宙組新公、レビュー本と更新が溜まっていますが、
やはり彼女のことは書かねばならないでしょう。
昨日、星組トップスターの礼真琴が退団しました。
黄金の95期世代のトップランナーとして、
そして令和のトップオブトップとして走り続けた彼女。
きっと夢のような輝かしい日々が送れるはず、
就任発表時はそんな大きな期待で夢膨らんだはずなのに、
果たして全くそんな道のりではありませんでしたね。
波乱万丈な礼真琴史①
相手役には実力派のスーパー娘役である舞空瞳を迎え、
プレお披露目公演『ロックオペラ モーツァルト』を上演。
ここまでは順調な船出を予感させるものでしたが、
その直後に新型コロナウイルス感染症の世界的流行が発生。
宝塚歌劇団も甚大な影響を受けることになります。
先行きの見えない不安を抱え、
明日の舞台の幕が上がるかどうか分からないという、
まさしく暗中模索の日々。
上演延期や稽古制限といった環境下で、
代表作となるはずであった『ロミオとジュリエット』は、
その公演内容自体は素晴らしかったけれど、
星組生全員が一度に舞台の上に乗れず、不完全燃焼のまま幕を下ろします。
その後は新演出による『王家に捧ぐ歌』、
暁千星を迎えての『モンテ・クリスト伯』と、
そりゃ作品としては素晴らしいけれど、本当に礼真琴がやるべきなのか?
と疑問符の付く再演が相次ぐ中、やっと巡ってきたのが『Le Rouge et le Noir』。
彼女の実力とスター性に似つかわしい、
素晴らしい完成度を誇る作品であったものの、
なぜか上演規模はドラマシティにとどまり、
観劇機会は著しく限られてしまった不思議。
続く『1789』は、待ち望んだ本公演での海外ミュージカル作品でした。
この作品は外部宝塚においても人気の高い演目だが、
新作ではなく再演公演?とファンから賛否があったのも事実でしょう。
それでも、民衆を鼓舞するカリスマ的主人公・ロナン役において、
礼真琴の持つ爆発力と歌唱の安定感は圧倒的で、
大劇場の空気を支配するような存在感は、
まさにトップ・オブ・トップたる証明でした。
しかし、その舞台での輝きは、
常に全身全霊、限界ギリギリまで高められたパフォーマンスがゆえのもの。
ついに限界点を突破し、礼真琴は体調を崩し無念の休演に至ってしまいます。
波乱万丈な礼真琴史②
次の外箱・博多座公演は休養となり、その主演を水美舞斗と暁千星が務めました。
演目は人気も高い『ME AND MY GIRL』。
この時点でファンの多くは、次作『RRR』での、
過酷なアクションに備えるための英断と理解していたことでしょう。
そして迎えた『RRR』は、息もつかせぬアクション、激しい殺陣、全力のダンス。
スピード感、そして役に命を燃やすかのような熱量を目にしたとき、
「これこそ彼女の真骨頂だ」と胸が熱くなったファンは多かったに違いありません。
この公演は、間違いなく彼女のキャリアにおける金字塔の一つとなりました。
続く『BIG FISH』では、一転して温かみと深みのある役柄に挑戦。
人間味あふれる父親役を通じ、観客の心を静かに揺さぶります。
円盤化されないのは惜しますが、役者としての成熟を示した作品となりました。
さらに『記憶にございません!』では、コメディエンヌとしての魅力を全開に。
軽妙な間合いと表情の豊かさで客席を笑いに包み込み、
円熟期ならではの舞台をみせてくれました。
続く『ANTHEM -アンセム-』では、日本武道館という特別な舞台に立ち、
宝塚の枠を超えたスケール感と迫力をファンの記憶に刻み込みます。
そして退団公演である『阿修羅城の瞳』。
強靭な精神力と繊細な感情表現、その両面を併せ持つ演技は圧巻であり、
「この人はまだまだ進化できる」と思わせたまま、退団の時を迎えたのでした。
礼真琴トップ人生の、ただ一つの疑問
礼真琴は、その圧倒的な歌、ダンス、芝居の技術、
そして一方で大柄ではなく可愛らしい容姿から、
しばしば「宝塚の男役らしくない」と評されてきました。
だからこそ、骨太で渋い男役像とは異なる存在として、
その実力を生かして「宝塚という枠を切り開く存在」として期待された、
という期待の声も多かったように思います。
しかし、私は少し異なる見方をしています。
彼女は何よりも「男役」という存在そのものを愛していたと思うのです。
過剰なまでにキザり、視線ひとつで客席を射抜く。
そんな、ある意味で古典的ともいえる男役の様式美を、
恥ずかしげもなく全身全霊で体現できる。
そのうえで、それが不思議なほど似合ってしまう。
これは生まれ持った資質と鍛錬の両方が揃わなければ成立しない、
稀有な才能でした。
彼女は自らの小柄さと可憐な容貌を十分に自覚し、
それを補い、男役として認められるための自己プロデュースを徹底していた。
どうしたら男役として認めて貰えるのか、
それを自分の技術の中でどう表現していくのか。
その計算と努力の積み重ねが、あの舞台姿となって結実していた。
ファンがその背景を知っていたからこそ、心から応援できたのだと思います。
で、あるからして、彼女のトップ人生ただ一つの疑問は、
相手役・舞空瞳と外箱公演での共演が途中から途絶えたことです。
礼真琴は、自身がかつての星組トップであり、
トップオブトップであった柚希礼音のフォロワーであることを、
絶対に自覚していたはず。
ならば、柚希礼音と夢咲ねねが築いた「ちえねね」コンビ芸の様式美を、
自らの舞台にも反映しようとするのは自然な流れに思えます。
それを、星組に脈々と続く同時就任・同時退団の伝統を壊してまで
劇団側が実行しなかった理由は何だったのでしょう?
礼真琴を孤高のトップにさせたかったのか?それとも…。
人間関係や舞台運営にまつわることは想像でしか語れませんが、
それでもファンとしては胸に引っかかる部分ではあります。
ありがとう、礼真琴
また、就任前・中半期の作品選定にも物足りなさが残ります。
コロナ禍で演目の自由がきかない状況だったことは十分理解しているけれど、
それでも「これではない」と思わざるを得ない作品が続いたことは、
男役としての魅力を知る者にとって惜しく、悔やまれるところです。
その一方で、完璧に舗装されたスターロードを歩めず、
道なき道を切り開いていく姿は、むしろ礼真琴らしいのかもしれません。
コロナ禍という異常事態の中で、男役としての様式美を愛し、
6年もの長きにわたりトップの座に君臨し続けた。
今はただ、その英断と覚悟、そして観客に夢を与え続けてくれた年月に、
心からの感謝を捧げたいです。
さよなら、礼真琴。ありがとう、礼真琴。
あなたの次なるステージが、
さらに輝かしいものであることを、心より祈っています。
☆★☆★☆
ランキング参加始めました!!
ぜひポチっとお願いします↓↓
コメント
いつも記事を楽しく拝見してます。
礼さんは本当にお疲れ様でした!コロナなど山谷ありましたが、最後は大円団で良かった。
礼さんは星組ファンでなくても舞台を見に行きたくなる素晴らしい大スターでした。歌踊り芝居の三拍子が揃ってることは勿論、爽やかな容貌と熱い星組パッションは宝塚ファンであれば殆どの人が魅力的に感じたと思います。
あと宝塚の王道男役芸を柚希さん、高い舞台技術と芝居の柔軟性を北翔さん、舞台に賭ける気迫と精神力を紅さんから余す所なくしっかり吸収し、元々の高いポテンシャルを更に高みに昇華させていたのは素晴らしいです。凄い人たちの良さを吸収するってとても大変ですから、人間性も良いんだと思います。。
95期がここまで人気になったのも礼さんが牽引したからでしょう。
礼さん個人のファンでもないのに滅茶苦茶褒め倒してますが、彼女はどの大スターは当分現れないのではと感じております。
個人的にはバトンを託されたありちゃんには次のトップオブトップとして期待に応えて頑張って欲しいなと思っております。
これからも楽しい記事お待ちしております。
こんにちは。
ここんとこずっと「星組さんだけ良い演目ばかりでズルい」なんて声もありましたが、先に嫌いなニンジンやピーマンをやっつけ後に肉がいっぱい残るようにしただけって感じですよね。で、その反対が柚香光。
眩耀は謝先生の練習台。大作の中で本人に唯一合いそうなロミジュリはイケコに髪型と衣装を実験台されマイナスからの出発。彼女にピッタリ合う役ってロクモと赤黒だけだった感じがします。ちょんまげ柳生もレディース王家も今でこそ大好きですが合わない役を歌でねじ伏せて物にした感が強い。しかしながらそれらがなんだかんだで成立したのも宝塚らしくないと言われ続け自覚しててもなお研鑽を積んできた努力の成果だと思ってます(柳生なんて千葉真一と殺陣をよくここまで研究したと感心、王家は有紗の存在と苦手な歌をあそこまで努力を重ねた舞空も貢献)。
歌はメチャクチャ上手いですがちょっと独特(唯一無二)で昔のアニソン歌手みたいな感じ。故に誰が娘1ならマッチしたか?ずっと考えていたのですが(有紗、真彩、小桜はたまた仙名)実は誰とも合わない。強いて言うなら風ちゃんか?
歌は合う相手役がいないのだからもう仕方ないとして、せっかく宝塚史上最高レベルのダンサー舞空瞳とコンビを組んだのだから、彼女とのダンスに特化した演目をもっともっと観てみたかったです。そういや劇団も舞空にそんなにダンスをさせてないですよね。それが自分のただ1つの疑問でした。
蒼太さん、更新ありがとうございます。昨日はライブ配信をみまして男役礼真琴を見届けました。私もYKさん同様礼真琴さんの個人的ファンにはならなかったけれど、下級生の時からその実力と輝きにはずっと魅了されてきました。
輝きすぎてファンが多すぎてはまらなかった、が本音で、歌声、ダンス、チャーミングさ、そしてお芝居力。演技は特にコミカルな演技をなさると抜群、と思ってます。
ご挨拶も私達ファンが聞きたい言葉をおっしゃって下さる、きっと退団者や組み替えのジェンヌさんもそうでしょう。背中を押してあげるあたたかい言葉に胸があつくなりました。エスペラントの様々な場面も送りだしにぴったりではありましたし、阿修羅城の暁さん演じる阿修羅は最高でした。が、そこに舞空さんがいない。
そこは寂しさを感じましたね。。とはいえ大きすぎる存在の礼真琴さんを宝塚劇団は送り出しました。一晩たっても喪失感があります。この先の礼真琴さんが舞台人を続け伸びやかに活躍して欲しいと願っています。
星組は上級生娘役が4人も抜けます。暁さん、詩ちゃんコンビに何も不安は感じてはいませんが星組としてマンパワーが減ってどうなるか、、、瑠風さんが入り新しい星組に期待しています!
蒼太様、早速の記事のアップありがとうございます。久しぶりにコメントします。
ついにまこっちゃんが卒業してしまいました。
一昨日と昨日は家でスカステ三昧して、これまでのまこっちゃんを振り返っていました。
千秋楽、映画館で観たラストステージとご挨拶。ただただ涙して観ていましたが、まこっちゃんは大きな責任を無事果たす事ができ、安堵と満足感に光り輝いていました。どれだけの重責だったでしょう。それに真っ向から立ち向かって、ようやく肩の荷を下ろせたのです。
あの晴れやかな幸せな笑顔を観ていたら、もうそれだけで「心から良かった」とこちらも満足してしまいました。カーテンコールも素晴らしかった。話がうまいですよね。そして温かく愛がある。誰もが納得して見送ることができたのではないでしょうか?
同時退団でなかったのは本人達の意思ではなかったと思っています。なこちゃんと同時だったら、もっと喪失感を感じていたでしょう。
また道なき道、「なぜこの演目?なぜこの役?」に挑み続けるまこっちゃんが大好きでした。
宝塚という枠から解き放たれ、彼女の第二章を楽しみにこれからも応援し続けます。幸せな時間をありがとう‼️