月組公演、観てきました。
いつもはレビュー作品から感想を書くのですが、
『桜嵐記』へのエモーショナルが止まらないので
先に芝居作品から書いていこうと思います、が。
想像より長くなってしまったので、前編と後編に分けます。
前編は全体の所感、ならびにキャストへの感想編で、
後半は内容について書く予定です。
上田久美子・自分への挑戦状
現在スカステで放送中の珠城りょうサヨナラ特番にて
『月雲の皇子』がどれだけ大切な作品かを語っていましたが、
それは上田久美子氏にとっても同様でしょう。
なにせデビュー作にして大好評を博し、追加で東上公演まで実現。
ここでウエクミ節を確立し、続く『翼ある人々』でも大ヒット。
2年で『星逢一夜』で大劇場デビュー、これまたメガトン級の大ヒットを飛ばし、
若手演出家のトップとして不動の位置を確立。
以後も数々の名作を生み出し、トップ退団公演を複数任される程になります。
そんな彼女が珠城りょうを主演のサヨナラ公演を作る。
きっと本気の作品が来るのだろうと思っていたら、やっぱり来た。
そしてそれは、想像以上のモノが。
わざわざ鳳月杏を呼び寄せたのだから、
『月雲の皇子』リターンズのような作品をやる、
なんてことはぜーーーったいしないだろうなと思っていましたが、やはり。
本作は直球一本勝負の大河ロマン的作品。
美園さくらとのラブロマンスであり、とはいえ珠城りょうのスター性でもある、
朴訥とした男らしさの中に嗜虐心を煽る危うさもある。
『FLYING SAPA』『fff』と最近は変化球的内容が続いた中で、
みんなが見たかったの、コレでしょ?という直球作品を、
過不足無く最高級のクオリティで提供できる上田氏は、やっぱり天才。
これがまた、桜が散る春が舞台であった『月雲の皇子』から、
夏『星逢一夜』、秋『翼ある人々』、冬『fff』と季節は(順不同で)巡り、
再び『桜嵐記』で桜散る春の季節に戻ってきたと思うと、実に感慨深いです。
珠城りょうが8年間で男役として成長してきたのと同様、
上田氏自身がこの8年間で得たエネルギーを全てぶっこんだ、
自身に課したハードルを越える作品に仕上がったな、というのが第一感想です。
天才的配役に感動する
内容については後編に回すとしまして、
上田氏の天才ポイントは、極力多くのキャストに役を振りつつ、
きちんと風呂敷を畳んで物語を成立させ、
かつ神がかり的なキャスティングをするところにあると思います。
主要キャストは当然として、今作で一番のヒットは、
ロイヤル芸の紫門ゆりやに高師直役を当てたことでしょう。
最近のうるさい上演コードの中で、
ここまで魅力的な「色悪役」を久しぶりに見ましたし、
それを敢えて紫門ゆりやに当てたこと、天・才・かっ!!とツッコミたくなります。
そしてそれを演じ切った紫門ゆりやも凄い。
専科に行ってどうするの?なんて思った自分を叱ってやりたい。
貴女は王子も悪役も演じられる素敵なスター様です!!!!!!(スライディング土下座)
そして周りに侍る白雪さち花、晴音アキの悪女感も良かったなぁ。
2人とも媚びていびる役が似合う似合う。(褒めてます)
高師泰役の蓮つかさはポスト悪役コースとして美味しい一歩だったし、
足利尊氏役の風間柚乃の威厳が凄い。
あんた本当は何年目?と聞きたくなる威圧感。
そして彼が統べる花一揆の代表格・饗庭氏直役の結愛かれんが、
これまたいいんだ、上手いんだ、反則でしょ!!(三段活用)
内容的には、歴史オンチの私ですら「ん、そういうこと?」と思い、
終演後に調べたらやっぱり男色的なアレで、
それを直接的な表現をせずとも匂わせられるのって凄いと思います。
(「女の脂は腹の毒」ってすっげー表現よね。)
あと、汚い仕事は武士に任せておけば良い、的なことを言う、
鼻持ちならない公家チーム、上手いなぁと思ってよくよく見たら、
これまた白雪さち花&晴音アキの姉御チームで笑いました。
敢えて娘役に演じさせることで出る雅な雰囲気が合っていたし、
これをさせちゃうのが上田氏が天才たる所以ですよね。
ってことで全体的に悪役チームが魅力的過ぎてヤバイ(語彙力)のですが、
南朝チームだと、後村上天皇役の暁千星が印象的。
『BADDY』では何も知らないボンボン王子役を振られた彼女が、
3年の時を経て、今や時代の流れの狭間に苦悩する王(天皇)の役に。
今、敢えて彼女に静の役を演じさせるセンスに脱帽。
もちろん学年的にも大切なことだし、
暁千星の魅力を改めて魅せた配役だったと思います。
「名作ハードル」を越えた一作
この時点でだいぶ長くなってしまったので、
本の内容についての感想は次回に。
とにかく事前の噂にたがわぬ、
名作ハードルをやすやすと越えた一作となったのでした。
ウエクミ、あんたはやっぱり天才や!!
ってことで次に続く。
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コメント
初めまして。いつも更新を楽しみにしております。漠然と感じていたことを的確に表現してくださるので、「そーそーそーなのよっ!」と膝を打つ思いで拝読していますが、本日の「専科に行ってどーするの」から「スライディング土下座」のくだりには思わずスタオベ!(あくまでも気持ちは、です。笑)
冷静な分析と漏れ出る愛。蒼太さんのブログ、これからも楽しみにしています。
劇団お抱え論評者も「亡き柴田侑宏さんの墓前に『立派な後継者ができました』と報告してあげたい」とベタ褒めしてましたね。さすがウエクミさんですわ。
いつも楽しく、興味深く拝見しております。
記事を読ませていただき、感動が甦ってきました。
大千秋楽の配信で、再び珠城さんと月組の皆さんの今を、観させていただきます。
上田先生と珠城さんの、それぞれの8年という歳月が、今この時に、この作品に集約されているのでしょうか。
心揺さぶる記事を、ありがとうございました。
蒼汰様
待ってました〜。
やはりキャスティングに唸る。
スライディング土下座、想像して笑えました。
脇役の演技が、その他大勢ではなく、しっかりとした場面があり、登場人物が多くてもごちゃごちゃしない。
あの南北朝時代のややこしい人間関係を上手く紐解き、裏側の人間ドラマを想像させ、なおかつ恋愛模様も織り込み、脇役の見せ場もあり、武士が居並ぶ姿がこれまた格好いいし、美しい。
トップスターが去って行く現実と物語の中で散り行く主人公が絶妙にリンクして、素晴らしい作品でした。
引き続き、感想楽しみにしています。
いつも、楽しみに拝読しております。
久しぶりのコメントです。
私的にはウエクミ先生で「冬」の作品と言えば朝夏さんの退団公演「神々の土地」がまず浮かびます!
今回の桜嵐記、トップコンビはもちろんですが、後村上天皇役の暁さんも新たな扉を開かれたようで、素晴らしかったですね。最後の「戻れよ」の台詞に泣きました。
別れの前の桜舞い散る中での2人の舞い、自分の身体が桜の花びらの渦に吸い込まれていく感覚。
ラストの豪華絢爛な出陣式の、芸術の中に飲み込まれていく夢心地。
よみがえってきました。
自分の中にある、消化しきれない思いを、涙とともに流してくれる。
ウエクミのまさに天才的な演出。
現在、宙組の芝居とショーのダブル中毒にかかっていまして、その依存症からしばし解放されました(笑)
蒼汰様
いつも楽しみに拝読しております。ライビュ専科の地方民です。
「ル・サンク」を拝読した限りでは、「桜嵐記」は、相当攻めた作品ですね。このテーマ、今でもNHKの大河ドラマでは正面から扱うには大変にむつかしい「南朝」「帝」「戦」「忠義」「玉砕」「特攻」「桜」につながりかねないテーマについて、
登場人物をむやみに戦前の皇国史観にも戦後平和主義の価値観に寄せず、あの時代に生きたリアルな一人の人間の苦悩に向き合い、真摯に描写している。
小説等興味のある人しかアクセスできない媒体でなく、大衆の目に触れる宝塚の大劇場演目で、「泣けるメロドラマ」で済ませることもできたでしょうに、尊氏に「なぜ南朝にこだわる、楠木!」と言わせ、正行の口からあの独白を語らせる。
上演コードの厳しい時代に、こんなセンシティブなテーマを正面から描く上田久美子氏のの作家としての矜持に感服いたしました。
蒼汰さんの桜嵐記感想待ってました!
本当に神キャスティングで月組子の芝居力が堪能できる作品です。路線の役どころ以外を頭に入れずに観た初日に特に印象深かったのは夏月都さんのご門跡様、楓ゆきさんの阿野廉子、佳城葵さんの北畠親房でした。そして輝月ゆうまさんの楠木正成で堪えきれず号泣…
感想の続きも楽しみです。
こんにちは。
いつも更新楽しみにしております。
私は後醍醐天皇の演出方法が一番驚きました。
歌舞伎の怨霊か、シェイクスピアの魔女のよう。
宝塚の演出でホラー映画のようなものは、観劇30年ですが見たことがありません!
宝塚で扱うオカルトは耽美かギャグというイメージです。
前例のないそれに応えた一樹千尋さんの演技も素晴らしいと思います。
内容の感想も楽しみにしております!
蒼汰さま
こんにちは!
毎日暑い日が続きますね。ところで桜嵐記/Dream chaserの感想編を待っている読者のひとりです!!
先日宝塚二度目めましての友人と月組を観劇したところ思いのほか良かった、との感想を得て嬉しくなりました!友人はトップコンビ退団公演だ、とか前情報一切無しでしたがこのお役をこの番手に振って最後の回収場面まで無駄なく終わらせる脚本演出と生徒さん方の熱演にうなっておりました。今日がマイ楽なのでしっかりと目に焼き付けてまいります。