解釈違いだった月組『琥珀色の雨にぬれて』

 

さて、だいぶ間隔が空いてしまいましたが、

月組全国ツアー公演『琥珀色の雨にぬれて』の感想を書いていきます。

 

 

最初に前置きしておきますが、辛口、というより、

あまり共感を得られないような内容かもしれません。

けど、私が素直に感じたことですので、ありのままに書いていきます。

 

鳳月杏版『琥珀色の雨にぬれて』

 

私はこの『琥珀色の雨にぬれて』が大好きで、過去にそれ単独で記事を一本書いたくらい。出会いは望海風斗主演の雪組版からですけど、そこから柚希礼音版、春野寿美礼版と振り返っていき、何度も繰り返し見るほどお気に入りの作品でした。

全てを投げ捨てても良いと思ってしまうほど狂おしい恋に、人は誰しも一度は出会うはず。だけど理性が、世間がそれを許さないから、ほとんどの人は実際に投げ捨てないわけで、だからこそ「もしあの時投げ捨てていたら」という幻想を舞台興行の先に見る(昨今の「不倫は何がなんでも許されない」とする滅菌志向には本当にうんざりです)。ただ、そんな愛憎劇をエンタメとして成り立たせるためには、物語の写実性を追求して説得力を持たせるか、登場人物たちを思いっきりキラキラさせて目をくらませるかが必要で、宝塚は基本的に後者を選択してきました。が、今回の月組は前者を取った、という意味で、実に新しい取り組みだったと思います。

一番如実だったのは、天紫珠李シャロンでしょうか。シャロンって、自分の美貌を売るマヌカンで、はっきり言えばちょっとオツムの足りないファムファタールタイプ。だからこそ生真面目なクロードが惹かれた、というのが私の解釈なのですが、天紫珠李は知性と美貌があって、だからこそ心のどこかにヒリヒリと焼け付くような孤独を抱えていて、だけど社会的立ち位置的にどうしようもなくて…みたいな、ひと昔前に言う現代的な女性像なキャラになっていました。

クロードは戦争を勝ち抜いた青年貴族、それなりに人生を謳歌してきたけれど、だけど根が生真面目だからこそフランソワーズみたいな娘と早々に身を固める。が、シャロンに一目惚れをしてしまったからさぁ大変、身を滅ぼしそうな結果に…。という、まぁ現代(の女性)なら許されない男性像なわけですけど、鳳月クロードは「真面目」の部分を凄くクローズアップしていて、キラキラ感は皆無(封印)だなぁという印象です。

そんな2人が出会い、シャロンは「こんな私を真摯に一人の人間として扱ってくれた」と惹かれていきます。クロードも、最初はただの一目惚れでしたけど、関われば関わるほどシャロンを放っておけなくなります。だって真面目で優しい男性ですから。はい、不倫成立です。実に論理的で、物語に説得力があります。月組らしい、写実性の高い自然派芝居だからこそ成立する、新たな試みでしょう。

 

解釈違いの不倫劇

 

だ、け、ど。

ごめん、この話の成り立ち方は私の好みじゃなかったなぁ…。現代の価値観にアレンジされすぎて、古典作品としての魅力が損なわれてしまったというか…。けど、そう憤るのは「私が男だから」かもしれません(という前置きをしておきます)

はっきり言って、不倫に理由なんてありません。自分の好みどストライクの異性から好意を持たれたら、普通だったらイきます。平成までのメロドラマは、それが前提で不倫した後の感情遊戯に重きを置いていました。だけど、最近の恋愛ドラマは「なぜ不倫(恋愛)に走ったのか」に意味を持たせようとし過ぎです。だけどそうしないと世間は納得しませんからね。

同様に、宝塚では不倫がドロドロしているかわりに、登場人物がとにかくキラキラしていました。こんだけイケメンなら、美女なら、しゃーなし。なんなら、理想の男性(トップスター)に身を滅ぼされながら追いかけられたい、みたいな幻想を舞台を通じて観ていたはずです。けど、現代の女性はそんなものに価値を見出さないし、心惹かれない。だから物語に現実性を持たせるため、登場人物の持ち味や演出がビミョーに変わったのでしょう。その結果、激情的なメロドラマではなく、淡々と事実を描くフランス映画みたいになった印象です。

別にそれはそれで良いのかもしれませんけど、その悪影響を一番引き受けたのは水美舞斗ルイだと思います。マジでしょーーーーもねぇ男になっちゃいましたよね。シャロンに心惹かれるクロードに仏頂面で牽制してきて、かと思えばクロードの金で青列車に乗って、速攻シャロンに断られて、痴話喧嘩の隙間を縫って心弱ったシャロンに迫って、だけど1年で捨てられて、恩師たちに謝りにくる。いや、元からしょーもない男だったかもしれませんけど、これが宝塚ナイズトされるとあーら不思議、恋のライバルにして刹那的で危うい魅男になったはずなのに、写実性を追求した結果クソしょーもない男になっちゃいました。けど、これを水美舞斗の技量不足と批判するのは、私は違うと思います。たぶん演出プランに乗っかっただけですから。

 

演出家との好みの違い

 

同じく白河フランソワーズもなぁ…。この役の可哀想の根源は「遠慮がち」なところに起因していると思うのに、とにかくじめじめウジウジし過ぎてて、むしろ粘着質なタイプに見えちゃいました。クロードのいるところ全てに「たまたま」駆けつけるのが、いるけど文句しか言えなくていじらしいのと、おどろおどろしくて怖いのとだと、印象が全く違うものになってしまう。けど、今や「待つ女なんて古い」という価値観に当てはまると、こちらの方が自然なんでしょうね…。

と、単純に主要4名の役作りが私の求めていた『琥珀色の雨にぬれて』と違くて、楽しみにしていたわりにイマイチ釈然としませんでした。が、もちろんそれを批判するつもりはありませんし、たぶんメインのファン層的には今作の方が納得のいった方も多いかもしれません。なので「解釈違い」と表現しました。あくまで、私の好みではなかった、という話です。

そもそも私は舞台演出に納得のいかない部分も多く、なぜそこでキャストが立っているのか、座っているのか、見栄え的にその導線で合っているのか、など、いちいち引っ掛かって、単純に樫原先生と好みが合わないだけかもしれません。ってかさ、舞台が平面的過ぎますよね。それは古の作品だからではなく、むしろ以前に比べて悪化していたと思います(カメロマなどは普通でしたもの)

その結果、今作の総評は「地味」「辛気臭い」という感想を抱いてしまいました。つまりドラマティックな愛憎劇という、柴田ワールドとは真反対なものです。が、これは鳳月杏の、そして今の月組の持ち味である「シックな芝居派」に寄せようと努力した結果だと思うと、まぁ批判は出来ないかな…。新たな試みを果たすことも大切ですものね、とその挑戦心は評価と思っています。

 

キラキラ月組は今後が楽しみ

 

とまぁ文句ばかり書いてきましたけど、けど月組生は魅力的なスターが多くて、その意味では眼福でした(フォロータイム入ります)

特に礼華はるの成長は著しく、鳳月杏と相対しても見劣りしないくらい。顔立ちがシャープになり、立ち姿はよりスタイリッシュに。だけど本来の持ち味である暖かみは失われず、アニキらしい良いミッシェル像でした。

夢奈瑠音は渋みすら感じる男役芸で場を締めていたし、白雪さち花のエヴァは期待通りの仕上がり。そして何よりジゴローズの見目麗しさよ!!七城雅、涼宮蘭奈、一輝翔琉ときて、そのリーダー的アニキの立ち位置が英かおとっつーのがまた良いよね(ファンの欲目)!!みんなダンスが上手いから舞台が映える映える。七城雅は見た目的にも「元はちゃんとした大学生だったけど、金のためにジゴロをやってる」感があって、こういう保護欲を搔き立てる沼男っているよなーと思いながら眺めてました。笑

あとは春海ゆう、朝陽つばさ、桃歌雪、大楠てらあたりの中堅ズの堅実な芝居、持ち味を生かした役どころでグッド。そして水美舞斗がちゃーんと自我を殺して組のカラーに馴染む(けどちゃんと水美舞斗感もある)ことが出来るのを知れたのも収穫でしたね。

また、鳳月&天紫の並びの良さも改めて実感しました。次作大劇場『ゴールデン・リバティ』は本人たちの持ち味に似合いそうな作品ですし、今後が非常に楽しみです!!

 

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コメント

  1. 月のかえる より:

    いつも楽しく拝読しています。
    解釈違い、優しい言葉ですね。
    オサアサ版からこの作品は全て見ていますが私は今回が一番没入できました。
    女性は顔が好みというだけでは不倫に走らないしそれなりの客観的理由が欲しい(えっこの人のどこが良いの?じゃダメ)と思うからです。

    それは、解釈違いとして。

    天紫さんが本当に素敵で痺れました。
    鳳月さんの繊細な芝居とこれほど相性が良いとは。
    昔から、実力派トップとゴージャスな相手役の組み合わせが大好きなのです。
    しかも相手役と芝居が合うなんてどのトップコンビ以来だろう。

    2人の対談番組も見ましたが終始穏やかで温かい雰囲気なのがまた良い。
    おっしゃる通り月組は楽しみなスターが多いですしこれからも観劇が楽しみです。

  2. YK より:

    観劇感想ありがとうございます。私は今回の演出は鳳月さん天紫さんの大人っぽさに合っていてとても良かったと思います。
    あと七城くんが劇もショーも目立ってたし素晴らしかったです。実力の七城とキラキラの雅耀でこれから月組を引っ張っていって欲しいものです。

  3. コスモスハート より:

    蒼汰様

    ほー、なるほど。解釈違い。そうかも。
    しかし、実はそういう奴だったかも。みたいな納得はしたのです。
    恋のライバル的な設定は霞んでしまっていたかな。しかし、ダンサーとしての本分は捨てない。という何者だったかを最後の挨拶で知る。(そうだったのね)
    恩のある人に裏切るようなことをしたという自責の念、ルイは本来人気者だったのに、シャロンに走ったら人気が落ちた、というのは現代の推し活する人が、やーめた、となっている感じ。多分だけど、周辺女性の昔は好きでした的な雰囲気は芝居では作りきれない?
    しょーもない奴、というより、腐っても貴族、生まれた時から恵まれている人と、そうでなかったルイ、ようわかりました。その辺りの格差社会をもがいていた、というのが。以前はそういうことより、クラブの花としてエンジョイしている風な部分が光っていて、もしかしてシャロン、ホンマはルイのこと、好きかも。と、想像し、どっちの男がタイプでしょう?と観客に思わせるような余裕があったような。気のせいかな。
    今回はシャロンにも、完全に避けられてた。そこまで嫌いでしたか?うざ、って思ってますか?

    そして、ジゴロダンサーズのキャラ、それぞれの違いも、以前はあまり印象に残らなかったけれど、それぞれの設定年齢や、おかれている状況など。なるほど。だった。個人的に英ジゴロを見られて良かった。
    似合うわー、とドラマの中の女性1、として没入できる。他のジゴロもルイとは違うタイプが同業者として存在しているのを感じてよかった。
    そして、飛行士だったクロードが、ウロウロしてプー太郎な生活も、今時の外国の状況を考えると、リハビリ、ていうのもスンナリ受け入れられた。抜け殻みたいになってしまう人もいますから。
    まずは結婚をしたことも、貴族だし、周辺の人との絡み、そういう流れになったのかな。なんて思って忘れた頃に再会して、ぶり返す恋心。妙な現実味が月組にはあったかも。
    強いていうと、真面目、真面目、と言われていた台詞には??でしたが。遊んでいなかった人が、突如糸が切れた的な?
    シャロンとフランソワーズも生まれが違う。シャロンは自由そうに見えて、人気ものでも、フランソワーズに会うと、自分にない物を持っている人、コンプレックスが明らかとなる。
    このコンプレックス部分をより強く感じたのが今回でした。
    真彩シャロンは、歌声の美しさで、森の中から聞こえる、と世界へ誘い、美しい、と言われることに納得していました。
    天紫シャロンは歌はそこまで望めないが、ビジュアルで、見た目でマヌカンやって成功していることに違和感なし。お着替え、次の衣装は、と楽しみでしたから。

    だけと、クロードは二兎を追うものは一兎も得ず。その後どうなっていくのか、気になりました。
    以前より、教訓を強く感じたかも。

    そして、それぞれ、その後、どんな人生歩んでいくのか?
    気になりました。そういう余韻は良いと思う派です。
    青列車の場面は雪組版の方が合唱のボリュームでしょうか?豪華さを感じました。

    最終目的は、コートと帽子をカッコよく着こなせるスターを見せること。後ろ姿で終わるシーンは素敵。あの為にドラマがあると言っても過言ではない。そこは同じ。でも、ドラマ全体では雰囲気の違う月組版でした。

  4. mimi より:

    再演物の作品って、良くも悪くも演出家や脚本家が当初意図したものが徐々に形骸化してしまうんですよね。「琥珀色~」はドストエフスキーの“白痴”がベース。このタイトルも「知能が著しく劣っていること」と「世間知らずのおばかさん」の両方で解釈できるものであり、作者は敢えてその答えを明かしていない。柴田先生はその絶妙な揺らぎも含めて、非常にうまく宝塚に落とし込んだなと思っています。
    しかし近頃は何でも簡単に調べられる時代なので、白黒はっきりしないものって好まれないんですよね。今回SNS上で感想を見る限りフランソワーズに対する評価が高い。演出家が女性で観客も大半が女性ですから、現代の女性の価値観で共感を得やすいアプローチにしたんでしょうね。(私も女性ですが。笑)
    正塚先生がEternal Voiceの公演プログラムで「何でもはっきりわかりすぎていまう現代だからこそ、超常現象という不確実なものを題材にした(意訳)」という感じのことを書いていたと思いますが、柴田先生や正塚先生の追求するロマンってそこなんですよね。登場人物や筋書きに共感できるかどうかでなく、どれだけ非現実的であったとしても作品としての美しさがあるかどうか。そういう視点で楽しむファンも何だか少なくなってしまった気がします。時代ですね。

  5. ふみふみ より:

    いつも拝見しております。
    解釈違い、演出の違い!何か納得しました。
    雪組版が正解と思って何度か月組を観劇しましたが、これもありになってきておりましたので、自分の中で整理ができてよかったです。

    違うよ!かもしれませんが、公爵然としている、ちなつさんクロードともっと人間味を感じた、だいもんクロード。とにかく純粋無垢な、まあやちゃんと、もっと大人なじゅりちゃんて感じです。
    本当にお似合いのトップコンビのお二人です。そしてお芝居の月組でした。
    フランソワーズは大変失礼ですが、お芝居が上手いとは言えない、りさちゃんとお芝居上手な、リリちゃんでしたが、りさちゃん悪くなかったかも。勿論リリちゃんよかったです。今回はなかなかしっかり者の印象でした。
    ルイに関しては翔くんは2番手のお役だったのね。くらいの印象しかなくて、水美さんルイと比べられませんでした、こんなジゴロだったらイチコロだな(笑)ですね。

    まだ観劇予定がありますので、しっかり見てこようと思います。
    余談、水美さんとじゅりちゃんも何だかお似合いと思ったのでした。

  6. mochi より:

    こちらの記事とても面白かったです!
    私は琥珀色がとても苦手な作品でしたが、はじめて“好きかも!”と思いました。
    今思えばみなみさんは…確かにおっしゃる通り。。
    かつては女性からは離婚できず不倫に耐えるのみだったのが、昨今では耐えなくて良くなり、どうしても「理由」がないと感情移入できなくなったんだと思います。
    私もところどころ、は??と思いながら観ましたが、あましシャロンならギリギリ許しても良いかな…と思えました。

  7. アライグマ より:

    琥珀、非常に高評価ですね。(蒼汰さんは解釈が異なる説ですが。)
    私の友人も、魅力的だったと口々に述べています。

    私は一度しか観劇できなかったのですが、蒼汰さんと同意見なのです。
    うーん。
    私の語彙力では説明できません。
    (フランソワーズがあまり健気には見えなくて、同情できず。これは演出でしょうが。クロードもそこまで魅力的に見えず。)
    因みに、私は、応天の門の在原業平のちなつさんが好みです。

    まあ、観劇者のその時の気持ち次第で、同じ舞台でも区々なのでしょうが。
    そういう意見もあったということで。