見事で、まさに掴みはオッケー。

 

主人公シエロ(桜木みなと)は、生きるために仕方なくマフィアに入っていて、

真面目な親友のフリオ(瑠風輝)は、母を間接的に殺したマフィアには

絶対に入らないという固い信念がある、という、

主人公と2番手男役の立場の対比を話の種まきとして分かりやすく示します。

 

そしてシエロは、マフィアのアニキからフリオの父親を殺すことを命じられ、

これをきっかけにシエロ、フリオ、病弱なフリオの妹、

そしてフリオの父(松風輝)と、4人でアメリカを目指すことになります。

 

このアメリカを目指す場面が凄いんですよね。

突然舞台に映像投影用の幕が下りて来て、シャレた演出だなぁと眺めていたら、

途中で演者がその幕を折りたたみ、川の濁流に見立て歌い踊る、という。

 

か、ら、の、今度は階段を貨物船の屋上に見たて、

灼熱の日差し、急な大雨と、

限られた空間での場面転換・時間経過を見事に演出していました。

 

そしてフリオの父は、シエロにネックレス型のお守りを託し、

貨物船を襲った強盗の拳銃に倒れてしまいます。

若者たちには未来がある!!という絶唱を残して。

 

この場面、第一幕の山場に持ってきても良いくらいドラマティックだったのに、

(会場からすすり泣きが聞こえてきます…ナイス松風輝の演技力!!)

時間的に半分にも達していないってどゆこと???!!!

 

何とかアメリカに到着した一行は、

ここで物語一番のワルであるチャポ(留依蒔世)に出会うわけですが、

ここですんなり悪の道に手を染めるわけではありません。

 

フードフェスでアマンダ(春乃さくら)を助けたことをきっかけに、

その父・カルロス(寿つかさ)のレストランで2人は働くことになりますが、

ここでフリオは料理人としてのカタギの道に、

シエロはワインの価値、転売、偽造という別の道に気付いていくわけです。

 

このあたりの芝居の展開、人間模様の描き方が実に自然でグット!

出演者に見せ場を与えるだけでなく、登場人物の人間性やその深みが感じられて、

より物語に没入しやすくなっていると思います。

 

そして心臓の悪いフリオの妹の手術代を稼ぐため、

カルト・ワインの偽造に手を染め、チャボに売りつけようとする2人。

しかし、その作戦はあっさりバレ、

逆に偽造ワインでの儲け話を持ち掛けられます。

 

もちろん、そんな話には絶対反対なフリオ。

しかしシエロは、生きるため、夢を見るという夢を見るため、

それは自分は何なのかという「価値」を知るため、

このチャボの話に乗ってしまうのでした…。

 

いやー、エモイですねぇ。

最初にシエロとフリオの生き様の違いをしっかり明示し、

大いなる人生の分岐点で道をたがう、というドラマティックな展開で幕が下りると。

 

しかもシエロはわざと酷いこと言って、

カタギ気質のフリオに悪の道から離れるよう仕向けるわけですよ。

ここにシエロの根の優しさ、いじらしさに、もう…っ!!

というキャラ萌えが止まらなくなるわけです。笑

男同士に萌える人たちにとって最高の展開ですね!!(小声)

 

第二幕・ガッツリ感想

 

…この熱量で書いていって、果たして終わるのか?笑

ということで数年後に時間経過した第二幕。

 

シエロはチャボの教育・支援を受けながら、

カミロ・ブランコという若手のワインコレクターとしての地位を築いていきます。

 

冒頭、何の説明もなく、

オークション会場でシエロとチャボが初対面のていで話をしていくのですが、

これはワイン仲間の懐に入るための一芝居であり、

同時に観衆である私たちも騙す、というよく出来た二重構造となっています。

 

ゴールデン・ハンマー社の次期CEOであるミラ(五峰亜季)は、

シエロの能力と知名度を買い、オークション会場でビジネス兼色仕掛けをします、が、

ここでなんと、ワインを買い付けに来たアマンダとフリオに再会してしまいます。

 

このあたりの伏線回収っぷりが凄いんですよね。

まず、1幕でシエロとアマンダの会話を盗み聞きしていたフリオに対しての

「そこにいるんだろ?」という伏線回収。

 

そして、酔っ払いに絡まれたアマンダを助けた際の会話のやりとりを、

今度はカミロ(シエロ)の本性を見破ったアマンダに

リフレインするという伏線回収。

 

さらにここでシエロ、フリオ、アマンダの三角関係モードに突入!

一見唐突に見えますが、このやっっっすい展開も、

実に90年代の洋画っぽいなーと妙な懐かしさがありましたね。

 

ですので、婚約関係だったはずのフリオを、

あっさりフッちゃうアマンダに、

「あんたその後どーすんのよ?」というツッコミは、野暮というものです。

 

さらに優雅な美魔女・ミラも、一癖ある展開に。

実は第1幕のフードフェスに参加していたミラ、

そこでホンジュラスから逃げてきたばかりのシエロと会っており、

それをネタにカミロをゆするのでした。

 

この場面のあたり、女性をワインに見立て、

「コレクションの一部」「私の栓は空けないの?」という会話の応酬は、

実にアメリカンなやり取りだなぁと感心してしまいます。

 

忍び寄る終わりの気配を感じるシエロ。

悪事から足を洗うよう説得に来たフリオに、

「コイツのおかげで今まで捕まらずに済んだのかもな」と

フリオの父から貰ったお守りを手渡し、オークション会場に姿を消すのでした…。

 

そう、ここで第一幕の冒頭に戻ります。

(キャストの配置が第一幕の別アングルになっている、計算し尽くされた演出に感動!!)

捕まるというオチが分かっているからこそ、

ここの2人のやり取りにグッとくるものがありますね。

 

そしてついにシエロは裁判にかけられ、

小粋なオチが尽き、舞台の幕が下りるのでした…。

 

総評:計算高い栗田優香先生

 

私は、栗田先生を「ポストウエクミ」の一人と称しました。

それは『夢千鳥』で男女の愛憎劇を描き切ったことを評価して付けた名ですが、

それよりも演出家としての計算高さが、

一番ウエクミっぽいのかも、と本作を見て思ったのでした。

 

それはつまり、個人的な愛好や趣味を取り除き、

観客が求める娯楽を寸分狂い無く提供するという、

クリエイターとしての姿勢です。

 

一人の青年の栄光と挫折、友情、ほのかな恋愛、大人の駆け引き、魅力的なワル、

そういった娯楽としてのエッセンスが全て詰め込まれ、

かつ物語として破綻も無駄もない、隙の無い作品に仕上がっていました。

 

さらに言うと、本作は『夢千鳥』と全く違う作風であることにも、

「私、こういう作品だって作れちゃうのよ?」という、

彼女の計算高さが感じられる…と言ったら語弊がありますかね?笑

 

とにかく本作の良さは、全っ然重くないこと。

良い意味で、頭空っぽにして楽しめる娯楽作品なのです。

 

「価値とは何か?」というメッセージ性も微かに込められていますが、

それよりも単純に2時間ドラマとしての面白さが勝っているんですよね。

むやみやたらと意味や空白を読んでしまう私のような人間すらも、

素直に楽しめるアメリカンなノリが、宝塚としては実に稀少で新鮮だと思います。

 

それは特に、最後の小オチに表れていましたね…なんて書くとハードルが上がりそうですが、笑

そんな大した展開ではなく、洋画でもよく見るシーンな気もしますが、

あれでこそ辛気臭くなり過ぎず、小粋なエンタメ作品というオチがついたと思います。

桜木シエロにとても似合う展開でしたしね‼︎

 

それでいて一人でも多くの出演者に出番を振り、

かつそれが当て書き的で似合っていて、

劇団座付きの演出家としての仕事も十二分に果たしていた印象です。

 

演出の全体的な色味、効果、会話の応酬も実にシャレていて、

(舞台を斜めに走る構図は実にウエクミ的!)

新進気鋭の女流作家のパワーを全力で感じられた公演でした。

 

キャスト別感想に続く…か?

 

そんなわけで、久しぶりに素直に楽しめた作品で、

禁酒していたのに久しぶりにワインを飲みたくなってしまいました。笑

(そして現在、ワインを飲みながらこの記事を書いています。)

 

初めて宝塚を見ようとする人にも、

心からオススメしたい作品だなと思ったのでした。

配信放送は平日のようですが、お手すきな方はぜひ!!(宣伝)

 

珍しく超長くなってしまったので、キャスト別感想は書く機会があれば…。

 

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コメント

  1. あやこ より:

    よぅ見たら若かりしブラピがチョイ役で出てるやん!みたいなB級映画の事ですよね笑。
    首都圏チームのネタバレを聞くのが新鮮な西日本勢としては(ほら、いつもは逆が多いので)7月の梅田が俄然楽しみになってきました。
    『哀れな男の栄枯衰退系』好きとしては、ネチネチし過ぎずリズミカルに描かれているのが好印象。先行画像とポスターを、裏と表の極端な対比で作り込んできたあたりから、ほほぅ、やりよるな栗田先生、とは思っていましたが、内容も流石の腕前ですね。それを、ホスト桜木とマジメ瑠風がのびのび演じているだなんて!(←憶測)
    今宵は、理想と現実の余韻に酔いしれて下さいませ。

  2. ロージー より:

    本当に素晴らしい公演でしたね!
    脚本と演出の両方とても良く練られていて、その上で生徒の皆様も熱演も光り、近年の宝塚オリジナル作品の中でも、出色の出来だと思いました。
    最初から最後まで、息着く間も無く楽しかったです。
    宝塚ファンでなくても、誰が観ても満足できるだろうと思いました。

  3. こころ夫人 より:

    いつも楽しく、拝見しております。
    主演の桜木さんはじめ出演者面々(芝居巧者揃い?)に惹かれ、DCでの観劇を予定していますが、そうなんですか!秀作なんですね。
    俄然、楽しみになりました。
    桜木さん主演の別箱、今回は東西とも完走できますように。

  4. コスモスハート より:

    蒼汰様

    感想、ネタバレ大歓迎?!ライブ配信でしか見られないため、その日をどうするか、悩んでいましたが、俄然やる気が湧きました。ありがとうございます。