朝美絢・2019年のスランプを経て

 

宝塚GRAPH・2021年6月号に掲載されている、

朝美絢のインタビュー記事に、非常に興味深い内容がありました。

 

概要を言うと、これまでの雪組作品で悔しい記憶として残っているのは

『ファントム』のシャンドン伯爵役が、

宝塚らしい二枚目役という固定概念に縛られ上手く出来なかったこと。

そしてアラン・ショレ役も、もっと出来たはずと思うこと。

 

これを読んで、たぶん朝美絢ファンの多くの人が

「やっぱりな」と思ったんじゃなかろうか。

 

ファンとして見ていても、どこかしっくり来ていないというか、

想像よりもハマっていなくて、あれ?と思う部分が多かったからです。

 

朝美絢・2019年のスランプ

 

さらに、続く『20世紀号に乗って』も

ギャグキャラ一直線で全力でコメディする役に悪戦苦闘。

納得のいく芝居が出来ず、当時のトップスターである望海風斗に相談した、

なんてエピソードが望海退団時に披露されていました。

 

すなわち、朝美絢は2019年の頭に、

芝居のスランプに陥ったのでしょう。

 

彼女は月組時代の『New Wave!-月-』や

『TAKARAZUKA 花詩集100!!』新人公演を経て、

初主演作品『A-EN ARTHUR VERSION』で得意のオラ芸を確立。

 

雪組に組替え後は、その圧とパッションで『ひかりふる路』サン・ジュスト、

『義経妖狐夢幻桜』『Gato Bonito!!』とヒットを飛ばし、

一躍人気スターの仲間入りを果たしました。

 

ここまでは若手スターとして、数少ない出番とチャンスに全てを賭け、

全力全開パッションでぶつかっていれば良かったけれど、

学年が上がったらそうはいきません。

 

なぜなら、役や出番の比重が増えれば増えるほど、

作品の雰囲気や役どころをきちんと理解したうえで、

自身の色を生かしつつ、そして殺しつつ、

一つの舞台を作り上げる屋台骨にならなければいけないからです。

 

その分岐点が『ファントム』だったのでしょう。

いままでの、情熱をただぶつければ良いだけの役、出番ではない。

彼女はここで、表現者としての壁にぶつかります。

 

一つの答え『ほんものの魔法使』

 

続く『壬生義士伝/Music Revolution!』『はばたけ黄金の翼よ』

『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』では、得意のオラ芸を封印し、

新たな芝居表現のため試行錯誤している様子が見て取れました。

 

それはすなわち、引き算の芝居。

大声を張り上げたり、表情筋を全力で捻じ曲げたりするのではなく、

さながら青い炎のように、心の色だけで感情を表現すること。

 

つまり「役を生きる」ということですが、

口で説明するのは簡単でも、実際にそれをするのは難しいものです。

 

その試行錯誤は『炎のボレロ』あたりで、

やっと一定の回答を掴めたんじゃないかと思います。

 

ジェラールという役、昔の彼女だったら、

もっとオラついた青年になっていただろうけれど、

それだけの男ではない気品や落ち着きが、きちんと表現されていました。

 

さらにそこから飛躍させたのが、

東上主演作品となった『ほんものの魔法使』アダム役。

 

純真で、無垢で、時に優しく教え諭し、時に恐怖に怯え、

優しく慰撫したその瞬間に、どこか遠くへ消えてしまうような存在感が有る。

 

のびやかなハイトーンも、なまめく低音も自在に使いこなし、

芝居の声と表情の変化が実に多彩で、それでいて軸がぶれることは無い。

 

私は「真ん中力」というものがどういったものかは分からないけれど、

主演として、一本筋の通った男役として、そこに「居た」ように見えました。

 

中堅スターから上級生と呼ばれる学年に、

そして次なるポジションに上がるための表現方法の一つの回答が、

『ほんものの魔法使』だったんじゃないかと思います。

 

さらなる高みを目指して

 

まぁファンとしては何が面白いって、

あの時、もっと上手く出来たハズなのにそれが出来なかったと

口に出してしまう彼女の上昇志向の強さ、なんですけどね。笑

 

以前、スカステ番組のロングインタビューで、

『グランドホテル』役替わりが一つの挫折であったこと、

そしてその作品が今は一番大好きで、

プロフィールの好きな作品として今も書き続けている、なんてこともありました。

 

挫折からの飛躍、さらなる高みを目指すには、

自身の失敗を正面から見つめなければなりません。

 

中堅時代に表現者として壁にぶつかったこと、

そしてそこから新たな表現方法を模索し、得たことは、

スターとして何にも代えられない素晴らしいものだと思います。

 

もちろん、舞台人としてはこれからも進化し続けなければなりません。

『ほんものの魔法使』を経て、彼女が一体どこへたどり着くのか、

最後まで一ファンとして見守りたいと思います。

 

今日流した優しく温かい涙も、また明日から始まる新たなステージに繋がるはず。

最後まで無事駆け抜けられて、本当に良かった。

以上、『ほんものの魔法使』千秋楽に寄せて。

 

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コメント

  1. ほり より:

    蒼汰さん、、ジーンと心に響いてます。愛のあるブログ、朝美さんファンの一人として共感しながら読みました。

    好きになる入り口が顔の人は大勢いるかもしれませんが、舞台見れば見るほど いつの間にか『芝居』、そして『男役の生き様』に惚れてるファン多いだろうなと思います。

    私も朝美さんを見続けていきたいなと思いました。

  2. こころ夫人 より:

    いつも楽しく、拝見しております。
    月組で朝美さんをみてきて、和物の雪組に組替えって、どうなんだろ、と気がかりでしたが、それは浅はかな私の愚かな心配事でした。
    朝美さんは、場所は違えど、変わらず輝いていて。
    ずっと見守ってこられた蒼汰さんの記事には、決して盲目ではない、慈愛が溢れているようで。感涙です。
    アーサ。東上公演の完走、お疲れさまでした。

  3. さくら より:

    蒼汰様

    2019年の朝美様の誕生日の時(はばたけ黄金の翼の公演中だったと思います)といい、今回といい、本当に心にぐっとくる温かいブログを配信いただき、ありがとうございます。何か心の中でもやもやしていたものが、蒼汰様のブログを読むと、なぜか心がスーッとして涙があふれてくるのです。
    ほんものの魔法使い、始め皆さん子ども向け、という意見が多かったように思いますが、いやいや奥が深くて深くて、観れば観るほど考えさせられる作品でした。当たり前のようにあるもの全てが(人間そのものも)奇跡であり魔法である。大勢のなかにいるときの孤独、人間の欲の醜さ、自分を守るための他者排除、重い課題いっぱい、それでも希望を持って頭の中の魔法を使えば、何でもできる。いつでも会える。思いきって箱を開けて、何でもやってみよう。
    この歳になってもうあとは平々凡々に生きていこうと思っておりましたが、いっちょ今まで開けてなかった箱を開けて、できる、やるんだ、をやってみようかと思いました。(笑)

    朝美様素晴らしかったです。千秋楽のどっせい3連続最高でした。

    これからも楽しく拝読させて頂きます。

  4. 松尾沙津季 より:

    蒼汰様

    いつも楽しく読ませて頂いております。
    朝美さんのインタビューで「ファントム」で感じた違和感を思い出し、今回の記事で引っかかっていた違和感の正体にがわかり昇華できました✨
    「ファントム」役代わりで観て、朝美推しなのにどっちも凪様の方が素敵に観えた自分を殴りたいと大劇場で半狂乱なったあの頃が懐かしく思えます。(いい時代でしたね…笑)
    朝美さんの引き算のお芝居をこれからも楽しみに応援していきたいと思います!

  5. MS より:

    朝美さんは、雪組だった月城さんを月組の次期トップにするためにトレードされ、あの時、雪組でここまでの位置にくるとは正直思いませんでした。
    でも、月組では3期下とニコイチだったのに、雪組にきて、3期上の彩凪さんと役替わりを経験し、彩凪さんのビデオを何回も見て、どうやったらこのキラキラオーラを身につけることができるのか凄く研究したとグラフか何かで話してました。
    また、雪組は、トップコンビが組替経験者でしたし、朝美さんと同時に朝月さんやあやなちゃんも組替してきたので、納得のいく組替ではなかったかもしれないけど、結果、とても溶け込んで、御曹司の永久輝さんもいなくなった事で、ますます伸び伸びしてるように思います。
    これからの活躍に期待しかありません。
    ただ、月組のトップになる月城さんは、今の公演のショーで、いまだアウェイ感があります。よくよく周りをみると、月組生え抜きばっかりなんですよね。鳳月さんも元々月組でしたし、こんなに生え抜きだらけって凄いなと。早く誰か、月組に行ってあげて!と思ってしまいます。

  6. 12がつ より:

    ともすれば好きすぎて、贔屓の引き倒しになりかねない私と違って、さすが蒼汰さんの分析、言葉には深い愛が感じられます。
    2019年、そんなご本人のもがきとは裏腹に雪組は最高潮の人気と盛り上がりを見せていました。
    中でも人気スター達が出演した地上波の放送での大騒ぎとその後の注目度、目を引く派手な容姿に反して、ご本人はコツコツと努力を重ねて不器用ながら真面目に少しずつ課題をクリアしていくタイプなので、葛藤も大きかったんじゃないかと思います。
    翌年雪組の人気も、組子の成長も支えてきた望海風斗、真彩希帆の卒業が発表され、意識が自分自身のことでもがいているところから、上級生の1人として組全体を引っ張っていく立場へと変化したように感じます。
    女役を経て、次の男役が期待されていたところにコロナ禍による公演中止期間があり、走り続けて来た日常に、立ち止まって考える時間ができたのは、不幸中の幸いだったのかもしれません。
    再開後の炎のボレロからは、一皮むけたように感じました。
    ずっと目指していた大人の男役の色気や包容力が自然と身に付いているような。
    思えば常にその時に、彼女に必要な課題を与えて来た作品、役との出会いも演出家からの愛の鞭を感じています。
    初東上はファンタジー、とてもメッセージ性の強い物語で自然体でいることの難しくて深い役作りが求められました。
    結果は本当に素晴らしいチーム、素晴らしい作品を残すことになりました。
    改めて、完走をお祝いし、今後ますますの活躍を期待して応援し続けたいと思います。
    長文失礼しました。

  7. はる より:

    2019年はスランプだったのですね。役替わりのシャンドン伯爵は比べるとどうしてもこじんまりして見えてしまってた記憶があります。その後、与えられた役でもがき苦しんだ結果が今回に生かされていますね。

    「ほんものの魔法使い」の千秋楽映像を見ました。ナウオンでも話してましたが、役づくりに苦しんだり、公演中止の不安もあったんだとご挨拶でよく分かりました。
    配信で見た時は表現の難しい芝居をやっているな〜と思ってました。昔の宝塚を観ているような感覚でした。(話がシンプルなので真ん中はスター性が求められ、尚且つ全員で一場面一場面魅せていかないといけない作品)初東上の単独主演、結果を残さなくてはいけない。演目を知った時は朝美絢だからある程度はお客さんは入るでしょうが大事な時期にこの演目で大丈夫かと思いました。
    ところが生で観たらこちらのテンション上がったままで魅せられて終わりました。笑舞台はやはり生ですね。映像だとパワーや空気感までは伝わって来ないですから。

    引き算芝居に苦悩していた時期が嘘のように真ん中が似合うようになった朝美絢に驚きました。丁寧に丁寧に演じてましたね。縣くんとのバランスも良い。同じような事を話されているお客さんもいました。

    前トップコンビが観に来られた公演をたまたま観られて「引き算の芝居ができている所を見て貰えて良かったね〜。」と思いました。2人は、拍手喝采の中、少し申し訳なさそうに入って来られて出ていかれてました。拍手する手が視界に入った時は楽しんでらっしゃる感じが物凄く伝わってきました。笑

    いよいよ新生雪組が始動しますね。引き続き見守りたいと思います。