お耽美過ぎて不明瞭・星組『VIOLETOPIA』感想

 

星組『RRR/VIOLETOPIA』を観劇してきました!!

 

 

星組『RRR』は前評判通り、本当に素晴らし過ぎて、

感想が上手くまとまらないくらい…。

なのでショーの『VIOLETOPIA』から感想を書いていきます。

 

なぜにこんな前置きをしたかと言えば、

まぁ、お察し下さい。←

 

漠然とした『VIOLETOPIA』

 

これまでの作品を振り返るに、指田先生の素晴らしい点は「余白の多さ」だと思います。セリフで説明し過ぎず、空間と間合いで心情を伝え、物語を綴り、そして観客に想像させる。この手法はデビューから一貫していて、だからこそ私は指田作品が本当に好きでした。けど、本作『VIOLETOPIA』はあまりにも説明不足かな、というのが第一感想です。ショーとは一般的に概念の集合体だと分かっていても、私の中で定めている作品の良し悪しは「何も知らない一般人が楽しめるか(理解出来るか)であり、その意味で本作は不親切設計過ぎました。

テーマはざっくり「朽ち果てた廃劇場が夢見る追憶幻想」といったところ。冒頭、彷徨う青年たる礼真琴が劇場に触れると、何かが目覚め、記憶の歯車が回り出す…。からのテーマソング「VIOLETOPIA 見えない声が手招くこちら」「今宵はあなたと我らのもの 夢燻らす劇場VIOLETOPIA」。実に退廃的でお耽美なオープニングです。…けど、最後まで通して観た後に振り返ると、ここでちゃんと歌なりセリフなりで状況説明をした方が良かったと思います。

これが例えば『シルクロード〜盗賊と宝石〜』だの『万華鏡百景色』だの、分かりやすいタイトルだったら不要ですよ?だって何も前情報が無くても、どういう内容が展開されるのかが想像出来るから(けど、作品内できちんと歌で説明していた)。だけど『VIOLETOPIA』って、普通の人はピンと来ない造語なわけですから、ここでちゃんと、寂れた劇場が舞台で、そこに眠る人々の記憶と記録が蠢き出す、というのを理解させないと作品として成立しないと思います。

 

宝塚のショーとは何か

 

なぜそんなことを言うのかといえば、その後に続く各場面もトンと抽象的だからです。「舞台に立つのを夢見る劇場スタッフの話だな」「サーカスだな」「宮廷が舞台かな」と漠然と察することは出来るものの、結局良く分からない場面が続く…。これじゃあせっかくのイカした設定も台無しです。

そこから浮かび上がる本作の一番の問題点は、ずばりスターがカッコ良く見えないことです。各場面が抽象的過ぎるというのは、つまり主軸となるべきスターが目立っていないということ。もっと言えば、演出家として「私が思う〇〇〇〇が一番カッコ良い瞬間」ではなく「私がやりたいこんな場面」が勝ってしまっている。それはスター制度を取っている宝塚においては、実に致命的です。

その象徴が、後半の「狂乱の酒」から「孤独」の場面。非常に良く練られた空間演出で、パッと見すごく素敵だなと思いはしたのですが、見ながら「全っ然宝塚らしくないな」と思ってしまったのも事実。だって男装した舞空瞳も、女装した暁千星も、高らかに美声を披露した小桜ほのかも、紳士芸を魅せた男役たちも、なーーーーんにも目立ってない。グチャグチャっと出ては消え、ただ「狂乱」と「孤独」を描くためのパズルのピースになっていた。それはやっぱり、違うじゃん???

で、もっと文句を言いたいのは、フィナーレのグラサンですよ。近未来だからサイバーグラサンって、ちょっと安直過ぎやしません?そもそも路線外男役ファンのことを何も考えていないっっっ!!!(大階段の群舞の中で贔屓を探すのは大変なのだ)同じグラサンでも『BADDY』の大門グラサンとは段違いでしょう。

 

本作の良いところ

 

とまぁ、ここまで文句ばかり書いていますけど、気に入っている場面は無いのか?と聞かれたら、そりゃありますとも。

まず1つは中盤の「楽屋」。いわゆる若手ピックアップですけど、今までの他の作品ではただテーマに即して爆踊りさせるだけでしたが、今回はちゃんと場面として意味を持たせつつ、それでいて他とは違う風味があって良かった。

あと、ロケットボーイに碧音&御剣と稀惺&大希の104期、105期をシンメに配したこと。星組若手戦線がこの4名なのは明らかで、それをこの機会にちゃんと売り出していたのが非常に印象的でした。…うん、つまりちゃんとスターがピックアップされてこそ、宝塚として絵になるのだなと改めて思いましたね。

演出面でいえば、衣装は素敵にゴージャスでしたし、サーカスが立ち上がる場面や「狂乱」でのナナメの導線など斬新な点もあり、もう少し「スターを目立たせる」ことを念頭に置けば、もっともっと素晴らしい作品が生み出せるんじゃないかと期待出来る一品でした。そう、私は指田作品が本当に好きなのです。好きだからこそ、アレもコレもと言ってしまう私を許して下さい。←

指田先生は本作がデビュー作ですから、自身の持ち味を失わないままに、これからもどんどん作品を生み出して欲しいです。

 

星組×お耽美って珍しい

 

もちろん、礼真琴を筆頭に星組生の実力も本当に素晴らしかったです。礼政権になって長いですけれど、今までのショーは基本的に暑苦しい系であり、ロマンチック・レビューであるはずの岡田作品ですらダンディー路線で、お耽美場面は全部愛月ひかるが持って行った。だからこそこのタイミングで礼真琴にお耽美路線を、というのは戦略として正解だと思いますし、「そういう路線でもできまっせ」と言わんばかりに礼真琴もギンギンギラギラにお耽美していて面白かったです。

星組はもともと「コスチュームの組」つまり貴族の組みたいな売りでしたが、気付けば熱血体育会系の組となり、ここまでお耽美に振った作品は結構珍しいですよね。そういう意味でも本作は実験的な作品だったのかもしれません。内容は意味深通り越して意味不明な部分もありますが、いつも違う星組を楽しめる、ダークでお耽美な味変作でした。

 

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コメント

  1. たんたん より:

    同意です!
    全組観劇派の私は大劇場作品はいつも1,2回観劇。宝塚の作品は初見で理解できて楽しめなければならない、と思います。もちろん、何度観ても楽しい、ことも必要でしょうけれど、何度も観ないと理解できない、のはダメですよね。

    素敵な瞬間はいくつもありましたが、トータルするとよくわからん、という感想。
    さらには不協和音の連続にしんどい、とさえ感じてしまいました。
    龍の宮物語は大好きなんだけどなぁ…

    • こるもね より:

      こんにちは。ヴィオレトピア、管理人様には不明瞭に見えたのですね。

      あれは欧州のコンテンポラリーバレエ演出の文脈を追っていると普通に何をしてるのかよくわかります。
      私は宝塚もようやくハイカルチャーに一歩近づこうとしているんだ、と思えてとても嬉しい作品でした。

      正直いつまでも硬直した古めかしい世界観の中にいるのは苦痛ではありませんか?
      RRRの方でもトップコンビはくっつきませんでしたし、芝居とショーの両方で世界基準の価値観に合わせたんだと思います。

      RRRという作品は知名度もありますし、海外からのお客さんが初めて宝塚を見る窓口の作品になるかもしれませんしね。
      芸術的価値観についても、ちゃんとグローバルに通用するようにしとかないと恥ずかしい目にあう、と襟を正したんじゃないですかね。
      今回は日本のおばさんを楽しませる目的は切り捨てていいや、ってことでしょう。

      まあ、宝塚しか見ない人はハイカルチャー文脈が難しすぎてわかんない!って不満みたいでしたね。
      色々文句言ってますけど、セレブの芸術趣味っていうのは本来あっちが正規路線ですよ。

      • 蒼汰 蒼汰 より:

        ご高尚な楽しみ方を解説頂いて恐縮ですけど、宝塚とはは分かりやすさを求めらる低俗なエンタメ興行であるからして、それに伝わらないんじゃどうしようもないんじゃないですかね…。

  2. YK より:

    いつも記事を楽しく拝見しております。
    指田先生のショーVIOLETOPIAの感想は本当に同意です。お耽美なんだろうけど、なんか全体的にボンヤリしていて訳わからんなぁと思ってたら、突然ハイウェイスターが来たりとテーマ自体が大混乱してるうちに終わりという私みたいな素人には不思議なショーだったという安直な感想しか残らなかった、、、。ただショーのフィナーレ曲の音楽は個人的に高揚感MAXで良かったです、作曲家の先生ありがとう!
    あと近年では傑作と言っても差し支えないRRRの後と言うのも不運でしたね。指田先生はまだ若手なので次の作品でのリベンジに期待しましょう!
    これからも楽しい記事をお待ちしております!

  3. うめ より:

    いつも拝見させていただいております!
    おっしゃる通り、こんな輝いていてるスターが沢山いるのに、スターがうまく目立ってないな、というのが残念ポイントですね。

    といっても礼真琴体制では王道なショーやレビューを経験済みなので、ジャガービート、ヴィオレトピアは味変タイムなんでしょう。

  4. 12がつ より:

    RRRが良すぎた、というのもあると思いますし、個人的には現星組(=体育会系)と指田(=耽美)との相性が合ってなかったのでは?と感じました。
    極美慎がやっぱりすごく世界観に似合っていたように見えたので、その時代までは花組作品とかを手がければいいと思います。
    (花組は耽美のイメージ)
    衣装の加藤真美先生も好きだったんですけど、今回はイマイチ…
    でも、舞空瞳の場面のような、かっこいい娘役が見られたのは娘役好きには嬉しかったです!

  5. ぴぴ より:

    更新ありがとうございます!
    礼さんのファンです。
    今回のヴィオレトピアは礼さんにしか出来ない、礼真琴星組の代表作だと感じました!(笑)
    曲、衣装のセンスの良さ、振り付け どの場面も何回見ても飽きがこなく、加えて舞空さんの男装 暁さんのシャンパン 小桜さん都さんの歌に デビュー作にも関わらず退団者餞別有と指田先生には感謝しかありません。
    一方でおっしゃるようにスターが目立ってないとも思いつつ(大大大好きなキャバレーのシーンも誰がどこいるのか探すの大変です)
    つい先日の雪組のFrozen Holidayと比べて
    “誰かのファンというわけではないけど 何となく楽しめる!”ような作品ではないなと思います。どハマりしている私も1回目は???で帰りましたし…

    礼真琴かつ今の星組でしか見れない作品!ということでヴィオレトピアは大変素晴らしいと思ってますが一般受けも難しいですね…RRRが大変一般受けする作品なので丁度いいのかもしれませんが。

    RRRの感想も楽しみにしております!
    ※ただのヴィオレトピア大絶賛コメントです。ブログ主様の意見を否定しているつもりは全くありません、念のため追記です。

  6. マーガレット より:

    ヴィオレトピアは「お耽美」というカテゴリーとは違うと思います。コンセプチュアルって言うのかな。
    劇場の廃墟に始まり廃墟に終わる一つの物語というのがメインの位置にあって、それに宝塚のフィナーレ的な部分がくっついている感じです。
    劇場というトポスにおいて、演劇を生み出す側の苦悩や葛藤、孤独というのが時に悪夢のようにトップスターの身体を使って繰り広げられ、それをすべて受け入れ超えて劇場を掌握する「王者」として最後大階段の群舞で立ち現れるっていうストーリーなのかなと思って観ています。
    宝塚のお約束事を全部ひっくり返したような作り(たとえば、トップスターが一番地味な衣装で、目立たないように登場するとか)は、ショー作家としてのデビュー作だからこその実験的なとんがったスピリットがみなぎっていて、新鮮で良いです。110周年に「いかにも宝塚らしい」華やかなショーじゃなく、アンチテーゼ的な仕上がりにしてきた所、安寧保守に走らないぞという気概が感じられて良いじゃないですか?まあ、ちょっと抽象観念的すぎて分かりにくいし、不穏な不協和音みたいなのが多用されていて単にあ〜楽しいっていうショーじゃないし、そういうのが肌に合わない人も多いのは分かりますが。
    でも「蛇」のダンスも「孤独」のダンスも、今の礼真琴にしか出来ないものだし、「孤独」なんてそもそもトップのキラキラを全部剥ぎ取って、わざと踊りにくいぶかぶかのマントで踊らせて、それでも絶品のダンス、あんなすごいものを見せてもらえて、感謝しかありません。