今年の生観劇納め、して参りました。
永久輝せあ&星空美咲のお披露目公演である、
花組『エンジェリックライ』の感想を書いていきます。
一応前置きしてますが、ガッツリネタバレしてます。
第一印象を大切にした方が良い作品だと思いますので、
まだ未見の方は、どうぞ観劇後にご覧になってください。
若者向けの作品なんだろうな
前評判は「賛否両論真っ二つ」。だけどたぶん私は好きだろうなと思って観劇しに行ったら、やっぱり好きでした。根本的に若谷先生の作品がツボなんだと思いますけど、それを差し引いても普通に面白かったですねぇ。
本作は『君の名は』から連綿と続く、アニメーション邦画の大王道な作品だと思います。つまり、実に現代の作品っぽい。具体的にいうと、①男2人(ヒョロいヤレヤレ系+しっかり者の顔なじみ同士)と女1人の3人で行動、②結局は家族の絆を描く、③善VS悪、と見せかけて実は善側に昔の過誤があり、その因果が巡っているということが中盤あたりに判明する、という3点。言ってしまえば「テンプレ」かもしれませんけど、これを完全オリジナル作品として作り上げ、そして宝塚ナイズドして上演した、ということを高く評価したいです。
まず設定からして面白くって、永久輝せあ演じる主人公の天使くんは悪さをし過ぎて堕天、天使の力を失う設定はよくあれど(PUCKは歌う声を失った)、「嘘をつく力」がなくなる、というのは意外と今までなかった展開で新鮮でした。てっきり大オチでヒロインに好意があることがバレるラブコメ展開かと思いきや、中盤手前であっさり「好きだ」と判明。だけどそれがあまりに軽薄過ぎて、最初は空しく聞こえちゃう、けど…というのが良いですよね。天使らしい品がありつつ、でも人懐こい感じが永久輝せあによく合っていました。
星空美咲演じるヒロインは義賊のトレジャーハンター。今回の標的は、悪魔に魅入られ心を失った父。最初、何の前情報もなく見たので、「親子なの」展開が始まった途端、「うわー、王道!!」と膝をうってしまいました。けど、それが良い。←
奪ったお宝を売った金で孤児院を手助けなんてコテコテなヒロイン属性、今日日ありえませんけど、だけどここは宝塚、それが成立するんです。本来は簡単に人に心を開かないタイプなのに、上記の「好きだ」発言でなんでか妙に意識しちゃって、そこから物語が動き始めるのも実にロマンティック。そして守られるヒロインではなく、あくまで対等なヒロインであることが実に現代的だし、それが永久輝せあ×星空美咲コンビに良く似合っていました。
天使と悪魔、父と娘、清く正しい天使と嘘つきな人間という対立構図、願いを叶える「ソロモンの指輪」、その力を発動させる力を持つヒロイン、堕天していた主人公は力を取り戻し、全ての因果を終結させる、そして…。という展開。うーん、素晴らしかったです。
三者三様の「2番手格」
そして、2番手格として存在する人物が3人もいるわけですけど、それぞれが凪七・綺城・聖乃3人のスター性にピタリとハマリつつ、物語上見事に調和しあっていたのも凄いと思いました。
綺城ひか理演じる天使の相棒くんは、天上界時代は憎まれ口を叩き合う仲だったのに、人間界に堕ちて嘘がつけなくなった主人公から「友達だろ」と言われて、だーれが友達だ!!と最初は突っかかるんだけど、けどまぁ結局絆されて一緒にヒロインを助けに行く…という展開が、もうザッツ王道なんですけど、それが良い。こういうのにオタクは萌えるんですわ。←。同期の絆を描きながら、去り行く天使を脚本で表現していて、良い餞別役だったと思います。
一方の敵役、まずは凪七瑠海演じる悪魔に魅入られたワル親父。若谷先生らしいデーハーなビジュアルですけど、本質的には「良い人なんだろうな」とすぐに分かっちゃう人物像として演じる凪七瑠海も見事だし、そう直感させる脚本も良いと思います。こちらも男役冥利につきる良い餞別役ですね。
で、その大ボスたる聖乃あすか演じる大悪魔。まず、ビジュアルが良い。前半の氷のように冷たく美し過ぎる悪魔感も、後半の聖飢魔Ⅱ+リュークみたいなデーハーデビルモードも、まぁ似合うこと(これは『冬霞の巴里』での成功から着想を得てるのでしょうかね?)。実は結局彼が何をしたかったのかはイマイチ良く分からない(全ての願いを叶える秘宝で世界征服?)のですが、主人公の冒険譚、ヒロインとのラブロマンス、そして家族の再生の物語の敵役として、見事に機能していました。
素晴らしい演出力とセリフのセンス
そして何より本作で評価したいのは、若谷先生のセリフのセンスです。一つ一つが意味のあるものとして練られていて、不必要なものが全くないうえ、いちいちオシャレなんです。
例えば前半の、嘘をつけなくなった天使と、素直になれないヒロインの「招待状を出したのもお前か?」→「違うわよ!」→「じゃあ盗まないってこと?」→「違うわよ!!」というウソと本音が入り混じる言葉遊びとか、凪七親父が悪魔にむかって「あ・く・ま・で俺は人間なのでね」と言ったと思ったら、最後の捕物帳を経て聖乃悪魔が凪七親父に向かって「この悪魔めー!!」とキレ返したりとか。
あとは、親子が対峙するシーンで「親子水入らずで話したかったのよ、天使も悪魔も抜きにしてね」なんてのも粋だなと思ったし、天使の力が復活した主人公が「羽を手に入れたぜ!!」はトップスターに立ったことの暗喩だろうし、最後の別れの場面で二度と会えないだろうに「また会いに来るさ」と話す主人公に向かって「嘘をつくの下手になったんじゃない?」とヒロインが茶化したりとか、あーーーーーーーーーーーーーーー、センスが良い。凄いね、これを書ける脚本家が宝塚にいるのかと私は驚いてしまいました。
最後の大オチも「まさかお披露目公演で結ばれないなんて…脚本的にはこの方がスッキリするけど、すごっ!!」と感心していたら、やっぱり許されなかったようで、こんな力業で風呂敷を畳むなんて思いもよりませんでした。けど、それが良い。
そして裏カップルが、まさかの凪七×美風という熟年カップルというのにも驚きました。正直、美風舞良はさすがに…せめて朝葉ことのじゃね?なんて思ってましたけど、そういえばこの2人は宙組コンビなんですよね。じゃあ仕方ないかと納得しましたし、メインのファン層的には美風舞良の役に一番感情移入しそうですよね。
あとは配役も良くて、口の大きな美羽愛はまさしくドキンちゃんっぽい小悪魔役にピッタリですし、希波らいとのカタブツ天使様も意外性もありつつ単純にカッコ良かった。侑輝&天城がチンピラ役なのも、一之瀬だけが一人普通の人間役でポンコツ警察なのも、美空真瑠が天使の1人としてギラついているのも良い。あと、紫門演じる大天使様も、軽薄なノリの役なのも良い味だしてましたね。結局全ては彼の掌の上だった…というオチも、実にアニメ邦画のそれっぽい。総じて宝塚らしく役が多くても物語として成立しているのが、本当に素晴らしかったと思います。
「ウソ」とは何か
ただ一つ文句をつけるなら、物語的に主人公は世紀の大ウソつき野郎という扱いですけど、…そんなに?っていう。ウソの重さが想像よりも軽くて、けど舞台では大事のように話していて、それだけが違和感だったかなぁ。「人間界の大ウソを見に行こうぜ!!」という話のキモも良く分からなかったし(男役・娘役という偶像を演じることがウソってこと?)。
単純に主人公は小さなウソをつく小悪党で、だからこそお仕置きとして人間界に堕とされて、そしてヒロインに出会う、みたいなボーイミーツガールの方が個人的にはしっくりくるような気がするんですけど、どうなんでしょう?
総評としては、私は個人的に面白いと感動しましたけど、永久輝せあといえば眉間に皺だろ的な、スーツでジゴロでみたいな世界観が好きな方は絶対にハマらないだろうな、というのも分かります。まさしく賛否両論なのでしょう。
ただ、若い人は絶対に面白いと感じるだろうなと思うので、是非多くの方に見ていただきたい作品だなと思いました。
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コメント
こんばんは。
私は永久輝せあと言えばPRxPRinceなので、今回のお役もお話も楽しめました。
公演前は確かに公演解説が謎すぎて評判が良くなかったですよねぇ…、始まってからも、古き良き宝塚がお好きな方の口には合ってなさそうでしたね〜
若谷先生は星組赤黒やRRRは良かったし、オリジナルのバロクロも悪くなかったので、言うほど心配いらないと思うけど、と思いながらムラのライビュを初見で見ました。やっぱり普通に良くて!バロクロもそうでしたが、物語の核の部分は本当によくある展開(「実は親子なの…」とか、物事のきっかけはアレ、とか)で、でもその味付けが現代風なところ(天使と悪魔の設定など)が、賛否別れるだろうなと思いました。終わり方はトップコンビお披露目にふさわしい感じで、そこも含めて私の中の評価は高いです。
個人的には、直近で見た宝塚オリジナル作品の中ではフリューゲルと同じくらい良作かなと感じました!今後も楽しみです。
こんばんは。私もエンジェリックライ、好きです。(若くは無いですが)
新海誠監督っぽいと言われ、なるほど!と思いました。(新海誠監督作品好きなので)
確かにひとこちゃんに眉間に皺でダークな役を観たい層には合わないかも。
私はひとこちゃんの可愛いキャラも好きで、本作でカルアミルクをご馳走になって嬉しそうにしてるシーンとかめちゃ可愛いです。
予習無しで観たので最後のオチにも良い意味で驚かされましたし、とっても楽しめました。
賛否両論なので、人気ブロガーさんの中にはかなり否定的な意見の人もいましたが、蒼汰さんが高評価で嬉しいです。
いつも更新ありがとうございます。
永久輝さんの大ファンです。激情、ドンジュアンとスペインもの&闇属性のお役が続いてたので、味変的な意味でもお披露目作品としては明るく楽しく良かったと思います。
蒼太さんが仰るように私は眉間に皺寄せひとこさんが好きなので今回のお役はそこまで好みではないしひとこさんの持ち味としてはちょっと違うかな…と感じました。ただお話自体はよく出来てたし、楽曲もショーも好きで楽しめてるのでファンとしてはありがたいです。演出家の先生もトップコンビの新しい魅力を引き出そうと試行錯誤して頑張ってくれてる感じがします。
相手役の美咲ちゃんの歌もめちゃくちゃ上手くて毎度聴き惚れてます。ちょっと大型の娘役さんなので色々言われちゃってますが…とにかく歌がめちゃくちゃ上手いし演技も歌もひとこさんと合ってるので彼女が相手役で良かったなぁと思います。
3作目にはぜひ海外ミュージアムやって欲しいです!
長文失礼しました。
こんちには。
大劇場で観たので、少し前の記憶ですが、
親と子、男と女、人間と天使、天使と悪魔、
「天使」を正当化すると「悪魔」が生まれる。
「陰陽バランス」がテーマかな?
と思いました。
良いも悪いもない。誰も悪くない。
それぞれが、それぞれの立場で
それぞれの想いで動いているだけ。
悪魔ですらそう。
自分にウソついて生きるのって、楽しい?
それって幸せ?
愛する気持ちは、ウソ偽りなく
理由なんかなくても、
好きなものは「好き」でいいじゃない?
色々、考えさせられました。
こんばんは
眉間に皺で苦悩する永久輝さんも良いけど、私は明るく元気な永久輝さんの方が好きです。
そして全く若くないけどこの作品、かなり楽しめました。笑
とにかく声でかいし、元気に走り回ってるし、やんちゃ小僧がよく似合ってました。
一之瀬さんの警部といいちょっと早霧さんのルパン思い出してしまいました。
星空さんもはつらつとしいて芯もあってお似合いのトップコンビですね。
感想とコメントを読み、私は若くなく、古き良き宝塚が好きなのだと分かりました(笑)まさに台詞のやり取りがくすぐったいので。
凪七さんと美風さんの裏カップルについて、SNSでも元宙の2人という点に演出家の愛を感じるという感想を見ました。が、バロックロックも裏カップルは水美さんと美風さんでしたよね?すべてここから始まっている、的な。
出島小宇宙でも異空間の繋がりや「元の人物」の想いが主役を通して成就だったので若谷先生の作りは確立されていて、系統やスタイルを持っているのは大したものだ、と(上目線)微笑ましく見ています。
齋藤先生の若い頃を思い出しつつ、お二人とも自分の趣味が色濃いけれど、きちんとハートフルに収まっているところはやはり宝塚作家だと思っています。
ところで藤井先生はもう大劇場を担当しないのでしょうかね。しばらくの間の静養ならばいいのですが。100周年~110周年の作品や演出家で言えば、やはり上田久美子さんと原田先生の退団は惜しかったです。三木先生、石田先生は何だかんださすが、中村B先生も大野先生もまだ若い、野口先生も絶好調ですが。宝塚の名前を大きくしてきた巨匠ら、ここ30年近くの小池先生の圧倒的な力が懐かしくもあります(オリジナルは外しますが)。あるいは第二の小池を狙いすぎて(賞を狙いすぎて)、高度技術や密な構成に向かっていった気もしないでもありません。芝居に関してはちょっとゆったり目で台詞の応酬を楽しめるような作品の誕生、それで生徒の芝居力が鍛えられていくような流れに期待します。
蒼太さん、更新ありがとうございます!エンジェリックライ、今のところ2回観ております。永遠輝さんは皆様大好きな苦悩の眉間皺もお似合いですが、コメディもとてもお似合いですよね!激情であまりの激しさに射抜かれましたが、しかしああゆう作品は重すぎて何回も観るのは辛い。エンジェリックライの明るいお話は安心して楽しめます。アズラエルの過去にびっくりはしたんですけど、さすがVISA冠、衣装も美しいし観ていて楽しいです。
あと星空さんはこうゆう溌剌としたお役が可愛いですね!
この後ショーの感想もお待ちしております。
美空真瑠・初音夢の新人公演がビジュアル的にも正しくボーイミーツガールものになっていたと思います。新人公演は御覧になれなかったとのこと、ぜひ感想を伺いたかったです。
久しぶりにコメントします。
私はエンジェリックライは駄目な方だったのですが、蒼汰さんの感想を読んで納得しました。
新海誠監督も苦手でした笑
すごく腑におちたので感謝です。
観劇感想、興味深く拝読しました!
ネタバレ踏まずに観劇しましたが、設定や台詞回しがしっくり来ず序盤は居心地悪く観劇したものの、中盤からは構成に工夫が見えて面白かったです!同じく最後のオチは予想外で秀逸だなと思いました。
また、アズラエルの様子がおかしい辺りで結末が大体見えてしまうのが勿体無いなと思いつつも、あれくらい分かりやすい方が見ていてストレスがないようにも思いますので、工夫と単純さのバランスが絶妙な脚本だったなという印象です。
ただ、どうしてもいただけないのが衣装でして…ポスターが出た頃から恐れていましたが衣装のセンスが全幕通して半端ないですね笑
ショーならトンチキ衣装も受け入れられるのですが、お芝居でこれはきついなあと思ってしまいました。
衣装でだいぶ損しているような気がします。
自分の感想をつらつらと恐縮です、今後とも更新楽しみににしております!
いちいちうなずきながら読みました。
ラノベ的でありながらちゃんと生徒さんの当て書きや関係性も良くて楽しい演目だと思います。
私もひとこちゃんといえばPRxPrinceです笑
柴田作品の良さが分からずうたかたの恋や琥珀色の雨に濡れてを虚無になりながら見ていた私にはとても刺さりました。
若谷先生って、最近は”赤と黒”や”RRR”でポスト小池なのか?と思うほど潤色に優れた才能を発揮して驚いていますが、そもそもオリジナル作品は”アインシュタイン”や”義経”や”出島”など、SFアニメラブコメラノベ味の人じゃないですか?
演出が”谷貴矢”でタイトルが”エンジェリックライ”で天使の話ってだけで最初から想定できただろうに、批判している人は厳しいこと言うなあと思ってます。
面白いですねえ。(宝塚大劇場で一度だけ見ました。)
私は古いタイプのようで、刺さりませんでした。
ただ、新人公演の配信を見て、こちらは抵抗なく内容に入っていけたので、この演目は若い演者の方に向いているのかなとも思った次第です。
タカステでみただけですが、PUCKの本役龍バージョンと、新人公演の朝美バージョンでは後者のほうが自然に見ることができたのにも似ていると思いました。
ひとこちゃんや、星空さんは実力者というイメージが強く、私のようなひねくれたタイプからすると、演じてる感を感じ取ってしまうのかもしれません。
とは言いつつ、確かに私の周りでも若い人は好意的、年配組はウーンということが多く、感受性とか若さを問われる演目であることは確かなようです。
年末年始に東京公演を観劇できる機会がありますので、いろいろな視点から観てみたい、また、カチャさんの男役を堪能します。