裏切られた名作・月組『ELPIDIO』感想

 

月組公演『ELPIDIO』、観劇して参りました!!

 

※ただの幕だやんけ、というツッコミは無しで。笑

2階席のどセンター、実に見易い座席で楽しんできました。

 

まず最初に謝ります、謝珠栄先生ごめんなさい。

正直に申しますと私、この作品への期待値がすごぶる低かったんです。

 

謝先生の前作『眩曜の谷』が「考えるな、感じろ!!」系統の作品だったこと、

その割に社会的メッセージが濃すぎること。

 

そして本作も、作品概要を読んでもよく分からないし、

ポスターもなんかチグハグな印象だし、その割に自称「コメディ」とか言っちゃってるし、

本当に大丈夫?って感じでした。

 

実際、幕が開いても、最初の方はダラダラ社会風刺していて、

うわーやっちまったなぁww と軽く引いてたのですが、

それがみるみる話に引き込まれ、気付いたらカタルシスを経ての大団円。

 

あれあれ、普通に超面白かったんですけど?

ってことでプログラムで分かる範囲で(重要)ネタバレしながら、

個人的感想を書いてきます。

 

月組『ELPIDIO』あらすじとプチ感想

 

まず冒頭、『激情』を思わせるラテンのリズムに乗りながら、

コロス的なダンサー軍団が物語へと誘います。

(このダンサーたちがプログラムによると「黒衣の弱者」の時点で(‘A`)ウヘァって感じですが、まぁ待て。)

 

ここでは彩音星凪がピックアップ、そして鳳月杏が登場!!

からのきよら羽龍→彩海せらの高らかなソロ歌唱となり、

流れるように酒場「Camino」へと場面が転換していきます。お見事!!

 

で、ここから約15分間、演者によるありがたいお説教が始まるわけです。

議題は「反戦」「元首批判」そして「女性の社会的地位向上」…。

この時点で既にお腹いっぱいですが、実はちゃんと意味がありまして。(後述)

 

とにかく主人公のロレンシオ(鳳月杏)が過去を語りたがらない謎の男であること、

そして彼を兄のように慕うセシリオ(彩海せら)が最近、労働組合に出入りし、

仲間たちから少し距離があることが自然に説明されます。

 

で、このセシリオという役が、宝塚では非常に特異なキャラだと思いました。

戦争で親を殺された報いとして労働組合のヤツらと付き合ようになるけど、

どうやら実態はアナーキスト集団。

 

いつもの宝塚なら(少なくとも正塚先生なら)、彩海せらは闇堕ちして、

鳳月杏と銃撃戦の末、その腕に抱かれて死にますよね?

けど、そうではなく、実体がアナーキスト集団であることに一早く疑問を抱き、

兄貴分であるロレンシオに相談しようと思い至ります。

 

「明日、ちょっと相談したいことがあるんだ。」

そう言って2人は別れますが、これが果たされないのは宝塚のお約束です。笑

 

その帰り道、ロレンシオは突如男たちに襲われ、目を覚ますとそこは豪華な館。

目の前にはゴメス(輝月ゆうま)と執事のアロンソ(蓮つかさ)が居ていわく、

「この館の主人であるアルバレス侯爵の替え玉をして欲しい」、と。

 

ここまでずーっとシリアスな展開で「どこかコメディ?」って感じだったし、

蓮つかさは後ろで一言もセリフを発さず突っ立てるだけで、

「彼女をもっと大事にしてあげて!!」と心の中で叫びながら見ていたら、一転。

ここから怒涛のコメディパートが始まります。

 

そう、実は鳳月杏×輝月ゆうま×蓮つかさの3人は、

本作におけるコメディパートを一手に引き受ける存在だったのでした。

これが何の嫌味を寒気もない、実力者三重奏なもんだから実に心地良い。

普段宝塚では見られないレベルでコメディが上手いって本当に凄いと思うし、

改めて芝居の月組の凄さを実感したのでした。

 

で、2週間だけで良いというその依頼をロレンシオは当然断りますが、

「とある理由」で最後は渋々承諾します。

 

その2週間の最後の一日。本来は帰ってくる予定ではなかった、

実家帰省中だった妻のパトリシア(彩みちる)が帰宅。

鳳月杏×輝月ゆうま×蓮つかさのドタバタで必死に取り繕うも、

あっさりバレてしまいます。

 

ここで、成り上がりで粗野なアルバレス侯爵と

教養深いパトリシアが全くウマが合わず、

実は2人は離婚協議中であることが明かされます。

 

貴族の娘として自分を殺し、夫の前で貞淑であろうとしたパトリシアと、

過去を消し去って流れ者として生きてきたロレンシオ。

2人はシンパシーを感じあうと同時に、自分と似た境遇の他人を見たことで、

客観的に自分自身を見つめ直すことになります。

 

「あなたは、あなたなのよ」と、ロレンシオに語り掛けるパトリシア。

生まれて初めてそんなことを言われ動揺するロレンシオと、

彼に言葉を掛けるようで、その瞳に映る自分自身を顧みたパトリシア。

 

「あなたとの嘘の芝居、もう少し続けてみようかしら…。」

男女が恋に落ちる寸前の視線を交わしながら、

ドラマティックなBGMとピンスポの中、一幕終了。

 

 

 

…え、面白いんですけど??????

と、この時点で(失礼ながら)困惑してしまいました。笑

 

この後、ロレンツォとパトリシアの昼ドラ的恋愛模様と、

セシリオが所属する労働組合によるアルバレス侯爵(ロレンツォ)暗殺計画が交錯し、

さらにその黒幕は…?とまさしく怒涛の展開を迎えます。

 

続きが気になる~?!

気になる方はぜひ舞台かライビュを見ましょう!!(宣伝)

 

謝先生の演出とメッセージ

 

謝先生って、私の中では「ハキハキおばさん」という印象があるのですが、笑

それは演出面でも表れていたと思います。

 

例えば、コメディパートとシリアスパートがハッキリ分かれていること。

そして舞台演出上の明と暗がハッキリ分かれていること。

(特にロレンツォが目を覚ます演出は、単純だけれども分かりやすくてプチ感動!!)

 

いわゆる「間」が少なく、怒涛のような舞台転換や繋ぎのダンサーが出てくる一方で、

物語の緩急がしっかりしていて最後まで飽きずに見られることが出来ましたし、

何よりコメディパートが普通に面白い。さすが関西人です先生‼︎笑

 

また、ロレンツォとパトリシアの惹かれ合う流れを始め、

酒場の仲間たちや軍部、侯爵家たちなど、

登場人物たちの感情の流れが実に合理的かつ自然で、

「なんでそうなる?」という引っかかりのない脚本だったことにも、正直驚きました。

 

このあたり、無駄に「男のロマン」という自己満足に走らず、

エンタメとしての面白さ、整合性を突き詰める様子が

さすが女流作家の系譜(上田・指田・栗田)だなぁとしみじみ感じたのでした。

 

特に最後の場面では、3回くらい小ネタ的なオチをつけつつ、

実に感動的な大団円を迎えながら、

シャレオツにフィナーレへと続いていって、まさしくカタルシス。

まさかこんなに感動するなんて…と悔しいくらいに面白かったです。

 

 

で、ここからは謝先生の社会的メッセージについて。

最初は、「反戦」で「元首批判」で「女性の社会的地位向上」と、

実に現代的な主張(withオブラート)を声高にされているかと思いきや、

実はそうでも無いんですよね。

 

例えば、「女たちは抑圧されている」とマグダレーナ(白雪さち花)が言えば、

男が戦争に行くことは国から抑圧されていることと同じという至極全うな反論をするし、

元首批判からのナショナリズムについて言及しているかと思いきや、

ワインの出来、男の戦いの仕方についてスペインの地方間でも言い争ってるし、

ジプシー(桃歌雪)が社会から迫害された者の嘆きについて語る一方で、

男からキスされそうになったマルコス(千海華蘭)「俺にはそんな趣味は無い!!」と言うし…。

 

で、最後のエルピディオの詩の一節に、

この作品の本旨であろう、実に興味深いことが語られていました。

「彷徨う船から、君はなぜ降りないのか?」

「このままではこの船は沈没するだろう」(意訳)と。

 

そう、本作ではフェミニズム的主義主張が一貫して行われているんですけど、

謝先生の意図は、「女性の社会的地位向上」をこの令和の時代に今更叫ぶのではなく、

当時の女性たちはおかしいと思ったら自ずから主張したからこそ、現代女性もおかしいと思えば声を発するべき、

という主張を、宝塚のメインである女性ファン層にしているのではないか、と私は感じたのでした。(先生あってます?)

 

現代に蔓延る多数派に強要を強いる弱者ビジネス的なフェミニズムではなく、

本来の意味での当人への啓蒙としてのフェミニズムをしていて、

すげーーーーーーーーーって思ったのでした。

 

ま、これを宝塚でやるべきなのか、という話は確かにありますが、

これが月組の芝居力によって構築されたエンタメとしての面白さと

脚本による素晴らしいカタルシスで誤魔化されてるあたり、

実に興味深いなと思います。

 

キャスト別感想も書きたいが…

 

んがーーーーー!!

本当はキャスト別感想も書きたかったのですが、

現時点で既に3000字を優に超えているので一旦切ります。笑

 

とにかく想像以上に面白くて、良い意味で裏切られた、

ということをお伝えしたく記事を書きました。

 

最近は若手女性の脚本・演出家の台頭が目立ちますが、

「私だって出来るで!!(関西弁)」という謝先生の意思を良い意味で強く感じる作品でした。

 

しかし月組キャスト陣も本当に凄かった…

ってことで気が向けばキャスト感想別感想も書きたいのですが、

果たして書けるかなー。

 

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コメント

  1. 五條 より:

    めっちゃくちゃ評判いいですよねこの作品。ピガールを見ても月はコメディ上手いなあ…と思ってましたが、今回は謝先生という事でスルーしましたw ミスったなあ。
    これはもしや雪のライラックも期待してよさそう?正直藤井ショーが見れればまあいいか、とか思って期待してなかった(超失礼)ので。

    キャスト別も可能でしたら是非!楽しみにしてます。彩海が別箱2番手としてどこまでやれたか気になります。

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      いつもコメントありがとうございます!
      何を隠そう私も全く同じことを考えてまして…笑
      次のライラックが少しばかり楽しみになってきました。
      彩海さん、凄かったですよー!さらに歌ウマになっただけでなく、芝居の月組に溶け込む実力。見た目も極まってて、開花前夜、という雰囲気でした。

  2. ともじの嫁 より:

    こんばんは!
    観ましたよ。月組29人と輝月さんの楽しい舞台。もっとシリアスな内容かと思ったら、分かり易くて、ベタな笑いだけど気持ちよく笑えて、最後の方はセシリオかアロンソが死ぬんじゃないかとドキドキしてましたが、誰も殺さない作品で嬉しかったです。皆が楽しく演じていて、久しぶりに安心してゆったりと力を抜いて楽しめました。特に花組全国ツァーの暗い作品後の観劇だったからかも。笑
    彩海さんのかわいい顔から、男らしい声が出ていて素敵でしたし、ちなつさんの軍服姿が、春の雪の皇太子を思い出させましたが、キャラが違いすぎて吹っ飛びました!
    千秋楽までに磨かれて、もっと楽しめそう。残念ながらもう観劇出来ないので、配信を観たいと思っています。

  3. もみ次 より:

    私も謝先生といえば「眩耀の谷」のイメージが強く、もう内容もよく覚えていないくらいですが(己の記憶力の問題)、今回はストーリーを追ってたらあっという間に終演時間となりました(面白かったということです)
    輝月さんがさらに舞台に風格を与える存在となり、専科さんっぽくなられたなあと思いました。
    欲言えば鳳月さんが演じてきた役の寄せ集めぽくも(見た目も)思えたので、せっかく主演の機会ですからもっと目新しさを味わいたかったという、飽くなきファンの意見でした笑

  4. らんまる より:

    初めてコメントしますね。
    悲しい気持ちのままで公演を観て帰宅するのが、イヤです…
    だからハッピー!で終わってくれるお芝居が好きです。
    私もチラシを見る限り、残念になるんじゃないかと思い込んでいまして…
    あっという間に大団円~良かった~!
    フィナーレの扇のダンス。カッコ良かったなぁ~~っ!
    どうぞキャスト別に皆さんを褒めてあげてくださいね!

  5. 大昔はツレちゃんファン より:

    初めまして。素敵な紹介、ありがとうございます!
    実は明日、見に行きます!こちらを読んで、もうワクワクが止まりません!
    つい半年前のある日、何故だか娘が宝塚に目覚め、はるか大昔のファンだった私も覚醒してしまいました!ああ、やっぱり素敵!
    2人で行くのに、何故か4枚のチケットを持ってます、トホホ。

  6. ドルチェ より:

    もしかしたら同じ日でしょうか、、、幸運なことに私も観劇できました。
    本当に期待を大きく上回る素晴らしい舞台でした。
    鳳月×輝月×蓮のコメディーは感動のあまり涙が出そうになり、コメディーなのに泣
    けるんだと我が事ながら驚きました。
    これだけ舞台に没入した作品は久しぶり雪組の心中恋の大和路(和希夢白)以来でしょうか、3人の芝居力の高さに敬服します。
    もちろん3人だけでなく、彩、千海、白雪、佳城、彩海、きよら、、、本当に皆さん上手い!
    蒼汰様ご指摘の回収されない謎セリフや時々え?と感じる言葉遣いなど引っかかるところいくつかありましたが、脚本に多少の難があったとしても芝居巧者がこれだけ
    揃えば欠点を吹き飛ばし良作、名作になるのですね。
    前回の記事で「芝居は好み」というところで、半分納得半分疑問だったのですが、観
    客の心を揺り動かす技術というのが確実にあって(字のとおり演技=演じる技術です
    ね)、それを備えた演者はやはり良いお芝居を作るなあと思いました。
    そして、フィナーレの鳳月さんもカッコいい!スタイル抜群!目線と声に色気が溢れ
    真ん中オーラも十分!学年などを考えればまずないのでしょうが、大劇場の真ん中を見てみたいスターさんだと感じました。
    でも、それなら数々の主演作はもちろん最後のサヨナラショーでも真ん中力を見せてくれた愛月さんはなぜ?となるし、もったいないからと主演できるクラスのスターを学年順でトップにしたら、トップスターの特別感もなくなってしまいますね。脱線失礼しました。
    あと何作宝塚にいてくださるか分かりませんが、次の業平役の鳳月さんもとても楽しみです。