宝塚歌劇団全演出家の通信簿④・苦手&若手演出家編

 

宝塚歌劇団所属の演出家について、

ざっくばらんに語ってみようシリーズ第四弾。

本日は最終章の苦手&若手編です。

(更新順序の関係で宝塚再開の日に当たってしまったのが若干心苦しいですが、未来に向けてということで…。)

 

今まで以上に個人的な好き嫌いについて、

ストレートな書き方をしていますのであらかじめご容赦下さい。

 

【第一弾:個人的に好きな演出家編はコチラ】

【第二弾:打率高めな演出家編はコチラ】

【第三弾:宝塚を牽引したレジェンド編はコチラ】

苦手な演出家についての個人的総論

 

これから苦手な演出家4名について語るのですが、

私が勝手に考えている、この4人に共通していること。

それは大衆受けを狙うという気持ちが希薄なことです。

分かりやすく言うと、自己満足で留まっているということ。

 

映画や音楽といったエンタメ分野に関わらず、

全ての制作業において「自分がしたいこと」と「売れること」が

決してイコールになるとは限りません。

 

自分が表現したいものを表現する。

それはアーティストとして素晴らしい気概だとは思いますが、

それが売れなければ、ビジネスとしては失格なのです。

 

だからこそ、自分の表現したいことを、

いかに宝塚の一般ファン層に受ける表現に昇華出来るかこそが、

(かつスターシステムに順応させることが出来るか)

演出家に求められる最大の技量だと私は考えます。

 

その意味で、私が現時点で最高の演出家として挙げた3名、

すなわち小池修一郎、上田久美子、野口幸作は、表現の好き嫌いはあれど、

「自己表現」と「大衆受け」のバランスが実に上手いと思います。

 

それでは、私が個人的に苦手な演出家を書いていきます。

くどくど書くと心象悪くなりそうなので、

出来る限りさくさく参りたいと思います。笑

 

個人的に苦手な演出家編

石田昌也

最近の作品:『カンパニー』『壬生義士伝』『幽霊刑事』

 

通称、ダーイシ先生。

『誠の群像』はじめ和物作品を手掛けることが多い演出家。

 

石田先生の作品は、とにかく現実的。

もっとストレートに言うと昭和のセクハラおっさん的価値観が見え隠れして、

そんなこと言わせる必要ある?を平気で書いちゃうデリカシーの無さが特徴。

 

最近だと『幽霊刑事』で主人公が

「君の柔肌触れない~♪」的な歌詞を歌っていたのですが、

キャラ設定に合っていないし、幽霊であることを説明をするにしても

もと言い回しあるだろ!!とツッコみたくなるわけです。

 

男の私ですらこう思うくらいですから、

世の女性陣の拒否反応は想像に難くないのですが…どうなんでしょう?

 

なお、この石田節が逆に作用した、

例えば「銀ちゃんの恋」なんかはその昭和感が良かったりするんですけどね。

とにかく人を選ぶ演出家であることは確かだと思います。

 

木村信司

最近の作品:『蘭陵王』『ほんものの魔法使』

 

もう最初にストレートに言ってしまうと、

現役の演出家の中でも特にスーパー自己満演出家だと思っています。

 

過去には『鳳凰伝』『王家に捧ぐ歌』など、

数々の大作&ヒット作を手掛けてきたわけですが、

たぶんその自意識の強さが作品から溢れ出てしまっている印象。

 

その特徴は、ドギツイ色味と、

社会を切るようなメッセージ性を過度に盛り込むこと。

 

私自身「作品に一つくらいメッセージを込めるべき」という信条がありますが、

キムシン先生のそれとは、その方向性が根本的に合わない。

 

木村先生って、たぶん「人間嫌い」なんじゃないかと思うのです。

描かれるのは怒りや憎悪の先にある希望や救済ではなく、

諦めに近い感じがして私は苦手です。だって救われたいじゃないですか。

 

逆に言うと、そういうどん底な世界観が

ハマる人には死ぬほどハマるんだろうなぁと思うので、

評価は表裏一体なのかもしれません。

 

齋藤吉正

最近の作品:『夢現無双』『I AM FROM AUSTRIA』『CITY HUNTER』

 

大劇場デビュー作である『BLUE・MOON・BLUE』が、

そこそこ評価されたことが原因だと思うのですが、

中堅どころのはずなのに地味に自己満度が高い齋藤吉正先生。

 

80年代後半~90年代のオタク文化に大きく影響されているような作品が多く、

その時代のアニメのオープニングにありがちな、

全員集合的な幕開き演出に全力投球で掴みはバッチリなのですが、

裏を返すと、それだけとも言う。笑

 

そして映像演出に凝りたい性分なようで、

毎回とんでもなくお金を掛けていますが、

その中でも静止画のセンスが壊滅的なので至急改善した方が良いです。真面目に。

 

レビュー作品は『Misty Station』『La Esmeralda』など、

佳作が揃っているだけに、地味に惜しい。

 

最近の芝居作品は空振り続きだと私は思いますので、

初心を忘れず、そろそろ映像演出に頼り過ぎない、

構成をしっかり考えた作品を生み出して欲しいものです。

 

大野拓史

最近の作品:『El Japón』『柳生忍法帖』『シラノ・ド・ベルジュラック』

 

和物を得意とする演出家ですが、彼に関しては、

上3人の演出家と同じ括りにするのは若干可哀想な気がします。

なぜなら大野先生からは「大衆受けしよう」という気持ちが少なからず感じるから。

 

じゃあ何が問題って、それが下手なこと。

「する気が無い」と「下手」では大違いですからね。

フォローしているようで一番酷いことを言っているかもしれません…。(小声)

 

『Bandito』『阿弖流為』といった、

いわゆる男のロマン迸る系が良い方向に作用する作品は良いけれど、

ほとんどが「もっと上手く演出出来たのでは?」とツッコみたくなること多数。

 

た だ し 。

これは私が日本史に疎いのが原因かもしれないので、

あまり悪く言えないというのが正直なところ。

(たぶん世間的には、私が好きな田渕先生の方がこの評価な気がするから。)

 

ちなみにフォローしておくと、

衣装の再現度や美術へのこだわりは素敵だなと思います。

 

若手演出家を簡単に解説

 

ここからは若手演出家、

つまり大劇場デビューしていない演出家の先生についてを、

簡単に解説していきたいと思います。

 

まずは礼真琴主演『鈴蘭』でデビューした樫畑亜依子先生。

彼女の作風は(植田景子+小柳菜穂子)÷2という、

当時の女流作家の良いとこどりしようとしているものだと思います。

 

個人的には暁千星主演『Arkadia』は相当好きで気に入っているのですが、

続く『壮麗帝』はただの歴史絵巻になってしまって、うーんという感じ。

 

同じく女流作家の町田菜花先生。

デビュー作『PR×PRince』を見る限り、

彼女は分かりやすくポスト小柳菜穂子という立ち位置なのでしょう。

 

それすなわち、ポップなライトノベル、を通り越して、

『PR×PRince』はもはやアプリゲームみたいなテンションの作品でした。

次作が気になるところですが、現在育休中とのことでしばらく登板は無いかな?

 

さらに続く女流作家チーム、

『龍の宮物語』の指田珠子先生と『夢千鳥』の栗田優香先生。

この2人はポスト上田久美子で、デビュー作からして和物の情念系。

 

こう振り返ると、若手女流作家組は、

当時の主流をそのまま取り込む流れが続いているなぁという感じですね。

 

指田先生と栗田先生は次作が東上主演で決まっていますので、

果たしてどんな出来栄えになるか、要注目です。

 

そんな女流作家の波に埋もれてしまったのが、

『PRINCE OF ROSES』でデビューした竹田悠一郎先生。

作品の出来について、少しばかり同情しています…。

 

というのも、掲載後にあらすじが書き換えられたり、

星空美咲が謎のヒロイン扱いになったり等、

自分が想定していたものに対し、

大人の事情がだいぶ食い込んできたんじゃないかと思うからです。

 

そんな事情を鑑みながらも一つの作品を生み出してこそ、

宝塚の演出家なわけですから、彼の次作にも期待したいと思います。

 

宝塚歌劇団全演出家の通信簿・まとめ

 

以上、宝塚の演出家31名についての個人的感想をまとめました。

いやぁー、長かった!!笑

 

実はこれ、今年の年始特別連載企画として書き始めたのですが、

いかんせん量が多く書ききれず、

今更の掲載となったという裏話があります。

 

色々と書きましたけれど、ここまで座付き演出家を抱え、

かつオリジナル作品をここまで頻繁に生み出す劇団なんて、

宝塚歌劇団以外ではありえません!!

 

新たな名作、あるいは珍作が生み出されることを楽しみにしつつ、

演出家の皆様へのエールを送り、記事を〆たいと思います。

 

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コメント

  1. ちょっこー より:

    苦手作家さん、まさに!という感じでした。
    斎藤先生は僕は結構好きですが。
    他の3人はとにかく途中眠たくて観るのが苦痛になるんですよね。
    特に木村先生。
    会話が通じなさそうな感じ。
    今回は、これはこれでモヤモヤしてたものを代弁してくれてありがとうという思いです。

    • 藤井秀人 より:

      古くから観ているというだけの男性ファンです。
      アレッ❔酒井さんのダル・レークや草野さんのノバ・ボサ・ノバ、三木さんのミーアンドマイガールが消えてると思ったら、私と同じ思いの指摘があったのですね。
      苦手作者の石田、斎藤……呼びすて……は同感です。「お前が孕ませたんだろ」を宝塚の娘役の言わせる感覚がわかりません。おそらく二人とも少年漫画と娯楽小説だけで育ったんだろな、こんな奴宝塚にいらんのやけどと思ってます。プラス正塚のボキャブラリー不足と小柳の超ミーハーにも付いていけません

  2. 藤井秀人 より:

    先ほどの藤井です。
    すみません、三木さんのミーアンドマイガールは消えてませんでした。この作品を最初に演出したのは亡き小原弘宣氏で、初演が大ヒットして次の公演で再演したという伝説があります。その後、すぐに亡くなったので、三木さんが代役しています。

  3. かめちゃん より:

    こんにちは。いつも楽しく拝見しています。
    苦手な演出家4選、とても同感です。斎藤先生の芝居オープニングは華やかでテンションが上がるのに、その後の展開のしらける感じがなんとも…。個人的にはサントアムールが最悪でした(笑)。娘役主演という激レア公演でもっとやりようがあったのでは。これじゃ愛希主演の公演というよりも天紫ヒロインの公演の側面が大きすぎるのでは…と思いました。すごく勿体なかったなぁと思いました。

    樫畑先生は壮麗帝で「ふーん」くらいに思っていたら、後追いでアルカディア観たらめちゃくちゃ面白くてびっくりしました!いま絶賛されてる指田栗田も次どうなるかわからないし、逆に竹田先生が傑作を書くかもしれないし、今後が本当に楽しみです。
    ちなみに、町田先生は去年は産休に入ってたと歌劇に書かれてたかと思いますよ!

  4. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。

    個人的に木村先生は「人間嫌い」とまでは思わないのですが、「大衆嫌い」は感じますね。「宝塚に現実逃避、ひたすらキラキラ✨カッコイイを求めるマダム」を嫌っているのでは?な印象があります。

    「王家に捧ぐ歌」の幕があがりますが、スチールの衣装を見るに皆20世紀後半の米軍的な衣装らしいですね。

    「古典オペラの新演出」とかでは、古代エジプトを現代ファッションで演出するはよく見ますが、ここは宝塚。

    関西でいえば梅芸とかドラマシティの「既存の宝塚ファン」しか行かない劇場でやるなら、新演出もまだわかるんです。

    宝塚が来るのは2年ぶりの、名古屋の御園座のお客とか、地方の県民ホールの全ツに来る客が「宝塚」に求めているのをわかっているのか?そこを嫌ってどうする?それがジャーナリズム?とは思いますね。

  5. うちやね より:

    演出家シリーズ、連載お疲れ様でした。きれいに整理整頓された蒼汰さんの文章で先生方の分析を読むのがとても楽しかったです。

    木村先生の「どん底な世界観がハマる人には死ぬほどハマる」にギクリとしてしまいました…笑
    好きな作品はなにか、と言われるとすぐに思いつくのは明るい作品、人間の影の部分を描きつつその先に救済のある作品なのですが、木村先生の作品を見終わった後に心に残る「あぁ…」みたいな(?)感覚が個人的には妙なクセで、リピートしているのは不思議と後者です。
    ただこれがクセになるか、それとも苦手になるかの差が見る人によって大きいというのはもう、間違いないです笑!

    ベテラン中堅はもちろん、若手の先生方の登板もワクワクしますね。これからも続々と個性あふれる作品(出来れば名作!)が産まれてくるのが楽しみです。

  6. M より:

    脚本家まとめお疲れ様でした!楽しかったです

    大河ドラマでいだてんが放映していた頃、三谷幸喜が宮藤官九郎に対して「宮藤くん、大河ドラマはね、視聴率大事だよ」と声を掛けたらしいということを思い出すような記事でした。
    いだてんは確かに面白いっちゃ面白いんですけど大河ドラマという枠組みで見たらメインターゲット層に届く作品では無かったなという印象だったので、置き換えると三谷幸喜タイプが最初の記事で出た御三家、宮藤官九郎タイプが今回の記事で出た脚本家って感じなんですかね。

    さて、私は蒼汰さんとは逆に時代劇好きからの日本史好きっていう流れで来ているんですが大野先生は日本史好きというよりも昔ながらの時代劇が好きだと大分好みドンピシャな作風なんだろうなと思われます(実際かなり好みな作品が多いです)。必殺仕事人なんかもハードな過去背負わせる割に殺陣見ると「何で花の茎とか組紐だけでで人殺せるんだよ!!」みたいな突っ込みしか無いんですけどあのガバガバ加減だからこそ作品として面白いんだよなという価値観があるんですよ(それを押しつけるなという話かもしれませんが)。テレビで面白い()新作時代劇が少なくなってきた今、そこを心の底から愛し、継承してくださっている希有なお方だなとありがたい気持ちで見ています。笑

    でも田渕先生もハリウッド・ゴシップが個人的に大好きな作品なのでお気に入りの作家さんです!今度のジェントルライアーでの手腕を楽しみにし…配信が無いから見られないので残念です…

  7. 真風間 より:

    いつも楽しみに拝見しています。

    苦手・若手演出家編、同感です。
    若手演出家には色々期待しますが、第一印象で苦手だと思った演出家ってやはり何年経っても自分にはいまいちなんですよね。
    自分の贔屓には当たってくれるな!と思うばかりです。

    私は石田先生・齋藤先生・昔の植田御大の作品に生理的に不快に思うセリフがあるので苦手です。

    齋藤先生の大劇場デビュー作は初日に観ましたがその時から友人達の間でも賛否両論でしたね。でもショー作品はまだ良い方かな。
    芝居ではバウ巌流・バウ桐生園加のYoungBloods!・夢現無双と三回も「宮本武蔵」を題材にしていますがどれも空振り。
    他の方も書かれていますが愛希れいかのバウも残念でしたし、期待はしません(笑)

  8. こころ夫人 より:

    いつも楽しく、興味深く拝見しております。
    あらためて、ほんとに楽しい企画記事でした。自己の観劇の軌跡を遡ったりして、様々面白かった。ありがとうございました。
    演出家先生とトップ男役さんが入団同期で…、と過去のエピソードなどを語られていたのを機関誌などで読み、先生と生徒の立場であっても、共に劇団で切磋琢磨し成長されてゆかれたのだなぁ、と、しみじみ。
    蒼汰さんがおっしゃる通り、今後の名作や珍作を楽しみに、これからも観劇にはげみます。近くは明日、御園座の「王家に~」観劇ですが、どうでしょうか、ワクワクとざわざわ感があります(笑)

  9. hiro より:

    楽しみに拝読しています。
    石田先生は台詞が下品で嫌い、愛と青春の旅立ちの銀橋の台詞でびっくり、もう一寸宝塚らしい表現方法はないものか、柴田先生の格調ある台詞を学んで頂きたい。
    木村先生は美しい思い出の虞美人をあんなつまらない作品に貶めた恨みは忘れないぞ。
    どうでもいい台詞を歌にするのは止めてほしい、いくら王家にが好評だったからと言っても、私はこの作品も面白いとは思えず好きではないのですが。
    大野先生はいつも期待はずれで眠たいですね、夢の浮橋など。
    阿弖流為もこの先生ですか、これはよかったです。

    これからも楽しい記事を期待しています。
    頑張って下さいね。

  10. May より:

    石田先生はロックオペラモーツァルトの「シングルマザー」等の単語が世界観ぶち壊しで興醒めだなーと思いました。言葉は大事です。エルベの何とも言えないいにしえの単語が雰囲気出していたあたり、やはりウエクミ先生です。
    会社でも上司は選べませんし、置かれた環境で頑張るしかないのでしょう。
    幕が上がった王家の、歌の評判を聞くにつけ、つくづくリーダーは重要だなと思います。あんなに圧とハッタリと評されていた星が、今や(多少の贔屓目はあるでしょうが)「みんな歌がうまい!」と言われる始末ですから…

  11. より:

    姿月あさとさんのバウ公演「結末のかなた」が大好きで木村先生、イイ先生だな、と思っていました。しばらく宝塚を離れてまた戻ってきたらなんかえらいハズレくじ扱いになっていてびっくり。あの頃、今のキムシンをまったくもって予想していませんでした。もしかして姿月あさとさんがかっこよかったからイイ作品に思っていたのかな?思い出補正なのかな?瑠菜まりさん演じる小林少年が可愛かったです。