特別連載企画・宝塚版『エリザベート』全作レビュー、
第二夜は、混迷期・2000年代編です。
レビューにあたっての諸注意は
前の記事に序論としてまとめていますのでご確認下さい。
※6点満点の採点付きでご紹介していきます。
感想とはあくまで個人的なものですので御容赦下さい。
★★★★★★:後世に語り継がれるべき、伝説の一作。
★★★★★:誰もが楽しめるであろう名作。
★★★★:普通に楽しめるであろう佳作。
★★★:なんとも言えない凡作。
★★:残念ながら駄作。
★:ノーコメント、ある意味伝説の一作。
2002年花組/主演:春野寿美礼
匠ひびきの持病悪化による1作退団からの、
後に偉大なるトップオブトップとなる春野寿美礼お披露目公演。
この公演からトートとシシィが対峙する、
第2幕に新曲「私が踊る時」が登場。
「今までとは違う『エリザベート』を!!」という
制作陣の気迫は物凄く感じられるんだけれども、
春野寿美礼さん、力み過ぎです。
とにかく無駄な動き、ガナリが多過ぎる。
不必要にヌラヌラ動いてシャウトして、
「トートさん、怒ってます?」と聞きたくなるくらい。
一方の大鳥シシィも、そんなトートに興味は薄めで
常に勝手にやっててくれとツンとしている雰囲気。
そんな組み合わせで「私が踊る時」を歌うもんだから、
私には不仲な2人が大喧嘩しているように見えて、
最後に2人で昇天していく姿を見ても、全く納得がいかず。
『エリザベート』ってそんなお話でしたっけ?
後に春野は『ファントム』で、
足元にジワジワ広がるような深淵の闇を表現出来ているけれど、
『エリザベート』当時は研12、しかも2番手期間がほぼ無し。
そりゃあ空回りしちゃうよね、と保護者のような気持ちになります。
さらに当時はいわゆる新専科制度勃発期で、
フランツ役は専科より樹里咲穂が登板。
主要キャストが全員歌上手のハズなのに、
歌が上手ければ万事オッケーと言うわけではなく、
かえって組の求心力が弱まっている様が良く見えてしまったという、
そんな痛しかゆしな公演になってしまったのでした。
オススメ度:★★
2005年月組/主演:彩輝直
月組・闇の舞踏その1。
『エリザベート』でとにかくヘンテコなことになる月組さん。
当時のトップは、新専科を経て古巣に帰ってきた彩輝直。
前任・紫吹の相手役であった映美くららをお披露目公演で見送り、
彩輝自身もたった2作で退団。その公演が『エリザベート』。
失礼ながら、彩輝直は大人気スター様という印象は無く、
サヨナラ公演を華やかなものにするためのカンフル剤だったのでしょう。
いわゆる大人の事情です。それは分かる。
だけどなぜにシシィに、
トップスター間近の瀬奈じゅん?
似合ってないなどというレベルではない。
登場人物の中で一番ゴツくて、
初風フランツなんてワンパンで倒せそうです。
そしてビジュアルだけでなく、
楽譜通りに歌うだけで精一杯という様子で、
高音が出るのだろうかとこちらは手に汗握るし、役も深められておらず。
タイトルロールがこの様子では、
当然公演が成功するわけもありません。
と、ボロカスに書いておいてなんですが、
実は彩輝トートは耽美的で思いのほか良かったりするんですよね。
「死にたいのか」のニヤァは一見の価値ありです。
オススメ度:★★
2007年雪組/主演:水夏希
雪、星、宙、花、月と巡り、
11年ぶりに雪組へと帰還した『エリザベート』。
2000年代の混迷っぷりにどうなることやらと心配していたら、
むむむ、これが意外と良作だぞ?
水トートは元の見た目も相まって蛇顔で不気味なのに、
水自身の中身が非常に熱い方なので、
その感情表現が爆発した時はさながら青い炎のように光る印象。
邪悪な顔してシシィに迫る姿が、
黄泉の帝王としての誘いか、一人の男としての熱情なのか、
その揺れ動きが無意識的に表れていて見事。
言ってしまえば、初演トートと再演トートをドッキングした、
ハイブリットトートがついに生まれたようなものでしょう。
白羽シシィは、あまり歌が得意とは言えないまでも、
そのヒジュアルの圧倒的華やかさに、ひれ伏したくなるほど。
やはりエリザベートはこうでなくっちゃ。
歌が不得手なトップコンビをフォローするように、
彩吹フランツと音月ルキーニが超絶美声で鳴らしまくり、
その一方で凰稀ルドルフの儚さも良い出来栄え。
蛇足ですが、未来優希演じるゾフィーも素晴らしい。
これまではシシィを虐める醜い烈女と描かれてきていましたが、
本作では未来を憂う国母という、史実に近い表現になっているのも見どころで、
『エリザベート』に新たな彩りを挿しました。
本作は2000年代『エリザベート』の唯一の成功作と言えるかも。
後に彩吹2番手退団が起きるなんて、それは知らないというものです。
オススメ度:★★★★★
2009年月組/主演:瀬奈じゅん
月組・闇の舞踏その2にして、最凶欠作の一品。
後に東宝入りが決まっていた瀬奈じゅんに、
ルキーニ、シシィ、そしてトートの主要3作を演じさせるという、
箔付けを行いたかっただけであろう本作。
なのに、歌が上手い彩乃かなみじゃなぜ駄目だったのか分からないが、
シシィ役はトップ娘役不在からの、凪七瑠海が登板という衝撃。
宙組の研7の男役下級生で、しかもその頃はまだ新公主演未経験。
当時のファンの驚きは想像を絶するものでしょう。
これが圧倒的実力あるいはビジュアルがあれば良かったものの、
「未完ならではの新鮮なエリザベートだった」と、
後に小池氏が自分でフォローしてしまうような出来栄え。
そしてトップ娘役に選ばれなかった娘役たち、
すなわち城咲あいは醜女ゾフィー、
羽桜しずくは儚い運命となる少年ルドルフとして登板。
くたびれてしまっている霧矢フランツ、
本人のスター性が全面に出過ぎて上滑りしてる龍ルキーニと、
主要キャストも散々な様相。
まさに宝塚混迷期の象徴的作品。
作品全体から月組生と凪七瑠海の悲鳴がこだまするような、
闇のエナジーを湛えた問題作にして、今に続く月組サイコパスの原点。
なんだけれども、この作品の功績が1つだけ。
それはこの作品の新人公演で明日海りおが主演を果たしたこと。
この大いなる落とし種はやがて花組で芽吹き、
荒地と化す月組をよそに100周年の栄華に繋がるわけだけれども、
それまで『エリザベート』は5年間の封印に伏されることになります。
オススメ度:★
2000年代『エリザベート』・総括
改めて振り返ると、2000年代『エリザベート』は
迷走の一言に尽きると思います。
宝塚に限らずですが、敢えて「外す」技法というのは、
たいてい良い方向に転ばない典型例だなぁとしみじみしちゃいます。
もちろんスター本人たちは、
みな置かれた立場で必死に責務を果たしてくれているのですが、
結局トータルプロデュースが上手く出来ていなければ意味が無いわけで…。
ということで続く2010年編は、
そのあたり上手にやろうと頑張っているんだけれども
『エリザベート』ほど大事業になると政治が絡んでしまうという
言わば大人の事情編、に続きます。
【第一夜:1990年代編はこちら】
【第三夜:2010年代編はこちら】
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コメント
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
エリザベートって平成の宝塚の代表作でしょうが、代表作は決して典型作ならず。
トートはある意味「演じる男役の本質」をあらわにする。
エリザベート役は、「シシィが似合う芸風であることと、宝塚の娘役として「できた嫁」であることは、本質的に相容れない要素である」ことをあらわにする。
”踊るときは 命果てるその刹那も 独り舞う あなたの前で”
これがズバッと似合う娘役・・・小池修一郎先生が2000年代にシシィに男の娘を起用したのも、シシィに宝塚の娘役よりむしろ歌舞伎の女形的な強さを求めたうえかも・・・
が、もうちっとやりようはあったようにも思うのですが。凪七さんの男役人生にとって、シシィはプラスになったと思えず。
今在団中の方なら、夢白あやさん?彼女の花組トップ娘役はちょっと無さそうとも思いますが・・・
いや~こんなに自分の感想と当てはまるとは。。蒼汰さんのエリザ考(2000年代)スカッとしました^^
春野さんはベルベットボイスともてはやされ、ファンも多かったですが、どうもあのがなりが苦手でした。
水トートは歌えない、爬虫類っぽいなどと散々に言われましたが、個人的にはこれぞトート様だ!と大好きでした。
白羽さんの美しさは圧倒的でしたね。彼女からシシィスターを髪に沢山(実際にウィーンで購入)付け始めました。
そして未来さんのゾフィーは、来日していた本家ウィーンの演出家から、どのように演じたらいいか聞いたそうで、まさに蒼汰さんのおっしゃる通りのことをアドバイスされたそうです。
2010年代も楽しみにしています。
ワンパン=アンパンチ に置き換えて一人受けていました。
本公演で次のシシィはどなたが演じるのでしょうね。