バウ作品らしい作品・雪組『ステップ・バイ・ミー』感想

 

雪組の御曹司・華世京にとって初の主演バウ公演、

『ステップ・バイ・ミー』をライブ配信で観劇しましたので、

感想をさっくり書いていこうと思います。

 

バウ作品らしい作品

 

何の前情報も持たずに観始めたのですが、想像していた方向性とはまるで違う物語で、単純に驚きました。ポスターが夏空を思わせる素敵なノスタルジー調だったので、てっきり青春群像系な話かと思っていたら、まさかのSF作品とは…。それも夏の風物詩ともいえるタイムリープ物ではなく、題材は「クローン」、これはビックリ。

本作は菅谷元先生の演出家デビュー作ということもあり、内容そのものの是非を論じるのは野暮でしょう。むしろ、やりたいことを全力でぶつけた瑞々しい初舞台だからこそ伝わってくる熱意がありました。1幕最後、過去の回想場面かと思いきや映画の撮影シーンでした…と戻ってくる鮮やかさや、2幕での怒涛の伏線回収、そしてほろ苦いビターエンドな結末(しかもフィナーレに含ませるという)と、あぁ、洋画っぽいなーとしみじみ感じたのです。バウホールらしい若手中心の公演に相応しく、真夏の青空のような爽やかさと、どこか切なさを湛えた一品だったと思います。

とはいえ、やはり全体的な演出の粗さが気になりました。場面転換が単調で紙芝居的、一つひとつの場面が冗長で台詞の掛け合いにリズムがない。今や多くの若手演出家が「舞台空間をどう効果的に使うか」に試行錯誤を重ねている中で、これはいただけません。また、90年代から2000年代初頭のアメリカが舞台であるとはいえ、装置や衣装、会話のテンションが「ノスタルジー」を超えて単純にダサかったです。

ただ、その中でも特筆すべきは多くのキャストにしっかり役を振っていた点でしょう。主要人物だけでなく、端役にまで物語上の役割や個性を与え、出演者全員に舞台で生きるチャンスを作っていたのは見事でした。これは宝塚歌劇団の演出家に最も求められる資質のひとつであり、デビュー作にしてその力量を示したのは大きな強みだと思います。宝塚でSF作品に挑むという発想自体が稀少ですし、次回作がどのようなアプローチになるのか、今から楽しみにしたいと思います。

 

さっくりキャスト感想

 

主演を務めたのは106期生の華世京。コロナ禍という厳しい環境で入団しながらも、御曹司教育を着実に受け、ついにここで大きく花開いた印象です。舞台に立った瞬間から「真ん中の人」であることを疑わせない存在感。まさしくザ・スターと言うほかありません。歌も芝居も破綻なく、堂々と主演を務め上げたのは立派の一言。ユージーンという主人公は、正直いえばありがちな役柄で、しどころのない難しいタイプ。それでも、まだまだ学生服が似合う若さや青さを活かしつつ、葛藤する青年像を丁寧に描いていたのは見事でした。

ヒロインのリリー(エイミー)を演じたのは108期生の星沢ありさ。彼女もまた正統派ど真ん中で、清楚さと可憐さを併せ持ちながら、瑞々しい輝きを放っていました。芝居も伸びやかな歌声も、真っ直ぐで誠実。登場するだけで舞台が一段明るくなるような存在感がありました。華世京との相性も抜群で、オーラで負けていなかったのが凄い。新人ながらヒロインとして十分な説得力を示していたので、今後の活躍がますます楽しみです。

娘2格・ジェシカを演じたのは106期生の華純沙那。楚々としたエイミーとは正反対に、華やかなチアガールとして登場し、学園の人気者らしい溌剌さを演じていました。芝居も歌も安定していて、どんな役でも確実に仕上げてくる力が頼もしいところ。今回で下級生の星沢ありさに抜かされたことで、彼女としては複雑な思いもあるかもしれませんが、雪組新(音彩唯)体制では娘2格として確かな活躍を果たしてくれることでしょう。

男役2番手は、最後のフィナーレを観るまで主人公の兄・フレッドだと思っていました…。そのフレッド役を演じたのは100期生の眞ノ宮るいは、1幕ではワルさ全開の悪にーちゃん、2幕では改心したイケメン兄貴という二面性を持ち合わせた役どころで、一度で二度美味しい存在感を放っていました。実力者である諏訪さき紀城ゆりやも別格枠として舞台に華を添えていたほか、ヒロインの親友役を務めた愛陽みち白綺華も歌声・芝居ともに安定感抜群。また、以前から個人的に芝居力を高く評価していた莉奈くるみもレポーター役として大活躍。アクセント的に印象を残し、場面を鮮やかに締めていたのはさすがでした。

 

咲城けいの進化が凄い

 

そして今回(も)一番ツボだったのが、102期生の咲城けいですよ!!前作『ROBIN THE HERO』で覚醒モードに入ったなと感じていましたが、今作でそれが確信へと変わりました。冒頭のコロスで見せた冷ややかな美貌は圧巻で、まるで凰稀かなめを彷彿とさせるほど。そして1幕での「DNAソング」で観客の心を鷲掴みし、2幕では悪い大人としてスポットライトを一身に浴びる姿は、まさに別格中堅スターの正しい在り方。彼女は舞台上で「異質な存在」として置かれるときに最も輝くことを、改めて強く感じました。

総じて、『ステップ・バイ・ミー』はデビュー作らしい粗さもあれど、瑞々しい挑戦と雪組若手陣の輝きが詰まった舞台でした。「今が一番若い」という、伝わっているような伝わっていないメッセージも感じられ、青春の眩しさと「すこし・ふしぎ」な物語が交錯し、夏らしい爽快さと切なさを残してくれたバウ作品だったと思います。皆さん、お疲れ様でした。

 

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