鳳月杏&天紫珠李のお披露目公演である、
『ゴールデン・リバティ』をさっそく観劇して参りました。
前回はキャスト評を中心に、
個人的に良いなと思ったところを書きました。
要約すると、
宝塚と親和性があるはずなのに上演機会に恵まれなかった西部劇を復活させ、
鳳月杏の大人な魅力を上手く引き出していたと私は思いました。
が、今回は本の中身というか、世間的に不評な理由について考えていきます。
不明瞭が多過ぎるあらすじ
この話のあらすじは「過去にワケ有りな男が、ワケ有りな理由で追われているワケ有りな女を、ワケ有りな悪いヤツらから守ってあげる話」です。はい、この時点で分かる通り、あまりに不明瞭な部分が多過ぎます。もちろんこの「ワケ有り」な部分が一つ一つ物語が進むうちに明かされていくわけですが、それをずっと追いながら観るのは、そりゃー疲れますよ。確かに映画等ではそんな内容のものが履いて捨てるほどありますが、でも結構「高度な娯楽」であり、宝塚のメインの客層にその技術を求めるのは無謀だと思うし、不親切です。
特に気になったのが、風間柚乃演じるライマンです。ぶっちゃけ言いましょう、この役、いる???
冒頭、謎のオーラと威圧感を発しながら主人公を銃で脅迫し、連れ去り、手下たちを引き連れて列車強盗をする。とんでもねーワルモノだと思っていたら、そこからほとんど出番がなく、気付けば本当のワル(夢奈&英)の手駒だったことが判明。つまりただの中間管理職だったわけですけど、風間柚乃が上手に謎の男ぶるもんだから凄いキーマンなのかと思って観ていたので、肩透かしもいいところ。ただでさえ主人公とヒロインの生い立ちや追われる理由など、開示されていく情報を追うのに精いっぱいなのに、不要な風呂敷を広げてどないすんねんって話です。
それであれば、礼華はると彩海せらの役をドッキングさせて「悪者の手下として主人公の周りをうろつくけど、結局は手助けする流れになって最後は改心する気の良いアンチャン」として2番手格に引き上げ、本当のワルから直接雇用されてるキャラにした方が、話の流れ的にスムーズなのでは?と思わなくはないのですが、宝塚作品として大野先生が頑張って役を増やしたと考えれば、まぁ仕方ないですよね…。
設定を理解させようとしてよ
そもそもなんですけど、事前に明かされている「公演解説の内容」を、もっと丁寧に描写する必要があると思うんです。
まず、ワイルドバンチって何?ジェシーは札付きのワルで銀行強盗だったの?私には孤児としてワイルドバンチのおっちゃん達に引き取られただけに見えたんですけど…。だけど義賊的で人は殺さないの?なのにライマン(風間柚乃)が声をかけるほど悪名轟くワルだったの???どゆこと???みたいな。
なので不思議なのは、同じ大野作品でいうところの『El Japón』のように、冒頭で映像を使って一節説明を入れれば良かったのに、ということです。
19世紀後半、南北戦争を終えたばかりのアメリカは、大陸横断鉄道の開通により世界一の工業国へと躍進した。鉄道が増えれば、その富を横取りする列車強盗も増え、社会問題となった。一方で、莫大な利益に群がる資本家たちが貧しい農村の土地を買い叩くなど、悪行も横行していた。これに対抗するように、人を殺さず金だけを奪い、貧しい人たちに分け与える者たちがいた。「ワイルドバンチ」と名乗った彼らの活躍に小さな村の人々は熱狂したが、ある日忽然と姿を消し、そしてその名も忘れられてしまった…。
みたいな???(公演プログラム・解説より要約)
こんな説明を入れるだけで、大した説明もなくレストランでジェシーがライマンに連れ去られようと、切ないモノローグだけで過去のジェシーの活躍が大して描写されなかろうと、彼が「どうやら凄い人だった」ということが理解出来るし、話がスムーズに進むと思うんだけどな、という次第。(この点、映像に逃げるのではなく舞台演出で魅せた上田久美子『桜嵐記』って本当に凄かったんだなぁ…。)
蛇足なラストシーン
とまぁ、ここまで長々と文句を書いてきましたが、それでも私は不思議と舞台を楽しめました。それは前述の通り、鳳月杏率いる月組生たちが舞台に息づいていたからだし、宝塚らしいクサイ男役芸と、男女の愛憎劇を堪能出来たからだと思います。
「世間的には不評だけど、自分はそこそこ楽しめて良かったわぁ」と思いながら最終盤に辿り着いて、私は愕然としました。最後の5分ちょっと、本当に最悪です。まさしく「蛇足」。なんじゃ、ありゃ?????
状況を整理しましょう。ラストは自由の女神像の中で、主人公は本当のワル(夢奈&英)と対峙し、ライマン(風間)や新聞記者のエリザベス(白河)の助けを得ながらヒロインを救います。だけど主人公は札付きの身、一たび建物の外に出てしまったら、警察に捕縛されてしまう。だけど、それでいいと。ヒロインを助けられて、俺の宿命を果たせたと、ニヒルに微笑む主人公。一方その頃、自由の女神像の除幕式で賑わう外側では、若者たち(礼華・彩海・彩)が輝く未来に向かって新たなスタートを歩む決意をし、歌い出します。打ちあがる花火、華やかなフィナーレ。はい、ここまで完璧です。
で、てっきりこのまま怒涛のエンディングになだれ込むのかと思ったら、違いました。礼華・彩海・彩の3人が歌うだけで、あっさり舞台転換、なんとヒロインの故郷の南の島へ。で、ここでもう1回フィナーレをやるんですよ。ポリネシアン調に歌って踊る島の人たち、なぜか舞台に侵入してくる列車、たった数日で脱獄しちゃう主人公と、外交的に偉い立場に登りつめてるライマン(風間)。…え、どゆこと?????
なんで似たようなシーンを2回も、しかもわざわざ舞台をぶつ切りにしてやろうと思ったのか、私には理解出来ません。ダンスが得意な天紫珠李に、舞台上で活躍する場面を入れたかったのか?くらしか想像出来ない。せめて南の島に飛ぶならば、除幕式事件から数年経ち、王女からただの一市民となったヒロインが、在りし日を思い出す。そこに一人の来客が…それは刑期を終えた主人公だった。裏寂れた浜辺で歌う2人は、その自分たちに与えられた宿命を果たし、ついに結ばれたのだった…。みたいな切ない(つまり前のシーンとは違う場面を見せる)終わり方をするなら、まだ理解出来ます。
いや、お披露目公演だから月組生大集合の前で祝われて終幕にしたい、というのなら、除幕式後の華やかなフィナーレのまま、ご都合主義的に主人公が許されて(もう何十年も前のことだから証拠不十分でとか、ライマンが実は大統領の甥子で口利きしたとか)、ハッピーエンドで良かったのでは?と思うわけです。
はー、なんでこんなビミョーな終わり方にしちゃったんだろう。ここで時間を使うなら、もっと膨らますべき部分はいくらでもあろうに。とまぁ、最後の最後でガッカリしてしまった私なのでした。
けど、私は意外と好きです
はい、ここまで長々と批判的なことを書いてきましたが、繰り返しますけど私は意外と好きです。
嘘つけ、と思われそうですが、ここまで長々と感想を書いたの、久しぶりですよね。私の愛は文章量に現れるのです。つまりこの作品、実は結構気に入ってます。←
この作品の良さは、西部劇という物珍しい世界観がきちんと成立しつつ、ハッピーエンドで中身が程よくチープであるという、まさしくB級映画的なところだと思います。以前に『カルト・ワイン』をそう評しましたけど、いわゆる「平日休みの日に午後2時くらいからテレ東で再放送している、名も知らない90年代の映画をながら見したら意外と面白かった」みたいな、心象風景のアレです。
少なくとも今までの大野作品の中で、私は一番好みでした。チケットが余っているなら、増やしても良いくらい。ってことであと何回か観られる予定ですので、この世界観を堪能したいと思います。
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コメント
蒼太さん、こんばんは!私も本日月組観劇してまいりました!そうなんです。フィナーレが不思議でしたー。
そして天紫さんのダンスシーンの為に付け加えられたのかしら、と思いました。なぜポリネシアン??と。。観終わってからプログラムでそもそもハワイの王女をイメージしていた事がわかり少し理解できた事、あとライマンは最後『数年で市長になった』というような台詞を言っていたようなので脱獄した風のジェシーとの再会も時間がたっていたという事でしょうか。。説明は足りなかったのですがダンスシーンや場面転換が多く飽きずにみれて結構面白かったです!トップコンビはじめ皆さんお役にお似合いなのも良いですね!そして!野口先生のショーの感想も楽しみにしております。
いつも楽しく、拝見しております。
順をおっての解説、感想、楽しい記事をありがとうございます。
鳳月さんを宙吊りにするアクション(?)シーンと、超絶ダンサートップ娘役だった舞空さん卒団後、ダンサー娘役は月の先輩、愛希さんに継ぐ、天紫さんのダンスシーンを、惜しげもなく、お披露目くださったんだなと、喜んで観劇しました。
あらためて、お二人は、任期を思い切りやりきって添い遂げなのか、とも思えました。
業平・高子も、楽しみです。
私もおーの先生の作品は苦手としながらも楽しめました。なぜ初見だと分かり難いか…整理してくださってありがとうございます。
個人的な好みになりますが、主人公カップルがお互い不明瞭なのはいいと思うんです、ミステリー系ロマコメみたいで。ライアンのキャラクターは破綻していましたね。途中でやたら暗くなり最後はケロッと名誉職におさまっていて??風間さんも昇進だし、キャラに深みを出そうと気負っちゃったのでしょうか。
カルトワインにはカタルシスがありましたが、それも不明瞭でした。
それとセットが豪華でしたね。私は月組→花組と逆の順で鑑賞したので、花組のセットが超超シンプルに思えました。
まだ未見なので教えていただきたいのですが、風間さんの演技がもっと良ければライマンという役が破綻することはなかったんでしょうか?勝手に演技のうまい人だと思っていましたが、今回はあまり期待しない方ががっかりしなくて済むのかな……と。
いや、あんなしょーもない役を情感たっぷりに演じてますからむしろ健闘してると思います。ただ、美味すぎるがゆえにスター的なキラキラは薄いかなとは思いますが、それも彼女の魅力ですからね。
付け足し部分は大野先生が汽車をもう一回走らせたかったからだと思ってます笑
記述の仕方が悪かったですね、すみません。ライアン役の破綻はそもそもの脚本上でのことです。
蒼太さま。
ブログ更新ありがとうございます!
私も昨日初見でした。
プログラムも買わなかったので。
頭の中とっ散らかりすぎて
よくわからないまま帰宅しました。
こちらで拝見して、ああそういうお話だったのか、と。
あと一回観劇できそうですので、
しっかり見てきます。
月組は最近、
研2の飛翔れいやさんがキラついていて
ガンガンオペラに飛び込んできます。
ついつい惹かれてストーリーが…。
てこともあるのかもしれません。
初めてコメントさせて頂きます
ゴールデン・リバティのツワナキ島でのラストシーンですが、除幕式の場面から数年経ってるようです
王宮の侍女が「何年もの間、閉じ込められて」とか、ライマンさんの「この数年ツワナキに住み島の未来を考えてきた」等の発言があるので、ジェシーさんも数年牢屋生活を送っていたと考えられます
私はムラで数回観劇したので(この人ちゃんと牢屋生活送ってるんだよなぁ…)とか(この人数年ツワナキに住んで真っ当に市長選挙に臨んでんだよなぁ…)とか心の中でツッコみながら観劇するという楽しみ方をしていました
登場人物の台詞をよくよく聞いて初めて理解できる場面やそれぞれの関係性が多かったので、1度きりの観劇には向かないけど噛めば噛むほど味のする作品だなという印象です
“首に傷のあるガンマン”や“インディアンを撃つとき顔をしかめていた”等の伏線回収がなされていない部分は少し残念ではありますが、上級生から下級生まで見せ場がありキャラクターの関係性や物語の余白部分を想像する余地のある、一月組ファンとしてはかなり楽しめる作品だと思いました
風間さんのお役は西部劇お約束の一騎打ちシーンがやりたかったからだと思いました!笑
風間さんが好きなので、おいしくない役…と落ち込みましたが、それを差し置いても今作はかなり楽しく観られました。
私も大野先生の大劇場作品は苦手なのが多いですが、大野先生のオープニング演出は毎回かなり好きです。あとキリンとゾウのチープさが毎回ツボです。
ラスト5分については、作中のどこかで天紫さんが「いつか貴方にも故郷の舞を見せてあげたいわ!」(適当)みたいなやりとりがあればまた違ったのかな。唐突なダンスが割と長く続くのが若干冷めますが、ラストの汽車上での2ショットは眼福です。
月組 観劇しました。
全く予備知識なく観劇したもので、途中まで、誰が何をしているのかがつかめず、一瞬眠くなりましたが、
半分くらいから整理されてきて、そこからは眠くなく、最後まで観ることができました。
ゴールデン・リバティという題名も、意外と今の世情に訴えるものがあったかもと、思えました。
ちなつさんは、安定感抜群、大人の魅力でした。
ラスト、蒼汰さん、皆さんも書かれている通り。唖然としました。
西部劇を観ているつもりが南国にいて、なにより、あの列車です。島に必要とは到底思えず、海に突進していくのか?
ライラックのときもそうですが、阪急という交通手段が主事業のわりに、列車に関して常識はずれな演出をするなあと、苦笑してしまいました。
そこは考えてはいけなくて、あの立派な列車をもう一度出したかっただけととればいいのですかね。
ついでに、ショーについて。
おだちんカーンは楽しかったです。こちらは、トップさんの他では礼華さんに活躍の場を与えているという印象が強かったです。若手もよかったですね。ゴールドがいっぱいで、派手、豪華でした。
風間さんに関しては、先日、極美さんの配信のきらきらを観てしまったため、風間さんの方がトップさんにとても近いのでしょうが、ベテランになりすぎているように感じてしまいました。
歌はとてもいいのですよ。ショーでも、それをもっと生かしたほうが良いのではないでしょうか。
昨年末のクリスマス特別番組で、マイティ、暁、風間の三人で歌っているのは、三人の中では下級生の立場で、可愛くて、おしゃれで、うまいなあと感じたので、あーいう、しゃれた感じがいいのでは。
あと何回か観劇できますので、お芝居、ショーとも、細かく観てみたいと思っています。