朝美絢主演の御園座公演、
『An American in Paris(パリのアメリカ人)』を観劇して参りました。
※幕写真禁止のため、外の飾り看板を。
まず、最初に声を大にして言いたい。
凄く良かったんですけどーーーーーーーーーーーーー!!
これぞ見たかった朝美絢主演公演だったぜ!!
重要なネタバレ要素を頑張って薄めながら、さっくり感想を書いていきます。
目で楽しい傑作ミュージカル
まずは演出面から。とにかく本作は目が幸福になるミュージカルでした。ブロードウェイ版『An American in Paris』はバレエ的演出を前面に押し出しているのですが、今回の宝塚版もその精神をしっかり受け継ぎ、とにかく踊る、踊る、踊る!!
そして宝塚ならではの強みである、大人数での群舞が重なることで、圧倒的な華やかさが生まれていましたね。人海戦術と精緻なフォーメーションで畳みかけられると、舞台の隅々まで視線が追いつかないほどで、もう「圧巻」という言葉しか見つかりません。
衣装や舞台美術も見応え満点。主人公が画家だからこそ、建物がイラスト風だったり、背景映像がスケッチブックの描線だったり…。第二次世界大戦後である芸術の街・パリを、スタイリッシュで洒落た空気感で包み込んでくれます。衣装も時代に寄り添いながらカラフルで上品。舞台を観ているだけで、幸せな色彩に心が満たされていきました。
そ、し、て、何よりも朝美絢率いる雪組メンバーが美形ばかり!!朝美絢・瀬央ゆりあ・縣千の美形トリオに、まるでリアルフランス人形の音彩唯。今回大活躍の麻花すわんに、気品溢れる妃華ゆきの。舞台に出てくる人がとにかくみんな美しい…これこそ宝塚、眼福の嵐でした。
「愛する」ということ
そして何よりも心に深く響いたのは、やはり物語そのものでした。
正直に言うと、観る前は「画家・ダンサー・ピアニストの男3人が、一人の女性を奪い合う洒落た恋物語」くらいに思っていました。でも実際に幕が開いてみると、全く違う。そこにあったのは、ただの恋の三角関係ではなく、誰もが秘密や痛みを抱えながらも、それを否定せずに抱き留め、共に生きていこうとする人々の姿でした。明る過ぎないけれど、確かに前を向いて進んでいこうとする人生賛歌。その柔らかくも力強いメッセージに、胸がぎゅっと締めつけられました。
公演プログラムによれば、ブロードウェイ版は戦争・人種・性志向といった社会問題に正面から切り込む、かなりシリアスな作品だったとのこと。それを宝塚版にアレンジするにあたり、演出陣がどれほど工夫を重ねたかが伝わってきます。そしてその調整が本当に絶妙で、重くなりすぎず、かといって軽薄にもならず、観る人を温かく包み込むような物語に昇華されていました。
主人公ジェリー(朝美絢)は、一見すると軟派で陽気なイケメン画家。舞台を駆け回り、無邪気に笑い、情熱的にリズを口説きます。でもその奥には、戦争で負った心の傷が隠れている。だからこそ、ヒロインのリズ(音彩唯)が何かを言い淀むと「話したくないことは話さなくていい」と言うんですよね。これは優しさでもあり、同時に自分自身の陰にも踏み込まれたくないという防御反応でもある。
そんな心の陰に敏感なのが、戦争で足を負傷したピアニストのアダム(縣千)。いつも陰鬱とした曲を奏でる彼は、他者の痛みに敏感に気付く。だからジェリーの、リズの、そしてアンリ(瀬央ゆりあ)の心の痛みに触れ、優しい言葉をかけずにはいられない。そんな彼がストーリーテラーとして物語を導き、心をつなぐ存在となっていく。
そして一番大きな「秘密」を抱えているのが、アンリ。プログラムによると、指田先生は「あえてそれを具体的に描かない演出にした」そうで、確かに香る程度。だけどその秘密が暴かれなくても物語が成立しているのがニクいですよね。名家の跡継ぎとして決められた将来と婚約者(リズ)を背負いながらも、本当はショースターを夢見る青年。最後に彼が自分自身を受け入れ、家族にも受け入れられ、新たなキャンバスに未来を描きだす…。まさに彼は本作の裏主人公でした。
ヒロインのリズもまた「こうあるべき」に縛られて生きてきた人物。だからこそ、ジェリーが走り回り、アンリとリズを解き放っていくことが、この物語の大きな転換点になる。「愛することは義務ではなく、自由なもの」という本作のテーマは、単なる恋愛の話に留まらず、夢を追うことや、自分自身を大切にすることも含めて、さまざまな「愛」のかたちを温かく肯定することなのだな、と私は感じ取りました。 これを説教臭くなく、洒脱でハッピーなミュージカルとして落とし込んでしまう指田先生の手腕。もうただただ、脱帽です。
マイロとアンリの関係性
そしてもう一人、重要なキャラクターとしてマイロ(妃華ゆきの)がいます。物語はジェリーとリズとマイロの三角関係で進んでいくわけですが、最終的な彼女の「愛のかたち」が、これまた現代的で良かったですね。途中で裕福な生まれという共通項のあるアンリと一瞬仲良くなる描写がありますが、ここで変なトキメキが入らないのも本作のポイント。彼女も自分自身を愛し、新たな一歩を踏み出せたのでしょうか…。
ってことで超長くなってしまったので、キャスト別感想は別にしたいと思います。
後半に続く!!
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コメント
おそらく2回目のコメントです。偶然にも本日観劇しました。
センシティブとハッピーの匙加減は私もちょうど良く感じました。これは確かに石田先生一人では抱えきれなかったかもしれません。(しかしそれを指田先生に託す英断!)
笑いをドカンドカン取りつつ繊細に演じた朝美さん瀬央さん縣さんはもちろんのこと、音彩さんの
仕上がりっぷりは言わずもがな、妃華さんのいい女っぷり、ライトが落ちて輪郭のみの状態でもそれとわかるすわんさんのダイナミックなダンスなど、娘役も素晴らしい輝きで…真夏の名古屋にも負けない熱演でしたね。