「本公演超え」とは、宝塚の新人公演において、
本公演よりもその出来栄えが素晴らしいことを指しますが
そのほとんどはファンの贔屓目であると言えます。
普通に考えれば、ある程度のキャリアを積んだ舞台人が
多くの時間と労力をかけて作り上げた数ヶ月間の公演を、
若いスターたちによるたった一夜の夢が超えるわけがないからです。
ですが、後に伝説として語り継がれるような
それはそれは素晴らしい新人公演がいくつかあったのも事実です。
その中で最も有名なのは
2011年花組『ファントム』の新人公演ではないでしょうか。
仙名彩世と実咲凛音
2011年花組『ファントム』新人公演は、
主演の鳳真由、キャリエールの真瀬はるかなど、
男役の質の高さはもちろんですが
よりその名を挙げたのは、実咲凜音・仙名彩世の娘役2名でしょう。
特に実咲は当時研3。
クリスティーヌという役を通してのその圧倒的な歌唱力、
さらに芝居力やヒロイン力も抜きんでており、
「これは将来素晴らしい娘役になる」と多大なる期待が寄せられました。
その後彼女は爆裂路線娘として歩みを進め、
研4で宙組へ落下傘就任。
色々気苦労はあったようですが、
念願の『エリザベート』シシィも演じ、
充実したトップ娘役人生を過ごしました。
一方、仙名は当時研4。
カルロッタという難しい役どころを堂々と演じ、そして難曲を歌いこなす様は
こちらも将来に多大なる期待が寄せられることになりました。
…ただし、別格路線娘役としてですが。
だがしかし、運命のいたずらは怖いもので、
この時には全く予想だにしない物語を紡ぐことになります。
別格娘役として順調に歩みを進めていたハズなのに、
気付けば研10でトップ娘役に就任。
平成最後のトップオブトップ・明日海の相手役として
花組の充実期を支える存在となり、
そして今、その任を終えようとしています。
歩んだ道は全く違いますが、
2人とも充実したトップ娘役人生を全うしたことには違いありません。
かの有名な伝説の『ファントム』新公において名を挙げた女性2人が
それぞれ大きな花を咲かせたことを思うと、とても感慨深いですね。
仙名彩世・数奇なる運命の娘役
ところで、非常に性格の悪い私は
一つだけ疑問に思うことがあります。
『ファントム』新公において、
多くの称賛を浴びた実咲に対して、
果たして仙名はどういう思いを抱いていたのだろう、と。
いやいや、もちろん彼女は心も美しいタカラジェンヌ。
きっとくだらない嫉妬の念なんて抱くはずありませんよね。
だけどもし、もしも私が彼女と同じ立場なら。
ひらすら血のにじむ努力と研鑽を毎日し続け、
競争社会と成績主義の宝塚においてずっと首席を守り続け、
歌もダンスも所作も、ある程度の自信があったとしたならば。
1つ学年が下の、顔が可愛い後輩が活躍している姿を見たら
私だったらきっとこう思ったはずです。
「私にだってあれくらいは出来るわよ」ってね。
彼女が実際どういう気持ちだったかなんて知る由もありませんが、
一つ言えるのは、彼女はその置かれた状況に腐らなかったということでしょう。
どれだけ成績が良くても、
スポットライトを浴びることは出来ない。
これは競争社会の、宝塚の、ひいてはショービジネスの基本的原則であり
この残酷な概念に涙した人は、決して少なくはないのです。
それでも彼女は腐らず、その実力を磨き続け
与えられたポジションを全力で全うしてきました。
若くして重要なポジションを任されるほどになり、
その高い実力に多大なる運も味方して
実咲から遅れること約5年、
ついに彼女はトップ娘役に立つことになりました。
あの時、若く美しく素晴らしい歌唱力を持つクリスティーヌに
嫉妬の炎を燃やしたカルロッタを熱演し、
別格路線としても確かなる成功を手にした上で、
その肩書きをさらに上塗って頂点に立つだなんて、どんな夢物語でしょう。
けど、それを成し得えてしまった仙名は
まさにタカラヅカドリーム。
「数奇な運命を辿った娘役」であると言えるのかもしれません。
それぞれの『ファントム』物語
先日からスカステで放送されている、
仙名彩世サヨナラ特別番組「永遠の愛を込めて…」の中で、
仙名は礼真琴と『ファントム』より「Home」のデュエットを披露しています。
この番組を見て単純に思ったのは、
彼女はなぜ「Home」を選び、歌ったのだろうということです。
だって彼女にとっての『ファントム』は
クリスティーヌではなく、演じたカルロッタのはず。
もちろん、その理由は分かりません。
最近雪組で上演したから版権を持っていて安く済むのか、
宝塚の男女デュエット曲で多幸感のある曲が少なくてこれにしたのか、
はたまたただ単に彼女たちが好きな曲だったのか。
一つ言えるのは、彼女がこの曲を選び、歌うという選択をして
それを専門チャンネルで流して貰える立場に今、いるということです。
Dream 描き続けた夢も
いつか願いが叶うと分かるの
この舞台でいつの日か歌うのよ
きっと叶うはずよ 夢は
『ファントム』に夢を託したのは、望海・真彩の雪組コンビだけではなく、
『ファントム』で大きく飛躍したのは、実咲凛音だけではなかった。
2011年に発生した東日本大震災を、実家である宮城県名取市で被災。
その後、舞台に立つことへの葛藤を抱きながら
初めて本公演で名前を、そして初めて大役を与えられた新人公演こそが、
その年6月に上演した『ファントム』。
それからずっと、描き続けた夢が叶うことを信じ歩んできた彼女が、
被災から8年後の3月11日に、花組のトップ娘役として宝塚市を卒業。
そして間もなく、一人のタカラジェンヌとしての任を終えようとしています。
美しくも鮮やかな、夢物語の終幕。
仙名彩世さん、卒業おめでとうございます。
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コメント
蒼汰さん
これはとても素敵な評論ですね。すぐ読めるようにブックマークしました。
なるほどなるほど。実咲さんとの対比は面白い観点だと思います。振り返るとすごいサクセスストーリーなんですが、仙名さんとしてはただただ役に一所懸命に取り組んできて、結果が後からこうなっただけかなと思います。ミュージックサロンでメランコリックジゴロの図書館のお局役のコントを見た時に、そうか彼女はこの端役に真摯に取り組んだことを自分の財産だと思っているんだ、ということに気づきました。
また仙名さんとしては、明日海さんの相手役として一緒に役作りを深める立場を与えられたことが一番嬉しかったんじゃないかなとも思ったりします。明日海さんも然りで。そういう機会があった彼女たちの宝塚人生はとても恵まれていたと思います。
礼さんとのHomeデュエット、良かったですね。歌もよかったのですが、二人がお互いをリスペクトしながら寄り添うかんじに心を揺さぶられました。
歌の後のトークで、礼さんの「これからもずっと仲良くしてください。」という言葉を聞いて、あー真の実力のある人は本物がわかるんだなーとも思いました。礼さんのこれからにも幸多かれです。
自分は昨日は日比谷で観劇、今日の千秋楽は近所の映画館でLV観劇です。サヨナラショーで感極まってしまうかもしれません。
コメントありがとうございます‼お褒めの言葉を頂き恐縮です。
図書館のお局役、私も拝見しましたけど、ああいうポジションも全力で演じ続けてきたからこその今があるのだなぁと思いますね。
明日海さんは「一人でも立てる」タイプのスターさんですが、だからこそ彼女のような何でも自分で出来るけど、
出来るがゆえにしっかり相手を立てられる娘役がベストだったのだろうと思います。
礼さんとの首席コンビっぷりも面白かったですね。実力者同士だからこそのやり取りって感じで、本当に素敵でした‼
愛、溢れる記事に拍手❣️
ホントに2年前に名前が挙がった時には『え?今更?』って思ったのは私だけではなかったと思います。
見た目も童顔のみりおちゃんより上に見えるし…
でも、今では両ファンに愛されるとてもいいコンビになりましたよね。
今日は前楽を観劇してきましたが、カサノバ〜の赤い衣装で1人、バラが出た〜のところで1人、ラインダンスで1人すっ転んでました(^^;
ゆきちゃんもフィナーレの光ちゃんとのダンスでちょっと足を滑らせ顔を見合わせて苦笑い。全て下手の出来事で、なんかいる?って思ってしまいました(^^;
ちなつさんも2回噛むし組長さんも最後のご挨拶で噛んでました。
千秋楽を前に客席は盛り上がっていましたが組子さんたちの緊張感が伝わってくる公演でした。
ゆきちゃんご卒業 おめでとうございます❣️
コメントありがとうございます‼
あのタイミングでの就任は多くの人を驚かせたと思いますが、全ては結果オーライ。本当にベストカップルだったと思います。
千秋楽前は色々大変なのでしょうかね?ラストデイが無事終わったようで本当に良かったです。
ライブヴューイングでタカラジェンヌの仙名彩世さんを見届けました。娘役トップ就任当時は風当たりも強かったでしょうが、明日海さんからの絶対的信頼を得てとてもとても幸せな笑顔で卒業されましたね。
にわかの私はミーマイでのマリア公爵夫人を観て彼女を認識しました。その時は名前も知らなかったけれど声や演技がとても印象に残っていました。彼女の演じる公爵夫人が好きでした。
ご卒業おめでとうございます。
コメントありがとうございます‼ライビュご覧になられたとのことで、羨ましい限りです。
ほんの少しの役でも印象に残るって本当に凄いですよね。無事千秋楽を迎えられたようで、本当に良かったです‼
蒼汰様
ゆきちゃん退団にあたり、餞の記事をありがとうございました。
みりお贔屓でゆきちゃんを応援していた私にとって、みりゆきはまさにゴールデン・コンビ!
ゆきちゃんの退団は寂しく、正直惜しむ気持ちの方が勝っていますが
蒼汰様の記事で何だか温かなものをいただいたように思います。
ありがとうございました。
コメントありがとうございます‼お褒めの言葉を頂き恐縮です。
明日海・仙名はまさにベストコンビ、明日海のさらなる実力を仙名が引き出す関係性が本当に良かったと思います。
彼女のこれからの輝かしい未来を応援したいですね。
おはようございます!
平成最後の花組を見届けてきました。作品もアドリブ沢山で、楽しくて、愛が溢れる時間でした。
数奇なシンデレラ物語の仙名さん。それは、自分に相応しいお嫁さんをきちんと選んだみりおちゃんが居たから。ほんとに本物の王子様ですよね。どうしてこんなに全てのことが格好良いんでしょ!←大分贔屓目!笑
最後の作品の出演者も発表されました。専科さんの力を借りずにやりきるんですね。昨日の今日で、何だか寂しい気持ちでいっぱいですが、また、先行画像から、きっとワクワクさせてくれくれるはず。楽しみに応援します!
コメントありがとうございます‼ライビュをお楽しみになられたようで羨ましい限りです。
彼女はまさにシンデレラガールでしたね。灰かぶりからまさかのお姫様に…まぁ彼女を引き寄せた明日海さんも素晴らしいですが。
次作は専科さんが誰も出ないようですねー。果たしてどんな退団作になるんでしょう。楽しみですね‼
いつも楽しく拝見しております。仙名さんの数奇な運命に思いを馳せる時、私はいつも同期の華雅りりかさんのことを思い出します。
星組からやってきて、ラストタイクーンの新人公演で一度主演しているにも関わらず、風の次郎吉ではWヒロインに選ばれず、エリザベートやそれ以降の公演でも役付が仙名さんより下がることが多かった華雅さん…。
星組の同期・早乙女わかばさんとの競合を避けるように来た花組で、当初は「いつかトップに」という周りからや本人の期待もあったであろうに、結局別箱ヒロインに選ばれ、最終的にトップ娘役になったのは仙名さん。「私の新人公演はなんだったの?」と私なら思いますが、華雅さんの胸中はどんなものだったのでしょうか…。
先日、スカイステージで仙名さん・華雅さん・舞月さん同期3人の対談を見ました。とても和やかで温かい対談で、色々な葛藤を乗り越えたであろう華雅さんにも幸多きタカラジェンヌ人生を!と思わずにはいられませんでした。
コメントありがとうございます‼
後からの答え合わせで言うと、彼女の場合はいわゆる「同期支え」ってヤツなんでしょうね。最近だと天彩峰里さんとかもそうかな?
確かにトップには立てなかったわけですが、それでも一度も新公ヒロすらしたことないスターがわんさかいる中では
きっとまだ恵まれている方なんでしょうけど…それでも本人の思いは複雑でしょうね。
花組94期はみんな和やかそうで良いですよねー。彼女たちのこれからが幸多きことを私も祈りたいです。
なぜHOMEを歌ったか?
好きな曲だからじゃないんでしょうか?
下級生時代に出演したマグノリアコンサートでも披露してましたし、
先日のミュージックサロンでも披露してましたよね?
コメントありがとうございます‼
そうみたいですよー‼彼女にとって印象深い曲なんでしょうねぇきっと。