雪組『海辺のストルーエンセ』初日感想

 

朝美絢主演の『海辺のストルーエンセ』、

なんとご縁がございまして、初日公演に行って参りました!!

 

 

やはり初日は特別ですね、客席の緊張感が違いますし、

まさか入口に普通に木場理事長が居るとは思いませんでした。笑

 

観劇しての感想、つらつらと綴っていきたいと思います。

※2/3くらいネタバレしていますので要注意!!

 

あらすじ1/2と雑感

 

ストルーエンセは実在する人物のうえ、物語はオチ以外史実そのままに進んでいくため、ネタバレもくそもないのですが…果たしてどこまで書いて良いのやら?ってことで本筋に触れない程度でざっくりあらすじを書いていきます。

まずは冒頭、全ての音が波間に溶けていくような、薄暗い北欧の浜辺の上で紡がれるモノローグで始まります。主人公のストルーエンセ(朝美絢)は、保守的な医療現場を改革せんと意欲に燃える町医者ですが、いまだ瀉血が主な治療法だった当時の世相はそれを許さず、不条理な扱いを受けていました。

クリスチャン7世(縣千)は王位継承者として折檻に近い教育を受けたことで愛に飢え、そしてヒロインのカロリーネ(音彩唯)は乗馬を愛するような元気な少女でした。そんな三者三様の人生の入り口が描かれる前方では、クリスチャン7世の継母、ユリアーネ(愛すみれ)たちが実権を握り続けようと暗躍する…。

それぞれの世界で生きる3人がめぐり逢い、そして不幸な運命の輪が回り出す…そんな不穏で退廃的な雰囲気が感じられる導入で、実に素晴らしい。そして最後まで観劇すると分かるのですが、歌い出しからモブ役として登場している召使いと男爵が実は通し役で、この物語を俯瞰的に参加しながらストルーエンセ&カロリーネの燃え上がる恋の始まりと終わりとを対比しているという粋な演出の模様。この2人を演じるのが、白綺華(歌安定してた!!)と苑利香輝という下級生コンビなのだから面白い。雪組期待の若手、ナイス抜擢です!!

さて、そんな指田先生お得意のお耽美路線で話が進むのかと思いきや、ここから突然フレンチミュージカル開・幕!!煌びやかなBGMと照明の色合いで登場したストルーエンセは、歌って踊ってご婦人方を誘惑。いや、正しくは貴族相手に診療している様子。

そう、ストルーエンセ先生は真面目がゆえに啓蒙思想に傾倒し、不合理な医療の現場を改革しようとする人間なんかではなく、なんとスーパーチャラ男な色悪タイプなのでした。これはビックリ。で、ストルーエンセは王宮を追い出された王族の元側近の2人(真那春斗・諏訪さき)から、クリスチャン7世の治療を依頼されます。

ストルーエンセは持ち前の胆力と頭脳で、クリスチャン7世に近づくことに成功、専属医として王宮に向かうことになります。そこで出会ったのが、イギリスから輿入れ、王妃となりながらも孤独にふけるカロリーネでした。啓蒙思想の書物を読むような知力のある彼女でしたが、精神不安定な夫とは不仲だし、実権は継母ユリアーネが握っている状態。「偉大なる先代の王妃のようになりたい」と夢を抱きながらも、現実とのギャップに貝に閉じこもるような日々を送っています。

この権威を振るう継母と孤独な王妃の対比の演出、凄く良く出来ていたと思います。前と後ろ、上と下の段差、斜めに走る線など、立体的に場面を使う手法は、上田久美子先生から始まる女流作家によく見られる(栗田先生もよくやる)演出ですよね。

カロリーネは当初、ストルーエンセに対し、夫と同じ「いかがわしい男」との印象を抱きます。しかしストルーエンセの治療を通じ、次第に心を解きほぐしていく…。そしてクリスチャン7世の精神もいよいよ安定し、若き3人は奇妙な連帯感を抱くようになります。王宮の古い体制を壊し、啓蒙主義的な社会改革を目指そう、と。もちろん怖い大人たちはそれをみすみす見逃すわけもなくて…という感じ。いかがでしょう?

 

ラブロマンスにあらず

 

朝美絢の主演経験作品といえば、主人公が歌の妖精である新公初主演の『PUCK』にはじまり、ツンデレ高校生の学園物『A-EN』、ロック系ネオ和物『義経妖狐夢幻桜』、児童書原作ファンタジー『ほんものの魔法使』と飛び道具系が多く、いわゆる宝塚らしい王道物って2度目の新公主演『舞音』くらいですよね。

そんな彼女の2度目の東上主演作品に、ストルーエンセを主人公にした作品をあてがうと聞いた時、「劇団は朝美絢に王道をやらせたいんだな」と思いましたし、その企業的計算に大いに賛同したものです。王宮を舞台にした王と王妃と専属医のドロドロ三角関係…それを植田景子先生の系譜っぽい、指田先生が描くという。もうこの企画時点で「勝ち」というものです。

ところが、蓋を開けてみると、厳密にはそういう話ではありませんでした。本作は王宮を舞台にした3人の愛憎劇ではなく、ストルーエンセの人生譚だったのです。一人の男が成り上がり、恋に落ち、そして失墜していく。例えるなら、私は見ていて生田先生の『ひかりふる路』を思い出したような作品です。なので、恋愛ドロドロを求める人は少し戸惑うかもしれません。

だけどやっぱり面白い、というか、色んな朝美絢が見られるので、ファンは普通に楽しめると思います。やさぐれる朝美絢、チャラチャラとご婦人方を誘惑する朝美絢、王と対峙する男らしい朝美絢、王妃とキャッキャウフフする朝美絢、権力に取りつかれて闇落ちする朝美絢、そして最後の海辺の朝美絢…。

最近は「根がイイ人」を演じる機会が多かった彼女ですから、こういう芝居ど真ん中が出来る役を演じるのはきっと楽しいでしょうな、という感じ。主演者の様々な姿を見て魅了されるという意味では、実に「宝塚らしい作品」なのかもしれません。

ストルーエンセを通じて描かれる、王宮を舞台にした一人の男の興隆と破滅。張り巡らされる策謀と、密やかな恋。まるで青春のような友情と、裏切り。ラブロマンスに留まらない、そんな男の一代記だったな、という印象です。

 

個人的指田先生評

 

内容で言うと、史実を知っているのでどうオチを変えてくるのだろうと予想しながらハラハラ見ていましたが、実に宝塚らしいバットエンドだったと思います(良い意味で)。コメディテイストな場面も有りながらも隙の無い濃密な芝居構成で、派手な狂乱の場面の傍ら、北欧の浜辺の裏寂しさなど、色彩的・音響的な対比も良かった。そして「治世」「治療」に見立てる粋なセリフも有るなど、若手女流作家らしい瑞々しい演出だったと思います。

ただ一つ脚本における文句を一つ書くとしたら、ストルーエンセとカロリーネが恋に落ちる過程をもう少し描写して欲しかったな、という点です。第一幕がクリスチャン7世との関係性の構築に終始し、第二幕からドロドロ愛憎モードが始まるわけですが、この繋がりが私には物足りなく感じました。

女をたくさん知っている美貌のチャラ男が、生意気な小娘と馬鹿にしていた王妃に知らない間に恋に落ち、そして気付けば暴走していくという、その過程がロマンティックなのであって、そんな朝美絢がやっぱり見たくないですか???まぁ私がただ愛憎劇が好きなだけかもしれませんが…笑

そういう意味だと、指田先生は雰囲気を描くのは天才的ですけど、登場人物の使い方が若干甘いのかもしれません。キャラクターそれぞれは魅力的なのに、微妙にピースが嵌っていない場面があったというか…。個人的には諏訪さき演じるブランドが、最後まで「どっちやねん!!」って感じでしたかね。もっと美味しい役に演出出来たろうになぁ。

ま、これまでの作品である『龍ノ宮物語』『冬霞の巴里』ガッツリ愛憎劇オンリーだったわけですけど、今回は劇団からの発注に合わせた作品を作るうえで違う側面も出そうとしている過渡期なのかもしれません。指田先生には期待の若手として、今後もぜひ頑張って欲しいなと思います。

 

素晴らしい雪組生たち

 

演出面で言うと、雪組としては久しぶりの王宮物で、見た目も実に華やか。衣装もゴージャスだし、舞台装置は大袈裟過ぎない中で相当工夫していました(女流作家お得意の大きな布演出も有り)

そして下級生に至るまでたくさんの役がつき、指田先生は座付き演出家として最大の仕事を果たしていた印象です。それでいて縣千、愛すみれあたりは新境地な役どころでしたし、白峰ゆり、叶ゆうり、日和春磨など、本公演では役が付きづらい中堅どころも実に美味しいポジションにいて、さらに本人たちがその実力をいかんなく発揮していて、組ファンとしてワクワクしながら見ていました。

そして何より、朝美絢×音彩唯の相性が抜群に良いこと!!ひゃー凄い、マジで小洒落た洋画かと思いました。ってことでキャスト感想編に続きます。

 

【キャスト別感想編はコチラ】

 

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コメント

  1. AKKO より:

    残念ながらチケット確保できなかったこの公演、まさか初日の日に蒼汰様から感想を聞けるとは!ありがとうございます‼
    やはり見応えのある作品のようで安心しました。
    今までに比べると大人な男という役だなと思いましたが、いろんな朝美絢なんですね。
    ストルーエンセの事は中野京子氏の「残酷な王と悲しみの王妃」という本で知りましたが、ストルーエンセとマチルデの関係がなんともドラマチックで、指田先生がどのように描くのか興味津々でした。
    ライブ配信で見てみようかな、なんて思っています。

  2. こころ夫人 より:

    いつも楽しく、拝見しております。
    なんと!羨ましい事でしょう。朝美さんの舞台初日を観劇されたのですね。
    私も梅芸まで楽しみに待ちたいと思います。
    月組初日で、月城さんとお芝居する彩海さんを観て、やはり…胸熱でした。
    全ての公演が無事に千秋楽まで、完走できますように(祈)。

  3. ポポロ より:

    蒼汰さま

     いつも深くうなずきながら、拝読させていただいています。
    でも、今回は、羨ましい〜と叫んでしまいました。
    朝美絢の初日が観劇できたなんて!

     朝美の魅力は、なんとも言えない一途な純粋さと、触れたら壊れてしまいそうな繊細さだと思っています。
    どんな悪役やチャラい役をやっても、心の奥底には繊細で純粋な輝きがみえるような、、、
    特に、感情をのせて歌うまっすぐな声には、いつも引き込まれてしまいます。

     かたや、指田先生。
    「龍の宮物語」「冬霞の巴里」のどちらもミステリアスで美しく、余韻の残る秀逸な作品でした。
    「龍の宮物語」の方は、泉鏡花の「夜叉ヶ池」と「海神別荘」の、他劇団の上演を思い出させるシーンが多かったのが気になりましたが、永久輝せあの「冬霞の巴里」は、独自の世界観を表現した素晴らしい舞台だったと思います。

     そんな朝美と指田先生の舞台。
    やっぱり素晴らしい舞台だったんですね!
    チケットがとれなかったので、ライブ配信観劇となってしまいますが、楽しみです。
    指田先生の大劇場デビューを心待ちにしています。

    実は、蒼汰さまがブログをやめてしまわれるのではないかと、少々心配でした。続けてくださっていることに、感謝しています。

  4. はる より:

    読ませて頂きながらうなづいておりました。
    私は4日に観ることが出来ました。
    期待大で行ったのですが、裏切られることもなく色んな朝美絢を堪能して来ました。
    観劇しながら「朝美絢、貴方って人は。。」って期待を超えてくる様に呟いておりました。笑

    音彩さん、フランス人形の容姿で歌もダンスも芝居も出来る。まだ硬さは残るもののそれが役にハマり将来が楽しみですね〜。
    縣くんも立て続けに国の王の役で難しい役をこなしてました。
    正に育成中ですね。頑張って欲しいです。
    愛すみれさんのどっしりとした役は初めて見たのでこれから益々、雪組で重宝される一材だと感じました。
    まなはるさんや諏訪さんに安定感を感じ、組長や叶さんが出て来たあたりでお話上きっと障害になる方々にワクワクしました。
    あのメガネくん、そうだったのですね。紀城さん、印象に残りました。まだ組子が一致してなくて有り難うございます。
    個人的には壮海さん、勿体無いんでもっと使って下さい。と思いました。

    このメンツでチケット難なこの公演、朝美絢恐るべし!

  5. より:

    5日に観劇しました。
    Twitterを見たところ初日はハプニングがあり危ういところもあったようですが、5日のクオリティは素晴らしいものでした。主要キャストだれも歌が破綻してない演目、久々に観ました。

    朝美絢、円熟期を迎えましたね。少し前はハクハク感というか、自信のなさが垣間見えた気がするのですが、今は良い意味で吹っ切れたというか、楽しんだり計算したりしながら演じる余裕があるというか、そんな印象を受けました。今の朝美絢が真ん中を飾る姿を、もっともっと観たいです。(そうなるといよいよチケット取れなさそうですが…涙)

    脚本に思うところ、蒼汰さんと全く同じで笑っちゃいましたw
    最初は警戒心むきだしだったカロリーネ。ヨハンと目的が同じ(国を良くしたい)とわかって絆が生まれるところ、あれは同士や仲間の繋がりであって、それがいつどこで恋愛に変わったのか、もう少し丁寧だと納得度が高いなあと感じました。まあそれを差し引いても、大満足の素敵な公演でした。

  6. みふゆ より:

    ストルーエンセ感想の投稿ありがとうございます。
    私も昨日観劇しまして、朝美さんの多彩な魅力とキラキラ感を存分に楽しみました!ちなみに私もストルーエンセとカロリーネが恋に落ちる過程が物足りないかな?と感じまして、縣さんのクリスチャンに感情移入しやすかったこともあり、指田先生は『龍の宮物語』で天寿さんが演じた龍神のようなキャラクターがお好みなのかな?と、クリスチャンからストルーエンセへの(BLまではいかないものの)重めの好感と信頼、依存が作中でしっかりめに描かれた理由を考察します笑