前回は全国ツアー版『Music Revolution!』の
感想と相違点についてまとめましたが、
全国ツアー版『Music Revolution!』感想と相違点
本日は『はばたけ黄金の翼よ』の感想編…の、その前に。
なぜ今回『はばたけ黄金の翼よ』を、わざわざ雪組で再演したのか。
その理由や劇団の意図について、
個人的に思ったことがありましたので
まずはそちらをまとめていきたいと思います。
「温故知新」で生まれたメタ的面白さ
本年1月に発表された小川理事長の新年の挨拶にもあった通り、
今年の宝塚のテーマの1つが、「温故知新」。
これは、ただ有名作品を再演するという意味ではなく、
105年の歴史の中で埋もれてしまっている名作を
各組に合わせリバイバルし公演するという意味です。
企業的には新作を一から作るよりも予算もかからず、
内容が定まっているため一定の成功が見込めるわけですから
非常に興味深い方針転換だなぁと思っていました。
今年、この「温故知新」方針により上演したのは
『霧深きエルベのほとり』と『はばたけ黄金の翼よ』の2作。
このうち、星組公演『霧深きエルベのほとり』は
潤色・演出に新進気鋭の上田久美子氏を抜擢。
舞台演出を彼女らしく、そして現代的にアレンジしたことにより
古臭さの中に新鮮が見られ、これが紅ゆずるのキャラの中に隠された
クラシック的魅力と見事に合致、代表作の1つとして昇華されました。
…と、前置きが長くなったところで
今作の『はばたけ黄金の翼よ』ですが、
これ絶対、わざと古臭い演出のまんまにしたと思うんですよね。
動きやセリフ回しが非常に大味だし、物語の展開も古典的。
『霧深き~』で見られた舞台演出の目新しさ等も、何もありません。
ほぼ全ての場面の終わりが、スターが何かを言った後の
「ジャジャーン!!」というドラマティックな効果音とともに、
背景が真っ暗になりつつスターのピンスポが消えていく演出という…。
もうね「平成初期か?」と
突っ込みたくなるほどの古臭さです。笑
でもこれが、望海風斗&真彩希帆という、
100周年以降の宝塚的価値観の申し子であるトップコンビがやるからこそ
メタ的な面白さがあるんだと思うんですよね。
望海&真彩が作り出す「宝塚らしさ」
ご存じの通り、望海&真彩といえば
宝塚という枠組みを越えた実力を持ち合わせるスーパーコンビとして
宝塚ファン以外にも訴求力を持つスターとして大活躍中。
もし、そんな彼女たちが
「コテコテな宝塚」的な演目を上演したとしたら?
それが今作の『はばたけ黄金の翼よ』のコンセプトだと思うんですよね。
しかも、それをあえて現代風にアレンジしたりせず
歌パートも極力少なくし、古臭さド直球のままの演出にすることで
「あの2人が、こんな宝塚っぽいことをしている」という
逆説的な面白さが生み出されているわけで。
そして、注目すべき点で言えば、
望海・真彩の両名はもちろんそれを意識していて
めちゃめちゃ楽しみながら演じているのが舞台を通して感じられることです。
いちいち「( ゚∀゚)アッッハッハッ八ッ八ッノヽッノヽッノヽッノ \ッ / \」と
超ハイテンションな高笑いで現れたり去ったりする望海ヴィットリオに
「このマントヒヒー!!」と叫び声をあげながら枕を投げるなど
言動がいちいち80年代の少女漫画ちっくな真彩クラリーチェ。
絶対わざとやってるだろってくらい、
いちいち芝居が過剰であり、
それがこの公演の良さとして反射しているわけですね。
中途半端にカッコつけず、
宝塚の古臭い(クラシカル、ではない)良さをそのままパッケージして
それを あ え て 今 の 雪 組 が お届けするという、このメタ構造。
…こんな高度なエンタメ、あります?
そしてこれは、今の雪組の層の厚さ、
つまり「そんなことを知らないただの一般人」が見ても普通に面白いという
公演の高クオリティが約束されているからこそ出来る芸当なわけで。
いやー、面白いなぁ。
限られた季節の中で
望海&真彩は、その実力とキャラクラー性により
本公演ではどうしても歌を生かした悲劇物が割り当てられがちでした。
ですから、外箱ではあえて毛色の違う作風の公演を持ってきて、
スターとしての役幅の広さを生かそうとしているように見えます。
この1年の外箱公演は、コメディ一直線の『20世号に乗って』に
古臭いコスチューム物の『はばたけ黄金の翼よ』。
そしてもし彼女たちが6作任期であれば、
次はホールでコンサート形式公演、これが最後の外箱公演になります。
そう考えると、彼女たちの持ち味とあえて逆の作風を魅せる公演って
このタイミングしかなかったんだろうなぁと思うわけで。
いやー、良いものを見せて貰いました。
というわけで本編の感想編ですが、
たぶんキャスト感想と統合しながら書いていく予定です。
次の記事へ続く!!
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コメント
なるほど。。。。そういうコンセプト。納得です!
鋭いご指摘ですね。
あえて、
宝塚の古臭い(クラシカル、ではない)良さをそのままパッケージしてというので私が思い出したのは
真矢みきさん(宝塚時代の芸名表記であえて。)トップ時代の植田紳爾作『ザッツ・レビュー』を思い出しました(笑)。これは本公演作品でしかも新作だった訳ですが植田先生の思いっきり、ベタな1本物の王道作品です。台詞の臭いこと、臭いこと!(爆)。
あの革命児といわれた規格外の当時のトップオブトップに
なぜ?と初見した時は一瞬思ったのですが、見返していくと
なかなかどうして、真矢さんは、このベタ作品を真正面から
取り組んでいて、これは面白い!真矢みきさんがやるからいいんだ!
って思ったんですよね。スタイリッシュでもなく、おしゃな工夫もせず、純朴な青年を真矢みきさんが泥臭く演じていて、昔ながらの宝塚感満載で、後々、これこそ宝塚での真矢みきさんの代表作じゃないの?と正直思いました。思いっきり植田紳爾ワールドを楽しんでいる様子で、オスカルをやっていた頃の少し、照れているようなやりづらさが見受けられた真矢みきさんは、そこにはいませんでした。
ほかの真矢さんの作品は外部で上演されても違和感のないくらい、洒落ていて、スタイリッシュなものが多かったと思うので、あの作品は衝撃でしたね。
早く、再演の『はばたけ黄金の翼よ』見てみたいです。
(私は単純に望海さんがやりたかったのか、元々男役志望だった真彩さんに男装させてあげたいと思ったか?と思っていました。)
コメントありがとうございます‼
『ザッツ・レビュー』という作品を私は見たことないのですが、コメントを拝見する限り全く同じ意図での公演だったように思います。
真矢さんも比較的高学年までトップをされていたイメージですので、そんな公演すらも楽しむ余裕があるからこそ魅せられる世界観なのでしょう。
全ツですので舞台等はどうしても簡素なのですが、ぜひ楽しんできてくださいね。^^
はじめて投稿いたします。
いつもとても興味深く読ませてきただいています。
温故知新として上演された作品としては
星組全国ツアーのアルジェの男も
加えられるのではないか
と思いましてコメントさせていただきました。
勘違いしていましたら申し訳ありません。
今後も楽しみしております。
コメントありがとうございます‼
『アルジェの男』は直近だと2011年に再演しておりますので、個人的には本年の『オーシャンズ11』や『追憶のバルセロナ』と同じ、ただの再演枠の認識なんですよねー。
ファントム以来2回目コメントさせて頂きます。
爆笑しました。まだ観ておりませんが楽しみ倍増。
そう、コテコテ宝塚を望海風斗にやってほしいかもしれない。
ヅカは観ないと思っていた人も観に行ってしまう実力のだいきほ。
納得です。
望海さんみたいな面白いスターなかなかいないので
宝塚退団後も観続けたい追い続けたいと思ってます。
コメントありがとうございます‼
確かに、そういう意味では望海さんって規格外なスターさんですよねぇ。ぜひ楽しんで見に行かれてください!!
私も星組全ツ『アルジェの男』は温故知新の枠組みだと思います。2011年の月組版とは違い、敢えて鳳蘭の初演バージョンに演出を戻し、ザ昭和、ザ柴田作品を現代的テイストが売りの礼真琴に、ベタに古くさい演出で敢えてやらせたもので、まさに今回の雪組と全く同じ狙いだったと感じています。残念ながら蒼汰さんは星組全ツをご覧になっていらっしゃらないため、それがお分かりにならないだけだと思います。スカステでの放映はいつでしょうね?映像では伝わらない所もあるかもしれませんが、是非ご覧になってみて下さい。
コメントありがとうございます‼
なるほどー、私はてっきり娘役をボカしたかったから初演版をメインにしたのかと思っていました。笑
ちなみにご存じでしたら教えて頂きたいのですが、パンフとかにも書いてあったんですかね?
エルベとはばたけは明確に温故知新のテーマの元再演された旨が書いてあったので、アルジェってどうだったのかなぁと単純に疑問で…。
娘役をぼかす必要があったという事情は初演当時と同じなので、それももちろんあったと思いますよ。演出の大野先生がプログラムでも、その時々で事情が異なるし、メンバー構成も異なるから、と書いていらっしゃいます。「温故知新」というキーワードそのものは使われていませんが、「柴田先生が初稿に書き込めた意図を汲む演出に徹してみよう」という大野先生の決意が述べられ、そして「その脚本に、星組と専科の役者たちが命を吹き込むのか。ただ一つ、令和時代の始まりに相応しい、歴史の継承の上に新たな息吹を感じられる舞台となる事だけは確信しております」とあります。まさに温故知新ですよね?というか、映像を観ていただけば納得していただけるかと。
コメントとプログラムの内容をお教えいただきありがとうございます‼
なるほど、じゃあとりあえずスカステ放送を待ちたいと思います。笑
いつも楽しみに拝読しております。ライビュをちびっと期待していた地方民です。円盤待ちだなあ・・・
出ましたかー「ジャジャーン」笑 背景事情はカーテン前で貴婦人ズの噂話で解説、悪い奴は高笑い…植田紳爾先生がバリバリ現役のころはよく聞きましたが、平成前期の頃でもヅカファンは「古くさー」と言っていましたよ。笑
でもね、うちの田舎の全ツ会場では、そもそも舞台鑑賞に慣れていないお客さんも多くて、見分けのつかないヅカメイク、声質も背格好も皆よく似ている、音響が悪いホールでは今誰が喋っているかわからない…そんな初心者には植じい的な古風な演出は「とってもわかりやすい」と受けがいい(笑)。やり方はいろいろでしょうが「とにかく客にわからせよう」とする姿勢は大切だと思います。
今の若手の先生はバウでデビューするわけですが、バウに来る客と団体や全ツの客は観劇の経験値がだいぶ違うと思うので、菊田一夫氏のような商業演劇の巨匠の作品を若手に演出させて、大劇場で大衆を相手にした演出を学ばせる方針は興味深いです。
コメントありがとうございます‼
ちなみに今作でカーテン前での解説は朝美絢がそのポジションだっちょうに思います。笑
でもおっしゃる通り、こういうコテコテ感こそ地方のお客さんが求めるものなんですよねーきっと。
そういう意味では正解な公演だったように思います。