宝塚歌劇団所属の演出家について、
ざっくばらんに語ってみようシリーズ第二弾。
本日は「個人的に当たり外れのある演出家」編です。
どんな演出家も当然ながら面白い作品もあればそうでもないのもあり、
それはその時のトップスターや組体制にも影響されるものなので、
一概に「良い・悪い」では表現出来ないものです。
が、それだと記事が成り立ちませんので、笑
本日は一番のボリュームゾーンでもある、
打率そこそこ高めな人たちについての私の勝手な感想をさっくり書いていきます。
なお、個人的な好き嫌いについて、
ストレートな書き方をしていますのであらかじめご容赦下さい。
【個人的に好きな演出家編はコチラから】
宝塚歌劇団全演出家の通信簿②・打率そこそこな演出家編
植田景子:美し過ぎる耽美の世界
代表作:『THE LAST PARTY』『Anna Karenina』『A Fairy Tale』
宝塚史上初めての女性演出家。
宝塚で「ウエダ」と言えばもちろん植田先生だったのに、
最近は上田久美子にお鉢を奪われ気味、ですが演出家パワーはいまだ健在。
作品の特徴は、いかにも女性らしい情緒的でロマンティック、
かつどこか退廃的かつお耽美で、
まさに宝塚的美意識に溢れているところでしょう。
難点で言えば、(トップ)娘役の扱いがたまにずさんなこと、
あるいは番手を無視した配役をすること、でしょうか。
(『A Fairy Tale』の乙羽映見>城妃美伶なんて顕著。もちろん乙羽は良い娘役ですが。)
とはいえ、特に外箱公演での高打率は目を見張るものがあり、
宝塚演出家として欠かせない存在となっています。
あと、無駄に長い登場人物説明も見どころの一つですかね。笑
小柳奈穂子:第3の女流演出家
代表作:『天は赤い河のほとり』『群盗』『はいからさんが通る』
原作物を多く手掛ける女性演出家。
同じ女流作家でも植田先生が耽美な世界観なのに対し、
小柳先生はもう少しライト寄りというか、
二次元っぽい雰囲気が滲み出ているのが特徴でしょうか。
彼女の場合、世間的な評価は高いのに、
なぜか個人的にイマイチハマらないタイプの演出家なんです。
つまり田渕先生と逆パターン。うーむ不思議。
とはいえ、初見さんには概ね評判が良いので、
私の意見など気にせず、ぜひ多くの方にご覧になって欲しい先生ですね。
生田大和:嗜虐心という歪んだ愛のカタチ
代表作:『春の雪』『シルクロード』『シャーロック・ホームズ』
生田先生の性癖、それはイイヲトコを虐めること。
悩み抜いたその先に見えた一筋の光…!!みたいな作品がほとんどだし、
これにより舞台が暗くて心情表現場面が多いのも特徴。
よって、カッコ良くてキラキラしてて、
みたいなものを求める宝塚ファンには最強に相性が悪いし、
薄汚れでも這い上がる俺!!が好きな宝塚ファンとは最強に相性が良い、はず。
つまり、好き嫌いがハッキリ別れる演出家かもしれません。
私は舞台演出が上手くて意外と好きな先生なのですが、
たまに暗すぎて眠くなってしまうのが正直なところ。笑
中村暁:それは無難か、マンネリか。
代表作:『VIVA! FESTA!』『ESTRELLAS』『Dream Chaser』
通称、中村A先生。
本公演の演出は伝説の大駄作『邪馬台国の風』が最後で、
外箱公演である『マノン』『Sweet Little Rock ‘n’ Roll』等、
再演物の潤色をする機会がちょこちょこ増えてきましたが、
基本はレビュー作品を演出することが多いです。
特徴は、良く言えば無難、悪く言えばマンネリ。
実に宝塚らしい場面が、淡々と続く作品が多い印象です。
また、しっかりとテーマを据えて統一感のある作品が多い一方で、
一場面が長くで冗長気味、という難点もある。
よって個人的な大ヒット!!になかなか当たらない演出家だなと思います。
中村一徳:溢れ出るロック魂と人海戦術
代表作:『ファントム』『Music Revolution!』『Ray』
通称、中村B先生。
同じ演出家で中村先生が2人居るため、
ファンの中で分かりやすく区別するよう後輩である彼をB先生と称している模様。
B先生のレビュー作品はロックで派手派手、
かつ群舞をはじめ人数攻撃してくるのが特徴。
特に惜しみなく使うのが、銀橋。
若手も中堅もベテランもとにかく前に出てきてグイグイ歌い踊る、
組ファン的には楽しい作品が多いかな、というイメージです。
ここだけ書くと最高の演出家のようですが、
最初から最後まで全力過ぎて、
個人的には物理的に耳が痛い時があるという。笑
その意味で花組『The Fascination』は
ゆったりモードで違う色を見せてくれるのかなと思っていたら、
今度は全編もっさり過ぎ、つまり緩急が無いのが弱点かも?
ま、A先生とB先生のどちらが好きかと言われたら、
私は断然B先生派ですね。
稲葉太地:灼熱のリビドー
代表作:『シャルム!』『アナスタシア』『Fire Fever!』
お次もレビューを担当することが多い演出家。
マグマのように湧きたつエネルギーを感じさせる作品が多いです。
他のレビュー系演出家との大きな違いは、
あまりテーマにとらわれていないこと。
地下墓地?灼熱?宝石?なんのこと?みたいな感じ。笑
作品としてカラフルで見どころがあるとも言えるし、
あるいはテーマ関係ないやんけとツッコむかは皆さん次第。
個人的には見ていて不思議な気持ちになる作品が多い印象です。
レビュー作家、あれこれ
ここまで書いて思ったこと、
それはレビュー作家に当たり外れが多過ぎるな、ということです。
正直レビュー公演って、
「組ファンが楽しめればそれで良い」というのが私の心情なんです。
けどそれって裏を返せば
「組ファンじゃないから楽しめなくても仕方ない」と
半ば諦めてしまっていることと同義であり、
もっと万人受けする演出家を育てることが急務なんじゃないかと思うのです。
その中で、野口幸作先生の誕生や、
まもなく谷先生(若)がショー公演のデビューを飾るなど、
劇団も新たなレビュー作家の育成に乗り出しているあたり、
危機感を抱いているのかもしれません。
これからも演出家の先生たちの
果敢な挑戦を楽しみにしたいと思います。
お次はこれまで以外の、
苦手、若手、過去の偉人たちシリーズの「予定」です。
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コメント
中村一徳先生がBを名乗ったという逸話などありませんよ。ご本人はB先生と呼ばれるのをとても嫌がっていらっしゃいますので。
そうだったんですね、ということで内容を一部訂正しました。
なお、常にブログを見ているわけでないので数分置きにコメントを頂かれても困ります…。
またA、Bの愛称についてはファンの中で定着しているものを解説する意図もありますので消すつもりはありません。
いつも興味深く拝読しています。
私が宝塚に嵌ったきっかけは某動画サイトで偶然観た「アリスの恋人」のエンディングでした。すごく歌が好き!と思い調べてみると、乙女ゲームの最高峰「うたの☆プリンスさまっ♪」シリーズの作曲チーム Elements Gardenが提供していると…私自身大ファンで、小柳先生も嵌っているとの噂があり勝手に親近感を覚えました。先生の演出は夢々しいとはまた違う、2次元オタクの心をガンガン揺さぶる何かがあります(笑)
私もエレガ世代なんでよく分かります。笑
宝塚にも結構楽曲提供していて面白いですよねー。はいからさんでも曲が多数あったような?小柳先生がファンと聞いて納得です。
いつも楽しく拝見しております(^^)
今回の演出家シリーズ、私のような新参者にはまだこの演出家はどうとかこうとか分かる人も分からない人もいるのでとても興味深く読ませていただきました!
次回「予定」ということはそれ以外の何かの記事をあげる(=あげなければいけないような発表がある)かもしれないということですかね?笑
どちらにせよ楽しみにしています!笑
私も宝塚にハマったきっかけが小柳先生のアリスの恋人だったので、思わずコメントしてしまいます…。
久しぶりに帰省した実家で母がスカイステージを契約しており、放送されていました。今まで演劇について興味は0でしたが、世界観と音楽、胸キュンな展開に見入ってしまい、今に至ります。
今となって思うと、大階段や群舞、ロケットなど宝塚の魅力と言える要素はない公演で、沼に引き込んだ小柳先生は恐ろしいです。
女性が喜ぶ演出を良くわかってらっしゃる…!
蒼汰様
興味深い作家先生たちシリーズ、私は稲葉先生のGreatest Hitsが好きでした。音楽の嗜好があっていたからなのか?
テーマにこだわらないということですが、あれには底に流れる、人は戦争などしないで、血を流すことなく生きて行こう、みたいな思いを感じました。深刻すぎず、笑いも入れて、心の栄養になりました。
生田先生について、字、難しい表現で、うーん、わかるようなわからないような、伯爵令嬢が生田作品で、びっくりしました。
ドンジュアンと同じ人〜。
CASANOVA は内容ないと言われていたけれど、私は娯楽作品は気を楽に見たい。そういうのばかりだと、物足りなくなるから、上クミ氏のfffのような作品で上手くバランス取る??って感じです。
オリジナル力をミュージカル基準でいくと、原田作品だと安心‥みたいな。。だけど、宝塚の魅力は色々あること。
そして、スターに、何をやってもらうのか、そのマッチングが重要なんでしょうね。
ちなみに、田渕作品、私は結構好きです。異人たちのルネサンスは、キラキラ作品ではなくて、衣装代も低予算??と思う部分がありました。豪華な物を期待する方には受けなかった?作品としては、私は良かった派です。
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
面白い企画ですね。個人的な宝塚ファンの評判は散々だけど、なぜか自分のツボにハマって嫌いになれないのは、大野 拓史先生です(小声)
サムライがスペインに行ったり、エログロ反骨の鬼才山田風太郎作品を宝塚にもってきて「山田風太郎のエログロ抜き」を見せてもらって、原作者の作品に込めた思いに気づかせてくれて、目の付け所は面白いと思うんです。演出は感心しません。冒頭10分で客を置き去りにする導入はどうにかならないものか。
宝塚では、柴田先生の名作再演等以外では、自分で脚本を書いて自分で演出するのが普通ですが、外部では脚本家と演出家(監督)とが別の場合も多いですね。
脚本家は自分の夢を脚本に結晶化する仕事で、演出家は他人の夢と自分の夢をすり合わせる仕事。
小柳先生は、宝塚ファンの評価は高いのだけれど、個人的には職人的に達者な演出をしていて見ていて面白いが、「小柳先生はこの作品にどんな夢を抱いたのか」が見えない。軽く笑って軽く泣いて、軽く忘れちゃう感じ。ライトに楽しめて良いのですが。
田淵先生は、題材に抱いた夢はなんとなくわかるんですが、職人的技術が追い付かないままで「これじゃ伝わらないわ」
シェイクスピアにも、塩野七生にも「この人を主役に面白い話を書くのはムリ」と言われたアウグストゥスを主役にしようとして、案の定遭難したし・・・
今度の瀬央バウも、文豪オスカーワイルドの作品なのに日本では127年も上演されなかった、英国的皮肉と諧謔に満ちた、こんな技巧的で論理的なセリフを早口でポンポンラリーして、客はついていけるのか?な原作です。
K2に挑む心意気は素晴らしいと思うのですが、技術不足のまま登ったら遭難しそうだ。がんばれ!幕があがって配信されることを祈ります。
時に「中詰が5回ぐらいある」と言われそうな中村一徳先生のショーは
私にとって打率10割。
路線でも別格でもない上級生スターや退団スターが銀橋で歌い継いだり、
娘役の銀橋一列コーラスはほかの先生ではあまり見かけない。
確かに「圧 強すぎ」なこともありますが、
終演後に残る余韻は明日へのエネルギーです。
続き楽しみにしてました!
コメント欄の皆さまの意見も楽しく拝見させていただきました。
植田景子先生、確かにトップ娘役さんが報われなかったり、影薄かったりしますよね…
でも他の先生には無いオシャレ感?というか、
バレエ要素多めだったりとか、後ろで美しく舞うアンサンブルの方々の使い方だとかが、個人的には凄く好きです。
乙羽さん、ハンナのお花屋さんでも結構美味しいお役だった気がするので、植田景子先生としては重用したい人材だったのかな?笑
小柳先生作品(とかサイトー先生作品もだけど)はわちゃわちゃしてるのに、上手く大団円にまとまってるからすごいなぁ思います。
私もアリスの恋人大好きでした!
私は当時ちゃぴよりゆめちゃん推しでした…(小声)
今後ベルばら(や風共)が再演されることがあったら、小柳先生の新演出版で観てみたいなぁと勝手に願ってます。(ウエクミ先生や若谷先生でもいいですけどね。いずれにしても植爺の存命中は難しいのかな?)
まだ書かれてない先生方の評価のほうは何となく想像は付きますが…笑、
続きも楽しみにしております✨
個人的に過去のレビュー作家を蒼汰様がどんなふうに評価されるのか、とても興味があります。
ショーは組ファンが喜ぶもの、たしかにそうだなと思いました。わたしは特定の組のファンではありませんが、ショーで各組の色がわかるといいますか、今の組の雰囲気(どう生徒さんをプロデュースしたいのかなど)もわかったりして楽しいです。
わたしは当時、荻田先生に夢中になりました。もし取り上げてくださいましたら幸いです。
植田先生といえば『舞姫』が最高傑作だと思います。別格スターの若手バウなのに好評で東上が追加されたくらいです。これに関しては批判的な方をほとんど見ません。
原作だと救いようもない主人公を魅力的にみせる潤色は素晴らしいです。
もしまだ見ていないのであれば強くお勧めします。
小柳先生は原作モノが得意と言われていますが、個人的にはオープニングのテーマソングが最高潮、あとは原作をちぐはぐに切り貼り、しかしラストにテーマソングリフレインで中盤の全てを忘れさせる!というスタイル、出オチ演出家だと認識しています。絶対自分の好きな原作はやってほしくないです。
でも、ロマンス劇場は珍しく良いと思えました。あと使用する楽曲にハズレがないですね〜。
稲葉大地先生は選ぶテーマは割と魅力的なんですが、もっと美味しく料理できたんじゃ??と物足りなく思うことが多いです。テーマが足枷になったのではと思うこともしばしば。
レビュー作家育成の重要性、おっしゃる通りだと思います。
ショーは芸名の生徒自身の魅力を発揮したり、新たな魅力を発見したりさせてくれる場ですし、生徒のためにもいいものを作ってほしいですよね。
バッディ、すごく好きなんですが、ウエクミはもうレビュー作らないのでしょうか…。2作目期待しているのですが。
乙羽さんが好きなのでここで名前を見るとはオッと思ってしまいました笑
植田先生の乙羽さん推しは近松恋の道行からなのでかなり長かったですね(ハンナのお花屋さんでは舞空ちゃんの次レベルの美味しさでした)
植田先生は好きな娘役の傾向が極端に配役に現れるなぁと思います。男役さんではあまり番手狂い感はないのですが。
別箱打率が高いのも、植田先生が好みの娘役が別箱ヒロインタイプ(娘2タイプ)が多いのかなと。
他の演出家さんではされない娘役配役が見れて私は嬉しいのですが、番手至上主義な宝塚としてはむむむと思われる方もいるのかもですね。
楽しく読ませて頂いています!
今回取り上げられた先生方は人により好き嫌いが分かれそうで、前回より興味深いですね。
個人的には、小柳先生の原作もののまとめ方は、作品のキモを心得ていて(はいからさんは作者の大和和紀先生が脚本を絶賛されてましたね。大胆にもシベリアのシーンをほとんどカットしてましたが)好きです。
だからというわけではないんですが、小柳先生の下の名前の字は「奈穂子」ですので念のため…
出戻りファンです。
記憶違いかもしれませんが、25年ほど前「歌劇」か「グラフ」で若手演出家座談会があった気がします。
その時に一徳先生が自ら、暁先生がいるので、自分はBですと言っていた様な。
当時の雑誌類は震災で全て処分してしまったので勘違いなら申し訳ありません。