任期終盤だからこその佳作・星組『記憶にございません!』感想

 

良いお席で何度か拝見させて貰った星組公演、

続いては『記憶にございません!』の感想を書いていきます。

 

 

【ショーの感想はコチラ】

 

 

ただ、最初に一つ前置きしておきます。

私はこのブログを運営するにあたり、

絶対に書かないと決めていることがあります。

それは自身の政治的思想や個人の主義主張を持ち込まないことです。

 

宝塚がただのエンタメであるのと同時に、

このブログもエンタメに徹するというのが我がポリシーなのですが、

舞台の内容上、どうしても触れざるを得ない点があるため、

最初にワーニングしておきます。

 

そういうのを求めていない方にはごめんなさいだし、

意見の違う方と論舌を交わすつもりもない、

ということを前提にして書かせていただきます。

 

星組って素晴らしい

 

三谷作品の舞台化、という時点でこの作品は完全に「勝ち確定」でしたが、それでも心配されていたのが石田先生の演出であることでした。なんせ石田先生といえば、昭和の価値観丸出しでパワハラセクハラオンパレードで、ギリ昭和世代男性である私ですらハラハラするようなセリフ回しが多いからです。で、蓋を開けてみたら…ちゃんと面白かったです。もちろんギリギリアウトな表現も散見されたのですが、少なくとも私は1時間半、飽きずに最後まで観られました。けどそれは、やはり星組生の技術の賜物といった方が良いのかもしれませんね。

悲劇より喜劇の方が何倍も難しい、とはよく言ったもので、ギャグものって本当に難しいんですよ。間や緩急、思い切りのよさ、だけど内輪に走り過ぎない塩梅など、そのバランスが本当に絶妙なんですけど、今作は色んな意味でカチっとハマっていたと思います。なんせ礼真琴は本当にハイパーハイスキルな舞台人で、だからこそこれまで海外ミュージカルを中心に歌って踊ってさせられてたわけですけど、こういう作品をやらせても本当に上手い。わたしゃ舌を巻きましたね!!

そして同期のひろ香祐のスダレバーコードおっさんの思い切りの良さ、輝月ゆうまのクセモノ感、紫りらの妙齢女性大臣の完成度…って95期ばかりですが←。その他、碧海さりおの変人感、小桜ほのかの妙にセクシーな女性党首(振られた愛人芸や、最後の黒田の大演説中の「ほんと、しょーがないんだからっ」みたいな小芝居の上手さは本当に絶品!!)、そして紅ゆずる臭がだいぶ抜け、正統派芝居に磨きがかかったキラキラ極美慎、などなど、とにかく芸達者な星組生たちが久しぶりにやるコメディ作品に全直全開で振りかぶっているのが良かったです。

 

宝塚へのメッセージ

 

とまぁ、星組生への絶賛ばかり書いてしまいましたが、脚本の内容に対しても感服したことが一つあります。私の個人的な持論として、「コメディ作品は一つ揺るぎないメッセージを込めるべき」というものがありまして、例えば星組『ANOTHER WORLD』における「人間、死んだ気になって頑張れば何でも出来る」というのがその代表例なんですけど、本作にもあるメッセージを一つ感じたんですよね。

それは…礼真琴演じる黒田が輝月ゆうま演じる鶴丸官房長官に、なぜ議員になったのか?を問うたシーン。鶴丸は「目標なんてない、一日でも長く今の立ち位置にいられればそれでよい(意訳)」と言ったことに対し、黒田は「水が留まる一方であれば、やがて濁る」、と詰め寄ったわけです。

…おーーーーーーっ、って私は感心しちゃいましたよね。不変を良しとせず、組織も人も風通し良く動かしていくべきで、とどまり続ければやがて腐敗し、若い人が犠牲になっていく。これは今の宝塚経営陣、少し前の宙組、そして組替えが全く起きない現状を見るに、まさに真理だなと思ってしまいました。これを退団が決まっている長期トップが言うっていうのがまた、ね。【追記】このメッセージは原作ママであるとのご指摘をいただきました。それを今の宝塚においてそのまま上演したという点でも思い至るものがある、と追記させて頂きます。

あとは最後の最後、黒田が記憶喪失になっていることを知った聡子の、フランス革命やらエジプトやらジョージアやら、過去作品をオマージュしたメタ的なセリフと、それに対する「記憶にございま…す!!」と言ってバックハグする黒田、という演出は「憎いねーーーーー」って思わず膝を打ってしまいました。この手練れた演出は老成演出家ならではですね。

 

ただ一つ気になること

 

ただ一つだけ文句をつけるとしたら…水乃ゆり演じるキャスターの言葉には色々とザラりとしましたかね。もちろんエンタメと実世界は別物で、一般常識を舞台の上に持ち込んではならないと充分理解しています。し、私はどちらかというとそういうのに寛容な方なのですが…けどやっぱり、黒田首相が襲撃されたことに対して「自業自得」「私もやってやりたいくらい」みたいなテンションは頂けなかったかなー。だってほら、実際に日本は元首相が卑劣なテロ行為によって命を失った事件がつい最近あったわけで、それにキャスターが同調するような場面は、例えフィクションだったとしても受け入れがたかったです。

もちろん、後半になったらきっと手の平を返してくれるんだろうな、と予見出来ていても、それでも私は生理的にダメでした。たぶん、マイ初日が総選挙真っ只中の時に観に行ってしまったのが悪かったのかもしれません。なので、「政界コメディ」は国の情勢が安定している時は笑って観られるけど、そうでない時は冗談で流せないのだな、というのが今回の発見でした。たぶん私が学生の頃に「首相が石を投げられて記憶喪失になった」なんて設定を見てもすんなり受け入れられるでしょうけれど、今のこの年齢、そして情勢ではとても…。2019年の原作当時では何の障壁もなく笑えたギャグを、現代にカスタマイズして欲しかった、あるいはザラりとしないようキャストの方には上手くニュアンスで伝えて欲しかった、というのが私の感想です。

なので結論、アメリカ大統領を演じた瑠璃花夏と逆にすれば良かったんじゃないかな。スーザン大統領は最後の大団円の象徴的セリフを言いますし、ゴージャスな役どころが水乃ゆりにピッタリ。その一方で、瑠璃花夏がキャスターを演じれば、この危うさをもう少しマイルドに表現出来た気がする、と思ったり…。まぁ出番の数的にキャスターの方が餞別っぽいというのは分かるんですけど、なんか、うーーーん、と最初の30分間がどうしても落ち着いて見られませんでした。

 

久しぶりに良い組み合わせだった

 

た、だ。前述の通り星組生の素晴らしい頑張りと、後半にかけてきちんと話が集束していく感が相まって、ふわりと面白いかも?と納得出来たので良かったです。

久しぶりに芝居も、ショーも、どちらも良いオリジナル作品で1日楽しめたなーと思える組み合わせで良きでした。このクオリティが全作品に続けば良いんですけど、ま、本作はそもそも映画原作なんでね…これくらいのクオリテイは毎回出して欲しいものなんですけど、高望みなんでしょうかね?

 

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コメント

  1. mimi より:

    女性キャスターの台詞がいろいろとアレなのは原作譲りなのでね。映画だと有働由美子なんですよ。
    星組版記憶にございません、ファンの間では評判いいですけど個人的にはダメでした。映画の方は好きなんです。もともと宝塚のギャグ寄り作品が苦手ということもありますが、やはりあの作品は中井貴一あってこそ面白い作品なんだなと…

    • masa 蒼汰 より:

      原作映画はテロ事件前なので、その頃だったら私だって普通に楽しく見れただろうに、今はそうではない、という点でモヤモヤしてます、色んな意味で。

  2. トムヤムクン より:

    蒼太さん、ブログいつも楽しみにしております!
    配信でみた時はあまりピンとこなかった『記憶にございません!』ですが劇場でみると、、とても楽しかったです!歌やダンスに注目してしまう礼さんですが、コメディですと芸達者ぶりがいつも以上に光ります!
    特に学生時代のシーンで舞空さんに『一緒に帰ろう!』と誘われて、はにかみながら『うん』からの走ってはけていく場面。閣僚達との踊れていないダンスやら、記憶喪失で街をうろつくシーンなど、間が最高ですね。
    ジェンヌさんながらはじけたひろ香さんのお芝居とあいまって笑いを誘ってしまいます。
    水乃さんキャスターも蒼太さんのおっしゃるとおりで、なぜそこまでキャスターに言わせるのか?!退団とはいえ瑠璃さんが番手娘役に食い込んでいるからこの配役になったのかなあとしんみりしましたし。
    そして星組娘役で目がいくのは小桜さんです!彼女は歌上手ですけどショーよりお芝居でいつもピカピカです!セクシーシーンもセクシーすぎず、でもいつもよりお声も艶っぽく演じてらして。変幻自在な女優さんだと思います!
    舞空さん演じるさとこはお嬢さんが大人になった感が絶妙で、ハッピーエンドですし気持ちがあたたかくなりますね!
    ダラダラと書き込んでしまいましたがあと一回二階席で観れますので舞空さん達退団なさる方を目に焼き付けようと思います!蒼太さんの次の観劇は雪なのか月なのか、、花組でしょうか?感想お待ちしております。

  3. ヒルトップのうさぎ より:

    こちらのブログを見て、ライブ配信を見る気になりました(申し込みが、時間が早すぎて・・・・もうしばらくしてから。します)
    映画やアニメなどは、原作のほうがたいてい「よい」と感じますが。それでも舞台、ミュージカルなどにするのは、相乗効果でいいことだと思います。
    そういえばそのむかし(もう何年前になるのかな?)「○○ちゃんの執事」の紅さんや美弥ちゃんたちの、はまっていたこと(あとからの配信?DVD? で見ました)礼音ちゃんトップのときに、こんなコメディも、出演者多数でできた・・・いい時代(?)だったのですね。

    思いがけず、見る機会に恵まれました(最近、「見る気」が少なくなっておりまして・・・)ありがとうございます。

  4. アオセトナ より:

    ひろ香祐のバーコードヅラを観て、ジェンヌであのヅラはイヤだろうなあと思っていたら、
    タカラヅカニュースの座談会で「振り切って演じたいから用意されていたヅラを今のものに変えてもらった」と話しててスゲーって感心しました。

    長く頑張ってもらいたいです。

  5. May より:

    本作評判で、ファンとして嬉しかったです。星組はこういうのもできるのね!という喜びがありました。
    肝心の内容は…ライブ配信で拝見しましたが冒頭で脱落してしまった非国民で、、、そういう話だったのねと、蒼汰様のコメントをありがたく拝読しました。(「記憶にございません」発言の元ネタが知人の身内なので、うまくフィクションとして入りこめなかったというのもありますが)