礼真琴のサヨナラ公演感想記、
続いてはショーの『エスペラント!』編です。
【『阿修羅城の瞳』編はコチラ】
多幸感溢れるフィナーレ
前情報がイマイチだった気がしますけれど、私は凄く良かったと思います。「光と影の自己探索」が永遠のテーマっぽい生田先生が、敢えて自分の趣味趣向を捨てさり、ザッツ宝塚な正統派レビューを作り上げた。これぞまさしくプロの矜持です。煌びやかでゴージャス、だけど派手過ぎずドリーミングでスウィートな味わいは、まるでディズニー作品のよう。その溢れるばかりの多幸感に、よっぽど私生活が充実してらっしゃるんですね?と邪推したくなるような世界観でした。←
礼真琴はお披露目の『Ray-星の光線-』が彼女らしい疾走感のある中村B作品、『モアー・ダンディズム!』が逆に亜流な岡田ロマンチックレビュー、『Gran Cantante!!』が藤井スパニッシュ、とここまでが王道系。ここから『JAGUAR BEAT』『VIOLETOPIA』が長期トップがゆえの味変変化球で、『Tiara Azul』がラテンと、最近は直球レビューがありませんでしたので、ラストが敢えての王道レビューというのは、異次元への到達を目標としてバリバリ走り続けた彼女の終焉に、逆に相応しい作品だなと私は思います。
ま、文句を言うとしたら、暁千星の絵描きという通し役設定が意味をなしてない、というか不要なのでは?ということと、一番大事な最後の黒燕尾があまりにもあっさりし過ぎていることでしょうか?ただ、次期トップが退団していく現トップの物語を紡ぐという設定がロマンチックなことには変わりなく、また若いがゆえの尖りを通り越して殺気立っていたお披露目公演『Ray』の黒燕尾場面とは違い、学年が上がったからこそ見せられる余裕というか、去る者だけが放てる寂寥感みたいなものが感じられて、これはこれで良かったのかなー、と私は評価しています。
礼真琴がたどった道
ってことで各場面ごとにさらりと書いていきます。
爽やかドリーミングなオープニングが終わると、繋ぐ場面を天飛華音が務め(彼女も着々と上がってますな)、次が摩天楼と銀杏並木の場面。喧騒の日々、追いたてられるように生きる毎日の中で、ふと心和む心象風景の場面が現れる…愛する人と過ごす慈しむような瞬間の、なんと優しいことよ…ってこれは『BIG FISH』かな?セリフや歌ではなく、ダンスだけでこの世界観を表現してしまう礼真琴&小桜ほのかは本当に素晴らしいの一言。
続く海底レビューは爽やかラテンで『Tiara Azul』風。やはり星のDNA的にラテンは外せないし絶対やりたいよね、からの人形小屋場面は『VIOLETOPIA』?あの作品は匿名性が高すぎて「宝塚の作品として成立していない」と私は批判しましたけれど、本作はその塩梅がちょうど良くて、やっとこの演出の「正解」が観られたような気がして嬉しかったです。
続く星組大集合場面はまさかの八神純子!!星組カラーの「青」で「星」で地球でMr.ブルー。上手くこじつけてるし、曲自体は名曲なんですけど、もともとにそんな雰囲気がなかったはずなのに、なぜかこの場面だけ宗教臭かった不思議。←
そしてまさかの礼真琴がロケットボーイの111期生お披露目場面(東京なので星組生ですが)、偉大なるトップオブトップから新世代への引継ぎ、スター誕生の瞬間であり、礼真琴にもまたそんな頃があって…という粋な演出。からのフィナーレは、やっぱり黒燕尾群舞。前述の通り少し物足りない気もしますが、もしかしたら彼女の体力から逆算した最大の魅せ力なのかもしれません。
とまぁ、礼真琴のこれまでを振り返りながら(だからタペストリー?)退団公演として過不足無い、そんな作品に仕上がっていたと思います。
果たしてあなたは幸せだったのか
タカラジェンヌらしからぬ超人、という礼真琴の本来のパブリックイメージを考えたら、本作は物足りないかもしれません。けれど、コロナ禍、舞台に穴を空け休養、例の事件、タカスペ中止、舞空瞳の先の退団、やもめと、苦労ばかり続いた彼女が、それでも男役として夢を描き続けた、そして自身も夢を見続け走り抜けた果ての終焉…と考えると、なんだかロマンチックじゃないですか?
少女が夢見る期間は短い。煌めくような幻想と、少し甘くて、どこか切ない余韻を残し、舞台の幕は閉じる。そしてまた一人、夢を信じて走り出す者が現れる。その連なりこそが、宝塚が111年続いてきた歴史なのだろう。タカラジェンヌ礼真琴が刻んだ記録と記憶は、人々の心に、思い出に、タペストリーのように永遠に残り続ける。そんな彼女は、果たして幸せだったのか?きっとその答えが、この作品を見れば分かるはず。
どうかその最後の瞬間まで、夢を見続けられますように。
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コメント
礼さんのサヨナラは劇ショー共に良かったですよね。ショーはクラシカルと爽やかさを良い塩梅で織り交ぜた佳作なところを礼さんの輝きで更に良くなっていると思います。
生田先生は劇ショー両方の演出が出来て、ホームランは飛ばさないけど、凡作も非常に少ない安定感が売りだと思ってます。若手演出家の中では個人的には一定の安定感がありながらホームランも出せる若谷先生が筆頭ですが、生田先生は安定感で劇団を支える2番手だと思ってます。後は産休中(?)の栗田先生にも期待してます。
若手演出家も増えてきたので、久しぶりに演出家の講評をして頂けると嬉しいです。
これからも楽しい記事お待ちしております。