ポスト上田久美子にあらず・花組『冬霞の巴里』感想

 

ご縁に恵まれまして、永久輝せあの初東上作品である

『冬霞の巴里』を観劇してきました。

 

 

ライブ配信で予習、からの東京ブリリアでの生観劇と、

楽しみ過ぎて2段構えで拝見しました。笑

 

最初に感想を述べてしまうと、普通に面白かったです。

私はこういう伏線回収系の物語が単純に好きですし、

世界観も丁寧かつ徹底して作りこまれている感じがして、好感が持てました。

 

また、ライブ配信で見た時と実際に見た時に抱いた感情が微妙に違かったので、

そのあたりを中心に感想を書いていきます。

ガッツリネタバレしていますので、あらかじめご容赦ください。

 

ポスト上田久美子にあらず

 

『龍の宮物語』で鮮烈なデビューを果たした、

指田珠子先生の2作目である本作。

 

私は以前に彼女を「ポスト上田久美子」と評したことがありますが、

今回見た感じ、同じ女流作家でも、同じウエダでも、

上田久美子ではなくポスト植田景子という感じが致しました。

 

それすなわち、なんちゃってお耽美系。

「なんちゃって」と付けましたが、それは決して蔑称ではなく、

耽美的な世界観を良い意味で宝塚ナイズトしている、という意味です。

 

しかしながら指田作品が植田作品と違うのは、

雰囲気一辺倒というわけでなく、

複雑な人間の内面を描こうとしている点だと私は感じました。

 

ってことを前提で書いていくならば、

今回の発注テーマはずばり、

「永久輝せあで復讐物を」だったんじゃないかな?

 

苦悶の表情で顔を歪ませるひとこを見たいから、

くらーくて鬱屈としたお耽美作品を作ろう。

 

95期7人と暁千星にはない、永久輝せあだけが持つスター性を考えた時、

その方向性で攻めることは間違っていないし、

実際、ファンのツボを的確に捉えた、実に素晴らしい作品だったと思います。

 

特に話の展開、舞台演出は見事で、

冒頭、鬱屈とした屋敷の舞台装置にはじまり、

扉から3人の血みどろのエリーニュスが現れる。

 

どこか物悲しい歌声が聞こえる中、幼少期の子供たちの影が見え、

そこからパリの民衆の雑踏が聞こえてきたかと思ったら、

奥から永久輝せあが出て来て、ドン。

 

「ただいま、この腐った街、巴里!!」

 

はい、もうこの時点で勝利確定。笑

 

そこから主要(主人公にとっての)敵キャラ3人が断頭台に立つかのように自己紹介し、

ヒロインのアンブルと2番手格のヴァランタンも登場、

下宿所に移ればレミゼばりの住民自己紹介ソングが楽し気にはじまり、

かと思ったら実家の屋敷にて人間愛憎劇が始まっていく…。

 

ここまでの流れがあまりに美し過ぎて、一気に引き込まれましたね。

舞台展開が自然な演出家に駄作は無し!!

 

他にも印象的な演出が様々あって、

例えばオーギュストの名前を出した途端に天気が悪くなる、のは分かるけど、

机の下から血まみれの手がニュッと出てきたり、

(初見時、テレビで見ながら「こえーww」と声を出してしまいましたとも。)

 

舞台の幕を半分締めて、上手と下手で別の芝居をしたり、

赤い布を血に見立ててギョームやクロエの身体から引き抜く演出だったり、

いつの間にか説明されていない女(少女でもなく女性でもない絶妙な見た目)が加わり、

その存在の意味が物語が進むにつれ明らかになっていったり…。

 

考え抜かれた舞台演出が冴えまくっていました。

見栄え的な美しさは、さすが女性らしい感性なのかもしれません。

 

話のオチも冬霞に消えていく?

 

と、ここまで手放しで絶賛していましたが、

初見時の感想は「え、これがオチ???」

拍子抜けしてしまったのが正直なところ。

 

この話のキモは、オクターヴは父の復讐のため人生を捧げて来た、

いざ実行に移そうとした時、自分の知る父と現実の父が違う真実を知り、

アイデンティティが崩壊する、そこにカタルシスを感じると思うのです。

 

要はオーギュストはめちゃくちゃ悪いやつで、

ギョームもクロエも憎しみが募り、結果殺してしまった、

つまり誰もが被害者で誰もが加害者だった、という話なわけですが、

その割にオーギュストの悪事がいまいち描かれていないことが、

私の中でどうしても引っかかったのです。

 

実は彼がとんでもなく悪い奴だ、ってことが分かりやすく明示されないと、

オクターヴが復讐の苦悩から自己の崩壊への苦悩への変遷、

クロエの「私たち、みんな愚か者なのよ(うろ覚え)というセリフが、

生きてこないと思うのです。

 

てかさ、初見時はオーギュストがイネスに手を出した、

とミスリードされませんでした?

私 は し ま し た と も 。

 

妻の連れ子に手を出すなんて最低最悪の虫けら男。

そりゃイネスも自殺するし、クロエは母として、ギョームは弟として、

オーギュストを始末するしかあるまい、と勝手に自己補完して見ていました。

 

けど全くそんなことなくて、イネスは結婚を強いられ自殺するわけですが、

(モチーフである「オレステイア」のネタだから仕方ない。)

そりゃ母として怒るでしょうけれど、

ギョームと共謀して殺すまでしますかね?という。

 

たけど。これを舞台で2回目を見た時、

不思議とオチが弱いと引っかからなかったんです。

 

理由はなぜかと聞かれたら難しいのですが、

指田先生は人間の内面に焦点を当てている印象があり、

物語の内容はそのファクターでしかないのかも、

と私の中で勝手に納得出来たからかもしれません。

 

もっと言ってしまえば、3人のエリーニュスも雰囲気だし、

繰り返される「父と子の秘密」も結局なんのこっちゃよく分からないし、

(イネスの死や血の繋がりの無い姉弟関係の「秘密」との対比なのでしょうけれど)

アンブルがオクターブと一緒に母に復讐しようとした魂胆も描かれていない。

 

もしかしたら同じ女性として母とソリが合わなかったのかもしれないし、

あるいはオクターブと一緒に居られれば何でも良かったのかもしれない。

 

けど、これらは物語の余白として舞台を観劇する人の想像に委ねて、

あくまで演技者であるスターたちと、

その心の内面を描くことに注力をそそいでいるのかも、と、

『龍の宮物語』と合わせて思ったのでした。

 

蛇足ですが、上田久美子は「物語に描かないこと」すらも緻密に計算し、

自身が描いた物語を寸分狂い無く鑑賞者に提供するタイプなので、

そこが上田先生と指田先生の違いかもしれません。

 

物語の核心も、巴里の冬霞に包まれたような作品でしたが、

世界観がしっかりしているからこそ、

そのモヤ込みで楽しめる作品だったな、と私は思いました。

 

花組の人事的な話

 

最後は、人事的な話を。

 

今回のピックアップメンバーは、

永久輝せあ→聖乃あすか→飛龍つかさの3名、学年的な部分も合わせ、

見ていて明日海りお時代の花組っぽいなとワクワクしていましました。

 

永久輝せあ(劇団一押しのVISA)→明日海りお

聖乃あすか(若き次期スター)→柚香光

飛龍つかさ(別格花男)→瀬戸かずや

 

ちなみに侑輝大弥は芝居の作り方がめちゃめちゃ水美舞斗で、

こうして花男の系譜は継がれていくんだなぁとしみじみ思ったり。

 

そして至極のフィナーレも素敵でしたが、

娘役とではなく、男役同士で萌えを生み出すあたりは、

さすが花組だな、という感じ。

全体通して永久輝せあ×聖乃あすかの組み合わせ、凄く良かったですよねぇ。

 

また、娘役は娘2ポジションの愛蘭みこが美味し過ぎましたね。

めちゃめちゃ出番が多いし、単純にカワイイ役どころ。

 

『TOP HAT』では同期の都姫ここ、美羽愛の2人がほぼモブなのと対称的で、

どうしてこの2人にこの役をさせなかったのだろうと不思議だったのですが、

こっちに来てしまうと明確に星空美咲の下になってしまう。

 

特にニコイチモードの美羽愛は『PRINCE OF ROSES』で一緒になってますけれど

あれこそヒロインぼかしの典型例で星空の下にはなっていませんから、

路線として生かしておくには『冬霞の巴里』には出られない。

 

別箱ヒロイン「格」を総ナメにしながら、

なぜか新公ヒロ未経験という不思議な立ち位置である

星空美咲の下に来れる人材として選ばれたのが愛蘭みこだったわけですが、

人事的事情があったとしても、これはナイスチャンスだったと思います。

 

104期はコロナ直撃で男役も娘役も路線候補が見えづらくなっていますし、

花組の3人娘がどうなるか、これから楽しみだなと思ったのでした。

 

以上、頑張って短く書いた全体感想でした。

キャスト別感想も書きたいですが…いけるかな?

 

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コメント

  1. 中古参ファン より:

    明日海さん時代の矢印ですが、明日海→永久輝 だけ左右逆ではないでしょうか。

    奇しくも、池袋から観劇帰り中です♪

  2. こんちゃん より:

    蒼汰様

    いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。

    イネスについて、神話では父親に結婚を強要されて自殺したのではなく、父によって女神アルテミスの生贄に捧げられた。

    そりゃあ娘を生贄にされたら、母は怒るでしょう。

    2,500年前ならまだしも、19世紀に娘を生贄にする父親ってヤバすぎて、設定を変更しなければならない。

    だが全体的に妙な現代的理屈付で、登場人物が神話の英雄性を失って、俗物化した印象です。

    ウエクミは繊細な感性と、物語を引っ張る強固な論理性があったのですが、指田先生は論理よりも情緒と余韻でねじふせた感があって、うーん。

    両者は、素材からの創作の動機となる内的衝動の呼び出し方がだいぶ違うと思うのですが、なぜ指田先生がポストウエクミと呼ばれているのでしょうね。

  3. ドルチェ より:

    やはり魔のブリリアホールでした。
    クライマックスのシーンでオクターヴもアンブル見えず…泣
    当たり前でしょうが配信で観たときよりずっと物語の世界に浸れ、心がずしんと震えました。
    芝居でもフィナーレのダンスでも、ひとこと星空さんの相性がよいと感じたのは意外でした。
    キャスト別感想、楽しみにしています。