宝塚歌劇団理事長・小川友次氏の功績を振り返る

 

さて、皆さんご存知の通り、

2021年3月末をもって小川友次氏が理事長職より退任します。

 

「100周年を迎える宝塚は、

そこをピークに再び下り坂になるだろう。」

 

就任前の2013年頃、そう事前に予想されながら、

巧みな経営手腕により業績は右肩上がりで上昇。

コロナ禍前の2019年は280万人の動員を記録し、

宝塚を最もチケット入手が困難な舞台稼業にまで成長させました。

 

この世界に存在する宝塚ブロガーの中で、

最も小川理事長を尊敬する「信者」であると自負する私が、

彼のこれまでの功績について振り返っていきたいと思います。

 

演目で売るという取り組み

 

・海外ミュージカルを積極的に上演。

・新人公演の思い出再演。

・スターの「物語性」を売る。

 

100周年以前の宝塚のスタンスは

とにかく「退団稼業で儲ける」ものでした。

 

だからこそワンギリ(1作)だの、ハログバ(2作)だの、

短期でもトップスターを就任させ、

わざわざ退団公演を行うことで収益を上げてきたのです。

 

退団稼業が一番儲かるのは今も変わりませんが、

小川理事長は平時の演目でも売れるよう、様々な手を打ってきました。

 

その最も分かりやすい例は、

海外ミュージカルの積極的な上演です。

 

アナと雪の女王に始まるミュージカルブームの後押しを受けながら、

宝塚的美意識で新たに形作られる作品は話題を呼び、

多くの新規顧客層(ライトファン)を生み出しました。

 

また、思い出の新人公演をトップとして再現したり(例:紅ゆずる、礼真琴など)

悲願であった作品を主演させたり(例:望海風斗)等、

スターの物語性を売ることで、さらなる付加価値を高めました。

 

その結果、1本物公演が100周年以前に比べると圧倒的に増加。

大作に主演するということは、スターの格を上げることにも繋がり、

トップスターに必ず代表作を1つは作ってあげようという

小川氏の心意気も感じますね。

 

配信事業への積極的参入

 

・ライブビューイング事業の増加。

・配信事業への参入、youtube等の活用。

 

「舞台は、生で見るもの。」

100年以上続く舞台興行の大前提の価値観です。

 

ですから、配信事業へ大々的に参入するというのは、

大いなる冒険だったはず。

下手すればチケットの売上げ低下に繋がるわけですから。

 

そもそも宝塚におけるライブビューイングの歴史は意外と古く、

ライブビューイング社での上演はたぶん2013年の星組台湾公演。

(中継事業はもっと昔からやっていたよとご指摘を頂きました。)

 

それが2015年の柚希礼音の退団公演時には

46会場+台湾+さいたまスーパーアリーナという規模にまで発展。

これで成功の道筋を見たのか、

通常の公演でも広く行われるようになりました。

 

その結果、一部の選ばれしファンにしか見られなかった退団公演が

多くの人たちに生で届けることが出来るようになりました。

「退団興行で儲ける」を、さらなるステージに引き上げたのです。

 

また、初心者や劇場に足を運べない地方勢が手軽に見られるようになり、

これまたライトファンの増加に繋がった一方で、

一応、転売対策にも一役買ったことになります。

 

これだけでも充分なのに、

現在のコロナ禍において配信事業が劇団の大いなる収益源、

かつ生命線になるなんて、一体誰が予想していたでしょう。

 

舞台は、生で見るものである。

しかし時代の変化によって、その価値観すら変わる。

 

この大いなる転換点は宝塚における「革命」でもあり、

そんな柔軟な姿勢だからこそ、

宝塚が100年以上続いてきた所以なのかもしれませんね。

 

品格ある人事への取り組み

 

・成績主義、歌唱力重視主義への転向。

・新人公演主演を分散(御曹司育成の慎重化)。

・上級生、功労者の重用。

・他組生がトップ娘役に就任する際は1作前に組替え。

 

小川理事長は「品格が大切」と繰り返し語ってきました。

だからこそ、人事においてもスター当人を大切にする「品」を感じます。

いわゆる「なんでお前が」と言われないための人事、ですね。

 

一般層受けの良い歌唱力重視主義への傾倒はもちろん、

劇団の中での評価が最も端的に表れる成績重視主義もそうでしょう。

 

だがしかし「人気」というものは成績だけでは測れませんので、

そのあたりは5組内で上手くバランスを取っていると思います。

 

そして北翔海莉、仙名彩世、朝月希和の登板や、

瀬戸かずや、七海ひろきの扱いに見る上級生の重用は、

色んな立場の人たちに夢を与えた人事でしたね。

 

そして学年の若い他組生がトップ娘役に就任する場合、

落下傘ではなく1作前に異動させるのも、とてつもない配慮です。

 

ある程度の経験を重ねた男役ならまだしも、

年端もいかない娘役が突然他組のトップ娘役になるなんて…。

心理的、体力的負担は計り知れませんから。

 

ファンが人事を一部だけ切り取って

「劇団はスターのことを考えていない」なんて批判されることもありましたが、

私はおおむね妥当な人事しか起きていないと思います。

 

夢ある人事は、ファンの定着性にも繋がります。

逆に人事でファンに不快感を与えるというのは、悪手でしかありません。

そうしないようにするのは当然のことですが、

前理事長時代はそれが出来ていなかったのだから驚きです。

 

…とまぁ、手放しで小川理事長を褒め称えてきましたが、

1つだけ解せないものがあります。

それはやっぱり、月組人事。

 

なんだけれども、それはまだ今は語るタイミングではありませんので、

もう少し後で、全力全開で叱咤激励したいと思います。

 

理事長・小川友次氏に捧ぐ

 

以上まとめると、100周年以降の宝塚の繁栄は

小川理事長の手腕によるところが非常に大きいことが分かります。

 

そして当然、それに応えたスターたちも素晴らしかったからこそ、

相乗効果でここまでの規模に発展したのでしょう。

 

そんな彼が退任後の新理事長、木場健之氏は

果たしてどのような舵取りを行っていくのでしょう。

 

良い部分は残しつつ、新たな風を取り入れながら、

さらなる劇団の発展に繋げて欲しいと思います。

 

そして小川理事長、本当にお疲れ様でした。

私は貴方の経営手腕に惹かれ、宝塚が大好きになりました。

 

会見の際は組カラーのネクタイを締める、

劇場で見る時は一番後ろでパイプ椅子で見るなど、

自分自身に最も品格を課している姿があるからこそ、

理事以下、多くの生徒やファンも、貴方に着いてきたのだと思います。

 

微力な私には株を買うことしか出来ませんでしたが、

これからもささやかに、応援しています。

 

どうか新たなステージが、素晴らしい未来でありますように。

一ファンとして、多大なる感謝の気持ちを込めて。

 

☆★☆★☆

ランキング参加始めました!!

ぜひポチっとお願いします↓↓

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

コメント

  1. はる より:

    たぶんライブビューイング自体は1990年前後にはもうやってます。TMP音楽祭とか。

  2. せち より:

    ライブビューイングに関しては、昔々ライブ中継という名の下で行われたことがあるんですよ。
    私が見たのは1990年〜1992年のTMP音楽祭(現在のタカラヅカスペシャル)です。各地の映画館で中継が行われましたよ。
    1番古いのがいつかという話になると…もっと古い時期にもあったのだよ、とお伝えしたくてコメントしたまでです。

    小川理事長の経営手腕は、数字だけではなく生徒のこと、ファンのことも考えた経営で大変ありがたい日々でした。楽しかったです。
    次の理事長がどのような展開をされるか、興味がありますね。

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      そうなんですね!勉強になりましたー。ご指摘ありがとうございます!
      次の理事長も独自なカラーの中にも良いところは引き継いで欲しいですね。

  3. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。某所でブログを始めた途端、「宝塚の舞台を生で見ていない方は、語らないで」というコメントをいただいたので、「宝塚ライビュ専科の地方民のブログ」というけったいなタイトルに改題した、ライビュ専科の地方民です。

    TMP音楽祭、懐かしいなあ・・・2000年頃は、なぜか大阪のお寺の講堂で同時衛星中継されたのを、見にいった記憶があります。

    元々は「卒業公演需要」でもっと儲けてやれ!という意図だったのかな?

    でも地方の映画館までライビュを拡大してくださったおかげで、地方民にも、都市部との文化格差が少しだけ縮まり、「舞台の感想戦にリアルタイムで参加できる」機会をいただきました。

    宝塚音楽学校の合格者は圧倒的に都市部の子が多いですが、地方の、県庁所在地でもない「郡部」のバレエ少女が、全ツを見て「宝塚に入りたい!」と思って受験して、トップになっちゃった、という方、いつの時代もいますよね(彩風さんとか、真風氏とか)

    これから、「宝塚を初めてライビュで見て、受験を決めました」という子が出てくるかな?

  4. みかん より:

    蒼汰様
    夏時間が始まり、まだ体が慣れていないようでちぐはぐな感じのする月曜日です。
    わたしが宝塚歌劇をもう一度観ようかな、と思ったのは現理事長によるところが大きいな、と記事を拝読しながら思いました。
    文中の、「退団稼業で儲ける」には過去のいろんな公演が思い返されます。
    一度は足が遠のき、今は通おうにも物理的に遠い場所なのでそれは叶わず。
    荻田先生がみせてくださった夢のような時間にまたもう一度ひたりたい、と願っています。
    月組の人事についての記事、楽しみにしています。

  5. ちゃとらし より:

    こんにちは。

    小川理事長の作戦に引き込まれたのか偶然か、私が沼落ちしたのは100周年以降でした。(それ以前もたまに観てはいましたが、人に誘われるとか、好きな演目だからとか、その程度でした)なので小川理事長以前と比べる事はできないのですが、幸せなヅカヲタライフを送らせてもらいました。

    ぱっと見驚くような人事も、こちらのブログを読むと、そういう背景もあったのかと知って納得できることも多く、遠回しに小川理事長の助けになっていたのではないかなと思います。

    発表が待たれる月組新トップコンビですが、新理事長就任のタイミングで発表されたりしないかな?なんて思っています。元月Pなので初仕事は月組で!的な。
    というか誰がトップになっても応援するから早く教えて!それに伴う組替もあるなら早く教えて!!という気持ちです…

  6. kinaco より:

    小川理事長といえば、経済ニュースモーニングサテライトで、インタビューを受けていました。
    「早く演目を発表して人を集める、少なくとも8カ月前には」で、じりじり待つ時間が少なくなった気がします。
    宝塚大劇場でも何回となくお姿を拝見しました。

     そういえば、明日海りおさんの「メサイア」の際に、一足早く劇場を出た小川理事長とドアで鉢合わせ、「おつかれさまでした。モーサテ(モーニングサテライトの略)見ました」と声をかけました。
    もう少し気の利いたことを(組カラーのネクタイすてきですねとか)言いたかったのですが残念ですが、理事長、戸惑いながらもきちんと礼をしてくれたことを思い出します。

    それこそ、私は100周年からのライトファンですので、小川理事長の牽引する宝塚にどっぷりはまりました。これからは少々不安ですが、見守りたいと思いますです。

    小川理事長の記事ありがとうございました!