女流作家戦国時代・指田珠子VS栗田優香

 

宝塚歌劇団座付き演出家の風雲児であろう、

上田久美子氏の活躍により、

女流作家の台頭がより目立つようになりました。

 

その中でも「ポストウエクミ」として、

演出家デビュー作から一気に名を轟かせたのが、

指田珠子栗田優香の両名。

 

何でもかんでもVSにしたがるのは私の悪いクセですが、笑

それぞれ2作目の公演を迎え、当人たちの志向がより明確になった今、

改めて作品と、そのカラーについての所感をまとめたいと思います。

 

余白の達人・指田珠子

指田珠子の作品集

■外箱公演
瀬央ゆりあ主演『龍の宮物語』
永久輝せあ主演『冬霞の巴里』

■ディナーショー
天寿光希主演『ten∞ten TIME』

■新人公演担当
月組『All for One』
雪組『ひかりふる路』
星組『ANOTHER WORLD』
花組『CASANOVA』
雪組『CITY HUNTER』

 

瀬央ゆりあ主演の『龍の宮物語』で演出家デビュー。

人ならざるものとの恋という日本古来のおとぎ話的素材を、

宝塚という美意識の中で、普遍的な男女の愛憎劇に落とし込んだ作品。

 

次作『冬霞の巴里』は、

舞台を西洋に変えながらもより神秘性が増し、

男女の愛憎は義理の姉弟という、

より許されないもの、だからこそ焦がれるものへと進化。

 

さらに主人公と憎しみの対象のはずの叔母夫婦が、

同じ義理の姉弟の情愛という二重構造になっている、という、

より一歩踏み込んだ、深みのある展開を魅せました。

 

2作品見ての指田先生作品の特徴は、余白が多いことでしょう。

宝塚では一から百まで全て言葉で説明する演出家が多いのですが、

指田作品は多くを語らず、行間で表現しようという意思が感じられます。

 

雰囲気重視のお耽美路線といえば、

ウエダはウエダでも上田ではなく植田景子先生の作風とも似ていますが、

長いキャラ設定やルビ振りの多い植田作品と違い、

「説明しないことで説明する」指田先生の演出方法は、実に特徴有るものです。

 

特に感動したのは、役を振るための無意味なダンサー(宝塚あるある)を配置せず、

敢えて無人空間を作り出すことで、

孤独や葛藤を表現する、という高等テクでしょうか。

 

そして何よりも、男女の愛憎を表現しながら、

実は直接的な表現が全く無いというのが面白いですよね。

 

この、何から何まで全て余白で観衆の想像に委ねる演出は、

考察好きなファン層に刺さると思われ、

二次元文化が根付いた現代の令和だからこそ輝く演出家かもしれません。

 

映画的演出家・栗田優香

栗田優香の作品集

■外箱公演
和希そら主演『夢千鳥』
桜木みなと主演『カルト・ワイン』

■新人公演担当
雪組『幕末太陽傳』
星組『ベルリン、わが愛』
月組『カンパニー』
花組『元禄バロックロック』

 

和希そら主演『夢千鳥』で演出家デビュー。

人気と実力がありながら燻っていた和希そらに大人の魅力を与え、

雪組3番手への道しるべとなった重要な作品を生み出しました。

 

現代の価値観ではクズ男かもしれないけれど、

約2時間の公演の中で、ヒロイン格3人とのやり取りを通じ、

男の人生譚を魅力的に描き出す様は、まさに一本の映画のよう。

(東宝映画で松坂〇李主演!!とかありそうじゃないですか?笑)

 

そして次作『カルト・ワイン』では、これはビックリ180度全く違う作風を披露。

社会の底辺から頂点に成り上がり、そしてまた脱落するという、

洒脱で小粋なアメリカンドリームを宝塚的価値観で表現。

 

これまた2時間で綺麗に収まっていて、

ふた昔前の出来の良いB級洋画風な作品となっています。

 

2作品見ての栗田先生の特徴は、

舞台という娯楽作品の完成度を極限まで求めてる、

マーケティング能力の高さが光ることです。

 

とにかく起承転結が綺麗で、話の筋もしっかりしていて分かりやすい。

無駄な役も台詞も無く、伏線回収も分かりやすく明示。

それでいて出演者の魅力が光る役を作り出すのだから、大したものですよ。

 

そんな中、舞い散る赤い羽根や、布での濁流の表現など、

キャッチーで見栄えの良い今風な演出

しっかり取り入れてくるあたりも、実に女性的だなぁと思います。

 

宝塚は女流作家戦国時代へ

 

演出家デビュー作から高品質な作品を送り出し、

ポストウエクミと呼ばれた指田珠子先生と栗田優香先生。

 

2作目を経て、指田先生はより妖しい神秘的な作風に、

栗田先生はキャッチーで親しみやすい作品作りに走っていきました。

 

どちらも生で拝見しましたが、実に完成度の高い素晴らしい脚本で、

もう既に「ポストウエクミ」ではなく、

偉大なる新進気鋭の女流作家2名として名をあげたことでしょう。

 

上田久美子先生の登場により、新人演出家はもちろん、

中堅どころの演出家たちも大きな影響を受け、

「私も負けてられない」と切磋琢磨している印象があります。

 

指田・栗田の女流作家2枚看板の登場は、

座付き演出家全体のさらなるクオリティのアップに繋がることと信じ、

これからのさらなる活躍を期待しています。

さてさて、いつ大劇場デビューしますかねぇ…今から楽しみです!!

 

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コメント

  1. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。

    「カルト・ワイン」の評判が良く、ぜひ見てみたいのですが、配信の日は仕事が・・・ああ、スカステは1年後。

    大衆演劇の座付き作家に求められることは、特に予備知識なく1回観劇しただけでよくわかる作品を作ること。

    演出の先生は当たり前ですが文学や歴史に詳しくて、「客はこれくらいは一般教養として知っているだろう」と思っているのかもしれません。文学や歴史に特に興味が無い客の「わからなさ」をわかっていない節がある。

    ブリリアに来る考察好きな客にも、大劇場に団体で来る客にもウケる作品を作るって、本当に大変なことだと思います。指田先生は、大劇場で「行間を読まずにわかる」「考察要らず」の作品を書けるのか?

    「自分の言いたいことは抑えて、マスにリーチするものを作る」これをやりすぎると、作者が「何も言いたいことが無くなりました」になりそうで、

    娯楽8~9割の裏に、わかる人にはわかるくらいのメッセージを込める、栗田先生はこの塩梅が上手そうですね。

  2. こころ夫人 より:

    いつも楽しく、興味深く拝見しております。
    観てきました、「カルト・ワイン」。面白かった、です!
    作品はもちろん楽しくて、その上、DCって左右・奥行き・天井(?)と、あんなに舞台が広いのか、と発見させられました。
    「夢千鳥」もなんですが、役者の魅力をしっかり見せてくださるんだなぁ、と嬉しくなりました。
    「冬霞~」は不思議な感情が残り、「龍の宮~」は配信で見たのですが、素敵な世界だったと記憶しています。
    両先生の大劇場演出が、待ち遠しいですね。楽しみです。