上田久美子の功績を振り返る

本日は7月7日、七夕ですね。

スカイステージでは七夕を舞台にした『星逢一夜』が放送。

作・演出はご存じ、上田久美子。

 

上田女史と言えば、演出家デビュー以降、

全ての作品がホームラン級のヒット。

座付きの若手演出家の筆頭として大活躍中なのは皆さんご存じの通り。

 

いつか全作品の感想を書いてみたいと思いつつ、

本日は彼女が生み出した作品の

様々な「功績」について簡単にまとめていきたいと思います。

 

上田久美子の功績を振り返る

月組『月雲の皇子』

 

彼女の演出家デビュー作品は

当時月組の大御曹司様であった珠城りょうのバウ初主演作品。

あまりの好評ぶりに急遽東上公演も追加された伝説の一投。

 

その後の珠城りょうの運命は、

この作品のヒットによって決定づけられたと言っても過言ではありません。

 

研6にして、男役としての芯を感じさせるような脚本・演出は見事ですし、

「脇で光る路線」としての鳳月杏の知名度を上げた作品でもあります。

 

今見返すと脚本も演出も粗削りな部分もありつつ、

ところどころ醸すウエクミ節はこの時点で既に構築済み。

デビュー作とは言えない圧倒的クオリティです。

 

宙組『翼ある人びと』

 

当時、宙組の2番手スターだったはずなのに、

凰稀かなめ&緒月遠麻の通称テルキタ体制により

いまいち中途半端な立場にいた朝夏まなとに勢いをつけた佳作。

 

さらに、抜擢続きのわりに結果を出せていなかった

95期のジョーカー・伶美うらら

最も正しく舞台で輝かせてみせた作品でもあります。

 

(蛇足)この記事を書くまで気付いていなかったのですが、

時系列だと愛月主演バウ『SANCTUARY』の方が後なんですよね。

見比べると分かりますが、伶美の輝き度が全く違います。

 

この特大ホームラン2発で上田女史は一躍若手演出家の先陣に立ち、

凄まじいスピードで大劇場演出デビューに辿り着きます。

 

雪組『星逢一夜』

 

トップスターにとって任期2作目は、

その真価が問われる「千尋の谷」。

 

早霧せいなにとってのそんな「千尋の谷」に、

雪組の和物として最高級の一品を届け、

ちぎみゆ人気を不動のものにした3発目のホームラン作。

 

かつ、望海風斗を交えた「トリデンテ」体制を明確にした一作でもあり、

ここで今に繋がる雪組の人気ぶりを

確立した一作だといっても過言ではないわけで、

裏を返すと100周年以降も宝塚人気を維持出来ている遠因的作品でもある

…なんて書いたら言い過ぎかな?笑

 

兎にも角にも、大劇場演出デビュー作にして、

これほどまでに他方に影響を与えた渾身の一作って、

宝塚の歴史は長しと言えど、そうは無いでしょう。

 

花組『金色の砂漠』

 

ついにトップ(娘役)さよなら公演まで手掛けるようになった上田女史。

 

96期のスケープゴートとして叩かれ続けた花乃まりあに、

「この役を演じるためにトップ娘役になったのでは?」と思わせるほどの

最大級の当たり役を作ってあげた一作とも言えます。

 

気高く傲慢で高貴なタルハーミネ。

この役を得ただけでも、彼女には大きな財産になったはずです。

 

さらにトップオブトップ・明日海りおも、

この作品とギィという役をいたく気に入ったのでしょう。

メモリアルブックでは表紙まで飾っています。

これぞ演出家冥利に尽きるというものですよね。

 

宙組『神々の土地』

 

上田久美子×朝夏まなと×伶美うららという、

『翼ある人びと』再び、という布陣なわけですが、

ファンの中ではそれはそれは高いハードルが設定されていたはずなのに、

それを簡単に飛び越えてしまうのが上田女史の恐ろしいところ。

 

何が凄いって、当時トップ娘役は空位。

伶美うららを立てつつ、しっかり次期トップ娘役の星風まどかの出番も作り、

かつ正ヒロイン?の位置に真風涼帆を配するという、

こじれた人事を綺麗に舞台上で構築してみせたことでしょうかね。

 

朝夏まなとの実直な人柄を舞台で綺麗に見せつつ、

登場分数を数えると意外と出ていない伶美をヒロイン格に見せながら

星風も善戦出来るよう美味しい位置に置くという…もう本当に素晴らしい。

 

大劇場お披露目→トップ娘役さよなら→トップスターさよなら、

江戸時代→砂漠の国→深雪の国とステップアップ&舞台を上手に変えながら、

上田女史は続いてのステップに足を踏み入れます。

 

月組『BADDY』

 

これは凄い。

何が凄いって、そりゃ作品としても凄いのだけれど、

『月雲の皇子』で演出して見せた珠城りょうの朴訥とした男役としての魅力を、

自分の手でぶっ壊してみせたことでしょう。

 

なんやねん、月からやって来た悪党って。

めちゃめちゃ面白いでんがな!!

 

ということで上田氏のショー作品デビュー作は

賛否両論巻き起こしたわけですけれど、いいじゃん面白ければ。

 

本人のキャラとは全く違う方向でアプローチすることで、

かえって本質的な魅力を映し出すというのは、

宝塚ではよくやる(特に任期2作目の「千尋の谷」で)ことですが、

たいがい失敗するのに、ここまで見事に昇華させたのは、

単純に凄いの一言です。

星組『霧深きエルベのほとり』

 

今作は1963年初演の「温故創作」作品であり、

上田女史はあくまで「潤色・演出」という立場なわけですが、

見ればわかります。なるほどこれはウエクミ作品だわ。

 

宝塚らしい古臭い作品を、現代風に上手にアレンジされているあたり、

さすがとしか言いようがありません。

演出家として完璧な「お仕事」を見せてもらった気分です。

 

とにかく、泥臭い紅ゆずるのカッコ良さったらない。

本人のキャラとは全く違う方向でアプローチすることで、

返って本質的な魅力を映し出すという意味では、『BADDY』と全く同じですよね。

 

悔やまれるのは、この作品を紅の2作目に上演していたら

星組がもっともっと盛り上がっていたんじゃないかなぁということでしょう。

 

劇団は早い段階でトップスターとしての紅に

「クラシックな男役の魅力」を見出したかったようですが、

この作品に早く出会っていたら、展開が変わっていたかもしれません。

つくづく惜しいです。

 

上田久美子の重責を思う

 

ということで簡単に振り返って参りました。

全ての作品がホームラン級のヒット作であり、

かつ人事的にもスター本人的にも、

いかに大きな功績を生んできたかが分かるでしょう。

 

そして劇団内での彼女の評価もうなぎ登りでカンスト中。

2020年は彼女の脚本作品が本来であれば3作も上演させる予定でした。

 

まず、珠城さよなら公演『桜嵐記』。

珠城とは『月雲の皇子』『BADDY』で組んでいますので、

さよなら公演は縁がある演出家に任せることを思えば、当然の登板でしょう。

 

そして『FLYING SAPA』。

構想は上田女史の中で昔から温めていたものらしく、

様々な舞台演出が取り入れられる「ACTシアター」での公演は

ヒット作を生み出してきた上田女史への劇団からのご褒美だと捉えます。

 

以上を踏まえ、望海&真彩さよなら公演となる『fff』に登板させたことは、

個人的には結構な驚きでした。

 

どんな作品であろうと望海&真彩さよなら公演なら大入り確実にも関わらず

あえて上田久美子を登板させたということは、

望海&真彩の描く夢物語を完璧なものにしたいという

小川理事長の漢のロマンを感じちゃいますね。笑

 

どちらにせよ上田女史にとっては凄まじい重責。

さよなら公演ばかりを任されるということは、

劇団から大いに期待されていることには間違いありません。

これからも変わらず素晴らしい作品を生み出してくれることを祈ります。

 

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コメント

  1. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。スカステ専科の地方民です。

    正ヒロイン真風・・・そうか、神々の大地はポーの一族と同じ構造だったのね(笑)

    「BADDY」は「エヴァンゲリオン」である。

    TV放送版「エヴァンゲリオン」は、特撮のあまり真面目に考えてはいけない「お約束」、

    「あの怪獣たちは、なぜ地球の同じ地点に、律儀に毎週1体ずつ、そもそも何をしにくるの?」

    に、律儀に設定と「意味」を与えようとして、ラスト、案の定クラッシュしたのかなあと思うのですが。

    私の望みは「宝塚に関するすべての知識をリセットして、宝塚のショーを生まれて初めて見た「初見の衝撃」を、もう一度味わってみたい」なんですけれどね。

    初心者は宝塚が「2部構成」ということがわかっていなくて、第2部も休憩の前のお芝居の続きだと思っているんですよ。でショーが始まって、最初はお芝居をみるように、「文脈と意味」を見出そうとして

    皆に称えられてお出まししてきた、やたらキラキラしたこの人、誰?

    そのキラキラした人と同列?でもスパンコールが少し少ない人、どういう関係?

    いきなり喧嘩が始まって、刺されて、レクイエム?あれ?蘇った!

    なんでみんな揃って足を上げているの?あれは何を表現しているの?

    さっき死んだ人と、刺した人がニコニコ踊っている?

    大きな階段で2人で踊る意味は?

    ??????????????????

    「ショーのシーンどうしは繋がっていない、文脈も特にない」ことが、文脈を読みたがる人にはわからない。

    「BADDY」はファンになって慣れてしまうと「ああ、お約束ね」で、あえて考えなくなる「お約束」に、いちいち「意味」を持たせようとした、宝塚版「エヴァンゲリオン」だと思ってます(笑)

  2. 和世 より:

    脚本に破綻がなく、美しい悲劇を重厚なトーンで魅せて下さる方だと
    思います。歌える方には歌を、お芝居に長けている方にはそちらをと
    個々のジャンヌさんに合っていて、尚且つ組内のピラミッドも壊さない
    (不要な軋轢を生まない)ということを成立させられるので、頭の良い方なのだろうと容易に拝察できます。
    (2008年まで劇団にいらっしゃった荻田浩一さんと似ている気がします)

    大劇場デビュー作だった『星逢一夜』の中日劇場版が、初の上田久美子氏作品でした。前評判も予備知識もなく観ましたが、気付けば涙していた記憶があります。

    朝夏さんのご退団公演『神々の土地』が二作品目です。
    類稀なる美しさである伶美さんの美と麗しさを余すことなく引き出し、最大の餞を贈られました。
    (植田景子氏が美しいものを愛でるタイプなのに対し、上田久美子氏は“痛(傷)んでも、なお美しいもの”を追求なさるという違いが
    あると思っています)

    一つの作品ごとに高まる期待を超えていくだけでなく、ご本人にも
    もっともっとという貪欲さがあるように感じます。
    佳作を傑作にするのではなく、傑作を大傑作にして初めて
    自分を褒める…みたいなものがあるように思えてなりません。

  3. ひの より:

    いつも楽しく拝読してます。

    演目順!これ、本当に大切だと思います!! 

    >この作品を紅の2作目に上演していたら
    >星組がもっともっと盛り上がっていたんじゃないかなぁということでしょう。

    本当にその通りだと思います。

    私が考える紅さんのベストは
    アナワ→エルベ→スカピン…あとはどちらでも、です。

    対してちぎみゆが
    ルパン→ケイレブ→るろう…
    だったとしたら、今の評価はどうだったでしょうか。

    そして、望海風斗。
    どの順番でも(例えお披露目が凱旋門だったとしても)あまり評価は変わらなかったのではないかと思います。
    (ファントムがお披露目だったら、もっと評価が高かったかもしれません。)

    同様に、上田先生の作品はどの順番であっても素晴らしい評価に値しますが、演者とのタイミングは大切です。

    真に実力がある場合、順番は関係なく、そうでない場合はプロデュースがとても大切なのだと改めて考えさせられました。

    これからも楽しくかつ感慨深いブログ、楽しみにしています。