上田久美子 VS 野口幸作

宝塚歌劇は、エンタメ事業の中でも

ことさら「垂直統合システム」の色が強い事業であると言えます。

 

簡単に言うと、企画・制作・販促営業が

一気通貫的に顧客(観客)へ提供されることで

宝塚的世界観・美意識の構築が容易に出来ると同時に

「人事」や「上層部の意図」を直接作品に反映することが出来るということ。

 

ここで重要な点は、宝塚歌劇団に直接雇用されている作家・演出家によって

公演作品が生み出されるからこそ、

このシステムの歯車を上手にかみ合わせることが出来ることでしょう。

 

よって、演出家の育成というのは

スターの育成と同じくらい、宝塚において至上命題であるわけですが、

昨今の再演&海外ミュージカル公演が続く中で

それが上手くなされていないという指摘が多いのも実情です。

 

そんな中、若手演出家の中でも

その個性を発揮し、頭角を現している人たちもいます。

 

個人的にその名前を挙げるなら、

上田久美子野口幸作。

 

実はこの2人、

同じ2006年入社の同期なの、皆さんご存じでした?

 

本日はそんな、これからの宝塚を担うであろう

演出家の2人にスポットを当てたいと思います。

 

上田久美子・人間の「業」を描く鬼才

 

というわけで、まずは若手演出家の中でも

群を抜いて知名度・人気の高い

上田久美子氏についてまとめていきたいと思います。

 

上田久美子・作品集

2013年:バウ&東上『月雲の皇子 -衣通姫伝説より-』主演:珠城りょう

2014年:東上『翼ある人びと -ブラームスとクララ・シューマン-』主演:朝夏まなと

2015年:本公演『星逢一夜』主演:早霧せいな

2016年:本公演『金色の砂漠』主演:明日海りお

2017年:本公演『神々の土地-ロマノフたちの黄昏-』主演:朝夏まなと

2018年:本公演『BADDY-悪党は月からやって来る-』主演:珠城りょう

2019年:本公演『霧深きエルベのほとり』主演:紅ゆずる

 

この層々たる作品群、そして名作の嵐。

凄くないですか?

名作打率100パーセントの演出家なんて、そうはいませんよね。笑

 

一発目の『月雲の皇子』からホームラン級の大ヒット。

バウ公演のみの予定だったものを、あまりの評判ぶりに

急遽東上公演を果たしたという、伝説の名作です。

 

上田の名前を一挙に知らしめたとともに、

珠城りょうの代表作にもなりました。

 

続いて、これまた名作である『翼ある人びと』で

ホームラン級のヒットを飛ばし、

そこから一気に本公演担当の演出家へと大出世、

その後の活躍は皆さんご存じの通りです。

 

 

上田久美子氏の人気の秘訣は、もちろんその「物語性」なわけですけど、

すごい俗っぽい言い方をしちゃうと

90年代初期のトレンディドラマ風というか、平成後期の韓流ドラマ風というか、

おばさま達の琴線に触れる「メロドラマ」なんですよね。笑

 

人間の内なる業を描き、

道ならぬ道へ突き進んでしまう愛憎劇、といいましょうか…。

 

それが、宝塚的美意識の世界感の中で表現し、

かつ演じるスターたちに上手に「当て書き」するからこそ

舞台として華麗に成立している、という印象です。

 

 

そしてもう1つ、彼女独特の美意識に基づく

演出の美しさも特筆すべき点と言えるでしょう。

 

季節の移り変わりを表現する、ヒラヒラ衣装の女性ダンサーや

時間の経過と緊迫感を表現する、人垣の群れ。

舞台空間を斜めに横切ったり、高低差を利用した、演出の数々。

 

面白いのは『月雲の皇子』の時から

この演出方法を既に取り入れていることです。

デビュー作から演出家としての迷いがないのは素晴らしいこと。

そりゃブレずに我が道を突き進めるよなと改めて感心してしまいますね。

 

野口幸作・キラキラアイドルの極地

 

続いて、上田の陰に隠れがちだけれども

順調に演出家としてのステップを踏んでいる野口幸作氏。

 

野口幸作・作品集

2013年:バウ『フォーエバー・ガーシュイン』主演:芹香斗亜

2014年:バウ『パルムの僧院』主演:彩風咲奈

2015年:バウ『A-EN』主演:朝美絢、暁千星

2016年:本公演『THE ENTERTAINER!』主演:北翔海莉

2017年:本公演『SUPER VOYAGER!-希望の海へ-』主演:望海風斗

2018年:本公演『BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』主演:明日海りお

2019年:東上『ON THE TOWN』主演:珠城りょう

2019年:東上『花より男子』主演:柚香光

 

デビュー当初はいまいち精彩を欠いたものの

朝美&暁のバウ公演『A-EN』にて得意分野を自覚。

 

彼の得意分野、それはつまり

「小難しいことは考えず、男役がカッコ良ければそれで良し!!」

という、上田氏とはある意味対極の作風であることでしょう。

 

上田氏の作品が「一昔前のトレンディドラマ的メロドラマ」だとすれば

原田氏は「若手ジャニーズが主演の少女漫画原作ティーン向け映画」

とでも言いましょうか。

 

その一つの答えが、本年の東上公演『花より男子』でしょう。

確かに制作発表会はアレでしたけど、

こういうキラキラジャニーズ芸を突き抜ければ、

それも一つの大きな魅力となるということを、見事結実させたのでした。

 

そしてこの答えにたどり着くために辿った、

本公演での「スペキュタキュラー」3部作は

まさに彼の美意識を象徴するような作品となっています。

 

名前をもじったオープニング、キラキラゴンドラ、

スタイリッシュなダンスに、シックなジゴロシーンやスパニッシュ場面。

こっ恥ずかしいセリフ、J-popやアイドルソングの多様…。

 

これまで宝塚で生まれた、レビュー作品でのあらゆる手法を

口当たり良くして幕の内的にぜ~んぶぶっこみました的な、

ショー作品としての究極進化版だと言えると思います。

 

宝塚の品格警察の皆様的には「あんなものは宝塚ではない」的な、

いつもの文句も聞かれるわけですが…笑

 

時代とともに変化し、色々な価値観を内包してきた宝塚の

ショー作品の1つとしては、私は有りだと思います。

特に深いことを考えず、ただただ楽しめればそれで良いんですもの。

 

 

そして彼の演出技法で特筆すべき点は、

映像演出の妙ですかね。

 

『BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』のアイドル場面に始まり、

別箱公演の『ON THE TOWN』『花より男子』は

どちらも映像表現を上手に多様した公演でもありました。

 

作品の演出の幅を広げるために、

本公演でも今後映像演出が増えていくのは明白ですから

そういう意味でも彼はフロントランナーとして

活躍を期待されているのかもしれません。

 

上田久美子&野口幸作の今後に期待

 

さて、この2人は2018年において

『BADDY』『BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』という

対照的なレビュー作品の傑作を生みだしました。

 

レビューとしては異質な物語性を反映させた『BADDY』と

宝塚ド真ん中を突き詰めた『BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』

 

イイヒトになりがちな珠城を加山雄三風に仕上げ、

高尚な内容かと思いきや結局は「結ばれてはならぬ2人の愛憎劇」という

典型的メロドラマを歌とダンスと演出と衣装で魅せた『BADDY』。

 

咲き乱れる花とは明日海りお率いる花組であり、104年続いた宝塚でもあり、

普遍的なタカラジェンヌの価値観と明日海りおの物語をリンクさせ、

さながら退団公演かと言わんばかりのゴージャスな演出を魅せた『BEAUTIFUL GARDEN-百花繚乱-』

 

いやー、面白いですよね。

振り返ると2018年はレビュー公演のクオリティが高い1年でしたが、

その中でもこの2作はまさに特出していたと思います。

 

これからの宝塚新時代は、95期のツートップ・柚香&礼のように

この2人が握っているといっても過言ではないのかもしれません。

 

2020年、上田氏は宙組のACT公演を手掛けていることが決まっていますが、

果たして野口氏の次の登板は何になるのでしょう。

これからの2人の活躍に期待したいですね!!

 

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コメント

  1. 絢香 より:

    宝塚の品格警察に笑いました
    私はライトファンなので、魅力的であればいいじゃんと思って日々観劇しておりますが、品格警察の方々は厳しいですよね(笑)
    ガチファンの方とお話する時は色々なことに気を付けております

    これからも応援しております!

    • 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      私も気を付けているのですが、時々お叱りを受けるので難しいです…笑
      これからもどうぞよろしくお願いいたします。^^

  2. ミルクティー より:

    初コメント失礼します。
    いつもブログの更新を楽しみにしていました。
    私は宝塚の新規ファンです。上田先生の作品のファンでしたが(笑)、スーパーボイジャーを観て野口先生の作品に感動したので、コメントを書かせていただきました!
    特に翼ある人びと、BADDY、スーパーボイジャーが好きです。
    これからもブログ楽しみにしています!

    • 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      私もその3作、大好きですよ。SVは私を雪組好きにさせた運命の一作なので、今でもよく見ます!!
      これからもどうぞよろしくお願いいたします。^^

    • たま猫 より:

      納得のご意見スカッと胸に落ちました。これからのお二人の先生の作品等のコメントお待ちしています!

      ウエクミ先生の切ない心情も描ける物語は大好きです。BADDYが特にお気に入りですが星逢も大好き!

      野口先生のSV私も大好き!個人的には、あーさファンですが、雪組生徒さん達が大好きなので、名前入れた歌詞や、アイドルシーンはウキウキしますし、ジャニーズ路線は是非続けて追求して欲しいです!

      蒼汰さんが雪組好きらしいので、
      コメントいつも楽しみにしております。

      • 蒼汰 より:

        コメントありがとうございます‼
        その作品たち、私も好きです。今見てもSVはワクワクしちゃいます!!
        彩風潤体制でウエクミやって欲しいなとか思うのですが、まぁ難しいですかね…。

  3. はる より:

    各組を観劇ファンではないので色んな方のブログを拝見したります。
    すると上田先生はファンに好かれてると感じます。ファンが発表された作品の演出家を知って安心し、楽しみにしていますね。良い作品を生み出されるのでしょうね。
    野口先生はSVを映像で拝見した時にオタクに近い気質を感じて宝塚の演出家も変わったんだなぁと感じたことを思い出しました。笑

    個々を大事にしても許される時代になった分、万人に受けるって事が難しいとも言える時代です。ただ、宝塚は何か一つ二つでも「これ好き!」があるとショーは通いたくなるのでオタク気質もそのスターのファンには刺さるのでたまには良いと思います。
    座付き作家がいるのにオリジナルのお芝居の当たり外れは致命傷になりますから先生方には是非、頑張って頂きたいです。

    演出家、装置、美術、音楽、衣装と出演者の全てが揃ってヒットとなると思いますからそれぞれの分野での育成が必須ですね。衣装や装置、音楽は目を見張るほどの豪華さと進化はしていると思います。生徒のダンスなど技術水準も上がって来ています。その分、出演者のパワーで駄作をねじ伏せるって事は稀にはなっているとも感じます。

    1年ほど前に6年ぶりに出戻ってみた時に今の生徒の入団(入学)の時のレベルが上がったんだなと感じた事を思い出しました。

    • 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      確かに価値観の変容、というか多様化って宝塚に限らずですが本当にあると思います。
      特に宝塚は伝統と変容を受け入れながら105年走り続けてきたわけですが、これからもそのスタンスは大事にしていって欲しいですね。
      最近はスターパワーよりも演出等で作品をねじ伏せることが多い印象です。笑