早霧のDNA、望海のDNA。

『星逢一夜』という作品を久しぶりに見て、

その名作っぷりに改めて感動しました。

 

脚本の素晴らしさはもちろんですが、それと同時にこの作品のヒットは

何重もの意味を持つ意義深いものだと言えると思います。

 

「和物の雪組」としてヒット作を出したこと。

「芝居の早霧」という確固たる肩書き・強みを得たこと。

・早霧・咲妃・望海の「トリデンテ」体制の基盤を作り、魅力を引き出したこと。

・任期2作目という最も谷間であるタイミングにこのヒット作を出し、

早霧人気の決定打をうったこと。

 

例えるなら安室奈美恵の「Chase the Chance」のような、

工藤静香の「MUGO・ん…色っぽい」のような、

一つ上の次元に飛び立つ、運命のヒット作。

 

そしてこの成功を結実させたのは、

上田久美子氏の脚本演出であり、劇団の采配であり、

そして何よりも早霧率いる雪組生の努力のおかげであることは間違いありません。

 

早霧・咲妃のDNA:「芝居の雪組」

 

早霧政権時は「芝居の雪組」を強みにしていたわけですが、

その舞台を改めて見ると、本当に凄いですよね。

 

組子一人ひとりの、その細部に渡るまで、

さながら硝子細工のように研ぎ澄まされた芝居力の光ること。

 

歌に定評がある当時の2番手・望海も、『星逢一夜』では

純朴な少年期から朴訥とした壮年期まで生き生きと演じていたし、

それは彩風も、彩凪も、娘役たちも同じです。

 

これはもちろんトップ・早霧の芝居の熱(パワー)が

他の組子たちに伝染していった結果に他なりませんよね。

 

そしてそんなトップの魅力を引き立たせるかのように

トップ娘役を務めた咲妃が稀代の芝居役者であったこと。

これが本当に大きいと思います。

 

早霧の相手役がビジュアル重視で何もできないカワイ子ちゃんではなく

魅力をより引き立たせるような娘役が相手を担ったこと。

 

それこそが相乗効果となり、

トップコンビが雪組の大きな支柱として

組子たちに良い影響を与えていたのだなと個人的に思います。

 

望海・真彩のDNA:「歌の雪組」

 

そんな大人気な「ちぎみゆ」コンビ、ないし早霧体制は、

5作という短さであっという間に散っていきました。

 

その後は当時2番手を務めていた望海が

順当にトップへと駒を進め、現在も政権を担っています。

 

彼女がトップに立った途端、そのカラーはガラッと変わり、

「歌の雪組」へと変貌したことが、非常に面白いと感じませんか?

 

そんなトップコンビに引っ張られるように、

正2番手へと駒を進めた彩風咲奈はじめ、

朝美も永久輝も明らかに歌唱力が向上している。

 

彩凪などの歌が苦手なスターはショースターへと変貌し、

望海の弱点である煌びやかさを補填する役割を担っており、まさに完璧な布陣。

これで人気が出ないわけがないですよね。

 

そしてこれももちろん、

トップ・望海の情熱が組子たちに伝染していった結果に他なりませんし、

そんな彼女の魅力を引き立たせるかのように

トップ娘役である真彩が稀代の歌姫であったことが非常に大きいのでしょう。

 

振り返れば雪組は、

トップスターが変わった時にその色に上手に染まって活路を見出し、

人気を獲得しているのが強みであると言えます。

 

もちろんそれは、組のカラーをガラッと変えられるような

訴求力があるトップコンビを采配していることこそなのは間違いありません。

 

雪組の次世代は…「ダンスの雪組」?

 

先日、彩風咲奈2度目の東上公演『ハリウッド・ゴシップ』のヒロインに

102期・潤花が選ばれたことが発表されました。

 

私は基本的に、望海は6作任期で

次は彩風・潤コンビが雪組トップに立つのではないかと予想していますので

この決定は非常に妥当なものだと思っています。

 

そしてもしもこのコンビがトップに立ったとして、

その売りは何なのでしょうか。

もちろんダンスでしょう。

 

彩風咲奈は長い手足を伸び伸び使い非常にスタイリッシュに踊りますし

潤花も全ツのレビューを見る限り、ダンサータイプの娘役のようです。

 

そしてこの売りは、望海体制の現雪組とは全く異なるものであり、

それを不安に思う方もたくさんいることでしょう。

だけど、これは繰り返されてきた歴史なのです。

 

早霧から望海に代替わりする際、

「歌が上手いだけでビジュアルが良くないスターなんて宝塚ではない」

という批判が巻き起こり、実際に雪組から去ったファンも少なくないと思います。

 

だけどそれ以上に新しいファンを取り込むことが出来れば

はっきり言ってノープロブレム。

それは今の望海・真彩コンビの人気っぷりが証明していますよね。

 

だけど一つ言いたいのは、

今の望海風斗が早霧らしさを完全に捨て去っているかと言えば、

決してそうでは無いということです。

 

望海の芝居を見れば一目瞭然ですが、

彼女の舞台には、早霧の「芝居のDNA」が刻まれているのがよく分かります。

 

それと同じように、彩風にはさらにその上で

望海の「歌のDNA」が刻まれているように私には見えるのです。

 

それは螺旋階段をぐるっと回って

二次元的には同じ座標でも更に高みに登り進化したように、

過去のトップのDNAを吸収しながら

スターとして一つ上の部分に登っていくということ。

 

連綿と続く組の歴史に、

それぞれのトップのカラーが交じり合い、次代に託していく。

雪組ではそんな理想的な継承が行われているような気がしてなりません。

 

これこそが、あの雪組の暗黒期から抜け出したパワーであると

言えるのかもしれませんね。

 

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コメント

  1. いのさん より:

    いつもブログの考察を大変興味深く読ませていただいております。
    特に今回の内容は最初から最後まで激しく頷きながら読了しました。まさに!今の雪組を的確に分析されているなと感じました。
    早霧さんがトップ就任した頃は、雪組はもう終わった…と言われている方も少なからずいたように記憶していますが、先代の壮さんは「私は何の心配もしていません」と言い切っておられました。

    組子の眼が曇る事の無いように、とガタついていた組を立て直す事に徹した壮さん、大作に頼る事なく全て新作でヒットを連発した早霧さん、圧倒的歌唱力で感動を与え続ける望海さん。
    そして相手役の愛加さん、咲妃さん、真彩さんは、それぞれに異なる美しいトップコンビの形を私たちに見せてくれました。
    その後を継ぐであろう咲ちゃんは、水さん音月さん時代から新公主演を経験してきた雪組の生き証人であり、DNAの結晶のような存在だと思います。
    プレッシャーも相当あると思いますが、怯む事なく新たな歴史を切り開いてもらいたいと願うばかりです。

    しかし本当に最近雪組のチケットは取れないですね。そこだけは人気が恨めしいところです(笑)

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      おっしゃる通り、壮・愛加コンビから始まる3代によって、私達に素晴らしいトップ像を魅せてくれ、また雪組の再建を果たされましたね。
      雪組の生き証人…まさにおっしゃる通りですね。ぜひ新たな歴史を作って欲しいと思います。
      チケットは本当に大変ですよね。ライトとしては2回見られれば大万歳という感じです。笑

  2. YS より:

    コメント失礼いたします。
    私の知る限り望海さんのビジュアルをディスる人はいませんが…
    トップ交代の際、それまで歌下手トップを敬遠してきた歌上手至上主義のファンが一気に雪に移ったようです。
    更に朝美さんの異動で月から雪に移ったファンも多かったと思います。元からの月ファンは歌上手キラキラ妖精が好きですから。
    今後美弥さんのファンだった方々で宝塚に残る方も雪に流れるのではないでしょうか。
    彩風氏の懸念事項だった歌も前回ファントムを観た限り十分聴けるものになっていますし、雪組は大丈夫なのでしょう。
    何より贔屓退団以降宝塚生観劇からは離れている私も雪は時々行きますから(笑)

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      私の記憶だと、早霧さんが5作で退団と決まったあたりに過激派ファンがSNSで吠えまくっていた記憶が…といっても熱烈ファンなら致し方なしですけどね。
      おっしゃる通り、歌好きなファンと、それこそミュージカルファンを大量に取り込んだことが、今の雪の成功の起因なのでしょう。
      彩風さんも若手時代とは考えられないほどの大成長っぷりですもんね。これからのさらなる飛躍に期待したいです‼

  3. skyblue より:

    コメント連投失礼いたしますm(__)m
    『星逢一夜』大好きな作品です。
    上田先生オリジナル脚本の宝塚作品は、いつも観ている宝塚とは違う一面(新たな魅力)を観ているような気分になります。
    『金色の砂漠』はもちろんですが、『月雲の皇子』も大好きです☆

    2番手彩風咲奈、昨年あたりから歯の矯正をはじめているようですし、トップへの準備を色々と進めているのだな、と望海ファンとしては複雑な心境です。笑
    潤花は『ファントム』劇中での歌い出しを聞いた時にはずっこけそうになりましたが、これからの歌唱力向上に期待したいと思います!
    でも望海風斗も就任前に色んな娘役と組みながらも、結局真彩希帆を組替えで迎えた訳ですから、まだ分からないということでしょうか?
    トップ毎にカラーや売りが変わること、ファンとしては嬉しい限りです。

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      いやー本当に上田久美子氏は凄いですよね‼実はいつかこのウエクミについての記事を書きたくて久しぶりに『星逢一夜』を見たのですが…笑
      おっしゃる通りで彩みちる・有沙瞳ではなく、外から真彩を迎えたわけですから、潤花もまだ分からないんですよねー。
      果たして相手役は誰になるのでしょう。

  4. 通りすがりのれいこ より:

    こんにちは!相変わらずの考察本当に
    お見事です。そうたさん(何故な漢字が探せない ひらがなごめんなさい。)
    の考察はやっぱり愛がありますねー。
    ちぎさん だいもんさんファンの方々も
    この記事は嬉しいと思うなー。
    明日海さん退団後 宝塚を牽引するのは
    間違いなくだいもんさん率いる雪組でしょう。いつも素敵な記事を本当にありがとうございます。

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼お褒めの言葉をいただき恐縮です。
      ここ数年の雪組の安定感は本当に素晴らしいですよね。望海さんの任期はわかりませんが、ぜひ110周年まで雪組が牽引して欲しいと思います。

  5. パレードマニア より:

    いつも素晴らしい考察、大変勉強になります。先日の美弥さんについての回も、大反響でしたね!コメントを寄せられた皆さまのご意見共々、本当に為になりました。

    「星逢一夜」、宝塚ファンになる入口となりましたので、私にとっても思い出(というか思い入れ)の深い作品です。何気なく観ていたテレビ放送で泣かされてしまったので、そこから宝塚の鑑賞を始めました。次に観たのは星組の「こうもり/The Entertainer」。芸の巧みさに感激して、早速スカステに加入し、今に至ります。

    あまり時間も資金も多くはないため、テレビ鑑賞が精一杯。そんな中、蒼汰様のブログは頼れる道しるべであります。劇団経営に関する常識、これまでの歌劇団の道のり、これからの方向性など、初めて知ることばかりです。大変感謝しております。

    今回のテーマ「DNA」の継承についても、理解が深まりました。私は現在の雪組が大好きですが、トップスター各々のカラーが生かされていく歴史を思えば、次の代ではダンス、なのですね。華やかな舞台が期待できそうです!
    歌を聴かせる組を期待する身としては、次の星組にも期待しています。歌だけではないコンビだと思いますが、CDを購入したくなるほどの歌声に出会いたいですね~。

    歌の話ばかりで、ビジュアルは必要ないかと思われてしまいそうですが…実は私的にはあまり必要じゃなくて…。本当は宝塚には大切な要素なんですよね!?いわゆる正統派でないため、大きな声で「ファンです」って言いづらいです。こういうのってダメなんでしょうか?DNAの継承に影響してしまいますかね!?

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼最初に見た舞台、トップって本当に大切な存在になりますよね。
      私は『こうもり』だったので、北翔体制の星組にはやはり思い入れがあります。
      まぁファンには求めるいろいろがありますので、自分の好きなスターを、その性質(ビジュアル・スタイル・ダンス・歌・華などなど)を大きな声で叫ぶのは
      何も問題の無いことだと思いますし、どうぞ好きに発散していただいて良いと思いますよ‼次の星組は本当に期待高まりますよね。^^

  6. 和世 より:

    私の宝塚初観劇が『私立探偵ケイレブ・ハント』だったので、
    『星逢一夜』は中日劇場まで観に行きました。
    最初に拝見したトップさんが早霧さんだったので、お歌の「あれれ…」は脇に措き、思い入れのある方でした。
    (歌は望海さんで聴いていました(笑))
    咲妃さんは「何でもできるが、芝居役者」な方だったので
    良いお芝居を魅せて下さったお二人でした。

    一転して、圧巻とも言うべき歌唱力を誇る望海さん・真彩さん。
    (ジョアンのお芝居は、咲妃さんの方が適任だっただろうなと夢想しつつ、観られなかった『ファントム』のBul-layを、しっかり購入)

    大劇場で観劇できるか否かは別にして、雪組さんは代替わりしても
    気になる組です。

    蛇足ながら、工藤静香さんの「MUGO・ん…色っぽい」を作詞した
    中島みゆきのファンとしては、嬉しい一言を書いて頂きました。

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼最初に見た作品、トップはやはり思い入れがありますよねー。
      確かに咲妃ジョアン面白そうですね。なんだか可哀想なジョアンになりそうです。(真彩ジョアンは本当に「嫌な女」な感じなので)
      蛇足でお返ししますと、工藤静香さんだと「黄砂に吹かれて」も「雪・月・花」も好きです。笑

  7. ぺぺ より:

    いつも楽しく拝見しています。
    たしかに、ちぎさん、だいもん全く得意分野が違いますね。そしてお互い相手役も実力派。
    芝居→歌→ダンスとトップの個性が分かりやすく、雪組の一人っ子政策(御曹司)は他組比べて安定してるというか人事がごたついてるイメージがあまりないので、よく考えられてるなと思います。
    ちなみにですが、人事的に安定してるなと思うのはどこの組みですか?(爆上げがない)など。
    逆によくごたついてるというか若手育成など心配になる組はどこでしょうか?

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      雪組はおっしゃる通り計画的なんですけど、逆に言えば他の若手には一切のチャンスを与えないという意味では残酷なのかもしれませんねー。
      個人的な印象で言うと、ここ数年の人事采配でいうと
      花組:色んなスターにチャンスをふり、かつ本命(柚香・聖乃)も絞っているので分かりやすい。
      月組:ド迷走。とはいえ暁・風間は安定してるよなー。
      雪組:一人っ子政策は良くも悪くも。ただトップ人気がずーっと安定していて、それが組子にも反映されるから良い環境。
      星組:礼真琴頼りっきり人事(若手のビジュアル重視抜擢)はいかがなものかと思うけど、別格上級生の扱いは上手。
      宙組:はやく生抜きが出るといいね。

      という感じなので、安定していると思うのは花雪ですかねー。