私が一番好きな作品/追悼・柴田侑宏氏【雑記】

【異国より追記】

「FNSうたの夏まつり」凄い反響だったようですねー。

多くの方に宝塚の良さを知って頂くのは素晴らしいことだと思いますし、

そんな大いなる反響を生み出せた雪組生の皆さんに拍手を送りたい!!

 

このメディア戦略の勝利は、チケットの売上などに直接繋がらなかったとしても

大衆や企業に「良い印象を与えた」という意味では

劇団にも大いなる実りをもたらしたんじゃないかなー。

 

というわけで私は残念ながら帰国までお預けですが、

楽しみにしたいと思います!!

 

 

 

さて突然ですが、私が宝塚で一番好きな作品は、

現雪組トップコンビ望海&真彩がお披露目公演として全国ツアーを巡った

『琥珀色の雨にぬれて』なんです。

 

初演は1984年の花組、主演は高汐巴。

その後、87年に主演変えずに全ツ公演へ。

 

さらに2002年には匠ひびきトップ時に再演。

彼女唯一の本公演トップ作品となり、

その後は春野、柚希、望海と全ツ再演が繰り返された、珠玉の名作です。

 

私は春野版と望海版の2つしか見ていないのですが、

本日はそんな『琥珀色の雨にぬれて』について書いていこうと思います。

 

宝塚的「粋」に溢れた演出たち

 

(ここから先は思いっきりネタバレ前提で書いていきます)

 

冒頭、ドラマティックなメロとともに

スーツと白のドレスでスターたちが舞い踊る場面に始まり、

 

真面目一筋で生きてきた青年貴族が、運命の女と出会い、恋に落ち、

全てを捨てて良いと思えた、そんなたった数日間の在りし日の過ちを追想する。

…という非常に印象的な物語の導入に始まります。

 

この作品の要旨というのは、

「男性1人と対照的な女性2人の三角関係という典型的な恋愛模様を、第一次世界大戦終戦後一気に自由な風潮に包まれた時代のフランスで展開させたかった。」(wiki参照)

というこの一言に尽きるでしょう。

 

正確に言うと四各関係なのですが、ある真面目な男が、

平凡な女に飽きてきたところに刺激的な女に一瞬で心を奪われ、

2人の間で揺れたものの結局元の女に返っていく…

 

という、まぁありふれた話なわけですけど、

ひとたびドロドロに描きがちな世界観を

全体を通して小洒落た演出で展開していくのが、非常に宝塚的なんですよね。

 

例えば、クロード(主役)がルイ(恋敵)とともに高級列車に乗って

シャロン(刺激的な女)を追う最中、軽快なフレンチメロに乗せて

「ワケアリよろめき列車~♪」「バレなきゃジゴロの天国だ~♪」

車内で展開される様々な恋愛模様を描く様なんて、最もたる演出でしょう。

 

愛してはいけないと分かっていても、どうしようもなく惹かれる二人。

平凡な世界と破滅へと向かう道を行ったり来たりしながら、

その隙間にはパリの華やかで享楽的な演出が交錯していきます。

 

そして最後、全てを捨てて旅に出ようとする2人に、

平凡な女が全てをぶちまけ、引き留めにくる場面。

そのセリフの応酬が、本当に凄い。

 

「昨日の夜は楽しみで眠れなかった」

と言っていたのに、自分から身を引くべく、

「運命が、年貢の納め時だと言っているようだわ」なんて大人ぶるシャロン。

 

クロードとシャロンの互いを庇うように会話を交わすさなか、

「2人の傷つけ合いかいたわり合いか知らないけど、

私の前で私を通り越した言葉を交わすのはもうやめて‼」

と激高するフランソワーズ(これ本当に名言だと思う)。

 

何も出来ず立ち尽くすクロード(宝塚的世界観でも修羅場で男は情けない)

「さようなら、世間知らずの坊や」と言って去っていくシャロン。

 

そんな一連の浮気旅行未遂事件を、

「これでも俺は、粋でサバけているつもりだぜ」

「クロード、君もなかなかやるんだね。」

「純粋な分だけ、ぶきっちょなんだろ?」

と全て許してしまうフランソワーズの兄・ミシェル 。

(令和の時代には絶対に受け入れられない世界観でしょう。笑)

 

そして、オーラス。一緒に見ようと約束した、

琥珀色の雨が降るというマジョレ湖で再会するものの、

お互い視線を合わせただけですれ違い、永遠の惜別を無言でする2人。

 

そして降り出した雨の中、シャロンが一言。

「琥珀色の雨…。まるで、美しい思い出のよう…‼」

 

 

決まった。

完璧過ぎる。

 

これ、普通のドラマや映画で見れば、

「クッサー」とドン引きしてしまうような時代錯誤なセリフたちなわけですけど

それが何の違和感もなく受け入れられるよう世界観を構築できるのは

まさしく宝塚だからこそ、だと思うのです。

 

ぜひ今の雪組トップコンビがお好きな方は、

ご覧になることをオススメします‼

(ちなみに春野主演版も色んなスターさんが初々しくて面白いです。)

 

人間の業を描く・柴田侑宏氏

 

長い人生には、苦杯を飲み干さなければならない時もあります。

 

数々の過ち、もう二度と出会うことのない人、

いつまでも脳裏に浮かぶ美しい憧憬、

あれだけ好きだと泣いたのに、今はただ懐かしいだけの、その名前。

 

老いや衰えが忍び寄り

自らの人生のその全体像が見えてきて始めて

心に浮かび上がる素晴らしい思い出たち。

 

それがどれだけ煌めき、美しいものなのかは、

ある程度の年齢を重ねなければ分からないものなのかもしれません。

 

 

そんな人の業のようなものが、

柴田侑宏氏の作品には溢れていたと思います。

 

2人の王子の間で揺れ動く女王の思いも(『あかねさす紫の花』)

全く違う世界で生きる2人に謎の友情が芽生えるのも(『黒い瞳』)

 

何も知らない無垢な気持ちで観たら、

きっと意味なんか分からないでしょう。

 

人には触れられないよう、奥にそっとしまってある過去があるからこそ、

琴線に触れ、心に迫るものがあるのだと思います。

 

 

そんな一見「汚いもの」を舞台芸術として宝塚の世界で美しく昇華し、

いつの時代に、誰が見ても、最高だと思える名作を生み出してきた、

柴田侑宏氏のご冥福をお祈り申し上げます。

 

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コメント

  1. こんちゃん より:

    蒼汰さま

    2019FNS見ましたー。朝美絢さん、「黒髪の人」でトレンド入り。スタジオだろうが銀橋と変わらず釣ってくるあの目力。サバンナで黒豹に出会ったインパラが「逃げなきゃヤバイ」「あ、でもどうせ食われるならこんな美しい獣に食われたい」と葛藤しているような気分になりました。

    地上波でリアル男性と宝塚の男役さんが共演されているのを見ると、つくづく両者は別物なんだなあと実感します。

    DA PUMPと同じステージでやたら重心の高いイイねダンスを踊る男役たちを見て、ガラパゴスで独自に進化を遂げた鳥の求愛行動を連想してしまいました。(笑)あんな男性DA PAMPにもジャニーズにも韓流にもLDHにもいないし。男役とは現実の男の先にある理想の男性なのか?リアル男性と分岐して別の進化を遂げている亜種なのか?
    生態観察しているような不思議な気分になりました。(笑)

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      一瞬映るだけで視聴者を捉えちゃう朝美さんの瞳のパワーは凄いですね…。確かに黒豹っぽいかも。笑
      おっしゃる通り、DA PUMPと並んで歌い踊る姿を見て、私も宝塚文化って普通の男性像とは全く違う文化として進化してるんだなぁと思いました。
      DA PUMPがガチャガチャしてる(誉めてます)良さなのに、雪組生がひたすらシャープだったのも面白かったですね。

  2. kanata より:

    蒼汰 様

    過去記事にコメント失礼いたします。
    “琥珀~”、私も好きです!
    フランソワーズの「私の前で~」の激昂セリフものすごく印象的!
    柴田先生の作品は、THE宝塚ですよね。時代の流れによって古くさく感じてしまう作品も出てくるかもしれませんが、やはり名作だらけ。

    私は仙名さんのシャロンが観てみたかったなぁといまだに思ってます!
    クロードは明日海さんももちろんですが、柚香さんもめっちゃ良くない?!と、ありえない妄想をつい最近してました。笑

    ちなみに、確か新人公演で蘭寿さん主演で、遠野さん・桜さん・未涼さんがされていたのを映像で見て、こちらもすごく印象的でしたよー。桜さんの例のシーンが今でも脳内再生すぐできます。笑
    機会があれば、ぜひ~

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      そう、まさしく「THE宝塚」ですよね。古臭いのが逆に美しいというか、様式美のような名作だらけ。
      仙名シャロンは凄いしっとりしてそうですよね。笑 柚香さんも、鳳月さんなんかもすごい似合いそう!!
      うわーその新公めっちゃ見たいです…スカステで放送されないかな。笑

  3. M.P.ぱご より:

    過去記事への長文のコメント、失礼いたします。
    私も「琥珀~」は大好きな作品です。
    匠ひびきさんのサヨナラ公演の作品を録画で見たのが最初でしたが、非常に印象的だったのは、セリフとセリフの「間」に漂う緊張感でした。
    その緊張感が、ぶっちゃけクズで愚図な不倫話に小粋で美しい雰囲気を与えていて、「間の緊張感という目に見えない感覚的なものを、セリフという形で表現している脚本のすばらしさ」に圧倒されました。

    実は録画を見ただけでは、脚本で示されている(であろう)緊張感を完全に感じきることができず、その後、行ける限り全国ツアーを追いかけたのですが決定的なものには出会えず…

    そんなとき、柴田先生の追悼番組の一環として今年7月24日に初演の「琥珀~」がスカステで放送されました。
    私が圧倒された「間の緊張感」は、初演が最も素晴らしく表現できていました。(特に冒頭のクロードとマオのやり取りが白眉)
    そして演じ手に完全に宛書された作品であることも実感しました。特に若葉ひろみさんの後にシャロンを演じる方の気苦労たるや、想像を絶します。
    また、初演はオリエント急行での旅行未遂事件の後のミシェルとクロードのやり取りが、小さな違いですが大きく異なります。(初演のほうが、より粋な結末だと思います)
    マジョレ湖でのクロードとシャロンの再会後のすれ違いも、初演のほうがより緊張感があります。

    とはいえ、再演では冒頭のドラマチックなタンゴシーン(初演の放送ではカットされたのかもしれませんが、追加されたような気がします?)をはじめ、絵的に洗練された箇所がたくさんあり、1980年代風な箇所はマイナーチェンジしたり(シャロン登場時の歌とか)、何よりラストシーンで蛇足的だったクロードの心の声がカットされるなど、見やすくなった点もたくさんありますが、やはり琥珀の原点は初演だなぁと思いながら拝見しておりました。

    琥珀の初演を放送するタイミングでスカステに加入しよう!と、スカステ開局当初から加入もしていないのに毎月、放送予定をチェックしているくらい、楽しみにしていた初演の琥珀。
    よろしければ、蒼太さんの感想もぜひおうかがいしたいです。
    (ちなみにそこまでしてスカステ加入を待ち続けていたのにA-EN見たさにあっさり加入してしまいました)

    • 蒼汰 蒼汰 より:

      コメントありがとうございます‼
      実は残念ながら初演を見ていないのですよー。私が見たのは望海版と春野版だけなんです…これで作品を語るなと言われてしまうとそれだけですが。笑
      やはり初演にしか出せない味が、あるいは舞台でしか見られない空気、間がありますよね。だからこそ舞台はナマモノなわけですが…。
      好きな作品なので初演を一度見てみたいと思いつつ、なかなか放送されないので気になっているところです。再放送してくれないかなぁ。